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第8章 それは配信を超えた物語 / the beginning
第77話 Black Hole and Revelations
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アヴラスの領主館。
その広間は余計な装飾のない石造りで、天井の梁にまで木目が残る質実剛健な造りだった。
その正面に置かれた大椅子に、王都からやって来た国王が腰掛けている。
いつも王城にいる時よりも肩の力が抜け、視線は正面に跪く領主に向けられていた。
「国王自ら査察とは。相変わらずよく働きますな」
領主の声は固い。
しかし国王は肩を軽くすくめて笑った。
「たまには息抜きも兼ねてだよ。旧友の顔も見たくなったしな」
「……まだ公式の謁見中です。肩の力は入れていて下さい」
「もういいではないか」国王は、机上に積まれた帳簿に目を落とすと、ぱらぱらと数頁をめくり、すぐに閉じてしまった。
「帳簿は見させてもらった。問題ない」
領主は小さく咳払いをして、従者に目配せする。
「承知致しました。…人払いを頼む」
広間の扉が重く閉じられると、場の空気が一気に緩んだ。国王は大げさに首を回しながら、椅子の背もたれに身体を預ける。
「あぁー肩凝った。どう?元気してる?」
無邪気な声音に思わず領主は苦笑を浮かべた。
「まぁまぁ元気にやってますよ」
「やっとアヴラスだけでなく近隣の地域まで潤いが回ってくるようになりました」
「王都もボクがいるうちは平気なんじゃないかなー」
「ほんとノーテンキなんだから」
「ボクのまわり、みんな優秀なんだよね」
そう言って国王は、ふと思い出したように声を弾ませた。
「優秀といえば、ボクのクラヴァルちゃんも元気?」
「あんたのじゃねえよ」
領主の眉がぴくりと動く。
「彼女の働きもあって、着実に我が領は拡大しておりますよ」
「ふーん。じゃあさ」
国王は立ち上がり、窓辺に歩み寄る。
「ここからでも見えるあの黒い半球は何?」
領主の表情が険しくなる。
「数日前に突然現れました。現在、冒険者ギルドに調査を依頼しております」
窓の外、郊外の平地に異様な影が広がっていた。
地面から半ば突き出るように、漆黒の半球が夜の闇を切り取ったかのように存在している。
王と領主の会話に、言葉にできない緊張が差し込んだ。
♢
「ジャスクが戻ってきてないだと?もう6日経つぞ」
ギルドマスターの低い声が響いた。
昼下がりの冒険者ギルドは、普段なら依頼書を手にする者や談笑する者で賑わっているはずだった。
だが、この日の空気はどこか張りつめていた。受付の事務員たちは声を潜め、奥の部屋からは重い調子のやり取りが漏れてくる。
対面に座る事務員は額に汗を浮かべ、記録の束を握りしめる。
「以前に問題のあった遺跡の再調査を、指名依頼として任せたのですが……」
ギルマスの眉間に深い皺が刻まれる。
「以前の調査の時のメンバーで動けるヤツは?」
事務員が首を横に振った。
「リゼ以外は別の依頼を受けて街を出ております」
沈黙が落ちる。紙の擦れる音さえ、場に重く響いた。やがてギルマスは机を拳で叩き、決断を下す。
「呼び出せ。…それと、ハイクラスのチームにも招集をかけろ」
短い命令が放たれると、事務員は慌ただしく駆け出していった。ギルマスは椅子に深くもたれかかり、天井を仰ぐ。
(ジャスクほどの連中が…ただの行き違いで済めばいいが)
緊張がギルド全体に伝播し始めていた。冒険者たちも囁き合い、奥の遺跡の噂が再びざわめきを呼ぶ。
ギルマスの目には、街を揺るがす不穏の影が確かに映っていた。
♢
同日夜。
ユウは机に突っ伏したままバインドで魔素を集めていた。
視線は自然とスマホに落ちる。
そのとき、不意に通知音が鳴った。
画面を覗き込んだユウの目が見開かれる。
──[リゼは預かった。1人で来い]
短い文章。その下には、異世界の地図のような画像ファイルが添付されていた。
息が止まる。
「……な、んだよ、これ」
送り主のアドレスは見覚えのない文字列。悪戯とも言い切れない、嫌に重たい響きを持った一文だった。
ユウは何度もメッセージを見返し、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。胸がざわめく。冗談で済ませられない直感が告げている。
(もし、本当だったら……?)
