サイクリングストリート

けろよん

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第三章 勇者の挑戦

第53話 渚と翼の昼食会

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 大会から一週間が過ぎた次の日曜日。
 休日の人で賑わう駅前のファミレスに入って、渚と翼は食事をしながら話をしていた。
 お互いに生徒会長という立場でこの前の大会について真面目な話し合いをするのも目的の一つだったが、幼い子供の頃からの友人である二人が何も用事が無くても会うのもごく日常的なことだった。
 翼がお嬢様学校に進学してからはその回数は減っていたが。 
 注文して届いた庶民に優しい値段のサラダを箸で突きながら渚は学校のことを報告した。

「あんたの助言で田中さんのクラスでは勉強フィーバーが起きているわよ」
「そこまでの効果を期待したわけではなかったのですが……」
「翼には立場があるんだから。発言もほどほどにね」
「気を付けておきますわ」

 翼は別にお嬢様向けというわけでもない庶民のハンバーグを箸で一切れ取って食べる。そして、少し考えてから言った。

「バニシングウェイのことですけど……やはり発表しないことにしましたわ」
「そう」

 渚にとっては意外なことではない。大会のことは町のニュースで少し取り上げられただけで、すぐに話題にされなくなっていた。
 翼にやる気があるならもっと大々的に宣伝を続けていたはずだからだ。
 渚の短い答えに翼は訝し気に訊ねた。

「反対はしませんのね」
「翼の始めたことだし、わたしは翼の好きにすればいいと思うわ。翼にも考えがあってのことなんだろうし。面白いレースが見れてわたしも町の人達も満足したし、引くとするなら今がいい引き際なんじゃないかしら」
「そう言ってもらえると助かりますわ」

 翼は心から安心しているようだった。渚は考えてみる。
 考えられる原因としてはやはり最後にこけたことだろうかと推測するが、翼が言わないなら渚がそれ以上追及する必要もなかった。
 大会は無事に終わり、勇者が紹介された。結果としてはそれで十分だ。
 渚にとってはもう終わったことよりもこれからのことが余程重要だった。
 翼と休日に町に出て遊ぶ。幼い頃からやっていることだが、学年が進むほどに立場の違いを感じずにはいられない。
 でも、今はまだ二人でこうしている。この時間をもう終わった悩みで使うつもりは渚にはなかった。

「それにしても……」

 渚は町一番のお嬢様を誘うにしてはごく庶民的な食事の手を止めて、わざと軽い調子で言う。

「純星の鷹、お嬢様の頂点とまで呼ばれる人と二人っきりで食事を出来るなんて、これは光栄と思うべきなのかしらね」
「渚、今更わたくしを持ち上げても何も出ませんわよ」

 翼は冗談だと思って受け流しているが、渚としてはこの数年で後ろめたく思うことがあった。
 こちらは普通の一般庶民で相手は町一番のお嬢様。
 せめて小さい山でも一番になろうと生徒会長になってみたものの、相手も生徒会長になってしまった。それも名門の。
 もう本当にへこんでしまう。
 子供の頃は全く気にしなかった距離感を年を取るほどに意識してきてしまう。
 翼はそんなことには全く頓着していないが。
 王者の余裕とも取れるが、単に分け隔てのない翼の性格ゆえだとも伺える。
 翼は子供の頃から何も変わらない。ただ生徒達の前では手本となる振る舞いを自ら見せようとするようになったこと以外には。
 だから渚もつまらないことは気にしないようにして、幼い頃からの友人として話をすることにする。

「それでこの前の試合でお眼鏡に叶ったうちの生徒を翼はどうするつもりなのかしら?」
「それなんですけどね」

 翼は悩んでいる様子だった。
 あの大会は勇者の力を示したもののやはり順調なものとは言えなかった。
 翼がそのことを気にしていることを渚は気が付いていたが、わざとどうでもいいことのように言った。

「転んだのは仕方がないわよ。誰にでも失敗はあるものだからね」
「渚はあの時に何か気が付いたことはありませんでしたか?」
「何かって? んー、わたしは会場の方にいたから。何かあったの?」

 翼には何か気になることがあるようだった。渚は訊いてみるが、翼は口を閉ざすだけだった。

「いえ、特には。調査班の報告でも何も無かったと言っていましたし」
「翼のところの調査班は優秀だからね」

 親友の態度に渚は腑に落ちない物を感じていたが、翼とその調査班が調べて分からない物ならどうしようもない。ただ後でもう一度現場を見てみようと思っただけだった。
 翼はごく普通のファミレスのジュースを一口飲んで話を続けた。

「それで伝説の勇者のことですけど」
「田中結菜さんのことね。なかなか見込みのある生徒だとは思うけれど」

 生徒会室で話したことを思い出し、渚はスパゲッティをフォークに絡ませながら相槌を打つ。
 田中結菜。伝説の勇者だと噂されている生徒だ。
 大会ではよく頑張っていたが、渚は特には伝説のような物は感じなかった。そんな彼女を翼はどうするつもりなのか。
 生徒会長としては自分の学校の生徒のことを気にしないわけにはいかない。
 翼の答えはこうだった。

「何もしないことに決めましたわ」
「そう」

 何となくそうなる予感はしていた。
 結菜はよく頑張っている生徒だが、特に特別な力を持っているわけではないごく普通の少女なのだから。

「とくに差し迫った脅威も無さそうですし、わたくしには結菜さんの学校生活まで邪魔するつもりはないのです」
「高校の三年間は短いものね。わたし達もわたし達でやることがあるし、そろそろ大学の事も考えていかないと」
「そうですわね」
「でも、ちょっとは面倒を見てやってよ。あの子を勇者として町のみんなに紹介したのは翼なんだからね」
「それはもちろん心得ておりますわ」
「学校のことぐらいだったらわたしの方で見ておくけどね。生徒会長として生徒に気を配るのは当然の義務だから。翼の負担を減らしてあげる」
「頼りにしてますわ。渚が友達で良かったです」
「わたしを褒めてもこんな物ぐらいしか出ないわよ」
「それは?」

 渚が取り出したのは二枚のチケットだった。渚はそれを指先に挟んで翼に見せながら言った。

「駅前に新しく出来た映画館のチケットよ。4DXとか言って新しい体感型の映画らしいんだけど」
「4DX? 聞いたことがありませんわね」
「わたしも行ったことはないんだけどね。翼も町一番のお嬢様なら町に出来ている物ぐらいは知っておいた方がいいわよ」
「それはもちろんそうですわ」
「じゃあ、食事を終えたら町を適当に見て回って、時間が来たら行きましょうか」
「ええ、渚のおすすめの映画。期待していますわよ」

 そして、食事を終えて会計を済ませ、二人は休日の人で賑わう町へと繰り出していった。
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