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王都
王都到着
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下半身地龍状態のギースのペースに合わせながら猫の姿で移動すること二日。ようやく王都が見えてきた。
王都「ガザンクール」。
俺の生まれたこの国「ガザン王国」の首都にして最大の都市である。
王都全域を取り囲むように強固な壁に囲まれた巨大要塞にも見える外観。
魔物対策だと言われているが空を飛ぶ魔物には意味をなさないその壁は「ウェイスト・ウォール(無駄な壁)」と皮肉った言い方をされている。
維持費だけで莫大な金額が動いているのだからそんな皮肉も仕方がないのだろう。
王都を取り囲む壁には東西に二箇所の出入口が設けられており、俺達は東側の入口から王都へと入ることになった。
『入る前に少し待て』
シャンテがそう言ったので少しだけ待っていると、ギースの体の表面に一瞬青白い膜が出来、すっと体に溶け込むように消えていった。
『王都は全域に聖魔法がかけられておるでな。ギースの体にはきつかろう。それで大丈夫じゃ』
聖魔法への対策をしてくれたようである。
しかし、王都全域に聖魔法が施されているとは初耳だった。きっと多くのもの達はそんなこと知らずに過ごしているだろう。
壁といい聖魔法といい、どれだけの血税がそこに使われているのか……考えるだけで天文学的な数字になりそうなのでやめた。
王都の手前で別れるはずだったギースだが、ゲートが移動をしていたようでもう少し一緒にいることになった。
王都東口には人や馬車の列が出来ており、俺達もそこに並んだ。
金持ちや権力者は並ばずに通過出来るため、高そうな馬車が律儀に並んで待つ人々の横を悠々と通り過ぎていく。
一時間ほど並び、簡単な身体検査を受け王都へと入った。
王都は俺の故郷の町へと繋がるあの街道が中央を走り、地形的には円形をしている。
街道を挟んで北側、俺達が来た方向から見て右手側が庶民エリア、南側(左手側)が高級ショップや貴族街、最奥がガザン城となっている。
ガザン城は変わった造りになっていて、王都を取り囲む壁に取り込まれているように見える独特な城である。
壁を作る際にそこに組み込みながら建てられたのだろうが、壁から浮き出るように建っているため、初めて見るものは大抵驚く。
無機質な石壁に突如、前世で見た3Dアートのように浮き出る白亜の城。
それを見るだけでも「王都に来た」という記念になるだろう。
一般庶民は巨大な城を遠目で見ることしか出来ない。街道を挟んだ南側は立ち入り禁止にはされていないが、余程のことでもない限り庶民は近寄らないからだ。
仮にそこで粗相でもしでかしたら切り捨てられて命を落としても文句も言えない場所、それが南側エリアなのだ。
俺達は迷わず庶民エリアへと足を踏み入れた。
街道手前には商店街並び、奥に行くごとに民家が増えていく。
最奥一帯は農地が広がっているが、王都内の農地は貴族や王族の管理地になっていて、庶民は皆壁の外に農地を持っている。
貧しいものほど危険度の高い場所に農地を構える。
『ここは昔から変わらんの』
シャンテが無機質な声でそう呟いた。
街道に近い場所は華やかで賑わっているが、奥に行くにつれて貧しい家も増えていく。
王都で暮らすことは一種のステータスではあるが、困窮を極めたものは別の町や村へと居を移す。
栄枯盛衰の移り行く様を如実に表している場所でもある。
「ま、何はともあれ着いたんだ。少しくらい王都を満喫してもバチは当たらないだろ!」
王都にはここでしか食えない美味しいものも沢山あり、観光するだけならば何日だって楽しめる。
一応は職探しもしてみるつもりだが、本気で探そうとは思っていない。
「わぁ! あれ何でしょう?」
ギースが指さした先には行列のできた屋台があり、人々の手には「ラッキースコーン」が握られていた。
ラッキースコーンは前世のフォーチュンクッキーのようなもので、スコーンの中に小さなおみくじのようなものが入っている。
ただのおみくじとは違っており、百数十個に一個の確率で入っている「大当たり」を引くと、店によってその数は違うのだが大当たりくじと交換でスコーンがもらえる仕組みになっている。
