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王都
庶民エリア
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宿を出て最初に立ち寄ったエリアへと足を運んだ。
「またあれを買うんですか?」
「あれ? あぁ、ラッキースコーンか? あれは買わないな」
「じゃあ、何しに行くんです?」
「見て回るのも楽しいのさ」
街道に面した云わばメインストリートには様々な店が建ち並んでいて、屋台も数多く存在している。
南側エリアとは違い、庶民エリアは街並みに統一感がなく雑多な感じが否めないが、その分活気に満ちている。
木造の建物があれば石造りや煉瓦造りの店もあり、店と店の間に箱を並べて路上販売をしているものもいるし屋台もある。
道行く人達はその辺から買い物に来たという格好のものもいれば、長旅でたどり着いたのであろう薄汚れた旅人まで実に様々だ。
歩きながら気になる店を見ていく。
紐編みのアクセサリーの店を見付けたので立ち寄ってみたのだが、編み方の粗が目に付いてしまい買う気は起きなかった。
「ちょっと、お客さん!」
店主のおばあさんに呼び止められて足を止めると、俺の首にある手製のネックレスを見せて欲しいと頼まれた。
「これは……どこで購入されたんです? この職人、うちに欲しい!」
「あ、いや、俺の手製なんだよ」
「なんと! お客さん、うちで働く気はないですか? 賃金は弾みますよ!」
「いやいや、それは……」
「じゃあ、せめて何点かうちに卸してくれやしませんか!? 後生ですから!」
聞くところによると、最近ではこういう手製のネックレスを作るものが激減しているそうだ。
でも手頃な値段で買えるため土産品としての需要はあり、多少粗悪品でも売れるそうなのだが、その分後日クレームも増えていて困っているのだとか。
「何日かは滞在するので、その間に作れる数だけなら……まぁ」
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
思わず引き受けてしまっていた。
『人が良いにもほどがあるの』
「何を作るんですか? 僕もやってみたいです!」
材料はおばあさんに渡されたし、ギースに教える分なら前に買った紐でも事足りる。
「寝る前に少しやってみるか?」
「はいっ!」
満面の輝くような笑みを浮かべているギース。この笑みには勝てそうもない。
他の店も回っていると、鉱石を売っている店を見付けた。
「石も売り物なんですね」
ギースが不思議そうに眺めている。
「こういうふうに色が付いていて綺麗な石は売り物になるんだよ。宝石には手が出せなくても、こういうのなら手軽な値段で買えるだろ?」
「石に価値を見出すなんて、人間は不思議ですよね? こんな石なら僕の寝床に沢山ありましたよ?」
地龍の寝床は主に洞窟のようなのだが、ギースの寝床である洞窟には赤や青などの石が沢山あるのだという。
『地龍の寝床となる場所には人間の好む宝石の原石が眠ると聞くからの。その類の石があるのじゃろ』
「欲しければ、遊びに来てくださった時に好きなだけ持ってってください」
行けたら何個か欲しいな、と思ってしまった。
『美味そうな匂いがするぞ! あれは何じゃ!』
シャンテが匂いに引き寄せられたのは牛肉の串焼きの店だった。
「牛肉、食わせてやるって言ってたもんな。食ってみるか?」
『うむ、食うてみたいな』
「僕も!」
串焼きを三本買って人通りの少ない場所へと移動しシャンテに食べさせた。
『モーモーギューより美味いと言っておったが、どれ……』
小さな卵の小さな口にデカイ串焼きが吸い込まれていく様はいつ見ても不思議だ。
『んっ! これはっ! 臭みのない、じゃがしっかりとした肉質の中から滲み出る肉汁! 甘辛く、少しばかりピリッとくるタレと絡み合う旨味! 何じゃこれは!』
「牛肉の串焼きだな」
『モーモーギューこそ至高と思っておったこれまでの我を叱り飛ばしてやりたいわ! 比べ物にならん味わいじゃぞ!』
「な? 美味いだろ?」
『この味を知らずして生きておったとは!』
大袈裟すぎやしないか?
