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旅の始まり
新しい仲間
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『でもよ、氷の膜なんだろ? 溶けたら終わりなんじゃないのか?』
氷とは氷点下で液体が固まり個体となった状態のことである。
外気温が氷点下を下回っていれば溶けることはないが、それを上回っている場合はもれなく液体へと戻ってしまう。
正直、魔法で出来た氷がどうなのかは知らないが、要は氷なのだ、溶けると考えるのが妥当だと思う。
『こやつの魔力が尽きない限りは大丈夫じゃ。大した魔力消費もないしの』
『そうか……』
でも中身は地龍……暴れたりすることはないのだろうか? 万が一そんなことになったら大惨事にしかならないんだが。
『暴れる心配をしとるのか? 地龍は本来は穏やかな性格だからな、相当なことがない限りは暴れ回ることはない。ましてや、我がそばにおるのじゃ。暴れさせたりなぞせんわ』
思考を読まれていた。
『でも、こいつとの意思の疎通はどうするんだ?』
『人間同様の知能と意思はあるからの、こやつにも。じゃから……』
再び元地龍、現少年の体が光った。
『これなら話せると思うのだか、どうかの?』
光が収まった少年の口元が動いた。
『それ、幻影なんだろ? 今そいつ、口が動いたぞ!』
『そりゃの、そうなるようにしておるからの』
何なんだ、一体。
「……あの……」
少年が声を出した。まだ幼さが残る甲高い声である。
猫の姿では話が出来ないため人の姿に戻ると、少年は目を丸く見開いた。
「変な匂いがすると思ってましたが、人間にも化けられるのですね」
「いや、こっちが本来の姿な!」
「へぇ……」
穏やかで丁寧な口調の少年(中身地龍)で少しホッとした。
黒髪黒目で、少し垂れ目で愛くるしいと思われるであろう顔をしており、身長は百四十センチといったところだろうか? 年齢的には十二、三歳といったところか。
「俺はアース。アース・クルード。お前、名前はあるのか?」
「僕は『ギギン』といいます」
ギギン……人間としては少々個性的すぎる名前である。
「ギギン……ギギンかぁ」
「何か問題がありますか?」
「いや、悪い名前じゃないとは思うんだが……人間にはあまりいない名前だからな」
『確かにな、人間ではあまり聞かん名だの。人間としては珍妙かもな』
途端にシュンと項垂れてしまったギギン。そりゃ、名前が変だなんて間接的にでも言われたらショックだろう。
「うーん……俺と一緒にいる間だけ、別の名を名乗る、じゃダメか?」
「別の名?」
「例えば……お前がギギンで俺がアースだから、兄弟っぽいところで言えば『ギース』とか?」
「ギース……いいですね!」
なぜだろう? 名前が気に入ったのか、目をキラキラ輝かせて満面の笑みを浮かべている、幻影だが。
この幻影、万能過ぎないか!?
『よもや、ギギンという名前、あまり気に入っておらなんだか?』
「……正直に申しますと……はい。先程『珍妙』と言われまして、やはり黒龍様からしても僕の名前は変なのかと少々落ち込みました」
そっちの落ち込みだったのか! 脳内で盛大にツッコンでしまった。
ここでふとした疑問が浮かんだ。
飛龍も地龍も卵生で、産み落としたら放置され、自力で生まれ出てきたものだけが生き残る。
当然親の顔なんか知らないだろうし、人間のように親に名付けてもらうなんて出来ないはずである。
「なぁ? お前らって、自分の名前、どうやって付けてるんだ?」
「え?」
『何だ?』
「いやさ、お前らって卵の状態で親に置き去りにされるんだろ? だったら親の顔も知らず、親の方も自分が産んだ卵がどうなってるのかも分からず、人間みたいに親に名前を付けてもらう、なんてこともないだろ? だから、どうしてるのかな? って疑問に思ったんだよ」
「……普通に親に付けてもらいましたよ?」
『うむ』
「え?」
ギギン改めギースが話してくれた内容に、時々シャンテが補足情報を交えてくれた話を要訳するとこうである。
確かに飛龍も地龍も卵生で、卵を産んだ親はその場を立ち去るが、母と子は念話のような状態で一定期間繋がっており、卵が孵ると親は分かる。
無事に誕生すると、親は子に名を与え、最低限の生き方を念話を通してレクチャーし、それが完了する頃に念話の効果が消え、親との意思疎通は終了し、本当の意味で一匹で生きていくことになる。
