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逃げ出した悪役令嬢
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しおりを挟む「好きな女そんな風に思うわけねぇじゃん…」
「え、泣いちゃうの?マジか」
「なぁー、オレん家そこそこ権力あるのよ?助けられること増えるし利用してよ」
えぇー、利用ってさぁ…なんの利用が出来るってのさ。
「なんでもするから使ってよ。オレディアナが居なくなんの嫌だよ」
「本名知ってんのかよ…」
男が泣いて縋るってプライドどこ置いてきたんだ、そこまで私のこと好きなのか。
なんかちょっと可愛いなコイツ。
「––––––私さぁ、将来見ちゃったんだよね自分の。王子様の婚約者になって王子様の恋人害して処刑されちゃうってヤツ」
「はっ?」
信じないじゃん。絆されて言っちゃった私阿保じゃん。
「ちがっ、信じられねぇとかの反応じゃなくてっ!そんなん浮気する王子が悪いんじゃんの『は?』だ!!」
まぁねぇ、正論だよねぇ。それが通じないのが乙女ゲーム。
「そんなわけで処刑される21歳まで逃げたいし、現場となる学園には行きたくない」
「えぇ、あと5年もあるじゃん…それまでずっと逃げんの?」
「命が大事」
「戦ってるお前最高カッコいいのに?未来とも戦わねぇの?」
「どうやって戦えっての?」
「こう…わかんねぇけど。大体お前が害そうとしたらそのへんの人間なんて闇討ち一瞬じゃん、バレるわけねぇ」
いまの私ならその通りかもなぁ。
「未来を見たのが私だけじゃなかったら?ソイツに嵌められたり」
「物理最強のお前を嵌めれる人間がどこにいんの?」
「いねぇな……」
力技でどうにか出来そうな気がする。
「だろー?5年も隠れてないでサクッと学園卒業して、晴れて自由の身になろーぜ。学園乗り込んじゃおーよ、オレも付き合うから」
「えぇぇ…?」
そんなんアリ?
「ディーが逃げるの嫌で何も言わなかったけど、オレもうそろそろ限界なのよ。お前日に日に綺麗になってくし…普通に口説きたいんだけど」
「そんな理由なの?口説かれたら切りたくなんだけど」
「切られたくねぇーから協力者するって言ってんじゃん。見返りにオレがお前の側にいる権利くれ、オレお前のためならなんでもするよ?」
「なにそれ私が命令すんの?めっちゃ悪役ぽい」
「いいわ悪役でも。お前とオレなら悪役やっても振り切れる、処刑なんてされるわけがない」
まあ、それは確かに。
「オレお前のことすっっげ好きなの。こんだけ好きにさせといてある日突然消えられるのはごめんだ」
「まぁ、私くっそ美人だからそうなる気持ちは分かるけど」
「言っとくけど見た目は…っ、確かに美人だけどオレお前の見た目最初だいっきらいだったんだからな!そんな細身で強いなんてもー悔しくて悔しくて!」
おぉ、そうだったのか。
「悔しくて目で追うようになっちゃって、気付いたらもう信仰レベルで惚れちゃってたの。お前が今から50キロ太ってもそのままな自信あるな。……そうだお前ちょっと太らねぇ?ライバル減って助かるから」
やだよ、私にだって美意識はあるわい。
「ダート趣味わりぃな」
大体男は一目惚れして、そのあと幻滅するか無理やり矯正させようとしたりするのに。
「もー、芯から愛しちゃってんの。助けてよディアナ」
ダートは体を丸めて蹲ってしまった。鼻水すする音聞こえる。
「オレのこと好きになんなくてもいーから、捨てないで。強いディアナに憧れてんの、戦うディアナに惚れてんの。なんでもいーから傍に居させてよ、お前の横にいるためだけにここまで強くなったんだから」
そういやコイツいきなりランクガンガン上がって声かけてきたんだったな。
情けない男。情けなくて、強くて、プライド捨てて縋ってくる男。
「私女王様の気があったのかなぁ…キュンときちゃったわ」
ダートがガバッと顔を上げる。目ぇ真っ赤で鼻水たらしちゃって…ちくしょう可愛いな。
「ディアナ~!!」
「抱きついてくんな鼻水ついちゃうじゃん。う~ん、どうすっかな。私この国出てくつもりだったんだけど」
「やっぱりな…意地でもついてくからな」
手に力入れないでよ、そのへんのご令嬢なら骨折れちゃうわ。
「逃げるつもりだったんだけどー、戦う私が最高カッコいいなんて殺し文句言われちゃなー。逃げるに逃げられんねぇ」
「学園行くの?」
「そーなぁ…勇者様らしくキリッと行ってくっかなぁ。でも爵位はな~…マジ愛人のお誘い断るのめんどそうで嫌なんだよなー」
「オレがそいつ潰す」
「縦社会でんなこと出来んの?」
「役に立つって言ったじゃん、オレ一応公爵家の人間よ?」
「げぇっ、超おぼっちゃんじゃん!よく冒険者なんてやってんな!」
「いや、ホラカッコいいからやってみたいじゃん。ガチになりすぎたあたりから家族は全力応援スタイルよ、勇者様のお仲間なんて鼻が高いつって。うちの家族全員お前のファンだから、愛人強制なんかさせやしねぇよ」
「へぇー、公爵家が後見の勇者様になるわけだ」
「そうそう、何も気にせず爵位もらっとけよ。な、オレ居ると便利」
「いいのかよそれで。公爵子息サマ」
「オレ愛に生きる自由な三男坊だから~。たまにちゅーでもしてくれりゃもうホントなんでもやっちゃう。鼻水とったから抱きしめていい?」
一瞬で目の前まで詰め寄られた。
「………ヘタレのダートどこいったの?」
「勇者様消える心配なくなったから」
言いながらきつめに抱きしめられる。
単純な力だけならダートの方が全然強くて、腕の中から抜け出せない。
うわ、これ恥ずかしい。
「だ…あの、ちょっと」
「顔赤いディアナ初めてみた。ヤバイ、死にそうかわいい」
「かわっ…っ、ダートだって目元赤いじゃないの」
私の方が赤い自覚はあるけれども!
「ふはっ、ディアナ口調。テンパると令嬢出てくんの?」
「出てこねぇ!」
「ぶっ」
人の頭の上で笑うな!さっきまでの泣き虫ヘタレは
どこ行った!
「なぁ、他のオトコは抱きしめられる前に退治してた紅裙の勇者様」
「……へっ?」
そうだっけ。そういえば抱きしめられたりしたのって今世初かもしれない。前世はわかんないけど。
「あーその間抜け顔もかわいい。顔とかどーでもいいと思ってたけど、やっぱ顔も中身も今のディアナがいいな」
「ひえっ」
頭のてっぺんにちゅってされた。
コイツ私の知ってるダートじゃない。
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