「うーん……」
「どうした?」
ギースが牛串を手に唸っていたので聞いてみると、ギースには辛すぎるらしい。
「ちょっと待ってろ」
再度店に戻り、子供用の辛味なしの串焼きを購入し、近くにあった「シュワシュワ」という、いわゆるソーダ水のようなジュースを購入し戻った。
甘ダレの牛串はギースの口にも合ったようで「美味しい!」と目を輝かせて食べていたが、シュワシュワは受け付けなかったようで「これはいいです」と返された。
『どれ? 我に飲ませよ!』
シャンテにもやったのだが盛大にむせていた(脳内で)。
『な、何じゃこれは! このようなものを好んで飲むとは! 人間はおかしいぞ!』
炭酸がビリビリとはするが、慣れてみればそれが癖になる。
「お前ら、喉がお子様なんだな」
そう言うとギースは「僕、まだ幼体ですからね」と納得していたが、シャンテは気に入らなかったようでブツブツと文句を言っていた。
その後立ち寄ったのは服屋。
ギースとはもう少しだけ一緒にいるし、同じ服(の幻覚)ばかりでは良くないため、シャンテに色んな服を覚えてもらおうと思ったのだ。
自分の服もそう持っていなかったので、俺用の服をメインで買い、ギースのも実際には着れないのだが不審に思われないように少しだけ購入した。
買った服はきれいな状態であれば古着店で高く買取ってくれることがあるため、全くの無駄ではない。
『ドリスが着ておったような服はやはりないのぉ。あれはどこで買ったのじゃろうか?』
『特注なんじゃねぇか?』
『あのようなものに金をかけるとは……酔狂にも程があるの』
その後は別の店も見て回り、夕方になったので宿屋に戻った。
ドアを開けるととんでもなくいい香りが漂ってきたので腹が鳴ってしまった。
『香りだけでこれ程食欲を刺激するとは! 第三の性とは恐ろしや!』
シャンテの中の第三の性とはどのような解釈になっているのだろうか?
「またあれを買うんですか?」
「あれ? あぁ、ラッキースコーンか? あれは買わないな」
「じゃあ、何しに行くんです?」
「見て回るのも楽しいのさ」
街道に面した云わばメインストリートには様々な店が建ち並んでいて、屋台も数多く存在している。
南側エリアとは違い、庶民エリアは街並みに統一感がなく雑多な感じが否めないが、その分活気に満ちている。
木造の建物があれば石造りや煉瓦造りの店もあり、店と店の間に箱を並べて路上販売をしているものもいるし屋台もある。
道行く人達はその辺から買い物に来たという格好のものもいれば、長旅でたどり着いたのであろう薄汚れた旅人まで実に様々だ。
歩きながら気になる店を見ていく。
紐編みのアクセサリーの店を見付けたので立ち寄ってみたのだが、編み方の粗が目に付いてしまい買う気は起きなかった。
「ちょっと、お客さん!」
店主のおばあさんに呼び止められて足を止めると、俺の首にある手製のネックレスを見せて欲しいと頼まれた。
「これは……どこで購入されたんです? この職人、うちに欲しい!」
「あ、いや、俺の手製なんだよ」
「なんと! お客さん、うちで働く気はないですか? 賃金は弾みますよ!」
「いやいや、それは……」
「じゃあ、せめて何点かうちに卸してくれやしませんか!? 後生ですから!」
聞くところによると、最近ではこういう手製のネックレスを作るものが激減しているそうだ。
でも手頃な値段で買えるため土産品としての需要はあり、多少粗悪品でも売れるそうなのだが、その分後日クレームも増えていて困っているのだとか。
「何日かは滞在するので、その間に作れる数だけなら……まぁ」
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
思わず引き受けてしまっていた。
『人が良いにもほどがあるの』
「何を作るんですか? 僕もやってみたいです!」
材料はおばあさんに渡されたし、ギースに教える分なら前に買った紐でも事足りる。
