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旅の始まり
忍び寄る影
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「そいつを、知ってるのか?」
『知っておるな……あやつは青龍族のお尋ね者よ』
黒龍の話によると、そいつの名前は『ガク』というらしい。
好戦的な青龍の中でも群を抜いて凶暴で、同族殺しをしたことでお尋ね者になったそうだ。
国境を襲ったのもやはりそいつで、その当時はまだお尋ね者になる前だったようだが、国境を襲ったことを自慢気に風潮して回っていたのだとか。
この世界には飛龍と人間が一括りにして呼んでいる龍族という種族がいて、龍族は四つに分かれているらしい。
今、俺の目の前にいる黒い鱗の飛龍は黒龍族、親父を殺した青い鱗の飛龍が青龍族、青龍と同じように好戦的で青龍よりも知能が劣るのが赤い鱗の赤龍族、白い鱗を持ち聖魔法を操れるのが白龍族。
元は龍族として、人間に干渉することなく暮らしていたそうだが、そんなことは遠い昔の話で、今では魔物の頂点のような位置付けになっていることを黒龍は怒っていた。
『叡智の黒龍、癒しの白龍、覇気の赤龍、闘志の青龍などと呼ばれ、崇められておった時代もあったがのぉ』
「飛龍は魔物じゃないのか?」
『あんなものと一緒にするでない! 大まかな感情はあれど、知能の程度が知れているあんなもの達と一緒にされるなど、屈辱以外の何ものでもないわ!』
「いや、すまん……」
話している限り、こいつにはしっかりした知能があるし、きっと俺より博識なのだろうと思う。
何より、頭に直接話し掛けるなんて高等技術は使えるし、よく分からないが俺の体に何かをして記憶を蘇らせてくれたのだ、凄いやつなことには違いない。
見た目は完全に魔物だが……。
『……まずいな……気付かれたか』
一瞬、空気が張り詰めた気がした。
『そなたに頼みがある』
「何だよ?」
『我はこれより、我が身を生まれ変える』
「は? 何だそれ?」
『良いから黙って聞け! 我はこれより卵となり、新たな黒龍として生まれ変わる。そなたには、我が生まれ変わり、卵より孵るその時まで、我を保護してもらいたい』
「保護?」
『簡単なことよ。我を誰にも奪わせなければ良いだけのこと。例えば……ガクに』
「ガクって、あの青い飛龍だろ? あんなが奪いに来たら、俺、即殺されるって! 無理だろ!」
『そなたにはスキルがあるだろう? それを使って我を守れ』
「使い方も知らねぇのに、どうやって」
『発動させる言葉を唱えればいいのよ』
「そんな言葉、知らねぇよ」
『何でも良いのだ、きっかけになれば』
憧れの長ったらしい詠唱を唱えてみたかったが、咄嗟にだと何も浮かばない。
『時間がない。我は卵になるゆえ、そなたはその間にスキルを発動させよ!』
黒龍の体が歪みながら縮んでいく。見る間にグングン縮んでいき、最終的に濃い灰色の卵になった。
「え? これを俺が守るのか?」
卵の大きさは俺の身長(百七十八センチ)と同じくらいはある。
とてもじゃないが腕すら回らない位デカい。
ちょっと持ち上げてみようと思ったが、俺の力ではピクリとも動かせなかった。
「こんなのどうしろって言うんだよ……」
『人間とは本当に非力なのだな。こんな卵一つ動かせないとは……』
卵になっても脳内に語りかけることは出来るようで、頭に声が響いた。
『少し待っておれ』
そう言うと、卵がカタカタと揺れ、その後面白いほど縮んでいった。
『いかに非力とはいえ、この大きさならば他愛もないだろ?』
足元にコロンと転がってきたのは、前世で見たうずらの卵ほどのサイズまで縮んだ卵。
流石の俺でもこれなら造作もなく持ち運べるが、最初からこのサイズになれるならそうして欲しかった。
「潰しちまいそうだな……」
『人間などに我が潰せるわけがなかろう?』
試しに握ってみたが、石のように固かった。
『なぜそなたはスキルを発動させんのだ? 早うせんか! あやつが来る!』
「何焦ってんだよ! まぁ、いいや……んーと……『スキル発動!』」
我ながら情けないほどそのまんまである。
言葉を発した途端に俺の体から淡い光が出て、視界がグングン下がっていった。
「体が……縮んでる?」
光が収まると、地面はすぐ近くで、何より視界にフサフサとした毛の生えた小さな足が見え、驚きのあまり思わず叫んだ。
「ニャァァア!」
『何とも面妖なものへと変化したもんだな。長年生きておるが、そのような姿のものは見たことがない』
「ニャーニャー!」
話そうとしても「ニャー」しか出てこない。
この鳴き声はどう考えても前世で見た猫! え? 俺、猫になったの?
