別に恋じゃなくても

らすぽてと

文字の大きさ
2 / 15

第2話

しおりを挟む
「ファミレス行きませんか」
 仕事終わりにテシから二ヶ月前と同じ言葉を掛けられた。
「なんで?」
「桃のパフェが食べたいんです」
「一人で行けよ」
 相変わらず用件という用件はないらしく、苺のパフェが桃のパフェに変わっただけだったから突っぱねることにした。
「店長と一緒の方が楽しいに決まってるじゃないですか」
 その言い分に関しては前よりマシだったけど、それでも別に俺じゃなくたっていいだろうとは思う。
「友達いないの?」
「そうなんですよ」
「へー」
 素朴な疑問を投げ掛けてみると、テシは困ったように笑ってた。こんなにグイグイ来る性格で友達がいないなんて嘘に決まってる。
「完全に信じてない返事ですね」
「連絡先の数教えてくれたら信じるよ」
「わかりました」
 証拠を要求したらテシはスマホを取り出して、連絡先の一覧を開いた状態で俺に差し出した。そこにはまともに社会生活を送ってるとは思えない数字が表示されてた。
「データ飛んだの?」
「いえ、消しました」
 テシは天真爛漫な奴だと思ってたからギャップがすごくて引いてしまった。闇が深そうな気配を感じて、踏み込むかどうか迷う。
 浮気して彼女にキレられて女友達の連絡先を全部消すことになった奴は知り合いにいるけど、テシは到底そんなタイプには見えない。
「女絡みのこと?」
 好奇心に負けて尋ねてみると、テシは苦笑しつつ答える。
「お付き合いを始めた段階で親族以外は消すよう言われまして」
 それを聞いて、そこまで人間関係を断たせようとする彼女も、そんな要求を呑むテシもどうかしてると思った。
 バーテンダーは付き合ってはいけない職業だなんてレッテルを張られてるくらいだから、警戒される部分はあったとしても、親族以外というのは範囲が広過ぎる。
「よくそんな女と付き合ってんな」
「もうお別れしました」
「ならいいけど」
 テシが誰と付き合ってようが俺には関係ないけど、相手がそこそこヤバそうな女となるとさすがに心配だから別れたと聞いて安心した。
「その様子だと、店長は束縛されるのは嫌いそうですね」
「連絡先消せなんて言われたら真っ先にそいつの連絡先消すよ」
 俺だったら最初からそこまで猜疑心を向けられるのは気分が悪過ぎてそれ以上関わる気が失せる。考えてみれば、テシに共感したことは今までそうないし、根本的な価値観が違うみたいだ。
「縛られるのも結構気持ちいいもんですよ」
「俺には一生理解できそうにねぇな」
 テシの新しい一面を知って却ってよくわからなくなったけど、とりあえずドMなんだろうな、とは思った。
「そんなこんなで店長しか友達いないので付き合ってください」
 両手を合わせながらそう言われて、俺は思わず耳を疑った。
「俺のこと友達だと思ってたの?」
「違いました?」
 テシは俺の質問に驚いた様子で質問を返してくる。どうやらテシとは友達の基準も全く違うらしい。
「友達じゃないけど、可哀想だから付き合ってあげてもいいよ」
「ありがとうございます。友達じゃないっていうのは残念ですけど」
「今のところはあくまで店長と従業員。わかった?」
「わかりました」
 俺としてはまだ友達にはカウントできないから、関係性をきちんと理解してもらった上でファミレスに出発した。

