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第3話
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「ファミレス行きませんか」
終業後にテシからファミレスに誘われるのは三回目だった。特に用件がないということはもうわかってる。
「いいよ」
「今日はやけに素直ですね」
「断ろうとするだけ時間の無駄だって気付いたから」
「やっぱり素直じゃないですね」
拒否したところでどうせごねられるに決まってるから無抵抗でファミレスに向かった。
「志村くん、バーテンダーの仕事に興味持ってくれてるみたいです」
「へー、よかったね」
葡萄のパフェを食べながら嬉しそうにそんな話をしてくるテシに「それは多分バーテンダーじゃなくてお前に興味があるんだよ」と言ってやりたい気持ちを抑えつつ相槌を打った。
最近の志村くんのテシに対する態度は慕ってるを通り越して恋してるようにしか見えない。志村くんのコンディションはテシの言動に左右されると断言してもいいだろう。
何を約束したかは知らないけど、テシと指切りをしてた日なんて見るからに上機嫌だったし、今日はテシが女性客に絡まれてるのを見て険しい顔をしてた。
正直テシのどこがいいのか俺には全くわからない。ただ、身内に同性愛者はいるからそういうことに対する理解は多少あるつもりだ。
志村くんの恋を応援したい気持ちはあるけど、上手くいかなかった時に辞められたりしたら嫌だから、このまま何も起きないでほしいという気持ちもなくはない。
「今度レッスンすることになったから押し付け過ぎないように気を付けようと思ってます」
「テシでも遠慮することあんだな」
「嫌われたくないじゃないですか」
いつも図々しいテシにそんな感覚があることに驚いたと同時に一つ疑問が浮かんだ。
「俺には全然遠慮してくれないけど、嫌われてもいいと思ってるってこと?」
「夏彦さんは優しいから許してくれると思ってます」
確認してみるとテシはにっこり笑ってそう答えた。しつこいから面倒くさくなって譲歩してるだけなのに、テシはそれを優しさだと思ってるらしい。
「正直かなりうんざりしてんだけど」
「またまたぁ」
「お前ホント俺の話聞く気ねぇよな」
「耳をダンボにして聞いてますよ」
テシの受け答えがウザい上につまらなかったから一発ビンタを入れておしぼりで手を拭く。それでもなぜか笑顔なままのテシを見て、志村くんはなんでこんな奴のことが好きなんだろうと改めて思った。
「話変わるけどさ、テシってもし男から好きって言われたらどうする?」
仮に志村くんが何かしら行動を起こした場合どうなるのか気になって探りを入れてみる。
「もしかして告白しようとしてます?」
「バカじゃねぇの」
にこにこしながら首を傾げられて、反射的にそんな言葉が口をついて出た。
「どんだけ自意識過剰なんだよ」
「期待しちゃいましたよ」
「前に親戚のゲイの子に聞かれたことあるからテシはどうなのかなって思っただけ」
「なるへそ」
聞いてみようと思ったきっかけは違うけど、そんな質問をされたことがあるという点に関しては嘘じゃない。テシは少し考えてからこう答えた。
「悪い人じゃなかったらお付き合いしてみるかもしれないですね」
「悪い人って?」
「なんとなく嫌な雰囲気の人っているじゃないですか」
「まあわかるけど」
嫌な雰囲気じゃなければ付き合えるなんて審査基準がゆる過ぎじゃないかと思う。この分なら志村くんがフラれる心配はなさそうだ。
「夏彦さんはどうですか」
「男と付き合うのは想像つかねぇな」
「そうですか」
俺は今のところ男に対して惹かれたことはないどころか、女ですら本気で好きになったことがないかもしれない。
それなりに信頼できそうな相手から好意を向けられたら付き合ってみることにしてるけど、最終的には「私のことそんなに好きじゃないよね」みたいなことを言われて別れることがほとんどだ。
四、五ヶ月前に別れた彼女には「男友達と遊んできていい?」と聞かれて了承したら「普通やきもち焼かない?」と理不尽にキレられて、さすがにムカついたから「自分が思う普通が誰にとっても普通だと思うなよ」と窘めてから別れを告げた。
初めてテシとファミレスに来たのはそんなクソみたいな日で、あの時はまさかこんな定期的に連れてこられることになるとは思ってなかった。
テシはしばらく黙々とパフェを口に運んでたけど、不意にこっちをじっと見てきた。また何かバカみたいなことを言われそうな予感がする。
「もし、俺が好きって言ったらどうします?」
さっきと同じ質問を主語を変えてしてくるなんて予想外だった。
「告白しようとしてる?」
「はい」
とりあえずかぶせてみたらきっぱりとそう言われた。こういう冗談を言う時のテシは大体笑顔なのに今日は珍しく真顔だ。
なんとなくバッサリ切り捨てるのは気が引けて、一応なるべくリアルに想像してみる。
「断って辞められたら困るから保留で」
「ズルいですねぇ」
俺の答えを聞いてテシは笑い出したから、やっぱり冗談だったみたいだ。ないとは思いながらも万が一の可能性を考えてしまった辺り、俺も大概自意識過剰かもしれない。
「テシってたまにそういうネタ放り込んでくるけどさ、ホントにゲイの人が聞いたらいい気しないだろうからやめた方がいいと思うよ」
前々から若干気になってたことではあるから注意したらテシは表情を曇らせた。
「ネタじゃないのにネタ扱いされるのも悲しいですよ」
「そりゃ悪かったな」
テシの真意はわからないものの、確かにそれも一理あると思って謝った。
「告白のお返事待ってますね」
「まあ、考えとくよ」
