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戻ってきた元悪役令嬢
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「……あの、来週ハンユムの王太子が入学前の見学として訪問されます。生徒会だけで対応する予定だったのですが、直前になって学園で唯一爵位を持つディー様への挨拶を希望してきました」
テストも無事乗り切り、年末が近付いたころ。グランさんがリアと一緒に家にやってきてものっすごい言い辛そうに口を開いた。
瞬間ダートの顔が怖くなったけど、とりあえず背中を摩って宥めて、部屋に案内する。
「あのね、グラン様はディーの出自は分かっていたのですって。それで、色々知っていたから当たり障りない感じで補足しておいたわ」
「わーまじかー。バレバレ?」
ダートにもバレてたし、みんな暗黙の了解な感じにしてくれてるのかな。
「いえ、ごく稀に特有の発音があるだけなのでそこに気付かなければ思い至らないと思います。それで、どうしましょうか」
「会わねーよ、わざわざ接点作る必要ないだろ」
学園内平等とはいえ、まだ入学前の王族の要請断れるの?私のこと把握してるだろう相手がわざわざ指名してくるって良いことなさそうだけどさ。
「軽く話を聞いた程度ですが、学園に通って欲しくないで良いですか?それなら一度会って、少しでも引き抜きの思惑が見えればディー様が言わなくても皇国から圧力がかかって入学を遅らせると思いますよ。卒業後に入学する分には構わないでしょう?」
学園生活そのものを被らないようにする。
手っ取り早いけど、それすると王子様の恋邪魔することになっちゃうし。
「ねぇディー、思ったのだけれど。恋人候補の子は不思議な力を持っているから魔王を倒すために活動する中で王太子と関わりを持つわよね。既に魔王が居ないのに同学年というだけで二人が関わるのかしら。いくら学園が平等主義とは言え、王族と平民よ?とても賢い謙虚な女の子がわざわざ近寄ると思えないわ」
私が微妙な顔をすると、横からこそっとリアが話しかけてきた。めっちゃ実感篭ってる言葉だね。
魔王って二人の出会いに貢献してたんだ、苛烈になってく嫌がらせが強烈すぎてどんな風に会って惹かれたのかとか全然記憶になかった。
「既に邪魔してしまってたのかあ…これ逆に罪滅ぼしでサポートしなきゃじゃないの」
相談した結果、引き抜きっぽいのがあったらちゃんと断って、これ以上邪魔したくないから圧力もかけないようにしてもらおうってことになった。
ダートは不満そうだったけど、どの道向こうから来るならずっと避け続けてはいられない。隠れて見てることを条件に納得してもらった。
二人を見送ったあとで心配そうに大丈夫かって聞かれたけど、不安も恐怖も何もない。
「最悪二人で逃げちゃえば良いんだしね」
「それはすっげぇ魅力的なお誘いだわ、ぶっちぎってどっか行きてーな」
「なんかあったらだよ。リア達も居るし学園生活楽しいから、ちゃんと卒業したいな」
抱きしめてきたダートの背中に手を回して、落ち着く心臓の音を聞きながら気持ちを伝える。
「ダートが好きよ」
何があったって、ダートが居ればどこに行っても楽しく過ごせる。
***
そんなわけで、王子様訪問当日。
お昼過ぎに時間が設けられて、応接室で待ってたら王子様とその護衛の人がやってきた。ダートはすぐそばの扉の向こうで待機中。
「ディアナ嬢」
王子様は入室した途端に久しぶりだと声をかけてきた。分かってはいたけどやっぱりバレバレなのね。
「お初にお目にかかります、スルド皇国勇者伯ディーと申します」
とりあえず王子様の言葉はスルーして挨拶をする。
「……とても美しく成長されたな。我が国に戻ってくる気はないだろうか」
「戻るも何も、そちらの国に行ったことはありませんので」
「それはあくまでも建前だろう。貴女は努力して今の地位を手に入れた、誰にも家を蔑まれることはない。堂々とディアナ・ノードとして私の隣に戻ってきて欲しい」
それはそれは煌びやかな笑顔で言われたけど、ただ勇者欲しいだけだろ?そもそも家の悪評とか気にしてるわけじゃないしな。
目に何の感情も浮かんでないし、この人は私のこと好きでもなんでもないのに元婚約者なせいで王子様が引き抜いてこいって言われたんだろうな。
「私に家名はございません」
「……何が望みだ?」
「何も」
「貴女が戻って来れば、そのまま王太子妃だ。皇国程の権力はないが財力はこちらの方がある、訳のわからない爵位にしがみ付くよりよほど贅沢で優雅な暮らしが出来るだろう…もちろん側妃も愛妾も置かない。いくら皇国の公爵家といえど、嫡男でない息子より私の方が良いと思わないか」
今のアピールに魅力感じるところなんかひとつもなかったわい。
もういいかな、求婚にかこつけた引き抜きの事実はゲット出来たよね。
