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戻ってきた元悪役令嬢
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しおりを挟む「黒目黒髪に、その名前…紅桾の勇者…」
おっさんはそう呟くと、紅潮した顔で私を見る。
リアに見つめられるのはいいけど、こんなおっさんに見つめられても気持ち悪いだけだ。
「!大統領、私があなたのものになればディーは諦めるとっ」
「確かに言ったが、こんなに美しい女性だとは思わなかった。ただの美しい女より、付加価値もある彼女が自分でやってきたのだから手に入れたいと思うのは当然だろう!」
「っ、ディー逃げて!!」
到着早々緊迫した状況だけど、リア置いて逃げるわけないじゃん。
走ってこっちに向かってこようとした大統領らしきおっさんを、ダートが踏み付けて床に転がす。
私は床に倒れ込んだおっさんの首元に剣を突きつけて睨んだ。
「リア、こんなのに私が逃げる必要なんかない」
「ディー!」
「ふ、ふ…これで勇者は私のものだ」
お前のものなわけないだろ。
「あん?何言ってんだこのおっさん」
ムカついたので剣を少しだけ刺した。皮だけ、ほんのちょっと血が出てくるくらい。
おっさんは血走った目を見開いて、すっごい形相で私を見る。
「な、な、なぜっ…」
「ディー、何ともないの?この人今あなたに強力な魅了を使った筈よ」
「魅了?こんなおっさんの魅了になんかかかんないよ」
「っ、我が国の秘宝だぞ?!魔王すら抗えぬ最高レベルの魅了だ!」
「いや魔王って、それ倒したの誰だと思ってんだよ」
「しかしっ、勇者は魔法が」
「ああ、人前でほとんど使わないから知られてないのか。私剣も使うけど、魔法も同じくらい得意。魔王の魔力の倍くらい?魔法耐性もその分高いな」
「えげつねぇよなあ、剣技で勝ててもオレ魔法ほとんど使えねーからいつまで経ってもディーは雲の上だわ」
でも剣技今以上伸びそうにないし、ダートはどんどん差を縮めてきて危機感あるな。
「………そう、そうよね。ディーは世界最強だものね。何故考えが及ばなかったのかしら、あれだけ軽く転移だってしてたのに…私程度が守る必要は」
「あ、それだよそれ。リア、私があげた腕輪は暴漢も弾く筈なんだけど。このおっさんをなんで受け入れようとしてたの。脅されてたっぽいのは分かるけど、私のため?」
「…いくら斥候を放っても、腕利きの傭兵を雇ってもうまくいかないから、大統領が魅了を使えるようにディーを連れてこいと。そうしたら私は自由になると」
「ふぅん、それでリアはかわりに自分が?」
「私で我慢してやっても良いと言われたので。私は最初に誓いました、勇者を利用することは決してしないと。自分の矜恃を守ろうとしただけですわ」
「……今は二人とも身の危険がなくなったわけだけど、どう?」
「結局ディーには何の心配も必要なかったし、迷惑を掛けるだけで…助けてもらった自分が不甲斐ないです…」
瞬きと同時に溢れた涙がとても綺麗。
「リアが私を守ろうとしてくれたみたいに、私もリアを守りたいよ?不甲斐なくなんてない、超カッコいいねリア」
綺麗な涙を流すリアを抱きしめて、スルド国王に預ける。
さて、このクソおっさんを懲らしめる時間だ。
「ダート、このおっさん私がやる」
「えー、オレあんまこいつにディーを近づけたくねんだけど。キモイし」
「だっ!私は連邦のトップだぞ、いくら勇者でも害せば罪になる!」
「ほらまた意味わからんこと言い出した。そんなん王女様が訴えれば誘拐犯から助けた勇者らしい行動になんだよ」
「お前…お前か、勇者に尻尾を振ってついて回る皇国の公爵子息。守るだなんだ言って敵いもしない口だけの男」
喚いてるおっさん目掛けてナイフを一本投げた。頭の横を掠って、切れた髪の毛がハラハラ落ちる。
「うるっせぇな、次ダート侮辱したら首と胴体が離れんぞ」
「……は、ははっ、ほら意味がない。お前がいくら守ろうとしても勝手に出てくるんだ。女なんだから大人しく愛されて守られておけばいいのに…お前も尽くし甲斐がないな?」
面倒くさい、本当に斬ってやろうかな。
「馬鹿だなおっさん、大人しく守られたらそんなのディーじゃねぇわ。愛されるだけの存在だったらこんなに惹かれてない、守られるだけで満足するやつだったらこんなに希ってない」
踏みつけた足に力を入れたのか、おっさんがぐえっと呻いて床に顔を埋める。
「誰からも守られようとせず、ずっと一人で生きてきたからこその強さだ。オレはディーが一人で気を張り続けなけりゃそれで良い、オレを捨てなけりゃあとはどうだっていい」
国王の腕から抜けてきたリアが私の横で、すごい顔をして踏まれるおっさんと踏むダートを見る。
「……ねぇ、なんであの人こんな状況でディーへの愛を語っているの?居た堪れないのだけれど。びっくりして涙もとまっちゃったわ」
私が一番居た堪れない。
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