この世界で唯一の猫は俺~捕獲対象として賞金掛けられたが、相棒の黒龍(卵)とのんびり旅します

ロゼ

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王都へ

魔瘤

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 ため息を吐きながら自身の体に強化魔法をかけて備える。

「魔国を出てからまさか龍族のお方と戦うことになる日が来るとは思っていませんでしたよ」

 やけに嬉しそうにそう言うアルボン。

「別に戦わずとも良いのじゃがの」

「そういうわけにはまいりません。私達家族の幸せのためなのですから」

 本当に家族のためだと思っているのだろうか? 単に戦いたいだけではないのか? そんな疑問が頭をかすめる。

 人型をとっていたアルボンの背中に蝙蝠の羽をボロボロにしたような対の羽が現れた。

 魔族の中でも背中に羽の生えるタイプは上位魔族と呼ばれており、魔族の国「魔国」では相当地位の高いものだと聞いたことがある。

「何をやらかして国を追われたのやら……」

 人間でいえば貴族も同然の身分を捨てて人間の住処で暮らし、真実の愛を見つけ、そのために相手の許可も得ずに禁忌を犯そうとする愚か者。

 その身を宙に漂わせながら我を見下ろしいやらしく口角を上げて笑う様は非常に不愉快である。

 羽が広がり、黒く染ったつぶてが無数に飛んできたが強化した我には痛くも痒くもない。

「さすがです、さすが黒龍」

 何を勘違いしているのか、龍であれば皆強いと思っているようだが、我は龍族の中では弱い。

 黒龍族として生まれた故、力ではなく知識で長にまで上り詰めたが、他の龍族に生まれていたならばここまで生きてさえいけなかったであろう。

「そなた、本来の力が出せぬようじゃな?」

 おかしいと思っていたのだ。魔族にとっては天敵ではあるが決して勝てないと分かっている龍族にわざわざ戦いを挑む理由が弱すぎる。

「いえいえ、そのようなことはございませんよ? 先程のはほんの小手調べ。次からは全力です」

 アルボンの体が空高く舞い上がり、そのまま我目掛けて急降下してきた。

 アルボンの両手の爪が長く鋭く伸びており、それで攻撃するつもりなのだろう。

「そんなもの、効かぬぞ?」

 切り付けようとした瞬間に右手でアルボンの爪を弾き飛ばすと、爪は呆気なく砕けた。

「これほどまでに弱っておるのに、なぜ我に戦いを挑む? 死に急ぐ理由を述べよ」

「何をおっしゃいますやら? これが本気だとお思いですか?」

 再びアルボンは羽から礫を飛ばしてきた。

「攻撃手段がそれしかないのか?」

「いえいえ、そんなことはございません」

 何度となく礫を飛ばしてくるが、かすり傷一つ付けられない。

「そなた、もしや、寿命が近いのか?」

 そう言うとアルボンの攻撃がピタリと止んだ。

「魔国を出て何年になる? 本来ならば千年は生きるはずの魔族じゃ。人の国に来て何らかの影響が出ているのか?」

 人間の国には聖魔法で護りを強化されておる場所がいくつもある。

 短時間ならば何の問題もないだろうが、そこに長時間晒されていればいかに魔族とはいえ何らかの影響が出てもおかしくはない。

「愛を語っておったが、家族にも告げずに消えるつもりなのか?」

 アルボンはそれまで見たどの表情よりも哀愁を漂わせた笑みを浮かべている。

「戦わずとも方法はあったのじゃ。どれ、我にその身を見せてみよ」

「……いかに黒龍様といえど、私を治すことなど不可能ですよ」

 そう言いながらもスッと我の前に立った。

「龍族に戦いを挑んで死ねるのであれば本望だと思ったのですがね」

「愚かにもほどがあるわ」

 アルボンの体を魔視で確認し、異常をきたしている場所を確認する。

 魔視とは魔力の流れを見ることが出来る視覚のことをいう。

 アルボンの体にはまるでこぶのように魔力の流れを阻害するものが大量に出来ていた。

魔瘤まりゅう」である。

 人間の体にも似たような病が発生し、それによって死に至ることがあると聞く。

 瘤を全て綺麗に取り除くことが出来れば病は消えるようだが、周囲の肉や臓器も取り除くためどの道長くは生きられない。

 魔瘤はそれと状態は似ておるが取り除くというより解きほぐすといった方が正しく、絡まり合った糸を解くように魔力経路の歪みを正してやれば完治は可能である。

 しかしこの作業を出来るものは世界広しといえど大していない。

「お主、幸運よの。我に出会ったのじゃから」

 そう、我ならば出来る。黒龍族の長である我ならばそれが可能である。

「ちぃと時間がかかるが、朝までには終わるじゃろ」

 意識を魔視に集中させ、まずは首の後ろに出来た魔瘤を解いていく。

 魔瘤は何らかの原因で阻害された魔力の流れが行き場を失いそこで留まり、凝り固まったものである。

 首の部分の魔瘤が解けるだけでも随分と体は楽になるだろう。なんせ一番大きな魔瘤なのだから。

 どのくらいの時間が経過したのかは分からない。

 集中している時の我は周囲の異変にも気付けないほど無防備になるため、本来ならばこのような場所で行って良いものではない。

「あぁ……魔力が……体が……」

 首の魔瘤を解いた瞬間、アルボンの体に魔力が広がり始め、アルボンが震える声で小さく呟いたのが聞こえた。

 魔族は魔力がなければ生きてはいけない。魔力を使いすぎて枯渇させてしまえばそれだけで死に至る。

 その経路に何らかの障害が起きれば命を縮める結果になってもおかしくないのだ。

 次いで左肩にある魔瘤を解いていく。複雑に絡み合ったそれを解く作業は骨が折れる。

 傍から見れば単に手をかざしているだけにしか見えないだろうが、己の魔力を流し込みながらその魔力を手のように使い絡みを解いていくため体力も精神力も使う作業となる。

 左肩の次は左腕の魔瘤を解き、その後は小さい魔瘤をひとつ残さぬよう解いていった。

 解く度にアルボンの体に力が戻っていくのが分かった。

 全ての作業が終わった時、空は薄明るくなっていた。

「終わったぞ」

「あぁ……黒龍様……なんと、なんと感謝を述べればよいか……」

 両の目からポロポロと大粒の涙を流しているアルボン。何とも人間臭い魔族である。

「そなた、聖魔法のそばで暮らしておったか?」

「コーネルと知り合ったのは王都でして、王都は全域に聖魔法がかけられていましたから」

 人間が安全に生きていくための施しとはいえ、王都全域に聖魔法をかけるとはどれほどの聖魔法の使い手を使い潰してきたのやら。

 人間とは己達の利益のために平気で他者を踏みにじることが出来る生き物だということは知っておるが、実に愚かしい。
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