「寝る前に少しやってみるか?」
「はいっ!」
満面の輝くような笑みを浮かべているギース。この笑みには勝てそうもない。
他の店も回っていると、鉱石を売っている店を見付けた。
「石も売り物なんですね」
ギースが不思議そうに眺めている。
「こういうふうに色が付いていて綺麗な石は売り物になるんだよ。宝石には手が出せなくても、こういうのなら手軽な値段で買えるだろ?」
「石に価値を見出すなんて、人間は不思議ですよね? こんな石なら僕の寝床に沢山ありましたよ?」
地龍の寝床は主に洞窟のようなのだが、ギースの寝床である洞窟には赤や青などの石が沢山あるのだという。
『地龍の寝床となる場所には人間の好む宝石の原石が眠ると聞くからの。その類の石があるのじゃろ』
「欲しければ、遊びに来てくださった時に好きなだけ持ってってください」
行けたら何個か欲しいな、と思ってしまった。
『美味そうな匂いがするぞ! あれは何じゃ!』
シャンテが匂いに引き寄せられたのは牛肉の串焼きの店だった。
「牛肉、食わせてやるって言ってたもんな。食ってみるか?」
『うむ、食うてみたいな』
「僕も!」
串焼きを三本買って人通りの少ない場所へと移動しシャンテに食べさせた。
『モーモーギューより美味いと言っておったが、どれ……』
小さな卵の小さな口にデカイ串焼きが吸い込まれていく様はいつ見ても不思議だ。
『んっ! これはっ! 臭みのない、じゃがしっかりとした肉質の中から滲み出る肉汁! 甘辛く、少しばかりピリッとくるタレと絡み合う旨味! 何じゃこれは!』
「牛肉の串焼きだな」
『モーモーギューこそ至高と思っておったこれまでの我を叱り飛ばしてやりたいわ! 比べ物にならん味わいじゃぞ!』
「な? 美味いだろ?」
『この味を知らずして生きておったとは!』
大袈裟すぎやしないか?
「うーん……」
「どうした?」
ギースが牛串を手に唸っていたので聞いてみると、ギースには辛すぎるらしい。
「ちょっと待ってろ」
再度店に戻り、子供用の辛味なしの串焼きを購入し、近くにあった「シュワシュワ」という、いわゆるソーダ水のようなジュースを購入し戻った。
甘ダレの牛串はギースの口にも合ったようで「美味しい!」と目を輝かせて食べていたが、シュワシュワは受け付けなかったようで「これはいいです」と返された。
『どれ? 我に飲ませよ!』
シャンテにもやったのだが盛大にむせていた(脳内で)。
『な、何じゃこれは! このようなものを好んで飲むとは! 人間はおかしいぞ!』
炭酸がビリビリとはするが、慣れてみればそれが癖になる。
「お前ら、喉がお子様なんだな」
そう言うとギースは「僕、まだ幼体ですからね」と納得していたが、シャンテは気に入らなかったようでブツブツと文句を言っていた。
その後立ち寄ったのは服屋。
ギースとはもう少しだけ一緒にいるし、同じ服(の幻覚)ばかりでは良くないため、シャンテに色んな服を覚えてもらおうと思ったのだ。
自分の服もそう持っていなかったので、俺用の服をメインで買い、ギースのも実際には着れないのだが不審に思われないように少しだけ購入した。
買った服はきれいな状態であれば古着店で高く買取ってくれることがあるため、全くの無駄ではない。
『ドリスが着ておったような服はやはりないのぉ。あれはどこで買ったのじゃろうか?』
『特注なんじゃねぇか?』
『あのようなものに金をかけるとは……酔狂にも程があるの』
その後は別の店も見て回り、夕方になったので宿屋に戻った。
ドアを開けるととんでもなくいい香りが漂ってきたので腹が鳴ってしまった。
『香りだけでこれ程食欲を刺激するとは! 第三の性とは恐ろしや!』
シャンテの中の第三の性とはどのような解釈になっているのだろうか?
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