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第29話 サード王国の異変
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あたしはいつものように天界にやってきた。何か普通に一人で来るのって随分と久しぶりな感じ。
最近は高嶺ちゃんやお兄ちゃんを連れてきて、神様とヘルプちゃんをびっくりさせてたもんね。
今日は久しぶりに落ち着いて会えるだろうと思っていたら、二人は心配そうな顔を向けてきた。
「瑠美奈、今下界の方では大変な事になっておるようじゃな」
「ヘルプちゃんのヘルプが欲しい時はいつでもおっしゃってください」
「ありがとう。でも、もう大丈夫だから。あたし、立て直してきます」
「ほう、さすが心強いの」
「神様ももっと頑張ってくださいよー」
「じゃあ、行ってきます」
あたしは優しい二人に見送られ、いつもの魔法使いの服を装備して転送ポータルに乗って地上へ向かった。
この時のあたしは大きな勘違いをしていた。
神様とヘルプちゃんの言っていた大変な事。その深刻な事態に気付くのはこれからだった。
「どこ、ここ」
あたしの降り立った場所は知らない場所だった。いつもなら中断した場所に来るんだけど……
いや、印象が変わったからそう見えただけで同じサード王国の町だった。
ゲームでも色彩が変わったりキャラの配置が換わったりすると別の場所に見えることがあるけど、今もちょうどそんな感じだった。
現在のサード王国は空に闇の霧が漂い、辺りが不気味に薄暗くなって人の姿が無かった。
「まるで魔界の町みたい」
「ルミナ! 来てくれたんだ!」
「コウ!」
呑気に感想を呟くあたしのところにコウが来てくれた。彼は輝くような笑顔をしていたけど、あたしの沈黙する姿を見てその笑顔を消しちゃった。
うう、失敗しちゃったよ。ここでいつものように接していれば喧嘩をした次の日の斎藤君と高島君のように仲直りが出来たのに。
あたしは馬鹿だ。でも、何とかしないと。あたしにとっては今の変わった町の状況よりもコウとの関係の方が深刻だよ。
でも、どう声を掛けたらいいか分からない。お互いに黙ってしまう。先に動いたのはコウだった。
さすがは勇者だ。あたしは改めて感心して優しい気持ちになれた。
「ごめん、ルミナ。俺、助けてもらったのに自分の無力さを棚に上げて……俺、ルミナに認められる勇者になりたかったんだ」
「ううん、悪かったのはあたしの方。もっと状況をよく見て判断してコウを信じれば良かったね」
「いつもありがとう、俺を導いてくれて」
「いつもありがとう、コウは立派な勇者だよ」
あたし達は微笑みを交わし合って仲直りした。これで良かったのだろうか。
あたしには友達同士の付き合いなんて分からないけど、いつまでもお互いに悩んでいても仕方がないのは確かだ。
気持ちを前に持って行こう。いつまでも路上でこうしているわけにはいかないね。
今のサード王国の状況はただ事ではない。コウに何かあったか訊ねると、彼はすでに状況を掴んでいた。
「魔王の幹部が国に攻めてきて城をのっとったんだ。城は閉ざされて入れなくなってしまった。王様達は何とか逃れて町の隠れ家に避難したよ」
「なら、王様達に会いに行こう。きっと下水道か何か城に入れる方法を教えてもらえて冒険が進行できるよ」
あたし達は目的を確認しあって、王様達の避難した町の隠れ家へと向かった。
空に暗黒の霧が漂い、人々の姿の見えなくなったサード王国。
隠れ家はその王国の片隅にある家だった。魔物に支配されようとしているのにこんな近くにいて大丈夫なのか気になるが、灯台下暗しというものかもしれない。
ツギノ村まで避難すると王国を取り戻す戦いに行くのに苦労しそうだし、海底トンネルは状態異常持ちのモンスターがたくさんいて危険だし、逆に大陸側に逃げるには山が邪魔をする。
