リーディングファンタジア ~少女は精霊として勇者を導く~

けろよん

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第15話 帰ってきたツギノ村

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 コウと一緒にあたしはツギノ村へ帰ってきた。
 盗賊にさらわれて以来久しぶりの訪問だ。まだ一日も経ってないけど、初めて訪れた時とは印象の変わったことがあった。
 前に来た時はひっそりとしていて人気のない村だったんだけど、今では村の人達の活気で賑わっていたんだ。それであたしは事件が無事に解決できたんだなと確信が持てた。
 盗賊達が去ったことで、今まで隠れていた村人達が出てきたのだろう。村は解放感に満ちている。
 雰囲気が賑やかな陽気に変わったツギノ村に踏み入ったあたし達。入口にいた村の人が笑顔で迎えてくれた。

「ツギノ村へようこそ!」

 くー、やっぱりこれがなくちゃね。あたしは感動してしまう。
 そんなあたし達のところに近づいてきた村人がいた。彼は明るい顔ではきはきとした声を掛けてきた。

「村を救ってくださった勇者様ですね。長老がぜひともお礼をしたいと仰っています。一緒に来ていただけますか?」
「もちろん!」

 あたしに断る理由なんてあるわけが無いよ。お礼は素直に受け取っておこうね。あたしの隣でコウも頷いた。
 イベントが進行する予感にあたしは足取りを弾ませて、一緒に長老の家へと向かっていった。


 村の奥の高台に、長老の住んでいそうな大きくて立派な家があった。
 あたしはゲームの知識から多分あの建物がそうなんだろうなーと思った所にどんぴしゃで案内されて、中に上がることに。
 靴を脱ぐ必要はないよね? 外国では土足でOKだと聞くし案内人は脱げとは言わなかったしゲームでも靴を脱いだ記憶は無いので、あたしは土足のまま帽子だけ脱いで上がることにする。

「お邪魔しまーす」
「?」

 何か変な顔で見られたんだけど、人の家に上がる時にお邪魔しますって言うの普通だよね?
 気を取り直して、廊下を進んだ突き当りの部屋。長老はその大きな部屋の中央に大きなテーブルの置かれた部屋で快くあたし達を迎えてくれた。

「よくぞ村を救ってくれた、勇者よ。本当にありがとう!」
「いえいえ、当然のことをしたまででです」

 ……って、あたしが答えてどうすんの! ついコウより前を歩いちゃって先に言葉を受け取っちゃったよ。
 これはあくまで勇者の旅、あたしは見守る者の立場なのだ。自分の立場を弁えて後ろに下がり。
 あたしが肘でコウの体を突くと、彼は気が付いて前に出てくれた。

「盗賊は俺達が倒しました。王国の兵士も動いてくれたのでもう何の心配もありません!」

 コウは自信たっぷりに断言した。俺達と言われてもあたしは見守って応援していただけで何もしてないけどね。コウは本当に強くなったもんだ。
 彼の言葉に、長老は感動したように瞳をうるわせた。

「本当にありがとう! あの盗賊達の不潔で臭い匂いにはみんなほとほと参っていたのです!」

 不潔で臭い匂いに参っていたのか。それでみんな臭い匂いが入らないように戸締りをしっかりして閉じこもっていたんだね。
 商売人だけは盗賊が相手でも商売をしようと店を開けていたわけだ。商魂たくましい。
 あたしは納得し、匂いが移っていないか自分の服を調べてみた。
 何とあたしの服には臭い匂いに対する耐性が付いていて、不潔で汚い匂いはシャットアウトするように出来ていた。凄いね、神様のくれた服。これならモンスターに臭い息を掛けられても安心だ。あたしは神様に感謝して。
 長老は勇者に感謝してお礼を述べた。

「ぜひ我々の歓迎を受けていってください!」

 コウが訊ねるようにあたしを見る。ここは素直に受けておこうよ。あたしが頷くとコウも頷いて、長老に歓迎を受ける旨を伝えた。
 長老の合図で家にいた人達が動き出す。
 歓迎って何してくれるんだろう。考えるあたし達の前のテーブルに次々と料理が運ばれてきて並べられていく。
 これ結構立派な料理だよ。見ただけでよだれが出そうになってしまう料理の数々。村でこんな歓迎を受けていいんだろうか。
 あたしが訊ねると、長老は快く答えてくれた。

「この村の酒場のマスターはたいした料理人でな。ぜひ君達にお礼がしたいと腕を振るってくれたのじゃ!」
「なるほど」

 あのマスターってそんなに凄い人だったのか。思えば酒場にいた盗賊達もおいしそうに騒いでたもんね。意味も無くあそこに集まっていたわけじゃないらしい。追い払って悪い事したかな。
 でも、村の人達が困ってたし、これで良いんだよね。美味しいとの評判が広まれば、この村はますます栄えていくことになるだろう。
 旨そうな料理を見るとお腹がすいてきた。
 料理の準備が整え終わり、あたし達は席についた。いただきますをして、食べ始めることにする。
 く~、どれも美味しそうでどれから食べ始めらいいのか迷ってしまうよ。あれにしようかな。決めたところで服のポケットに入れていたスマホが鳴った。
 ん~、これからいいところなのに。でも、出ない訳にはいかないよね。
 食べ始めてから取るのもお行儀が悪いし、食事を始める前に終わらせてしまおう。
 そう思って電話を取ると、相手は神様だった。彼は酷く慌てている様子だった。

「ルミナ! 大変じゃ!」
「何かあったんですか?」

 神様が慌てているなんてよっぽど大変な事態だ。その事にあたしは気づくべきだったんだろうけど、早く料理が食べたくてそっちに気を取られててわりと呑気に受けていた。
 だが、続く言葉を聞いてあたしもパニックになってしまった。

「お前の母さんが何回晩御飯が出来たからと呼んでもこないからと怒ってお前の部屋に向かっておるのじゃ! わしもうっかりして気づかんかった! すまん!」
「ええ~~~」
「もう、神様がうたたねなんてしているからですよー」

 ヘルプちゃんの声はあたしの耳には入らない。これからどうするかが重要だ。
 ここにとても豪華で美味しそうな料理があるんだけど……お母さんには逆らえません! あたしは苦渋の決断に悩み、答えを選んだ。

「ごめん、コウ君! あたし帰らないといけないから、あたしの分まで料理を食べておいて!」
「ルミナ、帰ってしまうのか? だったら俺も」

 コウはあたしがいないなら意味が無いと歓迎を断ってレベル上げに行くつもりなのだろう。あたしはそれを止めた。

「村の人の好意を受けるのも勇者の大事な仕事よ。今は親睦を深めて。後で感想を聞かせてね。じゃあ!」

 あたしは素早く家を飛び出しウインドウを開くとささっとスクロールさせて中断するを選んだ。
 帰っていくあたし。さようなら美味しそうな料理。
 自分の部屋に帰ったあたしを迎えたのは背後で荒々しく開かれたドアの音だった。お母さんは鬼の形相であたしはヒヤヒヤするしかない。
 お母さんが吠えた。鬼のように。

「いつまでピコピコやってるの! 何回もご飯だって呼んだでしょ! あんまり熱中してお母さんの言う事が聞けないようなら、そんなピコピコ取り上げてしまうわよ!」
「ごめんなさいーーー!」

 あたしは泣く泣くゲームの電源を落とし、その日はもうゲームのやる気を無くしたのだった。
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