震える指先で、ユウはバインドを発動した。
空間の裂け目が青白く光り、異世界とユウの部屋を繋ぐ。
リゼが暮らす、復興しつつあるあの街。
夜更けの通りはまだ静かで、石畳を踏む靴音だけが響く。
ユウは迷わず、リゼが泊まっている宿を訪ねた。
扉を叩くと、中から現れたのは見慣れた顔─リゼのルームメイトのカヤだった。
「あれ、ユウ?どうしたの、こんな時間に」
息を整えながら、ユウは焦った声を絞り出す。
「リゼは……リゼはここにいる?」
カヤは首を傾げた。
「リゼ?調査依頼で街を出てるけど?」
その言葉に、ユウは思わず足元を見つめた。
(……じゃあ、攫われたわけじゃない? でも、じゃあこのメッセージは……)
頭の中で疑問が渦巻く。だが答えは出ない。
ただ一つ確かなのは、地図が示す場所へ行かねばならないということ。
ユウは深く息を吸い込み、再びバインドを起動した。添付された場所を頼りに、扉が開かれていく。
その向こうに広がるのは、リゼの街から遠く離れた未知の場所──。
♢
眩い光が視界を覆い、次に目を開けた時、ユウは草の匂いを肺に吸い込んでいた。草原の奥に広がる平地に、それはあった。
地面から突き出した漆黒の半球。
陽光を吸い込むような黒は輪郭さえ曖昧で、まるで夜の欠片を無理やり昼に貼りつけたかのようだった。
ユウは思わず息を呑む。
「……これが、地図の場所……」
その時、鋭い声が背後から飛んできた。
「誰!?」
振り返ると、銀の髪を風に揺らす少女が立っていた。
クラヴァルだった。鋭い瞳をこちらに向け、手には抜きかけの剣。
「ユウ?」
驚きと苛立ちが入り混じった声音。
ユウは思わず頷く。
「クラヴァル……お前も、ここに?」
クラヴァルは剣を下ろし、黒い半球をにらむ。
「調査の命を受けて来たのよ。でも、入口が見つからない」
唇を噛み、苛立ちを隠そうともしない。
近づいて覗き込むと、半球の表面は鏡のように滑らかで、触れると冷たい感触が返ってくるだけだった。
確かに、どこにも継ぎ目や入口らしきものはない。
クラヴァルは小さく舌打ちをした。
「領主からも催促されてるのに」
「こんなもの、どうしろっていうのよ」
ユウは胸の奥で不意に熱を感じた。
(バインドなら、開けるかもしれない)
スマホを握り直し、心を集中させる。
すると半球の表面に、淡い光の線が浮かび上がった。まるで見えない扉が形を成すように。
「なっ……!」
クラヴァルの目が見開かれる。
ユウは静かに呟いた。
「……開け」
光が一気に走り、半球の一部が扉のように割れた。冷気と共に暗い空洞が口を開く。
「やっぱり、あなたじゃないと」
クラヴァルは息を呑みながら、低く呟いた。
ユウは歩みを進める。
「行こう。この先にリゼがいるかも知れない」
「リゼが?どういうこと!?」
「ちょっと!ユウ待ってよ!」
ユウを追いかけるようにクラヴァルも半球の中へ進んで行く。
しばらくして、扉は消え何事もなかったかのように、元の表面に戻った。
その広間は余計な装飾のない石造りで、天井の梁にまで木目が残る質実剛健な造りだった。
その正面に置かれた大椅子に、王都からやって来た国王が腰掛けている。
いつも王城にいる時よりも肩の力が抜け、視線は正面に跪く領主に向けられていた。
「国王自ら査察とは。相変わらずよく働きますな」
領主の声は固い。
しかし国王は肩を軽くすくめて笑った。
「たまには息抜きも兼ねてだよ。旧友の顔も見たくなったしな」
「……まだ公式の謁見中です。肩の力は入れていて下さい」
「もういいではないか」国王は、机上に積まれた帳簿に目を落とすと、ぱらぱらと数頁をめくり、すぐに閉じてしまった。
「帳簿は見させてもらった。問題ない」
領主は小さく咳払いをして、従者に目配せする。
「承知致しました。…人払いを頼む」
広間の扉が重く閉じられると、場の空気が一気に緩んだ。国王は大げさに首を回しながら、椅子の背もたれに身体を預ける。
「あぁー肩凝った。どう?元気してる?」
無邪気な声音に思わず領主は苦笑を浮かべた。
「まぁまぁ元気にやってますよ」
「やっとアヴラスだけでなく近隣の地域まで潤いが回ってくるようになりました」
「王都もボクがいるうちは平気なんじゃないかなー」
「ほんとノーテンキなんだから」
「ボクのまわり、みんな優秀なんだよね」
そう言って国王は、ふと思い出したように声を弾ませた。
「優秀といえば、ボクのクラヴァルちゃんも元気?」
「あんたのじゃねえよ」
領主の眉がぴくりと動く。
「彼女の働きもあって、着実に我が領は拡大しておりますよ」
「ふーん。じゃあさ」
国王は立ち上がり、窓辺に歩み寄る。
「ここからでも見えるあの黒い半球は何?」
領主の表情が険しくなる。
「数日前に突然現れました。現在、冒険者ギルドに調査を依頼しております」
窓の外、郊外の平地に異様な影が広がっていた。
地面から半ば突き出るように、漆黒の半球が夜の闇を切り取ったかのように存在している。
王と領主の会話に、言葉にできない緊張が差し込んだ。
♢
「ジャスクが戻ってきてないだと?もう6日経つぞ」
