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旅の始まり
夕飯
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アシュリーが去った部屋では、シャンテが不機嫌なオーラを漂わせていた。
卵なのにこれほどのオーラが出せることが凄いとすら思う。
『助けてやらんのか?』
「そんなこと言われたって、俺に何が出来るってんだよ?」
『そのような姑息な真似をする男だ。他でも悪事を働いておるだろう。それを暴いて失脚させてやれば良いではないか』
確かにそうだとは思うが、出来ることと出来ないことが世の中には存在している。
「あのなぁ、簡単に言うけど、そんなことが出来ると思うか? 何の力もないこの俺に!?」
『スキルがあるだろう。ネコになってそやつの近辺を洗い出せば、尻尾くらいは掴めるのではないのか?』
「だったらシャンテ、お前がやればいいだろう」
『卵になっておる我に何が出来る? 少しばかり転がることは出来ても、自力で移動することも叶わんこの身で何をしろと? そもそもアースに頼みに来たのだぞ、あの娘は』
「聖魔法以外の全魔法を網羅したと豪語するシャンテ様が、転がることしか出来ないなんて到底信じられませんねぇ」
『……出来ないことはないが、我が魔法を使い続ければそれだけガクに見付かる危険性が高まるが、それでも良いのか? ただでさえアースと話すために通念の魔法を常時展開しておるのだ。まぁ、毛ほども魔力は使わんが、他の魔法もとなると話は変わってくる。それでも良いのか?』
青龍のガクの名を出してくるとは……。
「ガクを持ち出すなんて卑怯だぞ」
『我は事実しか述べんわ』
「……でもよ、空間魔法と保存魔法、使ったよな?」
『あれは一瞬だけだったろう? 短時間であれば問題ない。しかし、敵情視察に出向くとなれば、身を隠すための隠匿魔法に移動のための飛行魔法、建物の中に入り込むための移動魔法など、多くの魔法を使わねばならん。我の気が漏れ出て、ガクが勘づくやもしれんなぁ』
「……分かったよ! 敵情視察すればいいんだろ? でも、夕飯食ってからじゃなきゃ、俺は行かないからな!」
『ラッシュコーンのシチューは我も興味があるでな。食事の後で良い。夜の闇に紛れた方が目立たんしな』
てなわけで俺は夕飯を食べたら、この宿に嫌がらせをしている男「ドナン・モリス」のことを探りに行くことになってしまった。
『我も連れていけ。我を首にかけたまま変化すれば良いだけだ』
シャンテはやたらと乗り気である。
一階に降りて食堂へ向かうと、ラッシュコーンの甘い香りが漂ってきた。
途端に騒ぎ出す腹の虫。
「ちょうど良かったです。今温めたばかりなので」
アンリさんがキッチンのカウンター越しに声を掛けてきた。
「今お運びしますね」
待つことなく運ばれてきた夕飯は、豪華さはないものの家庭料理の良さが全面に押し出された、見るだけでもホッとするような料理だった。
メインとなるシチューにはたっぷりのラッシュコーンが入っており、星型にカットされたオレンジ色の「ドールキャロット」が浮かんでいる。
ドールキャロットは味としては人参なのだが、皮を剥く前の状態はプラスチックか塩化ビニール製の玩具のような見た目をしている。
葉の生えているヘタを引っ張って抜き取り、そこに指を入れれば、まるでライチのようにペリンと皮が剥けて面白い。
パンはふっくらと膨らんだ黒パン。
黒パンとはカッシュ麦を殻ごと粉にしたもので作ったパンのことで、黒い殻ごと粉にしているためとにかく黒い。
殻を剥かないだけでここまで黒くなるのか!? というほど黒い、墨汁でも混ぜたかのような色をしたパンなのだが、栄養価は高い。
粉がひじょうに安く手に入るため「貧乏パン」と呼ばれたりしている。
見た目の悪さから嫌がられているようだが、白パンよりも風味が増し、少し固いが噛むほどに味がしてなかなか美味い。
白パンより発酵させるのが大変で実は手間のかかるパンでもある。
「黒パンが上手く焼ける女は手放すな」
