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戻ってきた元悪役令嬢
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しおりを挟む次の日はとても良い天気で、朝早くから部屋に突撃してきたダートに急かされてバタバタと家を出た。
「こんな早くから祭りとかやってないでしょ」
「朝市!買ったやつ隣の食堂に持ってけばその場で作ってもらえるって」
「へぇ、新鮮なんだ。お弁当どうすんの?」
「昨日のうちに連絡して今日ナシにしてもらってる」
いつもながら手際が良いな。
目的の町に転移して、そのまま市場まで向かう。海の近くって塩とかのにおいするのかと思ったけど全然わかんなかった。市場に近付いてきたら魚のにおいはしてきたけど。
「生臭い」
「な、思ってたより強烈。でもまあ漁港~って感じでこれはこれで」
これはちょっと厳しいかもしれないと思いながら食堂を覗いたら、うまいこと風を通して食堂内には生臭いにおいがなかったのでホッとした。市場のにおいに耐えられそうにないので、私の分も選んでくるって言うダートに甘えて食堂で待つことにした。
すぐに戻ってきたダートがカウンターで料理を受け取ってたので、駆け寄って二人で出来上がってきた食事をテーブルに運ぶ。
とりあえずお任せで調理してもらったらしく、焼き魚とか揚げたやつとか色々あった。
「ディー生魚食える?」
「わかんない食べたことない。美味しい?」
「オレは好きだけどどうかな、コレとか結構クセもにおいもないけど。魚醤つけると美味いよ」
指差された生魚を一切れとって、魚醤を軽くつけて食べてみた。
想像より美味しいな、もっと噛み難くて飲み込み辛いのかと思ってた。
「なんか甘い?美味しい」
「お、そりゃ良かった。こーゆーとこでしか食べらんないもんな~、ほれ他のもいっぱい食っとけ」
次から次に食べさせられて、ご馳走様をした時には歩くのキツいくらいお腹いっぱいになってた。
「苦しい。ちょっと…休憩したいかな。一旦家戻らない?」
小一時間は動きたくない。
「あ、言うの忘れてた宿とれたんだ。そっちいこ」
いつの間に。
「歩くのキツい?抱っこする?」
「うぅ、それは恥ずかしい。腕貸して」
残念そうなダートの腕に巻きついて支えてもらいながら少し歩いて、そのまま部屋のベッドに飛び込んだ。
「大丈夫?」
飛び込んだままうつ伏せで動かない私が心配になったのかダートが気遣ってくれるけど、あんまり大丈夫じゃない。
「しばらく横になってていい?食べすぎただけだからすぐ良くなる」
「いくらでも休んで。満腹で生臭い通りに出たのも悪かったかなー、ごめん」
「ううん、ご飯美味しかったしあーゆー食事楽しかったからまた行きたいくらい」
非日常に浮かれて食べすぎてしまった。
「ディアナは昼飯食わねぇ方がいいかもなー、弁当買ってきてオレだけ食おっかな~。あ、果物なら食える?」
「いらない…あぁー調子に乗った~、太るかも」
「太れ太れ、他の男に見向きもされなくなるぐらい」
歯を見せて笑うダートを寝たまま小突く。本気で言ってるからタチ悪いよなぁダート、私がそれに甘えたらどーすんだ…と思ったけど喜びそうだな。
「ね、色々ありがと」
「ん?何急に」
「なんかね、こういう風に遊んだりって初めてで、ここ二週間フワフワしてる」
家を出てからはひたすら戦ってたし、その前は強欲な両親に王妃教育という名の厳しい躾だけを受けてきたから、誰かとダラダラしたり、笑いあったりって初めてだった。
手を繋いでにこにこ笑って、私といるのが嬉しいって全部で伝えてくれるダートが横に居るのが嬉しい。好きだなって思う。
「超嬉しい言葉なんだけど、ベッドに横たわってそんなかわいー顔で言っちゃダメ」
顔をでっかい手で隠して、少し赤くなったダートが目を逸らして返事をする。
赤くなった顔やっと見れたな、幼くなって可愛いな。
「なんで?」
「感動の台詞なのに、色気出すぎててオレの中の純愛が性欲に負けそーなるから」
そんなの言うだけで、やらしーことする時もダートは自分本位になんかならないことも知ってる。
お腹がパンパンじゃなかったらお勉強しよっかって言ってどんな反応するか見てみたい所だけど、このお腹見られたくないから言わないどこ。
「も~、ディアナは急にデレるからこまる。オレ一人でブラブラしてくるから寝てな」
「うん……」
私の前髪をかき上げて、額にキスをしてダートは部屋から出ていった。薄目でダートを見送ったあと、そのまま意識を落とした。
結局その日は夜まで寝てしまって、色々準備してくれていたダートにめちゃくちゃ謝ったけど、にこにこいいよって言われるだけだった。甘すぎやしませんかダートさん。
ダートが出店で買ってきてくれてたご飯を食べてから、夜のお勉強は頑張ってみようと思って自分でボタンを外してたら、三つ目あたりで鼻血を出されたので強制終了。前よりひどい。
二人で謝り倒して笑い合って、同じベッドで手だけを繋いで寝た。前に一緒に寝た時より離れてたけど、前より安心してぐっすり寝れた。
次の日は予定通り依頼を受けて、前日の食べ過ぎを解消するためにいつもより動き回った。
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