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第6話 狙われた葵
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放課後の帰り道。結衣と葵は連れ立って歩いていた。
空はすでに茜色から群青へと移り変わり、街灯がぽつぽつと灯りはじめている。
「今日はなんか、すごく楽しかったねー!」
葵が笑いながら言う。呪いの化け物や神楽が現れたりしていろいろあったが、最終的に良い日で終われたのはこの友達のお陰かもしれない。
自分一人だったらまだ神楽と打ち解ける事もできなかっただろう。そう思った結衣は素直に礼を述べた。
「うん……ありがと、葵。なんだか、いろいろ救われた気がする」
「おおー、結衣が素直にお礼を言うなんて珍しい~! 私の事疑ってなかった?」
「も、もう、からかわないでよ……! 夢で相談した時も今日も本当に助かったって思ってるんだから」
「だったら感謝して崇め奉ってもいいよ。ああ、結衣ちゃんにはもう神様が憑いてるか」
「呪いの神様だけどねー」
二人の笑い声が住宅街に響く。そんな、何気ない日常の帰り道だった。
「じゃあ、私はこっちだから。また明日神楽ちゃん連れてきてね」
「いや、それは先生の迷惑になるから……」
その時だった。
ギィ……ギィィィ……
どこからか、耳をつんざくような異音が響いた。電柱の照明が、一瞬チカチカと明滅し、ぷつん、と消える。
「……え?」
「な、なに今の音……?」
去ろうとした葵は足を止めた。結衣も空を振り仰ぐ。
風が止まり、空気がぬめるように重くなる。
「神楽、これって……!?」
「出たな……呪詛生物だ」
結衣が心の中で呼びかけると、すぐに返答があった。お札を剥がした事で姿を消していた神楽が再び現れる。
「お前の呪紋がわずかに反応していよう。だが、学校で戦って逃げた者とは違う奴のようだ」
「っ……どこにいるの!?」
結衣は敵の気配を伺うが、葵は違う者を探していた。
「結衣ちゃん、神楽ちゃんと話しているの? もう、私にも見えるようにお札を貼っておいてよー!」
「私に言われても」
神楽は常に現れる事は好まなかった。おそらくはこうした事態に対応する為に力の消費は避けて蓄えておきたいんだと思う。
結衣が振り返ったその時、角を曲がった先――暗がりの路地の奥に、人間ほどの大きさの何かがぬるりと姿を現した。
それは人のようで人でない生き物――呪いの生物なのはすぐに分かった。暗がりから現れたそれは皮膚のない肉塊に、いびつな顔の痕跡。四つん這いになるとそのまま四足で這うように進んできた。その顔は歪んで何かを呻いている。
さすがの葵も気味悪がって鞄で視線を遮った。
「もう! 神楽ちゃんは見えないのにこんなのだけ見えないでよ!」
「葵ちゃんにもあれが見えるんだ」
「奴がそれだけはっきりとした呪詛を放っているのだ。それがお前の呪紋と反応してここにある種の共振結界を発動している」
「え!? あれが見えてるのって私のせい!?」
「それもあるだろうが、あやつの狙いに葵も含まれているせいだろうな。すぐ間近で呪いを向けられているのを肌で感じ取っているのだ」
「結衣ちゃん! あれ何とかしてよ!」
「うん……」
どうやら自分が何とかしないといけないようだった。結衣は覚悟を決めて化け物の前に歩み出る。
呪詛生物は歪な目を巡らせて結衣を睨んできた。
「ノロウ……オマエヲ……」
化け物の発したその声は、明らかに人の言葉だった。呪いが結衣に向けられたおかげで葵の方は少し楽になったようだった。
「もしかして、これって人なの……!?」
「人の恨みから生まれた物。それが奴を形成して呪いの生物としたのだろう。結衣、お前の力であやつの呪いを自らの糧とするのだ」
「え……? うん!」
結衣は迷うが敵を逃がしてはさらなる不安の種となってしまう。覚悟を決めて歩み出た。
葵は足がすくんで体が震えている。さっきまで楽しそうに笑っていた彼女が怖がっている。当然だ。普通の人間が呪詛生物に睨まれたらそうもなる。
結衣は前の戦いを思い出して自分が戦うつもりでいたが、あの時の感覚を思い出そうとしているうちに呪詛生物が大きくジャンプした。
「逃げた……?」
のではなかった。結衣の頭上を跳び越えた敵の行先には葵がいた。
「キャアアアア! 結衣ちゃん、助けて!」
「葵ちゃん!」
「ちいっ! 顕現せよ――《呪詞・防障》ッ!! 」
空間に紋を展開し神楽がすぐさま呪いの盾を発動させようとするが、それは力を求めた結衣が吸収した。
「結衣! お前!」
突然の行為に神楽は驚くが、友達を助けたいと願う結衣にそこまで気を割く余裕はなかった。