思ってたより必死で王子様って大変だなって思ったけど、入学したら可愛い恋人が出来るから勇者は諦めて幸せになってください。お手伝いは出来ないけど邪魔もしません、遠くから見守ってます。
「私、今のままでとても幸せですので」
頑張って顔を作った。あとはさっさと離れるだけだ。
テストも無事乗り切り、年末が近付いたころ。グランさんがリアと一緒に家にやってきてものっすごい言い辛そうに口を開いた。
瞬間ダートの顔が怖くなったけど、とりあえず背中を摩って宥めて、部屋に案内する。
「あのね、グラン様はディーの出自は分かっていたのですって。それで、色々知っていたから当たり障りない感じで補足しておいたわ」
「わーまじかー。バレバレ?」
ダートにもバレてたし、みんな暗黙の了解な感じにしてくれてるのかな。
「いえ、ごく稀に特有の発音があるだけなのでそこに気付かなければ思い至らないと思います。それで、どうしましょうか」
「会わねーよ、わざわざ接点作る必要ないだろ」
学園内平等とはいえ、まだ入学前の王族の要請断れるの?私のこと把握してるだろう相手がわざわざ指名してくるって良いことなさそうだけどさ。
「軽く話を聞いた程度ですが、学園に通って欲しくないで良いですか?それなら一度会って、少しでも引き抜きの思惑が見えればディー様が言わなくても皇国から圧力がかかって入学を遅らせると思いますよ。卒業後に入学する分には構わないでしょう?」
学園生活そのものを被らないようにする。
手っ取り早いけど、それすると王子様の恋邪魔することになっちゃうし。
「ねぇディー、思ったのだけれど。恋人候補の子は不思議な力を持っているから魔王を倒すために活動する中で王太子と関わりを持つわよね。既に魔王が居ないのに同学年というだけで二人が関わるのかしら。いくら学園が平等主義とは言え、王族と平民よ?とても賢い謙虚な女の子がわざわざ近寄ると思えないわ」
私が微妙な顔をすると、横からこそっとリアが話しかけてきた。めっちゃ実感篭ってる言葉だね。
魔王って二人の出会いに貢献してたんだ、苛烈になってく嫌がらせが強烈すぎてどんな風に会って惹かれたのかとか全然記憶になかった。
「既に邪魔してしまってたのかあ…これ逆に罪滅ぼしでサポートしなきゃじゃないの」
相談した結果、引き抜きっぽいのがあったらちゃんと断って、これ以上邪魔したくないから圧力もかけないようにしてもらおうってことになった。
ダートは不満そうだったけど、どの道向こうから来るならずっと避け続けてはいられない。隠れて見てることを条件に納得してもらった。
二人を見送ったあとで心配そうに大丈夫かって聞かれたけど、不安も恐怖も何もない。
「最悪二人で逃げちゃえば良いんだしね」
「それはすっげぇ魅力的なお誘いだわ、ぶっちぎってどっか行きてーな」
「なんかあったらだよ。リア達も居るし学園生活楽しいから、ちゃんと卒業したいな」
抱きしめてきたダートの背中に手を回して、落ち着く心臓の音を聞きながら気持ちを伝える。
「ダートが好きよ」
何があったって、ダートが居ればどこに行っても楽しく過ごせる。
***
そんなわけで、王子様訪問当日。
お昼過ぎに時間が設けられて、応接室で待ってたら王子様とその護衛の人がやってきた。ダートはすぐそばの扉の向こうで待機中。
「ディアナ嬢」
王子様は入室した途端に久しぶりだと声をかけてきた。分かってはいたけどやっぱりバレバレなのね。
「お初にお目にかかります、スルド皇国勇者伯ディーと申します」
とりあえず王子様の言葉はスルーして挨拶をする。
「……とても美しく成長されたな。我が国に戻ってくる気はないだろうか」
「戻るも何も、そちらの国に行ったことはありませんので」
「それはあくまでも建前だろう。貴女は努力して今の地位を手に入れた、誰にも家を蔑まれることはない。堂々とディアナ・ノードとして私の隣に戻ってきて欲しい」
それはそれは煌びやかな笑顔で言われたけど、ただ勇者欲しいだけだろ?そもそも家の悪評とか気にしてるわけじゃないしな。
目に何の感情も浮かんでないし、この人は私のこと好きでもなんでもないのに元婚約者なせいで王子様が引き抜いてこいって言われたんだろうな。
「私に家名はございません」
「……何が望みだ?」
「何も」
「貴女が戻って来れば、そのまま王太子妃だ。皇国程の権力はないが財力はこちらの方がある、訳のわからない爵位にしがみ付くよりよほど贅沢で優雅な暮らしが出来るだろう…もちろん側妃も愛妾も置かない。いくら皇国の公爵家といえど、嫡男でない息子より私の方が良いと思わないか」
今のアピールに魅力感じるところなんかひとつもなかったわい。
もういいかな、求婚にかこつけた引き抜きの事実はゲット出来たよね。
思ってたより必死で王子様って大変だなって思ったけど、入学したら可愛い恋人が出来るから勇者は諦めて幸せになってください。お手伝いは出来ないけど邪魔もしません、遠くから見守ってます。
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