ベッド会議

けろよん

文字の大きさ
2 / 5

第2話

しおりを挟む
「よし、完成だ!」

 完成したベッドを見て俺は満足していた。布団しか敷いたことのない自分の部屋についにベッドが置かれたのだ。
 それにしても社長は行動が早い。話したその日のうちにもうベッドが送られてきているなんて。彼女の有能さを思い知る思いだ。俺も期待に答えなければ。
 作ったのは、企画に近い少し高級感のあるシングルサイズのベッドだ。これを俺の家に置いて使うことになる。
 完成を心待ちに見ていた妹が早速華やいだ声を上げた。

「うわー! すごい豪華だねお兄ちゃん!!」
「そう見えるか? さすがは俺の会社のベッドだ」
「うん、ふっかふかー!! 気持ちいい~!」
「おいこら、ベッドの上で飛び跳ねるんじゃない」
「えへへ、ごめんなさーい。でも、天蓋とかあったらもっと良かったかも」
「お前もそれを言うのか。でも、それはさすがにやりすぎだろ。予算オーバーになるからな」
「ぶぅ、つまんなーい」

 妹が口を尖らせながらブーイングしてくる。さっきまであんなに喜んでいたのに天蓋がそれほど重要なのだろうか。よくわからない。
 俺は戸惑いながらベッドの上に腰を下ろす。するとその柔らかさが伝わってきて感動してしまう。

「おお、これはいいな。やはりベッドはベッドが良ければいいんじゃないか」
「ね、ね、寝ていい?」
「ああ、いいぞ」
「やったー!!」

 妹はベッドに飛び込むように倒れ込んできた。そしてゴロンゴロンと転がり始める。まるで子供みたいだが可愛いので許したくなる。

「あぁ……最高ぉ……」
「おいおい、あまり暴れるなって」
「いいじゃん別にー。だってこれすごく良いよ。絶対売れるって!」
「まぁ売れそうなのは間違いないと思うが」
「それにしても、こんな良いベッドを貰えるなんてラッキーだったね」
「そうだな。まさかうちの会社のベッドをうちで試すとは思わなかったよ」
「これも全部社長さんのおかげだねー!」

 妹は満面の笑みを浮かべて言った。だが、予想に反してベッドの反響はいまいちだった。後日、改めて会議が開かれた。

「だから、私はもっと豪華にすべきと言ったじゃないですか!」
「そうだね。いくら寝心地が良くても人目を引かなければ使ってはもらえない」
「でも、シンプルなデザインじゃないと予算が」
「そうですが、地味すぎるんですよ! もっとこう、高級感を出すべきです!」
「でも予算が足りないんだよなぁ」
「そんなことはどうでもいいのです! とにかくもっと派手にしましょう!」
「いや、無理だから。そんな金は無い」
「ぐぬぬ……!」

 ミリアが悔しそうに歯噛みする。他の面々は彼女の剣幕に押されて苦笑いをしていた。シャルが困ったように宥めにかかる。

「あの、ミリアさん。落ち着いてください。まずはいい落としどころを探りましょう」
「そ、そうですね……。すみません取り乱しました」
「いえ、大丈夫ですよ。では、皆さん何か案はありますか?」
「はい! じゃあ私が考えたのはこれです!!」

 そう言ってマーシャが提案したのは、なんとベッドではなくソファーだった。

「えっ、ベッドじゃなくてソファーなのか?」
「うん、うちで使っているソファーって、かなりいいものだからベッドにも使えると思ったんだけど、どうかな?」
「まぁ確かにいいものではあるが……」
「それならきっとベッドとして使えますよね!」
「うむ、それは問題無いのだが……」
「じゃあ決まりだね! 早速持ってきます!」
「あっ、ちょっと待ってくれ!」

 俺は慌てて止めようとしたが、既に遅かったようだ。
 しばらくして、彼女は大きな箱を持って部屋に入ってきた。

「お待たせしました! これが私の考えた商品になります!」

 彼女が持ってきたのは、ベッドとしても使える巨大なソファーだった。

「えっと、確かにこれは凄いな。座った時のクッション性も高そうだ」
「でしょう! うちで買っているのと同じものを用意したから品質には自信があるよ!」
「うーん、確かにこれならベッドにもなるが……」

 俺は頭を悩ませていた。果たしてこれでいいのだろうかと。
 確かに悪くはないアイデアだと思う。ソファでありながらベッドにもなるということで人目も惹くだろう。だが、

「君が持ってきたのは他社の製品だ。パクリやがってって怒られないかな?」
「えっ、でもこの前、良いところを真似するのは良い事だからやりなさいって社長に言われたよ?」
「えっ、マジで?」
「うん、だからこれを持ってきたんだ」
「なるほど、そういうことか……」

 俺は納得して腕を組んだ。つまり、この発想自体は素晴らしいということだ。
 だが、社長が安易なパクリだけで許すとは思えない。その先を見据えた何かが必要だろう。
 ならば後はどうやって付加価値を付けて売るかを考えることだ。

「よし、じゃあこの案を採用しよう。ただし、これをそのまま使うんじゃなく、うちらしいものにしよう」
「うちらしいものとは一体何でしょうか?」
「それはだな……」

 俺は皆を見渡してから言った。

「うちの会社の名前を出せば売れるような物にしたい」
「な、名前ですか!?」
「ああ、そうだ。例えば『我が社の製品だから安心して寝られる』とか、色々と理由付けをして売り出すんだ」
「ふふっ、アルヴィンさんは面白いことを考えますね」
「うん、この人はいつも突拍子も無いことを言うもんね。普段は地味なのに」
「よせやい。それで、何か他にいいアイディアはあるか?」

 俺は意見を求めてみたが、みんな困った顔で首を傾げているだけだった。

「うーん、難しいですね」
「そうだね、パッとは思いつかないな」
「では、こういうのはどうですか? 実はこれ、うちの社長も使ってます」
「えっ、そうなの?」
「そう言えば社長の部屋にあるのを見たような」
「トランスフォームできるとドヤッてましたよ」
「はい、だからそれを宣伝文句にしてはどうでしょうか」
「ふむ、社長直々に使っているベッドか。これはいいかもしれんな」
「でも、本当にそれで売れるの?」
「わからん。だが、物は試しだ。やってみる価値はあると思う」

 こうして、俺達はベッドになるソファーを売り出していくことになった。
 だが、これが大ヒットすることになる。

「ねぇ、聞いた? 例のベッドの話」
「ああ、あれでしょ。社長の家に置いてあるっていう」
「そうそう、それがさ、凄い人気なんだって!」
「へぇー、どんな感じなの?」
「なんか普通のソファーみたいだけど、寝転ぶとベッドに変わるんだって!」
「なにそれ、どういう仕組みなの?」
「私もよくわからないけど、とにかく凄いって噂だよ」
「ふーん、面白そう。今度見に行ってみよっかな」
「行ってらっしゃーい」

 そんな夢を見た。

「夢かよ!」

 どうやら寝心地のいいベッドで寝たせいで都合のいい夢を見てしまったようだ。
 だが、反応は上々だったので夢が現実になる日は近い。俺はそんな確信を抱いて会社に行くのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...