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第4章 仮初の舞踏会 / Masquerade
第35話 こんにちは、バズ
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朝の電車は、いつもと同じ満員だった。
けれど今日は、吊り広告よりも速く、別の情報が空気を埋めていた。
ユウのスマホは開かなくても震えている。
SNSのタイムラインを覗けば、画面の半分以上が同じワードで埋まっていた。
──《ユウ》
《クラヴァルが生配信で“ユウ”を連呼!》
《トレンド1位爆速w》
《誰だよ一般人の名前w》
切り抜き動画が次々に回されている。クラヴァルの熱のこもった叫びと、リゼの冷たい「……誰?」が交互に流れる。
握りしめた手のひらに、汗がじわりと広がった。
通学電車の騒音よりも、その声が耳にこびりついて離れない。
学校に着いた瞬間、ざわめきはもう廊下に広がっていた。
「なあ、“ユウ”って……お前?」
「いやいや、偶然だろ。どんだけ同姓同名いると思ってんだよ」
「でも声のトーン、リアルだったよな?」
ユウは机に鞄を置き、視線を逸らす。
その背中に、春川が半笑いで肩を叩いた。
「おい、トレンド1位。やべぇぞ……笑えって」
笑えなかった。喉が詰まり、口の中が乾く。
目の前の教科書の文字が、全部別の意味を持つものに見えてしまう。春川は気づいたように目を細めた。
「……お前、顔真っ青だぞ」
♢
昼休み。
机に突っ伏したまま、スマホは止まらず震え続けていた。
通知。通知。通知。
《ユウ=クラヴァルのペット説w》
《犬か猫か論争開始》
《ユウ=古代語で“勇者”の意味!伏線か!?》
《NPCに中の人いたw》
《宣伝アカでしょ。運営の茶番乙》
《リゼの裏アカ男説爆笑》
《ユウ=開発者の隠し子》
《いや実在しない。全部AI》
タイムラインは、真実から遠ければ遠いほど勢いを増していた。誰も知らないからこそ、外野は自由に描き換える。笑い半分、考察半分。
その全てが「ユウ」という名前を勝手に肥大させていく。
──名前ひとつで、物語を捏造されていく。
指先が震え、スマホを伏せても振動は止まらない。耳の奥で、まだクラヴァルの「ユウ!」という声が響いていた。
教室の隅。数人がスマホを囲んで笑っていた。
「ほら見ろ!“ユウ”って叫んでる!やべぇ修羅場w」
「次は《リゼ派 vs クラヴァル派》の殴り合いだな」
「実況スレの勢いやべぇ。越えちゃいけないレベル超えてんぞ」
ネタ扱い、実況扱い。
まるで祭りの屋台のように、勝手に盛り上がっていく。笑い声は耳をすり抜け、心臓を圧迫する。
当人だけが、そこに混ざれなかった。
春川がもう一度肩を叩いた。
「いいから、飯行こうぜ。……お前、ほんと限界きてる」
ユウは無言で頷いた。足元がぐらつくのを、誰にも悟られないように。
♢
放課後。
ロッカーを開けた瞬間、紙切れが落ちた。
《ユウ=接続者?》
震える手で握りつぶす。けれどスマホはまだ震え続けている。通知が途切れない。
《ユウ=勇者の再来w》
《ユウ=裏アカで愚痴ってるやつ》
《ユウ=公式の仕込み》
どれも的外れ。
なのに、否定する言葉を発した瞬間、その物語に取り込まれてしまう。ユウは背を壁に預け、目を閉じた。胸の奥に残るのは、ただひとつの事実。
──名前を呼ばれた。
それだけで、現実と画面の境界が揺らぎ始めている。
けれど今日は、吊り広告よりも速く、別の情報が空気を埋めていた。
ユウのスマホは開かなくても震えている。
SNSのタイムラインを覗けば、画面の半分以上が同じワードで埋まっていた。
──《ユウ》
《クラヴァルが生配信で“ユウ”を連呼!》
《トレンド1位爆速w》
《誰だよ一般人の名前w》
切り抜き動画が次々に回されている。クラヴァルの熱のこもった叫びと、リゼの冷たい「……誰?」が交互に流れる。
握りしめた手のひらに、汗がじわりと広がった。
通学電車の騒音よりも、その声が耳にこびりついて離れない。
学校に着いた瞬間、ざわめきはもう廊下に広がっていた。
「なあ、“ユウ”って……お前?」
「いやいや、偶然だろ。どんだけ同姓同名いると思ってんだよ」
「でも声のトーン、リアルだったよな?」
ユウは机に鞄を置き、視線を逸らす。
その背中に、春川が半笑いで肩を叩いた。
「おい、トレンド1位。やべぇぞ……笑えって」
笑えなかった。喉が詰まり、口の中が乾く。
目の前の教科書の文字が、全部別の意味を持つものに見えてしまう。春川は気づいたように目を細めた。
「……お前、顔真っ青だぞ」
♢
昼休み。
机に突っ伏したまま、スマホは止まらず震え続けていた。
通知。通知。通知。
《ユウ=クラヴァルのペット説w》
《犬か猫か論争開始》
《ユウ=古代語で“勇者”の意味!伏線か!?》
《NPCに中の人いたw》
《宣伝アカでしょ。運営の茶番乙》
《リゼの裏アカ男説爆笑》
《ユウ=開発者の隠し子》
《いや実在しない。全部AI》
タイムラインは、真実から遠ければ遠いほど勢いを増していた。誰も知らないからこそ、外野は自由に描き換える。笑い半分、考察半分。
その全てが「ユウ」という名前を勝手に肥大させていく。
──名前ひとつで、物語を捏造されていく。
指先が震え、スマホを伏せても振動は止まらない。耳の奥で、まだクラヴァルの「ユウ!」という声が響いていた。
教室の隅。数人がスマホを囲んで笑っていた。
「ほら見ろ!“ユウ”って叫んでる!やべぇ修羅場w」
「次は《リゼ派 vs クラヴァル派》の殴り合いだな」
「実況スレの勢いやべぇ。越えちゃいけないレベル超えてんぞ」
ネタ扱い、実況扱い。
まるで祭りの屋台のように、勝手に盛り上がっていく。笑い声は耳をすり抜け、心臓を圧迫する。
当人だけが、そこに混ざれなかった。
春川がもう一度肩を叩いた。
「いいから、飯行こうぜ。……お前、ほんと限界きてる」
ユウは無言で頷いた。足元がぐらつくのを、誰にも悟られないように。
♢
放課後。
ロッカーを開けた瞬間、紙切れが落ちた。
《ユウ=接続者?》
震える手で握りつぶす。けれどスマホはまだ震え続けている。通知が途切れない。
《ユウ=勇者の再来w》
《ユウ=裏アカで愚痴ってるやつ》
《ユウ=公式の仕込み》
どれも的外れ。
なのに、否定する言葉を発した瞬間、その物語に取り込まれてしまう。ユウは背を壁に預け、目を閉じた。胸の奥に残るのは、ただひとつの事実。
──名前を呼ばれた。
それだけで、現実と画面の境界が揺らぎ始めている。
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