念を押してくるテシに曖昧な返事をした後でふと、この会話を志村くんが聞いたらどんな顔するだろうと考えてしまった。
終業後にテシからファミレスに誘われるのは三回目だった。特に用件がないということはもうわかってる。
「いいよ」
「今日はやけに素直ですね」
「断ろうとするだけ時間の無駄だって気付いたから」
「やっぱり素直じゃないですね」
拒否したところでどうせごねられるに決まってるから無抵抗でファミレスに向かった。
「志村くん、バーテンダーの仕事に興味持ってくれてるみたいです」
「へー、よかったね」
葡萄のパフェを食べながら嬉しそうにそんな話をしてくるテシに「それは多分バーテンダーじゃなくてお前に興味があるんだよ」と言ってやりたい気持ちを抑えつつ相槌を打った。
最近の志村くんのテシに対する態度は慕ってるを通り越して恋してるようにしか見えない。志村くんのコンディションはテシの言動に左右されると断言してもいいだろう。
何を約束したかは知らないけど、テシと指切りをしてた日なんて見るからに上機嫌だったし、今日はテシが女性客に絡まれてるのを見て険しい顔をしてた。
正直テシのどこがいいのか俺には全くわからない。ただ、身内に同性愛者はいるからそういうことに対する理解は多少あるつもりだ。
志村くんの恋を応援したい気持ちはあるけど、上手くいかなかった時に辞められたりしたら嫌だから、このまま何も起きないでほしいという気持ちもなくはない。
「今度レッスンすることになったから押し付け過ぎないように気を付けようと思ってます」
「テシでも遠慮することあんだな」
「嫌われたくないじゃないですか」
いつも図々しいテシにそんな感覚があることに驚いたと同時に一つ疑問が浮かんだ。
「俺には全然遠慮してくれないけど、嫌われてもいいと思ってるってこと?」
「夏彦さんは優しいから許してくれると思ってます」
確認してみるとテシはにっこり笑ってそう答えた。しつこいから面倒くさくなって譲歩してるだけなのに、テシはそれを優しさだと思ってるらしい。
「正直かなりうんざりしてんだけど」
「またまたぁ」
「お前ホント俺の話聞く気ねぇよな」
「耳をダンボにして聞いてますよ」
テシの受け答えがウザい上につまらなかったから一発ビンタを入れておしぼりで手を拭く。それでもなぜか笑顔なままのテシを見て、志村くんはなんでこんな奴のことが好きなんだろうと改めて思った。
「話変わるけどさ、テシってもし男から好きって言われたらどうする?」
仮に志村くんが何かしら行動を起こした場合どうなるのか気になって探りを入れてみる。
「もしかして告白しようとしてます?」
「バカじゃねぇの」
にこにこしながら首を傾げられて、反射的にそんな言葉が口をついて出た。
「どんだけ自意識過剰なんだよ」
「期待しちゃいましたよ」
「前に親戚のゲイの子に聞かれたことあるからテシはどうなのかなって思っただけ」
「なるへそ」
聞いてみようと思ったきっかけは違うけど、そんな質問をされたことがあるという点に関しては嘘じゃない。テシは少し考えてからこう答えた。
「悪い人じゃなかったらお付き合いしてみるかもしれないですね」
「悪い人って?」
「なんとなく嫌な雰囲気の人っているじゃないですか」
「まあわかるけど」
嫌な雰囲気じゃなければ付き合えるなんて審査基準がゆる過ぎじゃないかと思う。この分なら志村くんがフラれる心配はなさそうだ。
「夏彦さんはどうですか」
「男と付き合うのは想像つかねぇな」
「そうですか」
俺は今のところ男に対して惹かれたことはないどころか、女ですら本気で好きになったことがないかもしれない。
それなりに信頼できそうな相手から好意を向けられたら付き合ってみることにしてるけど、最終的には「私のことそんなに好きじゃないよね」みたいなことを言われて別れることがほとんどだ。
四、五ヶ月前に別れた彼女には「男友達と遊んできていい?」と聞かれて了承したら「普通やきもち焼かない?」と理不尽にキレられて、さすがにムカついたから「自分が思う普通が誰にとっても普通だと思うなよ」と窘めてから別れを告げた。
初めてテシとファミレスに来たのはそんなクソみたいな日で、あの時はまさかこんな定期的に連れてこられることになるとは思ってなかった。
テシはしばらく黙々とパフェを口に運んでたけど、不意にこっちをじっと見てきた。また何かバカみたいなことを言われそうな予感がする。
「もし、俺が好きって言ったらどうします?」
さっきと同じ質問を主語を変えてしてくるなんて予想外だった。
「告白しようとしてる?」
「はい」
とりあえずかぶせてみたらきっぱりとそう言われた。こういう冗談を言う時のテシは大体笑顔なのに今日は珍しく真顔だ。
なんとなくバッサリ切り捨てるのは気が引けて、一応なるべくリアルに想像してみる。
「断って辞められたら困るから保留で」
「ズルいですねぇ」
俺の答えを聞いてテシは笑い出したから、やっぱり冗談だったみたいだ。ないとは思いながらも万が一の可能性を考えてしまった辺り、俺も大概自意識過剰かもしれない。
「テシってたまにそういうネタ放り込んでくるけどさ、ホントにゲイの人が聞いたらいい気しないだろうからやめた方がいいと思うよ」
前々から若干気になってたことではあるから注意したらテシは表情を曇らせた。
「ネタじゃないのにネタ扱いされるのも悲しいですよ」
「そりゃ悪かったな」
テシの真意はわからないものの、確かにそれも一理あると思って謝った。
「告白のお返事待ってますね」
「まあ、考えとくよ」
念を押してくるテシに曖昧な返事をした後でふと、この会話を志村くんが聞いたらどんな顔するだろうと考えてしまった。
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