そういった事情もあるのかもしれない。
あたしが考えている間にコウが扉の前で合言葉を言って中に入れてもらえた。
隠れ家の中では城の人達が疲れ切った表情でいて、その中に王様とサカネ姫の姿もあった。
コウがわざと明るさを出そうと元気に声を掛けにいった。
「もう大丈夫です、王様、サカネ! ルミナが来てくれた!」
「ええと、来ちゃいました」
うう、注目されるの恥ずかしいよ。何て言っている場合じゃないね。あたしは魔法使いの杖をぎゅっと握りしめて前を見た。
コウの明るい発言に周囲の落ち込んだ空気に光が灯ったかのようだった。
「おお、ルミナ! 姫を助けてもらったばかりだというのにこのような事になって面目ない」
「この国で何があったんですか?」
「実はな……」
まずは状況を整理だよ。あたしが訊ねると王様はこの国がこうなったいきさつを教えてくれた。
あの日、救出された姫を城のみんなは喜んで迎えた。だが、その喜びも束の間、いつの間にか忍び込んでいた魔王の幹部ネクロマンサーが姿を現したのだ。
ネクロマンサーは死者を操る。サンバン谷のトロルに殺された兵士の死体か何かに憑依して操り、城に忍び込んだのだと推測された。
いつもの警備態勢の敷かれたサード王国ならこの侵入を許さなかっただろう。怪しい者はネズミ一匹通さず、兵士がネクロマンサーの操っている死体だと見破れたはずだ。
だが、この日はみんなが姫を救出できたことを喜んで浮かれていた。警備を担当していた兵士達も喜びを交わし合っていた。
気が緩んだところを突かれてはいかに大国といえどどうしようも無かったのだ。
何とか王様達を避難させることには成功したものの城門は閉じられてしまい、ネクロマンサーは城の奥でこの国に闇を集める儀式を始めてしまった。
このままではサード王国に魔物達が呼び集められ、支配されてしまうだろう。何とか城に入ってネクロマンサーを倒さなければならない。
話を要約するとざっとこんなところだった。
「理解できたかな?」
王様からの確認の言葉。
ここでいいえを選ぶと話が冒頭からループする場面なので、はいと頷いておこう。
さて、冒険を進めるには城に入らないと。ゲームだと下水道みたいな道がある場面だよね。
あたしは城に侵入する方法を訊ねるのだが、王様は頭を抱えるばかりだった。
「無理じゃ。正面の扉から入るしか道は無い。下水道を通って入れるなんて誰が言ったのじゃ? 狭くて暗いし普通に鉄格子とかしてあるじゃろ。あんなところを通れるのは薄汚れたネズミぐらいじゃ」
「わたくし達は逃げるのに精一杯で玄関の門の鍵まで持ってくる余裕は無かったのです」
「そっか……」
ともかく道が無いなら仕方ない。とりあえず城門の前まで行って様子を見に行くことにした。
観察することで何か分かるかもしれないし、じっとしていても始まらない。
イベントはイベントの始まるマスまで行かないと進行しないのだから。
あたし達が城の前まで行くことを伝えるとサカネ姫が名乗り出た。
「城に行くならわたくしもお伴させてください。わたくしは回復魔法が使えます。お邪魔にはなりませんわ」
「それは願ったりだけど、いいの?」
回復魔法の重要性は海底トンネルで高嶺ちゃんに教えられた。
ヒーラー職が来てくれるのはとても嬉しいんだけど、救出できたばかりのお姫様を連れて行っていいんだろうか。
王様に確認を取ると、彼は快く頷いた。
「うむ、こんなことぐらいしかお役に立てなくて申し訳ないが……サカネ、勇者様達の邪魔にならないようにするのだぞ」
「はい、お父様。コウさん、ルミナさん、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくな、サカネ」
「サカネ姫……ううん、もう仲間だからサカネちゃんって呼ぶね。よろしくね」
「はい!」
