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第11話
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「いらっしゃいませ」
「お邪魔します」
一週間振りに家を訪ねると勅使河原さんはいつもの笑顔で迎えてくれたけど、俺が玄関を上がったところで「あれ」と少し屈んで俺の顔をまじまじと見た。
「もしかして、また寝不足気味?」
「えっと……なんか寝れなくて」
気を遣わせたくなかったのに、じっと見つめられたら嘘はつけなくて、心配そうな顔をさせてしまった。
「最近頑張り過ぎなんじゃない?」
「そんなことないです」
「ちょっと寝た方が勉強も捗ると思うからお昼寝しよっか」
「いや、大丈夫ですよ」
「任意じゃなくて強制だよ」
「えー」
強引に手を引かれてベッドのところまで連行されて胸が高鳴った。まさか一緒に寝るつもりなんじゃないかと考えてしまったけど、さすがにそういうわけではなさそうだった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
勅使河原さんはわざわざ掛け布団を一旦退けて、俺が横になったら優しく掛けてくれた。そういえば、ここで寝るのは飲み会で泥酔してしまった日以来だ。
「臭くない?」
勅使河原さんは相変わらず自分のことをおじさんだと思っているようで、ベッドの横に座って不安気な顔でそう尋ねる。
「全然臭くないです」
「よかった」
きっぱり否定したら勅使河原さんはほっとした様子で笑っていた。むしろなんだかいい匂いがするくらいだけど、それを言うと変態っぽいような気がして口には出せなかった。
「電気、全部消す派?」
「そのままで大丈夫ですよ。勅使河原さんの生活もあるでしょうし」
「いっそ添い寝する?」
「そんなことされたらドキドキしちゃって寝れないですよ」
「じゃあやめとくね」
勅使河原さんからの提案に冗談っぽく本音を伝えたら笑ってもらえた。酔っ払っている状態ならまだしも、シラフで添い寝なんて意識し過ぎて絶対眠れないに違いない。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
勅使河原さんが普段寝ているところで寝るなんて緊張する。そう思っていたのに意外とすぐに寝れて、起きた時には頭がすっきりしていた。
だけど、生理現象で股間が痛いくらいガチガチになっていたせいで布団から出られなかった。一緒に寝ていなくて本当によかったと思う。
別に変な夢を見たわけでもないし、自分の意思とは無関係なこととはいえ、人様の家でこんな状態になっているなんてとんでもなく申し訳ない。仕方がないからしばらく寝たふりをしてやり過ごしてから起き上がった。
「あ、おはよう」
「おはようございます」
勅使河原さんは本を読んでいたようだったけど、俺が起きたことに気付くと笑い掛けてくれた。それだけですごく幸せな気分になって、毎日こうだったらいいのにと思ってしまう。
そういえば今何時なんだろうと時計を見たら五時間近く経っていた。信じられなくて目を凝らしてみたけど見間違いではなかった。
「爆睡してすみません」
「よく寝れたみたいで何よりだよ」
「いや、マジで何しに来たんだって話ですよね」
「今日は朝帰りする?」
一瞬、勅使河原さんの口から出たその単語がいやらしい意味に思えてしまった。だけどよく考えたら夜型の人間の朝帰りは昼型の人で言うなら終電で帰る程度のことかもしれない。
「そんなに長居していいんですか」
「うん。居候してくれたっていいよ」
「じゃあ荷物持ってきます」
「一緒に住むの楽しそうだね」
「そうですね」
冗談だとわかっていても二人で暮らすことを想像するとワクワクする。できることなら今日みたいに起きてすぐ勅使河原さんの顔を見れる日々を送ってみたい。
「ところで、今ってお腹空いてる?」
当然ながら同居については具体的な話に発展することもなく、打って変わってそんな質問をされた。
「めっちゃ空いてます」
「よかったら前に行ったラーメン屋さん、また行かない?」
「いいですね」
ご飯に誘ってもらえるだけでも嬉しいのに、俺の好きな店を気に入ってくれたとわかって尚更嬉しくなった。あの店を選んだことをクソミソに言ってくれた時生には謝ってもらいたいところだ。
ラーメン屋でお腹を満たして勅使河原さんの家に戻ってからはステアの練習の成果を見てもらってアドバイスを聞いたり、またお酒に関する知識を教わったりした。
「外も明るくなってきたし、今日はこの辺にしとこっか。お疲れ様」
「ありがとうございました」
今日こそはと意気込んでいたのに先週より真面目に勉強していて告白できるような余地はなかった。帰る前に言うのもいかがなものかと悩んでいたら顔を覗き込まれてドキッとした。
「どうかした?」
「いや、その……来週も来たいって言ったら迷惑かなって」
結局また言えずじまいで次回のことを尋ねることしかできなかった。勅使河原さんも俺にばかり構っていられないだろうけど、なるべく一緒に過ごしたい。
「全然迷惑じゃないよ。遅めの時間でもいい?」
「はい」
「用事終わったら連絡するね」
「わかりました」
勅使河原さんに会えるなら何時だろうと嬉しいし、三週連続で会ってもらえるなんてありがた過ぎて拝みたいくらいの気持ちになる。
「じゃあ、また明日っていうか、今日?」
「そうですね。また夜に」
いい気分で勅使河原さんの家を出たけど、不意に用事というのが一体なんなのか気になってしまった。恋人はいなくても一緒に出掛けるくらい親しい人はいるかもしれないと考えると不安になる。
早く気持ちを伝えたいのに土壇場で逃げてしまう自分が本当に嫌だ。このままじゃ冬彦さんが言っていたように誰かに先を越されてしまいそうで怖い。結果論でしかないけど、どう考えても先週言っておくべきだったと後悔した。
