リーディングファンタジア ~少女は精霊として勇者を導く~

けろよん

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第18話 高嶺強襲 異世界編

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 転移の感覚が収まり、あたしは今ではもうすっかり慣れ親しんだファンタジアワールドの天界へとやってきた。
 おなじみの雲が広がっている場所。だが、慣れ親しんでいない感覚が一つ、あたしの背中に重くのしかかっていた。

「重い……」

 あたしは体を雲に押し付けられ、倒されていた。何かがあたしの上に乗っている。人一人分ぐらいの重さだ。何かと思って背中の方を振り返るとそこにいたのは人だった。

「ここは何ですの?」

 あたしの上に乗っていたのは高嶺ちゃんだった。不思議そうに辺りを見ている。この世界に連れてきてしまったんだ! 思わぬ事態にあたしはあんぐりと口を開けてしまった。

「ようこそ来ていただけました、ルミナ様。今日も世界を導いていただけるのですね……ほわっ、誰!?」

 出迎えてくれたヘルプちゃんもびっくりした顔をした。高嶺ちゃんの標的が変わった。彼女は素早くあたしの背中から降りると、(あたしの背中が軽くなった。助かった)、驚くヘルプちゃんの背後へと回り込み、その背中に生えている天使の翼を撫でたんだ。さすさすと。

「うっひゃー、何ですーーー!」

 敏感な部分だったのかヘルプちゃんが今まで見たことも無い反応を見せている。可愛い。今にもとろけそうだ。高嶺ちゃんも今までに見た事の無い興奮した顔を見せていた。

「何ですの、この羽は。もしや本物!? ここはファンタジーの世界? 異世界は実在したというんですの!?」

 何やら聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたけど、今はそれどころではない。ヘルプちゃんは泣きべそを掻いた子供のように逃げ出した。

「ふええ、神様ー」
「逃げられましたか」

 目で追う高嶺ちゃん。あたしは彼女が次なる迷惑行為を起こさないうちに訊ねることにした。

「高嶺ちゃん、異世界を知っているの?」

 そう、彼女のさっきの言葉。まるで異世界を知っているかのような口ぶりだった。
 待つこと数秒。高嶺ちゃんの返した言葉は肯定だった。

「ええ、わたくし達の暮らす世界とは違う別の世界があるかもしれないという研究は前々から行われていましたの……こちらの事はいいですわ。神崎さん、話していただけますね」
「うん……」

 あたしには断る事は出来なかったよ。高嶺ちゃんの瞳は真っすぐで、あたしに断る選択を与えなかった。
 それにもうここへ連れてきてしまったんだし、ゲームのような世界の話だもの。ゲームの話を友達にするような物だよね。
 あたしにはこの世界の秘密より、ちゃんと人に説明出来てるかの方が気になったよ。
 あたしの口下手な説明を高嶺ちゃんは最後まで黙って聞いてくれた。

「つまりあなたは放課後ずっとこの世界に来ていたんですのね。勇者の方を導くために」
「うん、晩御飯の時間には帰っていたけどね」
「そうだったんですのね……」

 高嶺ちゃんは思案する。彼女はどう判決を下すのだろう。あたしは裁判の席に立たされた被告人みたいに緊張する。
 やがて彼女の下した判決はあたしのびっくりするものだった。

「では、あなたの旅に同行してわたくしも拝見させてもらいましょう」
「え!? あたしを連れ戻して勉強させに来たんじゃないの?」

 あたしはてっきり高嶺ちゃんはそのために来たんだと思い、すぐに鬼の委員長に連れられてUターンする事を覚悟していたのだが。
 高嶺ちゃんは呆れた目であたしを見た。

「あなたに勉強させるにしても、どのみちあなたのやっている事を知らないと、あなたを勉強に集中させることは出来ないでしょう。それにわたくしも異世界というものに興味がありますしね」
「ふーん、そうなんだ」

 真面目なお嬢様のように見えて高嶺ちゃんもゲームが好きなんだろうか。ただ勉強させたがるだけのお母さんとは違うみたい。
 委員長と言ってもあたしと同じ年の女の子だしね。あたしはちょっと高嶺ちゃんに興味が湧いたよ。もうちょっと一緒にいてもいいかな。
 そんな印象を与えた彼女が訊ねてくる。

「では、ともに参りましょうか。まずはどこから参るのです?」
「えっとね、その前にまずは着替えないとね」
「着替えですか?」
「うん、ゲームの世界ではゲームの恰好をしないとね。現実の服じゃ冴えないよ」

 あたしは手早く自分のコマンドを操作して、もうすっかり着慣れたおなじみの魔法使いの服へとチェンジした。

「まあ」

 高嶺ちゃんは驚いたように目をパチクリ。マジックのような光景にびっくりしたんだろう。あたしにとってはこんなのはもう普通なんだけどね。
 あたしはこの世界の先輩として自信が付いてきた。後輩にはしっかり教えてやらないとね。

「高嶺ちゃんの服はまだ用意されてないから。神様に用意してもらおう」
「神様がいらっしゃるんですの?」
「ええ、いるんです。この世界には」

 あたしは自慢の神様の姿を探した。今はどこにいるんだろう。
 雲の世界を左から右へと眺め渡し、視線を中央へと戻した。神様いた。なぜか椅子の後ろに隠れていて、傍にはヘルプちゃんもいた。
 あたし達の視線に気が付いたヘルプちゃんが神様の服を引っ張った。椅子の陰に隠れようとする神様を引きずり出そうとしている。

