【R18】元悪役令嬢の青春

やまだ

文字の大きさ
16 / 35
戻ってきた元悪役令嬢

7

しおりを挟む

「ディー様格好いい!やはり実際目で見てみると違いますね、獲物に向ける冷えた瞳に痺れましたわ、とっても素敵!」

もう大丈夫だよって声をかけたら、キラキラした瞳でコーデリアさんが近づいてきた。


「はは、ご令嬢は普通怖がると思うんだけどね」

「あら、私自分たちが誰に平和を守ってもらっているか理解出来ないお馬鹿さんではありませんのよ?」

「そうみたいだね。うん、リアはいい女だね」

「まあぁ!聞きましてそこのゴリラ様?!いやだわ高貴から愛らしく変貌する瞬間ってとてつもなく胸が高まるのね!」

「ゴリ…うんまぁそこはいいや。最悪だわコイツあっさりディーの懐に入りやがって、オレが何年かかったと思ってんだ」





「––––色で籠絡して公爵の後見を手に入れた下賤な成り上がりが」

わちゃわちゃしたダートとリアの会話を聞いてたら、実力のわりに高価な装備で身を固めていた冒険者の一人がボソッと呟いた。


「あぁ?今なんつったお前」

その通りではあるんだけど。助けられた場で、助けた本人の前で言っちゃ駄目だわな。ダートキレそうだなー。


「グランさん、あの人誰かわかる?」

「ナラカシ王国のサダ伯爵家…ランドール・サダですね」

「ナラカシ王国な?」

大きめの声で口に出すと、ビクッと震えて私を見る。

「く、国は関係…」

「うっわぁ、自分が名前教えといてなんですけど、エグいですね…脅しちゃって」

脅してないし。勝手に怯えただけじゃん。

「勇者なら恩知らずを流して受け止めなきゃなんねぇの?清廉潔白とでも思ってたのかよ」

「お、ついに悪役やっちゃう?いつでも殺すよ」

悪役やる気はあんまりないんだけどなぁ。

「このくらいで殺すとかはねーけど。悪意には悪意で返すよ?当然じゃね」

「…それはそうですね。失礼しました、存分に脅してください」


チラッと横目で見たら、飛び跳ねてわたわた逃げてった。他の二人も慌てて走って追っていく。これはまた遠巻きにされるのが加速しそうだなー。


「名前までバレてんのに逃げたらどーにかなるとでも思ってんのかね?」

「ダート何かする気?もーどーでもいんだけど」

「それじゃ気がすまねぇ」


「……では、情けなくも魔物から逃げ回り、助けてくれた勇者を侮辱した上怯えて這って逃げた事実をちょっと誇張して流すのはどうでしょう?」

「それは…ボコられるより屈辱だな。お前もえげつねぇな」

「弱い者には弱い者の戦い方があるんですよ。僕は平民ですが、色んな方に恩を売ってこの学園でもどうにか生きていけてます」

「波風立たせず生きてけるのはいいね、私には無理みたい」

長年冒険者として暮らしてきた弊害かな、明らかに学園では異質だ。

「……僕ですね、優秀なんですよ」

「ん?ああ、名前パッと出てきて凄かったね。全員覚えてんの?」


「覚えてます、非力なので情報が生命線なんですよ。僕文官目指してるんですけど、試験は余裕でもやっぱり平民じゃ一定以上はあがれないんですよね。なのでまぁ公爵家と勇者伯のコネや情報が手に入ったりしないかな、と班員に立候補したわけですが」