こうしてサカネ姫を連れていくことになったあたし達。隠れ家を出てネクロマンサーに支配されたという城の城門前へと向かった。
そこでは何が待っているのだろうか。
最近は高嶺ちゃんやお兄ちゃんを連れてきて、神様とヘルプちゃんをびっくりさせてたもんね。
今日は久しぶりに落ち着いて会えるだろうと思っていたら、二人は心配そうな顔を向けてきた。
「瑠美奈、今下界の方では大変な事になっておるようじゃな」
「ヘルプちゃんのヘルプが欲しい時はいつでもおっしゃってください」
「ありがとう。でも、もう大丈夫だから。あたし、立て直してきます」
「ほう、さすが心強いの」
「神様ももっと頑張ってくださいよー」
「じゃあ、行ってきます」
あたしは優しい二人に見送られ、いつもの魔法使いの服を装備して転送ポータルに乗って地上へ向かった。
この時のあたしは大きな勘違いをしていた。
神様とヘルプちゃんの言っていた大変な事。その深刻な事態に気付くのはこれからだった。
「どこ、ここ」
あたしの降り立った場所は知らない場所だった。いつもなら中断した場所に来るんだけど……
いや、印象が変わったからそう見えただけで同じサード王国の町だった。
ゲームでも色彩が変わったりキャラの配置が換わったりすると別の場所に見えることがあるけど、今もちょうどそんな感じだった。
現在のサード王国は空に闇の霧が漂い、辺りが不気味に薄暗くなって人の姿が無かった。
「まるで魔界の町みたい」
「ルミナ! 来てくれたんだ!」
「コウ!」
呑気に感想を呟くあたしのところにコウが来てくれた。彼は輝くような笑顔をしていたけど、あたしの沈黙する姿を見てその笑顔を消しちゃった。
うう、失敗しちゃったよ。ここでいつものように接していれば喧嘩をした次の日の斎藤君と高島君のように仲直りが出来たのに。
あたしは馬鹿だ。でも、何とかしないと。あたしにとっては今の変わった町の状況よりもコウとの関係の方が深刻だよ。
でも、どう声を掛けたらいいか分からない。お互いに黙ってしまう。先に動いたのはコウだった。
さすがは勇者だ。あたしは改めて感心して優しい気持ちになれた。
「ごめん、ルミナ。俺、助けてもらったのに自分の無力さを棚に上げて……俺、ルミナに認められる勇者になりたかったんだ」
「ううん、悪かったのはあたしの方。もっと状況をよく見て判断してコウを信じれば良かったね」
「いつもありがとう、俺を導いてくれて」
「いつもありがとう、コウは立派な勇者だよ」
あたし達は微笑みを交わし合って仲直りした。これで良かったのだろうか。
あたしには友達同士の付き合いなんて分からないけど、いつまでもお互いに悩んでいても仕方がないのは確かだ。
気持ちを前に持って行こう。いつまでも路上でこうしているわけにはいかないね。
今のサード王国の状況はただ事ではない。コウに何かあったか訊ねると、彼はすでに状況を掴んでいた。
「魔王の幹部が国に攻めてきて城をのっとったんだ。城は閉ざされて入れなくなってしまった。王様達は何とか逃れて町の隠れ家に避難したよ」
「なら、王様達に会いに行こう。きっと下水道か何か城に入れる方法を教えてもらえて冒険が進行できるよ」
あたし達は目的を確認しあって、王様達の避難した町の隠れ家へと向かった。
空に暗黒の霧が漂い、人々の姿の見えなくなったサード王国。
隠れ家はその王国の片隅にある家だった。魔物に支配されようとしているのにこんな近くにいて大丈夫なのか気になるが、灯台下暗しというものかもしれない。
ツギノ村まで避難すると王国を取り戻す戦いに行くのに苦労しそうだし、海底トンネルは状態異常持ちのモンスターがたくさんいて危険だし、逆に大陸側に逃げるには山が邪魔をする。
そういった事情もあるのかもしれない。
あたしが考えている間にコウが扉の前で合言葉を言って中に入れてもらえた。
隠れ家の中では城の人達が疲れ切った表情でいて、その中に王様とサカネ姫の姿もあった。