『落ち着け! 頭の中で我に語りかけてみよ』
『ど、ど、どうなってんだよ! 何が起きたんだ!』
『スキルが発動して、変化したのよ』
『い、今、俺、どんな姿になってるんだ!?』
『ほれ、こんな感じだな』
目の前に鏡のようなものが現れた。
そこに写し出されていたのは、前世で俺が見ていたあの猫そっくりな姿だった。
メインクーンを思わせる長毛の猫で、胸元にフサフサしたタテガミのような毛を生やし、長い尻尾のあの猫。
濃いグレーのハチワレで、手足と腹は白く、背は濃いグレー。
目の色だけがあの猫とは違う深い青。
あの猫は黄色っぽい目をしていた。
ラグドールなのかと思ったが、親にワガママを言って買ってもらった猫図鑑を見て、違うと思った。
メインクーンのような大きさではなかったが、その血が入っていたのか、姿形はどう見てもメインクーンだったあの猫。
確かに俺は、前世で死ぬ前に「猫になりたい」と言った。
でもそれは、あの世界での話であり、このファンタジーな世界での話ではない!
『こんな姿でどうしろって言うんだよぉぉお!
』
『その者に不利になるスキルなど発動せん。その姿がそなたにとって必要なものだったのだろうて』
『いやいや、猫だぞ!? 猫に何が出来るって言うんだよ!』
『ほぉ、それは『ネコ』と言うのか。我にもまだまだ知らぬことがあったのだな』
黒龍が妙にしみじみとそんなことを言ったが、俺はそれどころではなかった。
『知っておるな……あやつは青龍族のお尋ね者よ』
黒龍の話によると、そいつの名前は『ガク』というらしい。
好戦的な青龍の中でも群を抜いて凶暴で、同族殺しをしたことでお尋ね者になったそうだ。
国境を襲ったのもやはりそいつで、その当時はまだお尋ね者になる前だったようだが、国境を襲ったことを自慢気に風潮して回っていたのだとか。
この世界には飛龍と人間が一括りにして呼んでいる龍族という種族がいて、龍族は四つに分かれているらしい。
今、俺の目の前にいる黒い鱗の飛龍は黒龍族、親父を殺した青い鱗の飛龍が青龍族、青龍と同じように好戦的で青龍よりも知能が劣るのが赤い鱗の赤龍族、白い鱗を持ち聖魔法を操れるのが白龍族。
元は龍族として、人間に干渉することなく暮らしていたそうだが、そんなことは遠い昔の話で、今では魔物の頂点のような位置付けになっていることを黒龍は怒っていた。
『叡智の黒龍、癒しの白龍、覇気の赤龍、闘志の青龍などと呼ばれ、崇められておった時代もあったがのぉ』
「飛龍は魔物じゃないのか?」
『あんなものと一緒にするでない! 大まかな感情はあれど、知能の程度が知れているあんなもの達と一緒にされるなど、屈辱以外の何ものでもないわ!』
「いや、すまん……」
話している限り、こいつにはしっかりした知能があるし、きっと俺より博識なのだろうと思う。
何より、頭に直接話し掛けるなんて高等技術は使えるし、よく分からないが俺の体に何かをして記憶を蘇らせてくれたのだ、凄いやつなことには違いない。
見た目は完全に魔物だが……。
『……まずいな……気付かれたか』
一瞬、空気が張り詰めた気がした。
『そなたに頼みがある』
「何だよ?」
『我はこれより、我が身を生まれ変える』
「は? 何だそれ?」
『良いから黙って聞け! 我はこれより卵となり、新たな黒龍として生まれ変わる。そなたには、我が生まれ変わり、卵より孵るその時まで、我を保護してもらいたい』
「保護?」
『簡単なことよ。我を誰にも奪わせなければ良いだけのこと。例えば……ガクに』
「ガクって、あの青い飛龍だろ? あんなが奪いに来たら、俺、即殺されるって! 無理だろ!」
『そなたにはスキルがあるだろう? それを使って我を守れ』
「使い方も知らねぇのに、どうやって」