「へぇ、正直だね」

「とってつけたような態度で媚びても意味なさそうですし。あと、お二人には慇懃より正直の方が印象良くなりそうだなと」

「ははっ、わかってんじゃんお前。でも残念、オレら政府にコネねぇよ?流石にお前のために父親使う気にもなれねぇし」

ダート楽しそう。私に付き合ってるせいかこんな軽口叩く男友達も出来てなかったしいいことだな。


「うーん、コネ目的ではあったんですけど。でも勇者伯のブレーンするのも良いなと思ってきて」

「はぁん?」


「お二人とも頭悪くないし立ち回りも下手じゃないですけど、実力がある分謀略には向いてないですよね。高みに行きすぎてるのもあって浮き気味ですし。僕居るとその辺カバー出来ると思いません?」

ブレーンが必要な場面あるかな?遠巻きにされてもそんなに不便ないっちゃないんだけどな。
そんなことを考えながらグランさんの売り込みに耳を傾ける。


「一文官としてそこそこの地位にいくより、勇者伯の懐刀の方が地位もやりがいもありそうです。青田買いしてもらえませんかね」
「ふざけんなディーの懐刀はオレだ」

「パートナーでは?」

「パートナーも懐刀もオレ」

「……えーと、知力の懐刀が僕で、武力の懐刀がダートルド様。如何でしょう、知識でこの学園に僕より勝る人間居ないですし。それぞれのトップがついていれば安心二倍ですよ」


「……一理あるな」

ダートが丸め込まれた。そもそも懐刀って何、上に登り詰める予定もないのに。



「はいはいはーい、私社交担当で!」

今度はリアが手をあげて会話に入ってきた。


「なんでお前まで入ってくんだよ」

「私彼に押し掛け女房したいので近くでチャンスを伺いたいわ。それに私の社交術、結構なものなのよ?」


「押しかけ女房?」

「ええ、理知的でとても素敵!私と婚約してくださらない?」

リアがいきなり求婚した。


「はっ?!」

「ビビッときましたの!」

「いえ、僕平民ですし…王女様のお相手は」

「小国の王族に価値はございませんわ、それに我が国はその辺緩いのです。お姉様も祝福されて商人の方に嫁いでおりますし」

スルド国すごいな、大した混乱もなく平民と王女様がくっついちゃうんだ。

「は、いえ、あの」 

リアはグイグイ迫って、グランさんの両手を掴んで離さない。
グランさんは真っ赤な顔でタジタジになってるけど、掴まれた手は振り払う様子もない。これあっという間に落ちそうだなー。こんな可愛いくて良い子に求愛されたら大抵の男はその気になるだろうな。


「おめでとー」

手をパチパチ叩いて祝福しとく。

「ディー様!僕承諾もしてないのに」

「いや、もう陥落寸前な感じだし」

「本当?!ディー様からはそう見える?!」

「見える見える、ちゅーでもかませばメロメロじゃん」

「ちっ…けしかけないでください!」

でも未だに手を振り解く素振りすらないし。

「はっはっは、王女様とくっついたらコイツがディーの下ついても安心だわ」

ダートはちょっと違う意味が入ってるけど同じく応援体制だ。


「私一応淑女ですので自分からキスはちょっと…ですけれど、グラン様がどうしてもと言うのなら」

頬染めて照れるリアかわいーなぁ。

「言ってません言いません!ディー様、ダートルド様、僕のこと検討しておいてくださいね!」

顔真っ赤にして目を瞑って、深呼吸した後ゆっくりとリアの手を振り解いたグランさんはそのまま走って逃げた。


「逃げられちゃったけど、あれって脈アリよね?」

「ふっとい脈だったね」

「よし!ガンガンいくわよー!」

「すげぇな王女様、男に対してもそんなグイグイいくんだ。引くわー」

「うるさいわね、ディー様にしがみついてる猛犬よりマシよ」

「うらやましんだろ」

「そうね、涙が出るほど羨ましくて悔しいわ!」


逃げたグランさんはオリテンテーリングの途中だったのを思い出したのかすぐに戻ってきたけど、すっごい挙動不審でリアの方をあからさまに見ないようにしてた。その後のチェックポイントでは知識を発揮できず、めっちゃ時間かかってのゴールとなった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

処理中です...