コウがわざと明るさを出そうと元気に声を掛けにいった。
「もう大丈夫です、王様、サカネ! ルミナが来てくれた!」
「ええと、来ちゃいました」
うう、注目されるの恥ずかしいよ。何て言っている場合じゃないね。あたしは魔法使いの杖をぎゅっと握りしめて前を見た。
コウの明るい発言に周囲の落ち込んだ空気に光が灯ったかのようだった。
「おお、ルミナ! 姫を助けてもらったばかりだというのにこのような事になって面目ない」
「この国で何があったんですか?」
「実はな……」
まずは状況を整理だよ。あたしが訊ねると王様はこの国がこうなったいきさつを教えてくれた。
あの日、救出された姫を城のみんなは喜んで迎えた。だが、その喜びも束の間、いつの間にか忍び込んでいた魔王の幹部ネクロマンサーが姿を現したのだ。
ネクロマンサーは死者を操る。サンバン谷のトロルに殺された兵士の死体か何かに憑依して操り、城に忍び込んだのだと推測された。
いつもの警備態勢の敷かれたサード王国ならこの侵入を許さなかっただろう。怪しい者はネズミ一匹通さず、兵士がネクロマンサーの操っている死体だと見破れたはずだ。
だが、この日はみんなが姫を救出できたことを喜んで浮かれていた。警備を担当していた兵士達も喜びを交わし合っていた。
気が緩んだところを突かれてはいかに大国といえどどうしようも無かったのだ。
何とか王様達を避難させることには成功したものの城門は閉じられてしまい、ネクロマンサーは城の奥でこの国に闇を集める儀式を始めてしまった。
このままではサード王国に魔物達が呼び集められ、支配されてしまうだろう。何とか城に入ってネクロマンサーを倒さなければならない。
話を要約するとざっとこんなところだった。
「理解できたかな?」
王様からの確認の言葉。
ここでいいえを選ぶと話が冒頭からループする場面なので、はいと頷いておこう。
さて、冒険を進めるには城に入らないと。ゲームだと下水道みたいな道がある場面だよね。
あたしは城に侵入する方法を訊ねるのだが、王様は頭を抱えるばかりだった。
「無理じゃ。正面の扉から入るしか道は無い。下水道を通って入れるなんて誰が言ったのじゃ? 狭くて暗いし普通に鉄格子とかしてあるじゃろ。あんなところを通れるのは薄汚れたネズミぐらいじゃ」
「わたくし達は逃げるのに精一杯で玄関の門の鍵まで持ってくる余裕は無かったのです」
「そっか……」
ともかく道が無いなら仕方ない。とりあえず城門の前まで行って様子を見に行くことにした。
観察することで何か分かるかもしれないし、じっとしていても始まらない。
イベントはイベントの始まるマスまで行かないと進行しないのだから。
あたし達が城の前まで行くことを伝えるとサカネ姫が名乗り出た。
「城に行くならわたくしもお伴させてください。わたくしは回復魔法が使えます。お邪魔にはなりませんわ」
「それは願ったりだけど、いいの?」
回復魔法の重要性は海底トンネルで高嶺ちゃんに教えられた。
ヒーラー職が来てくれるのはとても嬉しいんだけど、救出できたばかりのお姫様を連れて行っていいんだろうか。
王様に確認を取ると、彼は快く頷いた。
「うむ、こんなことぐらいしかお役に立てなくて申し訳ないが……サカネ、勇者様達の邪魔にならないようにするのだぞ」
「はい、お父様。コウさん、ルミナさん、よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくな、サカネ」
「サカネ姫……ううん、もう仲間だからサカネちゃんって呼ぶね。よろしくね」
「はい!」
こうしてサカネ姫を連れていくことになったあたし達。隠れ家を出てネクロマンサーに支配されたという城の城門前へと向かった。
そこでは何が待っているのだろうか。
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