大盤振る舞いな店ではカゴいっぱいもらえるとあり、ラッキースコーンは人気が高い。
「小当たり」というのも入っており、小当たりは二十個に一個ほどの確率で出現し、それはスコーン一個と交換出来る。
おやつというものが少ない庶民の世界ではスコーンはおやつの代表格なのだが、小さな町や村では祭りの時くらいにしかスコーンの屋台が来ないため、王都に遊びに行ったものは土産に大量のスコーンを買って帰るなんてことも珍しくはない。
わざわざ土産でもらったスコーンの当たりくじを交換するために王都まで行くなんてものまでいるのだから驚きである。
俺達も列に並びラッキースコーンを購入した。
「何が入ってます! んー? ……明日は明日の風邪引き野郎……何ですか、これ?」
「適当な言葉だろ」
『我のも入っておるな……お、小当たりじゃぞ!』
卵の中でどうやって見ているのか知らないが、シャンテのラッキースコーンの中には小当たりが入っていたようだ。
ヒュンと卵の先端部分からくじが飛び出してきたため、両手で挟むようにしてキャッチした。
俺の中身は「ドークの尾を踏めば足を噛まれる」という言葉の書かれた紙だった。
「そりゃ、尻尾踏んだら噛まれるよな……」
「変な言葉しか書いてありませんね」
ラッキースコーンの中身は大抵こんなありがたいのかありがたくないのか分からない謎の言葉が多い。
この世界のスコーンは少量のチョコチップと沢山のドライフルーツを刻んだものが入っており、かなり甘い味付けがされていて、ジャムを付けたりして食べた前世のような食べ方はしない。
口の中の水分が随分と持っていかれるため飲み物と一緒に食べるのが当たり前だが、紅茶と楽しむなんてこともない。
甘さの少ないスコーンは貴族の朝食として出されることが多いようで、そこでは前世と同じような食べ方をされていたり、スコーンに具材を挟みサンドイッチのように食べることがあると聞く。
クロテッドクリームなんてもの、この世界で未だに目にしたこともない。
その後小当たりで交換してきたラッキースコーンは当然シャンテが食べ、また小当たりを引いたのには驚いた。
店の女性も驚いていたが「ツイてるね!」と笑顔でスコーンを渡してくれた。
王都「ガザンクール」。
俺の生まれたこの国「ガザン王国」の首都にして最大の都市である。
王都全域を取り囲むように強固な壁に囲まれた巨大要塞にも見える外観。
魔物対策だと言われているが空を飛ぶ魔物には意味をなさないその壁は「ウェイスト・ウォール(無駄な壁)」と皮肉った言い方をされている。
維持費だけで莫大な金額が動いているのだからそんな皮肉も仕方がないのだろう。
王都を取り囲む壁には東西に二箇所の出入口が設けられており、俺達は東側の入口から王都へと入ることになった。
『入る前に少し待て』
シャンテがそう言ったので少しだけ待っていると、ギースの体の表面に一瞬青白い膜が出来、すっと体に溶け込むように消えていった。
『王都は全域に聖魔法がかけられておるでな。ギースの体にはきつかろう。それで大丈夫じゃ』
聖魔法への対策をしてくれたようである。
しかし、王都全域に聖魔法が施されているとは初耳だった。きっと多くのもの達はそんなこと知らずに過ごしているだろう。
壁といい聖魔法といい、どれだけの血税がそこに使われているのか……考えるだけで天文学的な数字になりそうなのでやめた。
王都の手前で別れるはずだったギースだが、ゲートが移動をしていたようでもう少し一緒にいることになった。
王都東口には人や馬車の列が出来ており、俺達もそこに並んだ。
金持ちや権力者は並ばずに通過出来るため、高そうな馬車が律儀に並んで待つ人々の横を悠々と通り過ぎていく。
一時間ほど並び、簡単な身体検査を受け王都へと入った。
王都は俺の故郷の町へと繋がるあの街道が中央を走り、地形的には円形をしている。
街道を挟んで北側、俺達が来た方向から見て右手側が庶民エリア、南側(左手側)が高級ショップや貴族街、最奥がガザン城となっている。
ガザン城は変わった造りになっていて、王都を取り囲む壁に取り込まれているように見える独特な城である。
壁を作る際にそこに組み込みながら建てられたのだろうが、壁から浮き出るように建っているため、初めて見るものは大抵驚く。