ギルドマスターの低い声が響いた。
昼下がりの冒険者ギルドは、普段なら依頼書を手にする者や談笑する者で賑わっているはずだった。
だが、この日の空気はどこか張りつめていた。受付の事務員たちは声を潜め、奥の部屋からは重い調子のやり取りが漏れてくる。
対面に座る事務員は額に汗を浮かべ、記録の束を握りしめる。
「以前に問題のあった遺跡の再調査を、指名依頼として任せたのですが……」
ギルマスの眉間に深い皺が刻まれる。
「以前の調査の時のメンバーで動けるヤツは?」
事務員が首を横に振った。
「リゼ以外は別の依頼を受けて街を出ております」
沈黙が落ちる。紙の擦れる音さえ、場に重く響いた。やがてギルマスは机を拳で叩き、決断を下す。
「呼び出せ。…それと、ハイクラスのチームにも招集をかけろ」
短い命令が放たれると、事務員は慌ただしく駆け出していった。ギルマスは椅子に深くもたれかかり、天井を仰ぐ。
(ジャスクほどの連中が…ただの行き違いで済めばいいが)
緊張がギルド全体に伝播し始めていた。冒険者たちも囁き合い、奥の遺跡の噂が再びざわめきを呼ぶ。
ギルマスの目には、街を揺るがす不穏の影が確かに映っていた。
♢
同日夜。
ユウは机に突っ伏したままバインドで魔素を集めていた。
視線は自然とスマホに落ちる。
そのとき、不意に通知音が鳴った。
画面を覗き込んだユウの目が見開かれる。
──[リゼは預かった。1人で来い]
短い文章。その下には、異世界の地図のような画像ファイルが添付されていた。
息が止まる。
「……な、んだよ、これ」
送り主のアドレスは見覚えのない文字列。悪戯とも言い切れない、嫌に重たい響きを持った一文だった。
ユウは何度もメッセージを見返し、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。胸がざわめく。冗談で済ませられない直感が告げている。
(もし、本当だったら……?)
震える指先で、ユウはバインドを発動した。
空間の裂け目が青白く光り、異世界とユウの部屋を繋ぐ。
リゼが暮らす、復興しつつあるあの街。
夜更けの通りはまだ静かで、石畳を踏む靴音だけが響く。
ユウは迷わず、リゼが泊まっている宿を訪ねた。
扉を叩くと、中から現れたのは見慣れた顔─リゼのルームメイトのカヤだった。
「あれ、ユウ?どうしたの、こんな時間に」
息を整えながら、ユウは焦った声を絞り出す。
「リゼは……リゼはここにいる?」
カヤは首を傾げた。
「リゼ?調査依頼で街を出てるけど?」
その言葉に、ユウは思わず足元を見つめた。
(……じゃあ、攫われたわけじゃない? でも、じゃあこのメッセージは……)
頭の中で疑問が渦巻く。だが答えは出ない。
ただ一つ確かなのは、地図が示す場所へ行かねばならないということ。
ユウは深く息を吸い込み、再びバインドを起動した。添付された場所を頼りに、扉が開かれていく。
その向こうに広がるのは、リゼの街から遠く離れた未知の場所──。
♢
眩い光が視界を覆い、次に目を開けた時、ユウは草の匂いを肺に吸い込んでいた。草原の奥に広がる平地に、それはあった。
地面から突き出した漆黒の半球。
陽光を吸い込むような黒は輪郭さえ曖昧で、まるで夜の欠片を無理やり昼に貼りつけたかのようだった。
ユウは思わず息を呑む。
「……これが、地図の場所……」
その時、鋭い声が背後から飛んできた。
「誰!?」
振り返ると、銀の髪を風に揺らす少女が立っていた。
クラヴァルだった。鋭い瞳をこちらに向け、手には抜きかけの剣。
「ユウ?」
驚きと苛立ちが入り混じった声音。
ユウは思わず頷く。
「クラヴァル……お前も、ここに?」
クラヴァルは剣を下ろし、黒い半球をにらむ。
「調査の命を受けて来たのよ。でも、入口が見つからない」
唇を噛み、苛立ちを隠そうともしない。
近づいて覗き込むと、半球の表面は鏡のように滑らかで、触れると冷たい感触が返ってくるだけだった。
確かに、どこにも継ぎ目や入口らしきものはない。
クラヴァルは小さく舌打ちをした。
「領主からも催促されてるのに」
「こんなもの、どうしろっていうのよ」
ユウは胸の奥で不意に熱を感じた。
(バインドなら、開けるかもしれない)
スマホを握り直し、心を集中させる。
すると半球の表面に、淡い光の線が浮かび上がった。まるで見えない扉が形を成すように。
「なっ……!」
クラヴァルの目が見開かれる。
ユウは静かに呟いた。
「……開け」
光が一気に走り、半球の一部が扉のように割れた。冷気と共に暗い空洞が口を開く。
「やっぱり、あなたじゃないと」
クラヴァルは息を呑みながら、低く呟いた。
ユウは歩みを進める。
「行こう。この先にリゼがいるかも知れない」
「リゼが?どういうこと!?」
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ユウを追いかけるようにクラヴァルも半球の中へ進んで行く。
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