この世界で唯一の猫は俺~捕獲対象として賞金掛けられたが、相棒の黒龍(卵)とのんびり旅します

ロゼ

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王都

王都の宿屋

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 王都での拠点となる宿を決めるべく宿屋街へとやって来ると、通りには客引きの女性達が色っぽい出で立ちで並んでいた。

 肩をすっかり出している女性や短いスカートから足を大胆に覗かせている女性、体のラインが丸わかりの派手な服を纏った女性、まるで水着か!? と言いたくなるような面積の少ない衣装を身に付けた女性と様々だが、到底宿屋の客引きとは思えない服装ばかりである。

 客と思わしき男が来ると「うちに泊まりませんか?」としなだれかかり、鼻の下を伸ばした男達が次々と女性に腕を引かれて様々な宿へと消えていく。

「……噂には聞いていたが、これは……」

『ここは色街いろまちか?』

「色街ってなんですか?」

 色街とはいわゆる大人の男のための娯楽街であり、前世でいう花街と遊郭を合わせたようなもので、単純に酒や女性達との会話や歌や踊りを楽しむ店があれば、一夜の情事を楽しむ店まで存在するというとんでもない場所だ。

 男であれば一度くらいは行ってみたいなんて思っていないからな! うん、思ってない!

 王都では宿屋街に宿屋が密集して建っていることで客引き合戦が過激化しており、年々客引き女性の露出度が上がっていて、それを見るだけでも目の保養になるなんて言っているやつがいたが、これは予想以上だ。

 最近では女性客用の男妾のような客引き男まで登場し始めたと耳にしている。

 実際見るまでは多少なりともそういう客引き女性にチヤホヤされてみたいなんて邪な気持ちも無きにしも非ずだったが、こうも露骨だと勘弁してもらいたい気持ちが大きくなってきた。

「……この中から宿を選ぶのやめないか?」

『アースもあの男らのように鼻の下を極限まで伸ばして女共に腕を引かれることを望んでおったのではないか?』

「何が楽しいんでしょうね?」

「さすがにあれはちょっとな」

 宿屋街以外にも王都には探せばポツポツと宿が存在しているため、庶民エリアを奥の方に進んでみた。

 住宅街の中にはポツポツと最近流行りのカフェや小さな商店なんかが建っており賑やかさはないが落ち着いた雰囲気を漂わせている。

 食堂も何件かあるようでスパイスの香りやパンの焼ける匂いなどが鼻をくすぐってくる。

  少し歩いていると宿屋の看板を見つけた。

『宿屋ブルズカップ』

 周囲の民家に溶け込んでしまいそうなほど宿屋には見えない普通の家のような建物で、通りに面した出窓には白い花が小さな鉢に植えて飾ってある。

 宿屋の玄関前にも白や黄色の小ぶりの花が植えられていて、きっとこの宿屋の主は花好きな人物なのだろうと想像ができる。

 玄関ドアにはリースというのだろうか? 木の輪のようなものに葉っぱや花が飾ってあるドア飾りが掛けられているし、よく見ると看板にも端の方に花の絵が小さく描かれている。

「植物を愛する女性が店主なのかもな」

『少々趣味が年寄り臭いがな』

「お花、美味しそうですね」

 ギースだけ感覚が違うようだ。

「雰囲気もいいし、ここにしてみるか? 駄目そうなら明日は別な宿に変えればいいし」

『我はどこでも良い。風呂が心地良く、飯が美味ければの』

「僕もです!」

 というわけで、今夜の宿は「宿屋ブルズカップ」に決定した。

 フラワーリースが飾ってあるドアを開けるとチリンチリンと可愛らしい音色で鈴が鳴った。

 普通の民家を改造した宿屋のようでドアを開けて左側に二階へと上がる階段が見え、右側に白地にオレンジのチェックと小花が描かれたクロスのかかったカウンターが見えた。

 宿屋の主人はいないようで室内はガランとしているが、花の香りに包まれている。

 インテリアには全く詳しくないのだが、何となく雰囲気的には田舎のおばあちゃんの家のような温かさを感じる。

「良さげなところだな」

 そんなことを呟きながら室内を見渡していると、その雰囲気には似つかわしくないドカドカとした大きな足音が二階から聞こえてきて、スキンヘッドに立派な髭をたたえ、ムキムキの二の腕を黒いタンクトップシャツからさらけ出し、パツパツの革パンを穿いた男が階段を駆け下りてきた。

「ヤダッ! お客様ね! 私ったらもう!」

 ブツブツと聞こえる言葉がその姿とは全く似合わないもので思わず後退りした。

 俺達を見かけるとムキムキの男は嬉しそうに目を輝かせ、ニッコリと笑うと階段を駆け下りるスピードを落とした。

 そのまま俺達の前までやって来ると腰に巻かれたエプロンの端を摘んで「ようこそ、宿屋ブルズカップへ♡」と甲高い声で挨拶をした。

『何じゃ、こやつは? 女子の真似事か? 似合わぬからやめるように教えてやるのが親切というものではないか?』

 脳内でシャンテが失礼なことを言っている。

『あのな、この世には男と女以外に心と体が逆転している第三の性というものがあるんだよ。だからあの人はあれがきっと普通なんだ。ちょっとあれだが』

『……第三の性……人間とは奇妙な進化を遂げていたのじゃな』

『たまにいるんだよ、心が体の性別とは違う人達が!』

『ほぉ……第三の性……覚えておこう』

 俺達が脳内で会話を繰り広げていることなど知るはずもないムキマッチョな主人はカウンターへと向かって行った。

「お客様はお泊まりですか? 二名様でよろしいかしら?」

 少ししなをつけながらそんなことを言われると少しばかり……いや、やめとこう。失礼というものだ。

「は、はい……もしかして満室ですか?」

 少し「満室ならいいな」なんて期待がこもっていたことはここだけの話だ。

「いえいえ、部屋なら全室空いてますよぉ。万年閑古鳥なのよ、この宿、うふふ♡ と言っても二階に二部屋あるだけなんですけどね」

「そ、そうなんですね……じゃあ、宿泊をお願いしたいのですが」

「あぁん、もう、喜んで♡」

 ギースが口を開けてポカーンとした顔でムキマッチョな主人を見ている。

「こら、口閉じろ、失礼だぞ」

 コソッと耳打ちしたのだが、ギースは主人に夢中で全く聞こえていないようだ。

「では、お部屋にご案内いたしますね。二名様ごあんなぁぁぁい♡ あ、申し遅れましたぁ、私、宿屋の女将でブルズカップと申します、うふふ♡」

 主人ではなく女将のようだ。うん、女将。

 


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