なんて、どっかの田舎では言われているほどだ。
サラダは瑞々しい「ペリリーフ」の上にカットされた「ポテトマ」が乗っていて、黒パンで作ったクルトンと白濁したドレッシングがかかっている。
ペリリーフとはキャベツとレタスを合わせたような味をした野菜で、円筒形をしており、葉が付箋のようにペリペリと剥せる不思議なやつだ。
どうやったらあんな野菜になったのか実に不思議だ。
ポテトマとはトマトなのだが、形状が実にポテッとしており、大きさは小ぶりのカボチャくらいはあるだろう。
完熟して赤く熟れたものは生食出来るが、そうでないものは青臭いためあまり好まれてはいない。
「いただきます」
「おかわりもありますので、遠慮なく言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
アンリさんに背を向けて座ると、まずは一口シチューを頬張った。
ホワイトクリームのまろやかさと、ラッシュコーンの甘みが絶妙で、後から来る少しピリッとしたスパイスが味を引き締めてくれている。
『我にもよこさんか!』
真っ先に俺が食べてしまったことが不満なのか、シャンテの声色が若干怖い。
そっと卵に出来た口元へスプーンを近付けると、吸い込まれるようにシチューが消えた。
『ほぅ、これはなかなか……カッシュ麦を炒って風味を引き立ててあるのか……ミルクとバター、サンドペッパー、ラルの葉で更なる風味も出しておるのだな……何よりラッシュコーンの甘みが実に好ましい』
どこの料理評論家だろうか?
『ドールキャロットを食べておらんぞ!』
『はいはい』
さすがに独り言を言うわけにもいかないため、脳内で会話をする。
アンリさんに背を向けて座ったのも、シャンテに食べさせている様子を見られないようにするためだ。
その後、黒パンとサラダも食べたシャンテは実に満足そうにしていた。
『今まで気にしておらなんだが、食とは実に良いものだな』
『そうだろ? 美味しいものを楽しく食う! それが一番幸せなことだと思うぞ』
その後俺は二回もラッシュコーンのシチューをおかわりし、黒パンも二個平らげた。
サラダに掛かっていたヨーグルトを思わせるようなドレッシングも気に入り、作り方を教えてもらえるよう頼んでしまった。
卵なのにこれほどのオーラが出せることが凄いとすら思う。
『助けてやらんのか?』
「そんなこと言われたって、俺に何が出来るってんだよ?」
『そのような姑息な真似をする男だ。他でも悪事を働いておるだろう。それを暴いて失脚させてやれば良いではないか』
確かにそうだとは思うが、出来ることと出来ないことが世の中には存在している。
「あのなぁ、簡単に言うけど、そんなことが出来ると思うか? 何の力もないこの俺に!?」
『スキルがあるだろう。ネコになってそやつの近辺を洗い出せば、尻尾くらいは掴めるのではないのか?』
「だったらシャンテ、お前がやればいいだろう」
『卵になっておる我に何が出来る? 少しばかり転がることは出来ても、自力で移動することも叶わんこの身で何をしろと? そもそもアースに頼みに来たのだぞ、あの娘は』
「聖魔法以外の全魔法を網羅したと豪語するシャンテ様が、転がることしか出来ないなんて到底信じられませんねぇ」
『……出来ないことはないが、我が魔法を使い続ければそれだけガクに見付かる危険性が高まるが、それでも良いのか? ただでさえアースと話すために通念の魔法を常時展開しておるのだ。まぁ、毛ほども魔力は使わんが、他の魔法もとなると話は変わってくる。それでも良いのか?』
青龍のガクの名を出してくるとは……。
「ガクを持ち出すなんて卑怯だぞ」
『我は事実しか述べんわ』
「……でもよ、空間魔法と保存魔法、使ったよな?」
『あれは一瞬だけだったろう? 短時間であれば問題ない。しかし、敵情視察に出向くとなれば、身を隠すための隠匿魔法に移動のための飛行魔法、建物の中に入り込むための移動魔法など、多くの魔法を使わねばならん。我の気が漏れ出て、ガクが勘づくやもしれんなぁ』
「……分かったよ! 敵情視察すればいいんだろ? でも、夕飯食ってからじゃなきゃ、俺は行かないからな!」
