沙耶へ

けろよん

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第14話 強襲ベルゼエグゼス

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 黒い影をまとった沙耶と同じ姿をした者が冷めた金属質の廊下を飛んでいく。ベルゼエグゼスの意思を宿して少女の顔が笑みを形作る。

「む?」

 彼女は前方を歩く三体のロボットの姿を認めた。向こうも気づいたようだ。振り返って銃を構えてくる。こちらを異分子とでもみなしたのだろう。ベルゼエグゼスは鼻で笑う。
 それもまあいい。今のわらわには運動の相手が必要だ。

「ふん、遅いわ!」

 飛び抜けざま両手に黒いエネルギーをまとった剣を形作り、その腕を振るう。斬り裂かれたロボット達は一瞬のうちにばらばらになり、黒と赤の炎に包まれて崩れ落ちていった。

「ゼツエイの奴め、兵器の開発に手を抜きすぎではないのか」

 異変が伝わったのか、ロボット達が集まってくる。

「ふっ、質が足らぬのならせめて数に期待するか!」

 無意味な破壊が始まる。なんの利益にもならない。ただ己の欲望のままにベルゼエグゼスは飛ぶ。



 その様子はゼツエイに知らされる。空中に浮かんだモニターに廊下の様子が映し出されている。

「何をやっているのだあいつは」

 だが、そんなことはもうどうでもいい。雑魚のロボットなどいくらでも作れる。ただ一つの最高傑作さえあればそれでいい。ゼツエイはすぐにその騒動を気にしなくなった。
 沙耶は今、目の前の機械で調整中だ。大小多くのケーブルでつながれた冷めたマシン。それ自体が息吹をもって沙耶を包んでいるようにも思える。
 肩の傷が塞がれ、戦闘システムを起動するためのプログラムが注がれる。
 コンピューターは凄い数値を弾き出している。それはゼツエイの想像以上だった。この星で得た何らかの経験が作用しているのかもしれない。
 虚無の穴に消えた彼女が何故この星にいたのか、それからどう過ごしていたのか。
 それはゼツエイの知るところではなかったが、この良好な結果の前では何の意味もないことだ。沙耶とてただの人形ではない。何かがあるとすればそれは運命というものだろう。

「そう、沙耶。お前は特別なのだ」

 起動の条件が整い、今までに沙耶のために改良に改良を重ねてきた戦闘プログラムが動き出す。
 最早ベルゼエグゼスすら私の目的には必要ない。私と沙耶がいればそれでいい。
 ゼツエイは嬉々として作業に没頭する。こんな感情を抱いたのは随分と久しぶりのことだった。



 次郎太は慎重に足音を忍ばせながら廊下を歩いていく。運がいいのか今のところ何の問題も起きてはいない。
 だが、気を抜くわけにはいかない。前方の先を凝視する。向こうの角を曲がれば何か見えるだろうか。
 歩みを進め、その通路が交差した場所にたどりつく。そこでロボットと鉢合わせをした。目が合ってしまう。
 そこで驚くよりも早く爆発が起こって次郎太は尻餅をついて倒れた。焦げた機械の部品が廊下の床に転がっていく。
 見上げると、赤い炎の上に浮かんでいる沙耶の姿が見えた。何故か色が違って見えるが、何故飛んでいるのかも知らないが、あの姿は間違いなく沙耶だ。
 次郎太は叫ぼうとするが、とっさに息を吸い込んだことで炎の熱と煙で声が詰まって出なかった。
 沙耶は次郎太を見ることもなく四方の通路に目を巡らせると、行く方向を決めたのかあっという間に飛んで去っていってしまった。
 炎にまぎれていて気づかなかったのだろうか。それが悲しい。

「沙耶……姉。げほっげほっ」

 吹きくる煙から身を離し、自分のうかつさを呪いながら次郎太はロボットの残骸をかわして沙耶の去った方向へと急いでいった。



 巨大な宇宙船の廊下。飛鳥と兵衛門はすでに何度目になるか分からないロボットの残骸を見送って廊下を歩いていく。
 兵衛門は周囲の状況に注意を払いつつ、目の前を歩く少女の背中に声をかけた。

「随分と長い廊下じゃの」
「ここって無駄に広いからね。ゼツエイ博士ったらわたしに迎えも寄こさないで、よっぽど沙耶ちゃんに夢中なのかしら」
「ひょっとしてこのロボットの残骸は沙耶がやったのか?」
「次郎太君がやったのかもしれないわよ」
「冗談を言わんでくれ。次郎太にこれほどのことは出来んわい」
「沙耶ちゃんになら出来ると思ってる?」
「……」
「冗談よ」

 飛鳥は笑いかけて止まる。兵衛門も何かを感じた。周囲に気を巡らせる。

「何かしらこの空気」
「危ない!」

 それを察知したのは兵衛門の方が早かった。とっさに飛鳥の頭を押さえ込み廊下に押し倒す。兵衛門もそのまま一緒に伏せると、頭上を紫のレーザーが飛んでいった。周囲を震わせ稲光が駆け抜けていく。
 見送って飛鳥は兵衛門の顔を振り返った。

「驚いた。まさか本当にわたしに手を出してくるなんて。危うく銃を抜いてあなたを撃ち殺してしまうところだったわ」
「軽口を叩いている場合ではないぞ」

 彼女の様子から飛鳥がレーザーを撃った相手よりも、兵衛門のことを言っているのは明らかなことだった。
 床に寝たままおかしそうに笑う飛鳥を、兵衛門は緊張の面差しで注意する。敵の気配はすぐそこまで迫ってきていた。どうやら隠れるつもりも無いらしい。

