リーディングファンタジア ~少女は精霊として勇者を導く~

けろよん

文字の大きさ
16 / 34

第16話 委員長、動く

しおりを挟む
 次の日も天気は絶好の晴れ模様。あたしの心は曇り模様。それもそのはず、今日も学校があるからだ。
 学校に行く準備を整えたあたしは朝からだるい気分で玄関を出た。

「なんでこう学校って毎日あるんだろう。週に三日ぐらいでいいのにね」
「ワン!」

 玄関先の犬小屋で、あたしの愚痴にコウは元気に答えてくれる。あたしはちょっと元気が出た。

「そうだね。君も頑張ってるんだから、あたしも元気出して行ってくるよ」

 犬のコウに見送られ、あたしは学校に向かって歩いていった。



 キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴っていつもの授業が始まる。さあ、じっと座ってこの苦行に耐え抜こう。
 学校の授業は退屈だけど、静かに座っていれば文句を言われないのが唯一の利点かな。
 あたしは先生の説明する授業の声を耳に流し、窓から外を見て考えてしまう。頭に思い描くのは向こうの世界のことだ。
 コウは何してるかな、料理は美味しかったのだろうか、これからどうしよう。考える事はいろいろあって、先生の話を聞いている余裕なんてあたしには無かったよ。だから、

「では、次のページを神崎さん読んでくれるかな。神崎瑠美奈さん!?」
「当てられてるよ」
「ひゃい!」

 友達に後ろからボールペンで突かれて当てられていることに気付き、慌てて立ち上がった。だが、いきなり当てられてどこのページかなんて分かるわけがない。

「35ページだよ」
「あ、35ページね」

 隣の席の子が親切に小声で教えてくれた。あたしはそのページから読み始め、当てられた箇所を読み終わって着席した。
 安心して息を吐いたのも束の間、先生からお小言をもらった。

「神崎さん、授業はちゃんと聞いておかないと駄目ですよ」
「はい」

 みんなに笑われてあたしには返す言葉が無かった。
 その時のあたしは気づいていなかった。みんなが笑う中でただ一人笑わずにあたしを見ていた冷静な委員長の視線に。



 もう大丈夫と思っていたら次の授業でもまた当てられた。その次の授業でも。
 その度にあたしは大慌て。のんびり考え事をしている時間が無いよ。
 何で今日はこんなに当てられるの? と思っていたら、その謎は次の授業で解けた。先生が当てる人を探している。

「それじゃあ、次の問題を~誰にやってもらおうかな。そうだ、今日は何日だから出席番号何番の~」

 どおりでよく当てられると思った。
 日付と出席番号で当てる人を決めるのは止めてください! 油断できないじゃないですか!
 もちろんあたしに先生に抗議できる権限などあるはずがなく、(向こうの世界でなら神様と同等の権限を持ってるのに)、黙って当てられた問題を解くしかないのであった。
 黒板の前に来てチョークを走らせるあたし。あたしは気づいていなかった。
 そんなあたしの背中をじっと見て、何やら採点している様子の委員長の視線には。



 キーンコーンカーンコーン!

「終わったあああ」

 今日の授業の最後を告げるチャイムが鳴った。放課後だ。何か今日はいつもより多めに当てられていつもより多めに疲れたよ。
 でも、もう終わったんだ。これから帰ってゲームが出来る。
 あたしはいつもより大きい解放感を胸に感じながら鞄に荷物を詰め込んで、足取り軽く教室を出ようとしたのだが。

「お待ちなさい! 神崎さん!」
「え!?」

 そんなあたしの前に立ちふさがった女子がいた。気の強そうで真面目な視線をぶつけてきたのはクラス委員の鷹宮高嶺(たかみや たかね)だ。
 とてもお金持ちのお嬢様という噂だが、あたしとは何も接点が無い。ゲームをたくさん持ってきて見せびらかして自慢をするわけでもないお金持ちなんて何も意味が無いよ。
 ゲームならお兄ちゃんが貸してくれるし。
 鷹宮高嶺は優雅に可憐に髪を掻きあげる仕草を見せると偉そうにあたしに言葉をぶつけてきた。

「最近のあなたの行動を見させていだだきました。はっきり言って下降線です。このままでは次のテストは危ういでしょう。わたくしはクラス委員として落ちこぼれになりそうなクラスメイトを見過ごすわけには参りません。早急な事態の改善を図らねば……」
「ごめん、お小言はもういいから」
「ちょっと、神崎さん!」

 もう、やっと授業が終わって解放されたのになぜさらにお小言を聞かなければならないのか。ただでさえ昨日お母さんから怒られてしょげているのに。
 あたしはもう今日は早く帰って向こうの世界へ行きたかったので、遮ろうとする委員長の手をさらりとすり抜けて、

「お待ちなさい! まだ何も話をしていませんわ!」
「ごめん! 話ならまた明日!」

 あたしはする気の無い返事を残して足早に廊下を去っていき、高嶺はその背中を見送って静かにポケットからスマホを取り出し電話した。

「もしもし、ヘリを用意してください。行き先はこちらで指示します」

 その時のあたしは甘く見ていたんだ。お嬢様の行動力とクラス委員の責任というものを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『ラーメン屋の店主が異世界転生して最高の出汁探すってよ』

髙橋彼方
児童書・童話
一ノ瀬龍拓は新宿で行列の出来るラーメン屋『龍昇』を経営していた。 新たなラーメンを求めているある日、従業員に夢が叶うと有名な神社を教えてもらう。 龍拓は神頼みでもするかと神社に行くと、御祭神に異世界にある王国ロイアルワへ飛ばされてしまう。 果たして、ここには龍拓が求めるラーメンの食材はあるのだろうか……。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~

☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた! 麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった! 「…面白い。明日もこれを作れ」 それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...