無機質な石壁に突如、前世で見た3Dアートのように浮き出る白亜の城。
それを見るだけでも「王都に来た」という記念になるだろう。
一般庶民は巨大な城を遠目で見ることしか出来ない。街道を挟んだ南側は立ち入り禁止にはされていないが、余程のことでもない限り庶民は近寄らないからだ。
仮にそこで粗相でもしでかしたら切り捨てられて命を落としても文句も言えない場所、それが南側エリアなのだ。
俺達は迷わず庶民エリアへと足を踏み入れた。
街道手前には商店街並び、奥に行くごとに民家が増えていく。
最奥一帯は農地が広がっているが、王都内の農地は貴族や王族の管理地になっていて、庶民は皆壁の外に農地を持っている。
貧しいものほど危険度の高い場所に農地を構える。
『ここは昔から変わらんの』
シャンテが無機質な声でそう呟いた。
街道に近い場所は華やかで賑わっているが、奥に行くにつれて貧しい家も増えていく。
王都で暮らすことは一種のステータスではあるが、困窮を極めたものは別の町や村へと居を移す。
栄枯盛衰の移り行く様を如実に表している場所でもある。
「ま、何はともあれ着いたんだ。少しくらい王都を満喫してもバチは当たらないだろ!」
王都にはここでしか食えない美味しいものも沢山あり、観光するだけならば何日だって楽しめる。
一応は職探しもしてみるつもりだが、本気で探そうとは思っていない。
「わぁ! あれ何でしょう?」
ギースが指さした先には行列のできた屋台があり、人々の手には「ラッキースコーン」が握られていた。
ラッキースコーンは前世のフォーチュンクッキーのようなもので、スコーンの中に小さなおみくじのようなものが入っている。
ただのおみくじとは違っており、百数十個に一個の確率で入っている「大当たり」を引くと、店によってその数は違うのだが大当たりくじと交換でスコーンがもらえる仕組みになっている。
大盤振る舞いな店ではカゴいっぱいもらえるとあり、ラッキースコーンは人気が高い。
「小当たり」というのも入っており、小当たりは二十個に一個ほどの確率で出現し、それはスコーン一個と交換出来る。
おやつというものが少ない庶民の世界ではスコーンはおやつの代表格なのだが、小さな町や村では祭りの時くらいにしかスコーンの屋台が来ないため、王都に遊びに行ったものは土産に大量のスコーンを買って帰るなんてことも珍しくはない。
わざわざ土産でもらったスコーンの当たりくじを交換するために王都まで行くなんてものまでいるのだから驚きである。
俺達も列に並びラッキースコーンを購入した。
「何が入ってます! んー? ……明日は明日の風邪引き野郎……何ですか、これ?」
「適当な言葉だろ」
『我のも入っておるな……お、小当たりじゃぞ!』
卵の中でどうやって見ているのか知らないが、シャンテのラッキースコーンの中には小当たりが入っていたようだ。
ヒュンと卵の先端部分からくじが飛び出してきたため、両手で挟むようにしてキャッチした。
俺の中身は「ドークの尾を踏めば足を噛まれる」という言葉の書かれた紙だった。
「そりゃ、尻尾踏んだら噛まれるよな……」
「変な言葉しか書いてありませんね」
ラッキースコーンの中身は大抵こんなありがたいのかありがたくないのか分からない謎の言葉が多い。
この世界のスコーンは少量のチョコチップと沢山のドライフルーツを刻んだものが入っており、かなり甘い味付けがされていて、ジャムを付けたりして食べた前世のような食べ方はしない。
口の中の水分が随分と持っていかれるため飲み物と一緒に食べるのが当たり前だが、紅茶と楽しむなんてこともない。
甘さの少ないスコーンは貴族の朝食として出されることが多いようで、そこでは前世と同じような食べ方をされていたり、スコーンに具材を挟みサンドイッチのように食べることがあると聞く。
クロテッドクリームなんてもの、この世界で未だに目にしたこともない。
その後小当たりで交換してきたラッキースコーンは当然シャンテが食べ、また小当たりを引いたのには驚いた。
店の女性も驚いていたが「ツイてるね!」と笑顔でスコーンを渡してくれた。
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