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旅の始まり

俺(猫)、堪能される!?

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 部屋に戻るとリルがアンリさんと同じように喜んでくれたが、父親が戻らないことを気にしているようだった。

 密告した場合、色々と事情を聞かれたりするのだろうから、すぐには戻って来れないのかもしれない。

 その辺のことは俺にも分からない。

「私のためにやったこととはいえ、罪は罪。逮捕されたとしても仕方がありませんし、私は父を待ちます。たった一人の父ですから」

 気丈に振る舞う姿が健気だ。

 急で申し訳ないのだが、アンリさんに軽く事情を説明し、部屋をもう一部屋用意してもらった。

 手を出したりしないが、さすがに女の子と同じ部屋というのはよくない。

「私は構いませんよ? どうせこんな成りです、襲う気にもなれないでしょう?」

 そんな見た目じゃなかろうと、まだ幼さが残る少女を襲う趣味なんて俺にはない!

 俺の恋愛対象は歳の近い同年代限定である!

 年上のお姉さんもいいなとは思うが、高嶺の花すぎる気がして無理だと思う。

 それに俺、あんまり恋愛に興味もない。

 いずれ好きな相手が出来ればいいなとは思っているが、出来ないなら出来ないでそれでも構わない。

 夕飯はリルの部屋でみんなで食べ、早めに休むことになった。

 回復が早いし体がスッキリするため猫の姿で寝たのだが、朝、アシュリーの声で目が覚めると、俺はアシュリーに抱かれていた。

「ニャッ! ニャー(何だ!? どうなってんだ!?)!!」

『すまんのぉ。ギースが入れてしまったのよ』

 チラッとギースを見ると、申し訳なさそうに小さくなっている。

「ネコちゃん、おはよう」

 アシュリーがキラキラした目で俺を見ている。

 え? これ、俺、どうしたらいいの?

『これは何だと聞かれておっての、「ネコ」という珍しい動物で害はないとギースが伝えたらそうなった』

 ギースはますます小さくなっている。

『なぁ、ギースに伝えてくれないか? 猫のことは内緒にしてくれってアシュリーに言うように』

『それはもう言ってあるわ』

 きちんと先手を打ってくれていたようで有難い。

 この世界には毛の生えた動物がいない。

 もちろん猫もいない。

 あまり知られない方がいいと思うのだ、行動しにくくなるし。

「フワフワー♪ お日様の匂いがするー♪」

 アシュリーは俺(猫)の毛の手触りを楽しみつつ、体に鼻を近付けて匂いを嗅いだりしている。

「毛がいっぱい生えてる♪ 可愛いぃ♪」

 気に入ってくれたようで一向に離そうとしない。

「ねぇ? お母さんにだけ、ネコちゃん、見せちゃダメ?」

 可愛い顔でそんなことを言われると駄目とは言えないじゃないか!

『お母さんにだけだって伝えてくれ』

 シャンテにそう伝えると、それをギースがアシュリーに伝えてくれた。

「ネコちゃん! お母さんを連れてくるから、ここで待っててね! すぐ戻るから!」

 そう言うとアシュリーはパタパタと走って部屋を出ていった。

『すまんのぉ、止める間もなかったでのぉ』

「ごめんなさい……」

『まぁ、起きたことはしょうがない。あの親子なら言いふらしたりはしないだろうしな』

 その後すぐ、アシュリーの元気のいい声と、アンリさんの戸惑う声が聞こえてきて、二人が部屋に入ってきた。

「すみません……お客様の部屋に入るのは本来はいけないことなのですが」

 申し訳なさそうに部屋に入ってきたアンリさんだったが、俺を見た瞬間表情が強ばった。

「魔物、ですか?」

 見たこともない生物を魔物だと判断したようだ。

「違うよ! ネコちゃん! すごくフワフワで温かくて柔らかいの! お母さんも触ってみて! すっごいから!」

「え、えぇ……ネコ?」

 不安気にギースを見ていたが、ギースが微笑み頷くと俺に近付いてきた。

 恐る恐る手を伸ばし俺の体に触れたのだが、手触りを知ると「え?」と声を上げ、その後は大胆に毛の中に指を差し込んだりしてその感触を楽しみ始めた。

「え……何この手触り……フワフワ……でもしっとりもしていて……え? 何?」

「ね? すっごいでしょ! そしてね、可愛いの! お顔も体もすっごく可愛いの!」

 なぜかアシュリーが得意げにそう言うと、アンリさんが俺の顔をマジマジと覗き込んだ。

「クリクリした目……本当だ、可愛いわ」

「でしょー! すっごく珍しい動物なんだって! だからね、アシュリーとお母さんにだけ見せてくれたの! ネコちゃんのことは内緒ね! シー!」

「えぇ、こんな動物見たこともないから、本当に珍しいのだと思うわ……しかも可愛くてフワフワなんて……狙われることもあるでしょうし……こんな貴重な動物を見せていただいて良かったのですか!?」

 ギースにそう尋ねるアンリさん。

「内緒にしていただければ構いませんよ? よければ抱いてみますか?」

 前半はいい! だが後半のは駄目だろう!!

「え? いいんですか? 見せていただいただけでも有難いのに」

「いいですよ、どうぞ」

 ギースめ! さてはお前、女に弱いタイプなのか!?

「では、失礼して」

 アンリさんは俺のベッドに腰を下ろすと、俺を抱き上げ膝の上に乗せた。

「結構重いのですね……でも何でしょう……しっかりとした安心感……」

 膝の上に俺を乗せて手触りを堪能し始めた。

「はぁ、フワフワ……触っているだけで手が……何でしょう、この感じ……癖になりそう」

 際どい部分にまで手が伸びてきて焦ったが、幸せそうにしながら撫でているため逃げるわけにもいかない。

 座っているアンリさんの前にやってきたアシュリーまで俺を撫で回し始め、俺はなされるがまま撫で回された。

 アンリさんの手が喉元をくすぐるように動くと、俺の喉が「ゴロゴロ」と鳴った。

 自分でも驚いたのだが、そこを撫でられるとどうしてもトローンとした気持ち良さが生まれ、喉が勝手になり始める。

「あら? 気持ちいいのかしら?」

「ネコちゃん、気持ち良さそう! 目を閉じた!」

 ずっと撫でられていると体の力まで抜けてくる。

「本当に気持ちが良いみたいね。体が溶けたように伸びてしまってるわ」

 クスクスと笑いながらもその手を止めないアンリさん。

 もしやこれがゴールドフィンガーというものなのか!?

 ずっと撫でられていたら起きたばかりなのにまた眠くなってきて、いつの間にか眠ってしまった。

「ネコちゃん、また寝ちゃうの?」

 アシュリーの声が聞こえたが、睡魔には抗えなかった。
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