「葵ちゃんは私が助ける!」
結衣はそのまま葵を取り込もうとする呪いの渦の中へ飛び込んでいった。
空はすでに茜色から群青へと移り変わり、街灯がぽつぽつと灯りはじめている。
「今日はなんか、すごく楽しかったねー!」
葵が笑いながら言う。呪いの化け物や神楽が現れたりしていろいろあったが、最終的に良い日で終われたのはこの友達のお陰かもしれない。
自分一人だったらまだ神楽と打ち解ける事もできなかっただろう。そう思った結衣は素直に礼を述べた。
「うん……ありがと、葵。なんだか、いろいろ救われた気がする」
「おおー、結衣が素直にお礼を言うなんて珍しい~! 私の事疑ってなかった?」
「も、もう、からかわないでよ……! 夢で相談した時も今日も本当に助かったって思ってるんだから」
「だったら感謝して崇め奉ってもいいよ。ああ、結衣ちゃんにはもう神様が憑いてるか」
「呪いの神様だけどねー」
二人の笑い声が住宅街に響く。そんな、何気ない日常の帰り道だった。
「じゃあ、私はこっちだから。また明日神楽ちゃん連れてきてね」
「いや、それは先生の迷惑になるから……」
その時だった。
ギィ……ギィィィ……
どこからか、耳をつんざくような異音が響いた。電柱の照明が、一瞬チカチカと明滅し、ぷつん、と消える。
「……え?」
「な、なに今の音……?」
去ろうとした葵は足を止めた。結衣も空を振り仰ぐ。
風が止まり、空気がぬめるように重くなる。
「神楽、これって……!?」
「出たな……呪詛生物だ」
結衣が心の中で呼びかけると、すぐに返答があった。お札を剥がした事で姿を消していた神楽が再び現れる。
「お前の呪紋がわずかに反応していよう。だが、学校で戦って逃げた者とは違う奴のようだ」
「っ……どこにいるの!?」
結衣は敵の気配を伺うが、葵は違う者を探していた。
「結衣ちゃん、神楽ちゃんと話しているの? もう、私にも見えるようにお札を貼っておいてよー!」
「私に言われても」
神楽は常に現れる事は好まなかった。おそらくはこうした事態に対応する為に力の消費は避けて蓄えておきたいんだと思う。
結衣が振り返ったその時、角を曲がった先――暗がりの路地の奥に、人間ほどの大きさの何かがぬるりと姿を現した。
それは人のようで人でない生き物――呪いの生物なのはすぐに分かった。暗がりから現れたそれは皮膚のない肉塊に、いびつな顔の痕跡。四つん這いになるとそのまま四足で這うように進んできた。その顔は歪んで何かを呻いている。
さすがの葵も気味悪がって鞄で視線を遮った。
「もう! 神楽ちゃんは見えないのにこんなのだけ見えないでよ!」
「葵ちゃんにもあれが見えるんだ」
「奴がそれだけはっきりとした呪詛を放っているのだ。それがお前の呪紋と反応してここにある種の共振結界を発動している」
「え!? あれが見えてるのって私のせい!?」
「それもあるだろうが、あやつの狙いに葵も含まれているせいだろうな。すぐ間近で呪いを向けられているのを肌で感じ取っているのだ」
「結衣ちゃん! あれ何とかしてよ!」
「うん……」
どうやら自分が何とかしないといけないようだった。結衣は覚悟を決めて化け物の前に歩み出る。
呪詛生物は歪な目を巡らせて結衣を睨んできた。
「ノロウ……オマエヲ……」
化け物の発したその声は、明らかに人の言葉だった。呪いが結衣に向けられたおかげで葵の方は少し楽になったようだった。
「もしかして、これって人なの……!?」
「人の恨みから生まれた物。それが奴を形成して呪いの生物としたのだろう。結衣、お前の力であやつの呪いを自らの糧とするのだ」
「え……? うん!」
結衣は迷うが敵を逃がしてはさらなる不安の種となってしまう。覚悟を決めて歩み出た。
葵は足がすくんで体が震えている。さっきまで楽しそうに笑っていた彼女が怖がっている。当然だ。普通の人間が呪詛生物に睨まれたらそうもなる。
結衣は前の戦いを思い出して自分が戦うつもりでいたが、あの時の感覚を思い出そうとしているうちに呪詛生物が大きくジャンプした。
「逃げた……?」
のではなかった。結衣の頭上を跳び越えた敵の行先には葵がいた。
「キャアアアア! 結衣ちゃん、助けて!」
「葵ちゃん!」
「ちいっ! 顕現せよ――《呪詞・防障》ッ!! 」
空間に紋を展開し神楽がすぐさま呪いの盾を発動させようとするが、それは力を求めた結衣が吸収した。
「結衣! お前!」
突然の行為に神楽は驚くが、友達を助けたいと願う結衣にそこまで気を割く余裕はなかった。
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