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5日目

〝まんぷく亭〟⑤

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 揺れるハンモックにも慣れてきたのだろう。
 顔をちょこんと出したホワンがこちらを見下ろし、どこか得意げに鼻をひくつかせている。
 ときおり顔を引っ込め、フルフルと動くシッポを代わりにのぞかせるとこも可愛かわいくて、思わず笑みがこぼれた。

「ホワンちゃん、気に入ってくれたみたいだね」

 同じようにホワンを見守っていたマカイナさんが、目を細めて呟くのが聞こえ、改めてお礼を伝える。

「なんか気を使わせちまったようだが、良かったのか?」

 バルトさんも予想してなかったのだろう。店の壁に取り付けられた物を驚いて見ている。
 マカイナさんは「まったく問題ないよ」と胸を張り、近いうちにもっと遊べる感じの物を増やすつもりでいることを自慢げに話していた。そして「高い所が好きで落ち着くようなら、上の方に巣箱みたいなのを取りつけても良いかもしれないね」と瞳を輝かせている。

 ホワンにとっては喜ばしいことだけれど……
 ここは食堂だ。
 たまにしか顔を出さない客(ホワン)のために、これ以上はやりすぎではないかな?

 今日みたいに毎回貸し切りにする訳にもいかないのだから、いくらホワンが小さくて可愛かわいくても、他の客から苦情が出ることもあると思う。

「ありがとうございます。でも、あまり居心地が良すぎると、ここに住み着いてしまいそうで心配になるので、これ以上は……」

「やめてほしい」と続け、やんわりと断ろうとしたのだが、マカイナさんに声を立てて笑われてしまう。

「おや、そうかい? それは残念だねえ。可愛かわいいホワンちゃんならうちは大歓迎なんだが……そうだね、それじゃあ、後一つ二つ増やすだけにしとくよ」

 とマカイナさんは、私の頭を軽くポンポンと叩いた。

「まあ、店側が問題ないっていうなら、好きにさせときゃ良いんじゃねえか?」

 私の懸念けねんに気付いているだろうバルトさんがそう言うのなら、それほど心配しなくてもいいのかな。
 大きなトラブルにならないよう、お客さんの反応を気にかける必要はありそうだけど……

 これからホワン用の木登りタワー(?)に、どんな物が追加されるのか、楽しみになってきた。

 ハンモックの揺れに眠気を誘われたようで、ホワンはいつの間にか寝てしまっている。くしゃんと潰れた顔がハンモックからのぞいていた。
 このままホワンの気の抜けた寝顔を眺めていても良かったけれど、食欲を誘う料理の匂いと、バルトさんの「腹減ったー」の声に触発され、自分も空腹だったと自覚する。お腹が鳴る前に食事をした方がよさそうだ。
 餌と水、トイレを近くに設置しておけば、ホワンはしばらく放っておいても大丈夫だろう。

「おい、イモールも行くぞ」
「ひゃいっ⁈」

 少し前から急に大人しくなっていたイモールさんが、バルトさんに声をかけられ、小さく飛び跳ねていた。
 自分が発したおかしな悲鳴に顔を赤くし、狼狽うろたえる姿が微笑ましくて、ついいらぬ世話をやいてしまいそうになる。

 料理が並べられたテーブルに皆で移動すると、良い感じに酔いが回って、少し饒舌じょうぜつになったガン爺とカジドワさんに迎えられた。
 楽しんでいるようでなによりなのだが、飲みすぎには注意しないと。

 抜かりなくバルトさんの隣を陣取じんどったイモールさんだったが、かなり緊張しているようだ。もしかしたら、こんな風にバルトさんと食事をするのもはじめてだったのかもしれない。
 向かいに座る酔っ払い二人とも初対面だったらしく、バルトさんが簡単に紹介していた。

 なぜか私は、マカイナさんに勧められた、お誕生日席のような位置に用意された椅子に座らされ、少々居心地が悪い思いをしている。
 というのも、満面の笑顔のマカイナさんが私の前に料理を次々と運んできては、毎回なんだかんだと私を賞賛してしていくからだ。

「見ておくれよ。ユーチ君の【皮むき器ピーラー】と【スライサー】のお陰で、私でも簡単に皮むきができるようになったんだよ。それにほらこれ、ポポトもちゃんと薄く切れてるだろ? さすがに油で揚げるのは旦那の仕事だけどね。今じゃ、ほとんどの下ごしらえをまかせてもらえるようになったんだ」

 バルトさんから『試しに使ってみてくれ』と言われ、カジドワさんが完成させた調理器具をいくつか受け取っていたというマカイナさんは、嬉しそうにパリパリに揚がったポポトチップスを見せる。
 そして、いかに調理器具が役にたっているかを語り、新メニューのお陰で客の評判が良くなり毎日大繁盛なのだと教えてくれた。おまけに、それぞれの料理がどんな人に人気で、初めて料理を食べた客の反応がどうだったとかを、ちょっと大げさな言い方で話してくれるのだ。
 日本の料理がこの世界に受け入れられ、喜ばれていることがわかって嬉しくなるも、くすぐったくて落ち着かなくなる。それだけでお腹がいっぱいになりそうだった。

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