異世界配信サービス

vincent_madder

文字の大きさ
58 / 101
第6章 越境者 / The Crossing

第58話 デザートアドベンチャー

しおりを挟む
眩い光が弾け、全身を呑み込んだ感覚が収まったとき――リゼは荒い息を吐きながら膝をついていた。

耳の奥で自分の心臓の音がやけに大きく響いている。鼓膜の裏側まで脈打つようで、しばらくは何が起きたのか理解できなかった。

目を開けると、そこはもう遺跡ではなかった。崩れかけた石壁も、仲間の声も、闇の匂いも消え失せている。

見渡すかぎりの砂。

地平線の先まで広がる金色の大地が、陽炎を揺らめかせていた。

空は抜けるように青いのに、そこから降り注ぐ太陽は容赦なく肌を灼き、息を吸うたびに肺まで熱が満ちていく。

リゼは立ち上がろうと足を踏み出した。だが、靴ごと砂に沈んだ。さらさらと崩れる感触が踝を呑み込み、動くだけで体力が削られる。

「ッ…ここは…?」

足を引き抜くと、乾いた砂がざらざらと音を立てて崩れ落ちる。その音は静寂の中でやけに大きく響いた。

風が吹いた。熱を帯びた空気が頬を叩き、唇を乾かす。髪が乱れ、砂粒が目の端に入り込み、視界を曇らせる。

遠くでは砂嵐が立ち上がり、渦を巻いて空へ伸びていた。まるで黒い塔のように、ゆっくりと空を侵食していく。

「……ひとり、なの……?」

声は乾いた空気に溶け、すぐに消えた。
仲間の姿はどこにも見えない。あの即席パーティーも、頼れる誰かもいない。残されたのはリゼひとり。

胸の奥を冷たいものが這い上がる。

さっきまでの戦闘の余韻も、剣を振るった感覚も、全部が遠い幻のように思えた。ここにあるのは砂と熱、そして孤独。

リゼは剣の柄を握り直し、無意識に背筋を正した。けれどその手に伝わる感触さえ、どこか頼りなく思える。

「どうして……」

誰に問いかけるでもなく、呟きが漏れる。
返事はない。ただ太陽だけが、無慈悲に燃え盛っていた。



「……いったい、どうしたら」

砂の上に膝をついた瞬間、体の重さが一気にのしかかった。汗が首筋を伝い、服の内側に張り付く。喉は焼けるように渇き、吸い込む息さえ熱に満ちている。

遺跡にいたはずが、なぜ砂漠なのか。どうして一人きりなのか。考えようとしても、頭の中はぐちゃぐちゃに絡まり、答えを出す前に心が折れそうになる。

(このままじゃ……死ぬ)

喉の奥がひゅっと狭まり、砂に崩れ落ちそうになった。その瞬間、ふいに脳裏をかすめたのは、ユウの声だった。

――待ってて。必ず、戻る。

耳の奥に残っている、あの時の響き。
ただの幻聴だとわかっていても、胸の奥に杭のように打ち込まれる。

リゼは息を呑み、拳をぎゅっと握りしめた。

「……ユウ」

名を呼んだだけで、潤んでいた視界に小さな光が差し込んだように感じた。

(待つだけじゃ駄目。あの人は必ず戻るって言った。なら、私も……生きて待つ。何度でも、立って待つ)

膝に力を込めて立ち上がる。
体は重く、太陽は容赦なく体力を奪う。

けれど一歩踏み出した時、砂を踏みしめる感覚は確かにあった。

「生きて戻る……それが、強くなるってこと……!」

声に出すと、砂漠の静寂に小さく反響した。
決意の言葉は誰にも届かない。
だが、リゼの胸には確かに届いていた。

胸の奥で蘇るのは、あの自問自答で掴んだ答え――「ユウの帰る道を守りたい」という願い。

それを思い出した瞬間、砂に沈みかけていた心に一本の柱が立つ。熱気は消えない。それでも、歩き続ける理由が確かに芽生えていた。



一歩、二歩と進むたびに、砂が靴の中へ流れ込み、重さとなって足を絡め取る。汗は止まらず、吐く息は荒くなる一方だった。

歩いても歩いても、景色は変わらない。地平線は遠ざかるばかりで、方向感覚すら失われていく。

その時だった。

――ザザッ……。

足元で砂が微かに揺れた。

風のせいかと思ったが、揺れは止まらず、むしろ広がっていく。足裏から伝わる震動に、リゼは思わず剣の柄を握り直した。

「……まさか」

次の瞬間、砂面が盛り上がり、爆ぜるように割れた。砂塵の中から飛び出したのは、鋭い顎を持つ巨大な影。

甲殻に覆われた虫のような体躯、赤黒く濡れた複眼がぎらつき、リゼを正面から捕らえる。

「ッ…!」

反射的に横へ飛ぶ。直後、顎が突き刺さった砂地が抉れ、大きな穴を残した。砂が崩れ落ち、ざらざらと音を立てながら広がっていく。

リゼは剣を構え直し、呼吸を荒げながら睨んだ。
しかし砂地は石畳とは違う。踏み込めば沈み、力を込めても足場が安定しない。

(こんな場所で……戦えるの……!?)

脅威の影はうねりながらリゼへ迫る。砂を蹴るたびに波紋のような揺れが走り、全身を不安定にする。

斬りかかった剣は外殻に弾かれ、甲高い音が耳をつんざいた。衝撃が腕に響き、手が痺れる。

「くっ……硬い……!」

返す刃を振り抜こうとしたが、砂に足を取られた。身体が傾き、砂を掻くだけで精一杯になる。
振り下ろされる影。迫る顎。

「ユウ……!」

叫んだ声は、砂漠の熱風にかき消された。

それでも、剣を握る手は離さなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

転生?したら男女逆転世界

美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。 ※カクヨム様にも掲載しております

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...