親との繋がりが少しの間でもあるのだと知り、人間同様に名前が親からの最初のプレゼントなのだと分かり、こいつらにも少なからず親からの愛情を受けた経験があるのだと安堵した。
「父親は?」
「さぁ? 誰なのかも知りません」
『そうじゃの、興味もないしの』
父親の存在とは……俺は存在感のない父親にはなるまいと心に誓った。
『名が気に入っておらんのなら、ギースを今後名乗れば良かろう?』
「いいのでしょうか?」
『構わぬぞ? 我がそうであるからな』
「はぁ!? お前、本当はシャンテじゃねぇの!?」
『元々は「ジャリ」という名をもらったのだか、そこいらの小石の集まりと同じ響きだと知って、自らシャンテに改名したのよ』
得意気にそう言ったシャンテを、ギースが羨望の眼差しで見ている……本人は現在卵状態なのだが。
「ジャリ……プッ」
笑った俺の体にビリッとした電流のようなものが流れた。
「イテテテテッ!」
『我を笑った罰じゃ!』
笑われたことが気に入らず、魔法を使ったようである。
『我は千年近く生きておるが、未だかつて親と遭遇したこともない。他にも改名しておるもの達もおった。気に入らぬのであれば別の名を名乗っても良いと思うぞ?』
「確かにそうだな……改名が気が引けるのなら、愛称として別の名を使うのもありだな」
「愛称……そうですね! その手がありましたね!」
キラキラした眼差しが俺に向けられ、照れ臭さを感じた。
顔のせいなのか、妙に可愛く思えてしまう。
「とりあえず、しばらくの間お前はギースで、俺の弟として通してもらうが、大丈夫か?」
「はいっ! よろしくお願いします!」
こうして俺に新しい旅の仲間が加わった。
まだ旅、というか実家を追い出されて三日も経っていないのに……まぁ、いいか。
氷とは氷点下で液体が固まり個体となった状態のことである。
外気温が氷点下を下回っていれば溶けることはないが、それを上回っている場合はもれなく液体へと戻ってしまう。
正直、魔法で出来た氷がどうなのかは知らないが、要は氷なのだ、溶けると考えるのが妥当だと思う。
『こやつの魔力が尽きない限りは大丈夫じゃ。大した魔力消費もないしの』
『そうか……』
でも中身は地龍……暴れたりすることはないのだろうか? 万が一そんなことになったら大惨事にしかならないんだが。
『暴れる心配をしとるのか? 地龍は本来は穏やかな性格だからな、相当なことがない限りは暴れ回ることはない。ましてや、我がそばにおるのじゃ。暴れさせたりなぞせんわ』
思考を読まれていた。
『でも、こいつとの意思の疎通はどうするんだ?』
『人間同様の知能と意思はあるからの、こやつにも。じゃから……』
再び元地龍、現少年の体が光った。
『これなら話せると思うのだか、どうかの?』
光が収まった少年の口元が動いた。
『それ、幻影なんだろ? 今そいつ、口が動いたぞ!』
『そりゃの、そうなるようにしておるからの』
何なんだ、一体。
「……あの……」
少年が声を出した。まだ幼さが残る甲高い声である。
猫の姿では話が出来ないため人の姿に戻ると、少年は目を丸く見開いた。
「変な匂いがすると思ってましたが、人間にも化けられるのですね」
「いや、こっちが本来の姿な!」
「へぇ……」
穏やかで丁寧な口調の少年(中身地龍)で少しホッとした。
黒髪黒目で、少し垂れ目で愛くるしいと思われるであろう顔をしており、身長は百四十センチといったところだろうか? 年齢的には十二、三歳といったところか。
「俺はアース。アース・クルード。お前、名前はあるのか?」
「僕は『ギギン』といいます」
ギギン……人間としては少々個性的すぎる名前である。
「ギギン……ギギンかぁ」
「何か問題がありますか?」
「いや、悪い名前じゃないとは思うんだが……人間にはあまりいない名前だからな」
『確かにな、人間ではあまり聞かん名だの。人間としては珍妙かもな』
途端にシュンと項垂れてしまったギギン。そりゃ、名前が変だなんて間接的にでも言われたらショックだろう。
「うーん……俺と一緒にいる間だけ、別の名を名乗る、じゃダメか?」
「別の名?」
「例えば……お前がギギンで俺がアースだから、兄弟っぽいところで言えば『ギース』とか?」
「ギース……いいですね!」
なぜだろう? 名前が気に入ったのか、目をキラキラ輝かせて満面の笑みを浮かべている、幻影だが。
この幻影、万能過ぎないか!?