「ほら、神様出番ですよ。あの子達が見てますよ。行ってきてらしてください」
「大丈夫なのか? わしの全く知らん気の強そうな女じゃぞ」
「平気ですよ。ルミナ様がいるんですから」
「…………何やってるんだか」

 あたしは二人の元に近づいていって、椅子の後ろに強引に隠れようとする神様の襟首を掴んで思いっきり引っ張った。

「ほら、神様出ろーーーー!」
「うわああ! 何をするんじゃーーー」

 初めて会った時にヘルプちゃんがやっていたことをあたしは実践したのだ。それだけの事なのにヘルプちゃんはやっちまったなーって顔をしていた。
 神様はゴロゴロと転がって、高嶺ちゃんの足元で伸びて止まった。高嶺ちゃんは彼を見下ろした。ゴミを見る目をして踏むんじゃないかとあたしは危惧したが、彼女はふんわりと礼儀正しく挨拶した。

「初めまして、神様。瑠美奈さんのクラスで委員をしております鷹宮高嶺と申します。いつも瑠美奈さんがお世話になっています」
「いや、こちらこそ。いつもルミナには助けてもらっておる」

 高嶺ちゃんが下手に出た事で神様は自信が付いたようだ。立ち上がって照れくさそうにしている。高嶺ちゃんは可愛いからなあ。ヘリで追いかけてくるような人なんだけど。知らないって幸せ。 
 あたしはこの世界に来たばかりで不慣れだろう高嶺ちゃんの代わりに話を進めることにした。この世界ではあたしが先輩だからね。(強調)

「高嶺ちゃんにもあたしのようにこの世界の服を与えて欲しいんです」
「それは構わんが、そのままでも可愛いと思うがのう」

 確かに高嶺ちゃんは現実世界のあたしの部屋着よりお洒落だけどさ。それとこれとは話が別よ。
 ゲームの世界ではゲームの格好をしなくちゃね。そうでないと悪目立ちしてしまう。て言うより現実がチラついてゲームの世界に集中できない。
 だって時代劇に現代の物が出てきたら変でしょう? だからゲームになりきらないとね。
 神様は自分の意見に固執することなく、すぐに話を進めてくれた。

「それでお主はどのような恰好を望む? ルミナは魔法使いを選んだが」
「それではヒーラー職をお願いしますわ」
「ヒーラー職ということは僧侶じゃな! むん!」

 さすがは高嶺ちゃん。すぐに順応してゲームの言葉で話を進めた。実はゲームを持っているお嬢様なのかもしれない。
 神様が杖に力を込めて唸ると、高嶺ちゃんの体は不思議な光に包まれて、彼女はゲームで見慣れた僧侶の姿になっていた。

「不思議ですわね、この感じ。特別な能力に目覚めた感じがしますわ」
「恰好と同時に職業も紐づけておるからな。僧侶は回復魔法が使えるぞ」

 高嶺ちゃんの能力はあたしもステータスウインドウを開いて確認した。神様の代理としての権限を持っているあたしはこんなことぐらいは簡単に出来る。
 でも、一つ不思議に思える事があった。高嶺ちゃんのレベルは今のコウと同じぐらいであたしのような『-』では無かったのだ。ステータスもそれなりだ。
 その事をヘルプちゃんに訊ねると、

「神様の代理として特別な権限を持っているのはルミナ様だけですから。みんなに神様の権限なんて与えていると世界が混乱してしまいますよ」

 言外に信頼しているのはあたしだけといった空気を感じてむずがゆくなるあたし。
 神様の意見は違った。

「お主も欲しいのかの。リーダーが二人になってしまうが」

 太っ腹な申し出だ。高嶺ちゃんはもらうのかなと思っていたが、彼女はそれを断った。

「わたくしはこのままで構いませんわ。特別扱いされるのは好きではありませんの」
「お主がそう言うのなら、仕方ないの」

 神様としては良い所を見せたかったようだが、いらないと言われた物を無理して与えることはしなかった。
 あたしは不思議に思って高嶺ちゃんに訊ねた。

「高嶺ちゃんは特別な力、いらないの?」
「ええ、特別扱いなら向こうで散々されてますから。あなたに鷹宮家の令嬢という立場が分かりますか? みんなが媚びへつらってわたくしの顔色を伺いますのよ。ああいうのはうんざりなんです」
「ああ、なるほどね」

 みんなに特別扱いされて注目される。
 それはまさしく神の使いとして降臨した精霊という立場になったあたしの恐れていた事だったので、その気持ちはとてもよく分かった。
 準備が出来て、あたしと高嶺ちゃんは一緒に地上へ向かうことにした。転送ポータルに向かって歩きながら、あたしは彼女に訊ねた。

「あたしは魔法使いが好きだったんだけど、高嶺ちゃんはヒーラー職が好きだったんだね」
「ええ、ヒーラー職はパーティーを支える生命線ですから。そんな立場を他人に任せるなんて嫌じゃないですか。馬鹿はただ馬鹿なりにモンスターを殴ってくれていればいいのですわ」
「馬鹿って……」

 そりゃ高嶺ちゃんが頭が良いんだよ。
 人それぞれ色んな考え方があるんだなと思いながら、あたし達は地上へ向かった。
 ツギノ村から再びあたし達の冒険が始まる。
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