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戻ってきた元悪役令嬢
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しおりを挟む「……本来の場所に戻るべきだ。皇国では血筋の知れない成り上がり、貴女の傍に居る限り彼への目も厳しくなる。彼も…知らないのだろう?貴女の家族が何をしていたか、貴女がどうやって生きてきたか」
この人ダートのことわかってないんだな、情報持ち帰らせてないから当然ではあるけど。
一歩近づいた王子様がそのまま私の方へ手を延ばす。瞬間鳥肌が立った。
「「触んじゃねーよ」」
手を振り払ったと同時に発した言葉がダートと重なった。振り払った手はダートに捻られてるけど、もう穏便とかどーでもいいや。
「殿下に何を!」
「お前も動くなよ」
隣の男が手を剣にかけたので、拘束して牽制する。
「いっ」
王子様から情けない声が漏れた。
「なぁー、小国の王子風情が何えらっそーに勇者様脅迫してんの?ディアナ・ノードが何だって?」
「か、彼女は我が国の民で…勇者が王妃となれば皆も安心すると」
王子様は目を細めて苦しそうな顔をしながら、途切れ途切れに返事をする。
「たらしこめたら儲けもんで?」
「違う、一度会っただけの彼女がずっと心に残っていた。また会いたかった、私の婚約者だった女性に」
「そんで駄目だったらいきなり脅迫?馬鹿じゃねお前」
「く、国に言われればお前だって従わざるを得ない…」
だよね、言われたから来ただけだよね。
普段は真面目な王子様なんだろうに、安易に魔王倒したせいでこんな理不尽な目に合わせちゃったの申し訳ないな。
でも触られそうになったのは気持ち悪かった、そこだけはこの人が悪いと思う。
チラチラ縋るような目を私に向けてくるけど、ごめんなさい何の感情も湧きません。
「そんなもんとっくに対策済だっての、どこで争いが起きようと勇者に頼ることはしないってちゃんと文書に残してるわ」
え、そんなんもらってたの?
「武力的にどうしようもなくなったらオレが出るしな。ディーの出番はねぇよ、お前じゃオーバーキルも良いとこだろ」
ダートは笑いながら話すけど、それじゃ私に爵位渡した意味なくない?
「勇者が他の国に与しないだけでメリットになんじゃね?既に大国なんだから、バランス保てればそれでいーだろ」
「へぇ、そんなもんなの?」
「……そんなわけがないだろう、皇帝は野心家だった筈だ」
気の抜けた会話をしてたからか、少し落ち着いた声で王子様から突っ込みが入った。
「てことにして言質とったんだよ。周りにいた騎士数人適当に相手したら大人しくなったぞ」
完全に脅してんじゃん。国の頂点に何してんのさ。
「ディーを利用しようとする方が悪い。世界の救世主良い様に出来るわけねぇじゃん、身の程知らずだよな~」
「ダートって基本命知らずだよね」
「めっちゃ命大事にしてるわ、全員オレより弱いから出来るだけ。オレを殺せるのはディーだけだからなぁ」
油断してたら危なくない?
「いやー、無理じゃね?何もしなくてもお前がくれたコレで大体の攻撃無効化されんだけど。こないだ暗殺者来た時どんなもんかと受けてみたら傷一つつかなかったぞ何これ」
物理から精神的なやつまで、私以外からのは弾くように色々効果つけといた。
「そんなわけで心配ご無用。ディーを差し出さなきゃいけない状況なんて何があってもやってこねぇの。おわかり?」
「~~っ」
「ちょっと反応が悪かっただけで何でいきなり脅迫になんの、綺麗なお顔で笑えば落ちるって何も考えてなかったわけ?キッチリ報告すっからな」
学園内で会って良かった、外でこれやってたら完全に不敬だ。やり過ぎ感しかないし、本当にダートと二人で逃げよっかな。
「王太子様、色々とご迷惑をお掛けして申し訳ありません。皇国に籍はありますが私自身は表に出るつもりもなく、今までと同じように冒険者として生きていく所存でございます。これからハンユム王国を治める貴方のご活躍を遠くから祈念しております」
腕を解放して私の方に振り返ったダートはちょっとだけ眉を下げて、そのまま抱き上げられてその場を離れた。
家に戻ってソファに下ろされて、顔を覗き込まれる。
「–––––––わり、出てっちまった」
「手っ取り早かったし逆に良かったよ。それより念書とかもらってたのびっくりした」
「入学前にもらっといた。……王子見てどうだった?」
眉が下がったまま不安そうな顔してるけど、こいつまさか。
「好きになるかもなんて寝言思ってんの?」
「思ってねぇけど…でもやっぱあれじゃん、生国への情とかで絆されたり」
あの国に情なんかこれっぽっちもないわ、あったら逃げてない。
頭を撫でながら、まだまだ愛情表現足りなかったから不安にさせちゃったのかなって申し訳なくなった。ソファに手をついていたダートの両手に手を重ねて、視線を合わせる。
「もうダートに絆されまくってるから他のが絆すところないかな」
「は、そか、絆し尽くしてたか」
力無く笑ったダートにどんな顔していいかわからなくて、手を強く握った。
「…好き。ディアナが超好き。もー死にそう大好き」
私も好きだよ。すごく好き。
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