『発動させる言葉を唱えればいいのよ』
「そんな言葉、知らねぇよ」
『何でも良いのだ、きっかけになれば』
憧れの長ったらしい詠唱を唱えてみたかったが、咄嗟にだと何も浮かばない。
『時間がない。我は卵になるゆえ、そなたはその間にスキルを発動させよ!』
黒龍の体が歪みながら縮んでいく。見る間にグングン縮んでいき、最終的に濃い灰色の卵になった。
「え? これを俺が守るのか?」
卵の大きさは俺の身長(百七十八センチ)と同じくらいはある。
とてもじゃないが腕すら回らない位デカい。
ちょっと持ち上げてみようと思ったが、俺の力ではピクリとも動かせなかった。
「こんなのどうしろって言うんだよ……」
『人間とは本当に非力なのだな。こんな卵一つ動かせないとは……』
卵になっても脳内に語りかけることは出来るようで、頭に声が響いた。
『少し待っておれ』
そう言うと、卵がカタカタと揺れ、その後面白いほど縮んでいった。
『いかに非力とはいえ、この大きさならば他愛もないだろ?』
足元にコロンと転がってきたのは、前世で見たうずらの卵ほどのサイズまで縮んだ卵。
流石の俺でもこれなら造作もなく持ち運べるが、最初からこのサイズになれるならそうして欲しかった。
「潰しちまいそうだな……」
『人間などに我が潰せるわけがなかろう?』
試しに握ってみたが、石のように固かった。
『なぜそなたはスキルを発動させんのだ? 早うせんか! あやつが来る!』
「何焦ってんだよ! まぁ、いいや……んーと……『スキル発動!』」
我ながら情けないほどそのまんまである。
言葉を発した途端に俺の体から淡い光が出て、視界がグングン下がっていった。
「体が……縮んでる?」
光が収まると、地面はすぐ近くで、何より視界にフサフサとした毛の生えた小さな足が見え、驚きのあまり思わず叫んだ。
「ニャァァア!」
『何とも面妖なものへと変化したもんだな。長年生きておるが、そのような姿のものは見たことがない』
「ニャーニャー!」
話そうとしても「ニャー」しか出てこない。
この鳴き声はどう考えても前世で見た猫! え? 俺、猫になったの?
『落ち着け! 頭の中で我に語りかけてみよ』
『ど、ど、どうなってんだよ! 何が起きたんだ!』
『スキルが発動して、変化したのよ』
『い、今、俺、どんな姿になってるんだ!?』
『ほれ、こんな感じだな』
目の前に鏡のようなものが現れた。
そこに写し出されていたのは、前世で俺が見ていたあの猫そっくりな姿だった。
メインクーンを思わせる長毛の猫で、胸元にフサフサしたタテガミのような毛を生やし、長い尻尾のあの猫。
濃いグレーのハチワレで、手足と腹は白く、背は濃いグレー。
目の色だけがあの猫とは違う深い青。
あの猫は黄色っぽい目をしていた。
ラグドールなのかと思ったが、親にワガママを言って買ってもらった猫図鑑を見て、違うと思った。
メインクーンのような大きさではなかったが、その血が入っていたのか、姿形はどう見てもメインクーンだったあの猫。
確かに俺は、前世で死ぬ前に「猫になりたい」と言った。
でもそれは、あの世界での話であり、このファンタジーな世界での話ではない!
『こんな姿でどうしろって言うんだよぉぉお!
』
『その者に不利になるスキルなど発動せん。その姿がそなたにとって必要なものだったのだろうて』
『いやいや、猫だぞ!? 猫に何が出来るって言うんだよ!』
『ほぉ、それは『ネコ』と言うのか。我にもまだまだ知らぬことがあったのだな』
黒龍が妙にしみじみとそんなことを言ったが、俺はそれどころではなかった。
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