「お邪魔します」
一週間振りに家を訪ねると勅使河原さんはいつもの笑顔で迎えてくれたけど、俺が玄関を上がったところで「あれ」と少し屈んで俺の顔をまじまじと見た。
「もしかして、また寝不足気味?」
「えっと……なんか寝れなくて」
気を遣わせたくなかったのに、じっと見つめられたら嘘はつけなくて、心配そうな顔をさせてしまった。
「最近頑張り過ぎなんじゃない?」
「そんなことないです」
「ちょっと寝た方が勉強も捗ると思うからお昼寝しよっか」
「いや、大丈夫ですよ」
「任意じゃなくて強制だよ」
「えー」
強引に手を引かれてベッドのところまで連行されて胸が高鳴った。まさか一緒に寝るつもりなんじゃないかと考えてしまったけど、さすがにそういうわけではなさそうだった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
勅使河原さんはわざわざ掛け布団を一旦退けて、俺が横になったら優しく掛けてくれた。そういえば、ここで寝るのは飲み会で泥酔してしまった日以来だ。
「臭くない?」
勅使河原さんは相変わらず自分のことをおじさんだと思っているようで、ベッドの横に座って不安気な顔でそう尋ねる。
「全然臭くないです」
「よかった」
きっぱり否定したら勅使河原さんはほっとした様子で笑っていた。むしろなんだかいい匂いがするくらいだけど、それを言うと変態っぽいような気がして口には出せなかった。
「電気、全部消す派?」
「そのままで大丈夫ですよ。勅使河原さんの生活もあるでしょうし」
「いっそ添い寝する?」
「そんなことされたらドキドキしちゃって寝れないですよ」
「じゃあやめとくね」
勅使河原さんからの提案に冗談っぽく本音を伝えたら笑ってもらえた。酔っ払っている状態ならまだしも、シラフで添い寝なんて意識し過ぎて絶対眠れないに違いない。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
勅使河原さんが普段寝ているところで寝るなんて緊張する。そう思っていたのに意外とすぐに寝れて、起きた時には頭がすっきりしていた。
だけど、生理現象で股間が痛いくらいガチガチになっていたせいで布団から出られなかった。一緒に寝ていなくて本当によかったと思う。
別に変な夢を見たわけでもないし、自分の意思とは無関係なこととはいえ、人様の家でこんな状態になっているなんてとんでもなく申し訳ない。仕方がないからしばらく寝たふりをしてやり過ごしてから起き上がった。
「あ、おはよう」
「おはようございます」
勅使河原さんは本を読んでいたようだったけど、俺が起きたことに気付くと笑い掛けてくれた。それだけですごく幸せな気分になって、毎日こうだったらいいのにと思ってしまう。
そういえば今何時なんだろうと時計を見たら五時間近く経っていた。信じられなくて目を凝らしてみたけど見間違いではなかった。
「爆睡してすみません」
「よく寝れたみたいで何よりだよ」
「いや、マジで何しに来たんだって話ですよね」
「今日は朝帰りする?」
一瞬、勅使河原さんの口から出たその単語がいやらしい意味に思えてしまった。だけどよく考えたら夜型の人間の朝帰りは昼型の人で言うなら終電で帰る程度のことかもしれない。
「そんなに長居していいんですか」
「うん。居候してくれたっていいよ」
「じゃあ荷物持ってきます」
「一緒に住むの楽しそうだね」
「そうですね」
冗談だとわかっていても二人で暮らすことを想像するとワクワクする。できることなら今日みたいに起きてすぐ勅使河原さんの顔を見れる日々を送ってみたい。
「ところで、今ってお腹空いてる?」
当然ながら同居については具体的な話に発展することもなく、打って変わってそんな質問をされた。
「めっちゃ空いてます」
「よかったら前に行ったラーメン屋さん、また行かない?」
「いいですね」
ご飯に誘ってもらえるだけでも嬉しいのに、俺の好きな店を気に入ってくれたとわかって尚更嬉しくなった。あの店を選んだことをクソミソに言ってくれた時生には謝ってもらいたいところだ。
ラーメン屋でお腹を満たして勅使河原さんの家に戻ってからはステアの練習の成果を見てもらってアドバイスを聞いたり、またお酒に関する知識を教わったりした。
「外も明るくなってきたし、今日はこの辺にしとこっか。お疲れ様」
「ありがとうございました」
今日こそはと意気込んでいたのに先週より真面目に勉強していて告白できるような余地はなかった。帰る前に言うのもいかがなものかと悩んでいたら顔を覗き込まれてドキッとした。
「どうかした?」
「いや、その……来週も来たいって言ったら迷惑かなって」
結局また言えずじまいで次回のことを尋ねることしかできなかった。勅使河原さんも俺にばかり構っていられないだろうけど、なるべく一緒に過ごしたい。
「全然迷惑じゃないよ。遅めの時間でもいい?」
「はい」
「用事終わったら連絡するね」
「わかりました」
勅使河原さんに会えるなら何時だろうと嬉しいし、三週連続で会ってもらえるなんてありがた過ぎて拝みたいくらいの気持ちになる。
「じゃあ、また明日っていうか、今日?」
「そうですね。また夜に」
いい気分で勅使河原さんの家を出たけど、不意に用事というのが一体なんなのか気になってしまった。恋人はいなくても一緒に出掛けるくらい親しい人はいるかもしれないと考えると不安になる。
早く気持ちを伝えたいのに土壇場で逃げてしまう自分が本当に嫌だ。このままじゃ冬彦さんが言っていたように誰かに先を越されてしまいそうで怖い。結果論でしかないけど、どう考えても先週言っておくべきだったと後悔した。
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