『よもや、ギギンという名前、あまり気に入っておらなんだか?』
「……正直に申しますと……はい。先程『珍妙』と言われまして、やはり黒龍様からしても僕の名前は変なのかと少々落ち込みました」
そっちの落ち込みだったのか! 脳内で盛大にツッコンでしまった。
ここでふとした疑問が浮かんだ。
飛龍も地龍も卵生で、産み落としたら放置され、自力で生まれ出てきたものだけが生き残る。
当然親の顔なんか知らないだろうし、人間のように親に名付けてもらうなんて出来ないはずである。
「なぁ? お前らって、自分の名前、どうやって付けてるんだ?」
「え?」
『何だ?』
「いやさ、お前らって卵の状態で親に置き去りにされるんだろ? だったら親の顔も知らず、親の方も自分が産んだ卵がどうなってるのかも分からず、人間みたいに親に名前を付けてもらう、なんてこともないだろ? だから、どうしてるのかな? って疑問に思ったんだよ」
「……普通に親に付けてもらいましたよ?」
『うむ』
「え?」
ギギン改めギースが話してくれた内容に、時々シャンテが補足情報を交えてくれた話を要訳するとこうである。
確かに飛龍も地龍も卵生で、卵を産んだ親はその場を立ち去るが、母と子は念話のような状態で一定期間繋がっており、卵が孵ると親は分かる。
無事に誕生すると、親は子に名を与え、最低限の生き方を念話を通してレクチャーし、それが完了する頃に念話の効果が消え、親との意思疎通は終了し、本当の意味で一匹で生きていくことになる。
親との繋がりが少しの間でもあるのだと知り、人間同様に名前が親からの最初のプレゼントなのだと分かり、こいつらにも少なからず親からの愛情を受けた経験があるのだと安堵した。
「父親は?」
「さぁ? 誰なのかも知りません」
『そうじゃの、興味もないしの』
父親の存在とは……俺は存在感のない父親にはなるまいと心に誓った。
『名が気に入っておらんのなら、ギースを今後名乗れば良かろう?』
「いいのでしょうか?」
『構わぬぞ? 我がそうであるからな』
「はぁ!? お前、本当はシャンテじゃねぇの!?」
『元々は「ジャリ」という名をもらったのだか、そこいらの小石の集まりと同じ響きだと知って、自らシャンテに改名したのよ』
得意気にそう言ったシャンテを、ギースが羨望の眼差しで見ている……本人は現在卵状態なのだが。
「ジャリ……プッ」
笑った俺の体にビリッとした電流のようなものが流れた。
「イテテテテッ!」
『我を笑った罰じゃ!』
笑われたことが気に入らず、魔法を使ったようである。
『我は千年近く生きておるが、未だかつて親と遭遇したこともない。他にも改名しておるもの達もおった。気に入らぬのであれば別の名を名乗っても良いと思うぞ?』
「確かにそうだな……改名が気が引けるのなら、愛称として別の名を使うのもありだな」
「愛称……そうですね! その手がありましたね!」
キラキラした眼差しが俺に向けられ、照れ臭さを感じた。
顔のせいなのか、妙に可愛く思えてしまう。
「とりあえず、しばらくの間お前はギースで、俺の弟として通してもらうが、大丈夫か?」
「はいっ! よろしくお願いします!」
こうして俺に新しい旅の仲間が加わった。
まだ旅、というか実家を追い出されて三日も経っていないのに……まぁ、いいか。
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