『ラッシュコーンのシチューは我も興味があるでな。食事の後で良い。夜の闇に紛れた方が目立たんしな』
てなわけで俺は夕飯を食べたら、この宿に嫌がらせをしている男「ドナン・モリス」のことを探りに行くことになってしまった。
『我も連れていけ。我を首にかけたまま変化すれば良いだけだ』
シャンテはやたらと乗り気である。
一階に降りて食堂へ向かうと、ラッシュコーンの甘い香りが漂ってきた。
途端に騒ぎ出す腹の虫。
「ちょうど良かったです。今温めたばかりなので」
アンリさんがキッチンのカウンター越しに声を掛けてきた。
「今お運びしますね」
待つことなく運ばれてきた夕飯は、豪華さはないものの家庭料理の良さが全面に押し出された、見るだけでもホッとするような料理だった。
メインとなるシチューにはたっぷりのラッシュコーンが入っており、星型にカットされたオレンジ色の「ドールキャロット」が浮かんでいる。
ドールキャロットは味としては人参なのだが、皮を剥く前の状態はプラスチックか塩化ビニール製の玩具のような見た目をしている。
葉の生えているヘタを引っ張って抜き取り、そこに指を入れれば、まるでライチのようにペリンと皮が剥けて面白い。
パンはふっくらと膨らんだ黒パン。
黒パンとはカッシュ麦を殻ごと粉にしたもので作ったパンのことで、黒い殻ごと粉にしているためとにかく黒い。
殻を剥かないだけでここまで黒くなるのか!? というほど黒い、墨汁でも混ぜたかのような色をしたパンなのだが、栄養価は高い。
粉がひじょうに安く手に入るため「貧乏パン」と呼ばれたりしている。
見た目の悪さから嫌がられているようだが、白パンよりも風味が増し、少し固いが噛むほどに味がしてなかなか美味い。
白パンより発酵させるのが大変で実は手間のかかるパンでもある。
「黒パンが上手く焼ける女は手放すな」
なんて、どっかの田舎では言われているほどだ。
サラダは瑞々しい「ペリリーフ」の上にカットされた「ポテトマ」が乗っていて、黒パンで作ったクルトンと白濁したドレッシングがかかっている。
ペリリーフとはキャベツとレタスを合わせたような味をした野菜で、円筒形をしており、葉が付箋のようにペリペリと剥せる不思議なやつだ。
どうやったらあんな野菜になったのか実に不思議だ。
ポテトマとはトマトなのだが、形状が実にポテッとしており、大きさは小ぶりのカボチャくらいはあるだろう。
完熟して赤く熟れたものは生食出来るが、そうでないものは青臭いためあまり好まれてはいない。
「いただきます」
「おかわりもありますので、遠慮なく言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
アンリさんに背を向けて座ると、まずは一口シチューを頬張った。
ホワイトクリームのまろやかさと、ラッシュコーンの甘みが絶妙で、後から来る少しピリッとしたスパイスが味を引き締めてくれている。
『我にもよこさんか!』
真っ先に俺が食べてしまったことが不満なのか、シャンテの声色が若干怖い。
そっと卵に出来た口元へスプーンを近付けると、吸い込まれるようにシチューが消えた。
『ほぅ、これはなかなか……カッシュ麦を炒って風味を引き立ててあるのか……ミルクとバター、サンドペッパー、ラルの葉で更なる風味も出しておるのだな……何よりラッシュコーンの甘みが実に好ましい』
どこの料理評論家だろうか?
『ドールキャロットを食べておらんぞ!』
『はいはい』
さすがに独り言を言うわけにもいかないため、脳内で会話をする。
アンリさんに背を向けて座ったのも、シャンテに食べさせている様子を見られないようにするためだ。
その後、黒パンとサラダも食べたシャンテは実に満足そうにしていた。
『今まで気にしておらなんだが、食とは実に良いものだな』
『そうだろ? 美味しいものを楽しく食う! それが一番幸せなことだと思うぞ』
その後俺は二回もラッシュコーンのシチューをおかわりし、黒パンも二個平らげた。
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