「よくかわした。わらわの気配を感じたか」

 黒いオーラをまとった何者かの影が廊下の向こうから近づいてくる。天井や壁の灯りで照らされた廊下がそこだけ妙に黒ずんで見える。
 影となった人物の両手から壊れたロボットが無造作に放り投げられ、飛鳥と兵衛門の近くで爆発する。

「こいつがさっきからロボットの残骸をばら撒いている張本人?」

 立ち上がった飛鳥が呟く。どうやら彼女の仲間でもないようだ。

「ククク、その通り。こいつらにはわらわの準備運動の相手になってもらった。噂の殺し屋キラーとやらと戦う前の準備運動のな」

 闇のかたまりが近づき、その暗がりから少女の姿が現れる。それは黒い闇の色をした沙耶の姿だった。

「沙耶! いや、違う! お前は沙耶ではない!」

 兵衛門はすぐにそれを沙耶とは違う全くの別人だと見破った。おそらくは敵の何らかの罠なのだろうと警戒する。
 敵は隠す気もないらしい。あっさりと認めた。

「その通り。我が名はベルゼエグゼス。この娘の姿は少しあの娘に似せて作っただけだ。ゼツエイ博士の自慢の兵器。少しは興味があるからな」
「残念じゃが、沙耶にそのような凄い才能はないぞ」
「同感だ。だから、今のわらわは暇をしている。そして、この湧き上がる破壊の衝動をぶつける相手を求めている。このロボットどもではわらわの遊び相手にもなれんわ。お前達は少しは楽しませてくれるかな? 殺し屋キラー、そして名も知らぬ老人よ」
「それはこっちの台詞。あなたこそわたしを喜ばせる戦いが出来るのかしら」

 言うなり、手早く銃を抜いた飛鳥が容赦なく引き金をひく。
 それに対し、ベルゼエグゼスが手を一振りすると、その前面に小型の竜巻が起こり、銃弾を巻き込んで軌道をそらせてしまった。

「その程度の攻撃、わらわには通用せん。噂の殺し屋キラーもたいしたことはないな。さあ、今度はわらわの番ぞ。これが凌げるか!?」

 闇のオーラをまとった少女が空中を踊るように回転する。藍色の髪と黒のスカートが舞いを広げ、周囲の空間に闇の棘が発生して襲い掛かってきた。飛鳥は巧みにかわし、いくつかは銃で撃ち落としていく。
 兵衛門の前まで迫ってきた黒い棘も、彼が防御するまでもなく飛鳥の銃弾が撃ち抜いていった。

「飛鳥ちゃん、わしをかばってくれたのか?」
「無駄口を叩かないで!」

 言いながら、飛鳥が銃の弾を入れ替える。

「これはちょっと特別製よ」
「何をやろうとわらわには通用せん!」

 黒い沙耶の回転が止まり、口からレーザーが発射される。先ほど廊下を駆け抜けていった紫電の光線だ。
 飛鳥は優雅とも言える動作で銃を持ち上げ、引き金を引いた。銃弾とレーザーが出会い頭に激突し、閃光を増す。銃弾が光を押し返していく。

「なんだ、これは! 見え、うぎゃあ!!」

 飛鳥の撃った銃弾がベルゼエグゼスの放ったレーザーの中を抜ける。口元のわずか横を駆け抜ける衝撃と熱に黒い沙耶の体は大きくバランスを崩し、壁に叩きつけられ、地に倒れ落ちた。起き上がろうとするが動けない。

「馬鹿な、当たってもいないのに、何故これほどのダメージを……!」
「自分の力を過信したわね。終わりよ」

 飛鳥は地に倒れたベルゼエグゼスを見下ろし、銃を向けた。もがくのをやめ、見上げる少女。沙耶に似たその瞳には憎々しげな感情が宿っている。

「ククク。だが、お前は外した。わらわの姿を捕らえきることが出来なかったのだ。殺し屋が標的を一撃で仕留められないなど、お前の力はしょせんその程度なのだ!」
「……」

 無言で見下ろす飛鳥にベルゼエグゼスはなおも言い募る。その言葉に恨みのありったけを乗せて。

「お前も……ゼツエイと同じだ! わらわの期待に応えられるほどの……力などないのだ! 何が殺し屋キラーだ! 笑わせるな!」
「違うな、飛鳥ちゃんはわざと外したんじゃよ。お主が沙耶と同じ姿を持っているから」
「何?」
「まさか。単に興味がないだけよ」

 兵衛門の言葉を当の飛鳥本人が否定してさっさと踵を返してしまう。ベルゼエグゼスは動こうとして痛みに顔をしかめる。

「くうう、馬鹿な! 殺し屋が獲物のえり好みをするか!」
「あなたを殺すのはわたしの仕事じゃないのよ。それだけのことよ」

 侮蔑の視線で一瞥し、飛鳥は立ち去る。

「沙耶……お主が沙耶と同じ姿を持つなら、どうか優しい心を持っておくれ」

 兵衛門は藍色の沙耶の髪をなでると、飛鳥の後を追っていった。

「おのれ、わらわを愚弄しおって! 動け! この役立たずの体が! 飛鳥! じじい! くああああああああ!!!」

 広い廊下にベルゼエグゼスの空しい声だけが響いていく。
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