沙耶へ

けろよん

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第5話 夜の風景

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 山の向こうに夕日が沈み、時刻は夜になった。空にはぽっかりと満月が浮かんでいる。
 みんな風呂から上がり、一緒に居間でテレビを見ることにする。パジャマ姿になってほかほかの沙耶が気分よくリモコンを手にする。
 その横では祖父が与えた大きなシャツをまるでシャツに着られるような感じで着て座っている飛鳥がじっと沙耶の手付きを眺めている。どうせ気ままな一人旅だからと彼女はそのままこの家に泊まることに決めたのだった。

「さあ、ビビリアの泉の時間よ。ポチっとな」

 妙な声をあげて沙耶がテレビを付ける。彼女が去年懸賞で当てたプラズマテレビはこの古い田舎の家にあって場違いとも思える豪華なハイテクの雰囲気を放って見える。

「ちょっと待ってよ。僕は水曜エンタテイメントが見たいんだけど」
「お姉ちゃんに逆らわないの!」

 言われて思わず次郎太は鼻白む。

「飛鳥ちゃんもビビリアで良いよね」

 いつの間にかちゃん付けになってる飛鳥に沙耶が訊く。見た目では飛鳥の方が年上だが二人は気が合うのかもしれない。気を悪くするでもなく答える。

「ビビリアって?」
「明日使えるちょっとした怖い話を教えてくれる番組よ」
「明日使えるんだ。うん、じゃあわたしもビビリアでいいよ」

 少女二人にそう言われては次郎太に立つ瀬はなかった。こんな時に頼りにする祖父は疲れたのか気を利かせてくれたのかさっさと部屋を出てしまっていた。
 ああ、今日の水タメは僕の好きな青函箱立シリーズなのに。
 まあ、明日使える怖い話を扱ったビビリアも面白いからよしとするか。
 と、テレビを見ながら思う次郎太だった。



 テレビが終わり、三人でトランプやボードゲームをやって遊び、深夜になって寝ることにする。
 次郎太が自分の部屋で布団を敷いていると、沙耶がやってきた。

「次郎太、お話しよ」
「話?」
「日常にあるちょっと怖い話」
「それってさっきテレビでやってた話?」
「ううん、もっと前にやってたちょっとした話にあたしがアレンジを加えた話だよ。聞きたくない?」

 それってもう日常にない話ではと次郎太は思ったが、沙耶が話したそうにしているので聞くことにした。

「うん、いいよ。飛鳥ちゃんは?」
「もう寝てる」
「ふーん、そう」

 少し残念だったが、寝てしまったならしょうがない。沙耶は音を立てないように襖を閉めると次郎太の隣に座った。

「飛鳥ちゃんがいないと物足りない?」

 いたずらっぽく訊いてくる。

「え? そんなことないけど。……あ、いや。そりゃ、二人より三人の方が楽しいからさ。いてくれた方が僕は嬉しいけどね」

 反射的に否定しようとしてしまったことを慌てて肯定に持っていく。
 沙耶は不満気に頬を膨らませた。

「もう、次郎太の浮気者!」

 思いっきり足をつねられる。

「いてて! ちょ、沙耶姉!」
「それでは日常にあるちょっと怖い話を始めます」

 間髪入れずに沙耶は次郎太をつねる手を離すとおもむろに恐い話を切り出した。その話はちょっとどころか、とんでもなく怖かった。
 沙耶姉……演技派だよな……
 次郎太は震えながらもただ黙って聞き役に回るのだった。
 


 どれほどの時が経過したのだろうか。あまりの怖さにそれすらも定かには出来なかった。
 いつの間にか怖い話は終わり、沙耶は寝てしまっていた。僕の布団なのに。夢の中で話を続けているのかまだ何かぶつぶつと呟いている。
 次郎太がそっと頭をなでてやると寝言は純粋な寝息へと変わった。
 それにしても沙耶姉の話は怖かった。昔からの付き合いでこちらの弱点は知り尽くしているだろうし、毎週怖い話を見てきたこれも成果なのだろう。
 怖くなったせいかトイレに行きたくなる。今は一人では歩きたくないけど……しょうがない。
 次郎太は眠っている沙耶にそっと布団をかけてやって廊下に出た。
 トイレに向かって慎重に足音を忍ばせて歩いていく。電気は消したままだが、窓から差し込む月明かりが仄かに明るく、歩くのに支障は無い。あの角を曲がって少し進めばそこがトイレだ。青白い廊下を歩いていく。

「……ぅ」
「?」

 ふと誰かの声が聞こえた気がして足を止めた。幽霊のすすり泣き……ではない。 ビビリアと沙耶の話の影響か、なんでもないことを怖いことに結びつけるのは良くない傾向だと次郎太は思う。
 そっと陰から覗くと、飛鳥が誰かと電話をしているのが見えた。薄暗くて分かりにくいけど多分そうだ。

「ええ、見つけたわよ。報酬の方は分かってるんでしょうね」

 そっとほくそ笑むように話す彼女が何故か怖く見える。これもビビリアのせいだな。気をしっかり持たないと。
 こちらの気配に気づいたのか、飛鳥はちらりと目線を向ける。次郎太は思わず反射的に隠れてしまった。

「じゃあ、明日ね。楽しみにしてるからね」

 受話器を置いた。ガチャリと立てられる音が妙に不気味に感じられる。彼女が近づいてくる。
 次郎太はどうしようかと迷ったけれど、逃げるのも不自然と思って話しかけることにした。

「飛鳥ちゃん、こんな夜中にどうしたの?」
「次郎太君なの?」

 飛鳥が軽く目を見開いて立ち止まる。そして、大きく安堵のため息をついた。

「なんだ、お化けかと思っちゃったじゃないの。安心した」

 古い建物の暗がりで、いきなり現れて驚かせてしまったのかもしれない。次郎太は安心させるように穏やかに訊いた。

「どこかに電話してたみたいだけど」
「うん、目が覚めちゃってね。友達の家へかけてたの」
「友達いたんだ」

 一人で旅をしているというから友達と言われてもうまく結びつかなかった。飛鳥はあからさまに不機嫌な感じに顔をしかめた。

「いるわよ、そりゃ。わたしのことなんだと思ってたわけ?」
「あー、うん。そうだよね。飛鳥ちゃんぐらい可愛いと友達だっているよね」
「か、可愛いって。何か誤解されてるような気がするなあ。本当にただの友達だから……って言うか仕事仲間って感じ?」

 明るく笑って言う。その説明に次郎太はなんとなく納得が言った。

「それって例の殺し屋の仕事の?」
「うーん……そうよ。だからこのことは他の人には内緒にしててね」
「うん、分かったよ」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」

 それだけ言って軽く手を振って別れた。彼女もいろいろわけありなんだろうな。次郎太は見送ってトイレのことを思い出してかけこんだ。



 ――広大な宇宙の中、深遠の闇に潜むものがいる。きらめく星空の中に、そこだけ鋏で切り取ったかのようにある黒い存在がうごめく。
 バチバチと輝く火花を散らし、強く邪悪な意思をたぎらせて。遠く星々の向こうに浮かぶ青い星を捉える。

「そこにあるというのか、我が破壊の意思を満たすに足るものが。ククク」

 暗闇を抜け、巨大な何かの存在が長い尾を引いて飛んでいく。さながら星空を真っ直ぐに突き進む輝く彗星のごとく。

「宇宙を震撼させるものは三大脅威などと呼ばれる存在などではない。このわらわこそがみなを震え上がらせ、そして支配するのだ!!」

 進んでいく。地球と呼ばれる星へ向かって――
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