「前から思ってたんですけど、店長って夏彦っぽくないですよね」
 ファミレスで桃のパフェを食べながらテシはバカみたいな話題を振ってきた。
「どういう意味だよ」
「一文字の名前っぽいと思うんです。蓮とか」
 わざわざ俺に似合いそうな名前を考えてたなんて、呆れ過ぎて笑ってしまった。
「佐野蓮って収まり悪くない?」
「キムタクや松潤みたいでいいじゃないですか」
「四文字なだけだろ。てか、テシも俊介っぽくないけどな」
「俺の名前覚えててくれたんですね」
 俺がなんの気なしに名前を口にしたらテシは感激してるようだった。それくらいのことで喜ばれるなんて思ってなかった。
「従業員の名前くらい覚えてるに決まってんじゃん」
「俊介って呼んでくれてもいいんですよ?」
「やだよ」
 嬉しそうに笑いながら面倒くさいノリで絡まれてげんなりする。この後の展開も大体想像がついた。
「じゃあ、夏彦さんって呼んでも」
「ダメ」
「名前で呼んだ方が仲良くなれそうじゃないですか」
 完全に予想通りの流れだったから食い気味で拒否したのに、テシは全然引き下がらない。
「俺は程々の距離感でいいと思ってるよ」
「ショックです。明日から出勤拒否します」
「そこまで言うなら好きに呼びゃいいけど」
 普段は温和なくせにこういう時は言っても聞かないことはいい加減わかってきたし、ここは仕方なく折れることにした。
「そういえば前、夏彦さんの注文入ってませんでしたよね」
「あー、そんなこともあったな」
 テシから早速名前で呼ばれて、むず痒いけど我慢して会話を続ける。
「今日も遅い気がしないでもないです」
「んー、とりあえずもうちょい待つ」
「夏彦さんは気が長いですね」
「俺が急かされるの嫌いだからかもな」
 そんな話をしてたら無事にフライドポテトが運ばれてきた。しばらく無言で食ってたけど、ふとテシへの連絡事項を思い出した。
「そういや、月末の日曜に歓送迎会やろうかと思ってんだけど」
「絶対行きます」
「はえーな」
 まだ誘ってないのに返事されて苦笑した。退職する鈴木くんの予定は確認済みだから、あとは新人の志村くんだけだ。
「志村くんって飲み会苦手そうだよな」
「そうですね」
 志村くんはかなりの人見知りで、入店から二週間経つのに未だにしっかり目を見て話してくれたことがない。
 ただ、テシには心を開いてるみたいだから、一応テシから誘ってもらった方がいいんじゃないかとは思ってた。
「テシが誘った方がまだ来てくれそうだし声掛けてみてくんない?」
「いいですけど、結構おどおどされてますよ?」
 志村くんへの伝達を頼んだらテシは不思議そうに首を傾げてた。どう見ても慕われてるのに自覚はないらしい。
「テシと話してる時が一番落ち着いてるって」
「そうですかね?」
「俺はテシの十倍はおどおどされてるし」
「それは言い過ぎでしょう」
 俺は志村くんに対して特に厳しく接してるわけじゃないのに若干怖がられてる節はある。多分、表情筋が死んでるせいだろう。鈴木くんはスパルタだし、志村くんからするとテシが最後の良心かもしれない。
「まあ、いつも志村くんのこと気に掛けてくれてるテシには感謝してるよ」
 この機会に今まで言いそびれてたことを伝えてみたら、テシは一瞬目を見張った後、すぐに笑顔になった。
「志村くんが可愛いからほっとけないだけですよ」
 なんとなくだけど、テシの言う「可愛い」には見た目のことも含まれてるような気がする。
「男同士でもあんま可愛いとか言うとセクハラになるから本人には言わないようにね」
「なるへそ。以後気を付けます」
 店長の務めとして、一応ハラスメント防止のための注意はしておいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

腐男子ってこと旦那にバレないために頑張ります

ゆげゆげ
BL
おっす、俺は一条優希。 苗字かっこいいだって?これは旦那の苗字だ。 両親からの強制お見合いで結婚することとなった優希。 優希には旦那に隠していることがあって…? 美形×平凡です。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。 そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。 ​そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。 完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。 ​「五分だけ、ここにいさせてくれないか」 ​一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。 次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。 住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

処理中です...