天使は愛を囁く

けろよん

文字の大きさ
3 / 29
第一章 天使が来た

愛を伝えるべき人類

しおりを挟む
 現代の地球。
 世界は平和だ。そこに天界の危惧するような不穏な予感など何も無いように思えた。
 本当に人類は愛を忘れつつあるのだろうか。今日も平和な朝日が昇る。人類にとってはすっかり慣れた、いつもと同じ日常が始まろうとしていた。
  


 どこにでもある普通の家の普通の部屋にあるベッドの中で。
 ミンティシアの担当となった高校生の普通の少年、相沢正樹は寝ていた。彼は毎日ごく普通の平凡な生活を送っていた。
 両親が仕事で海外に行って一人になった家で、朝になると

「お兄ちゃん起きて。起きてってば」

 正樹のことをお兄ちゃんと呼ぶ一歳年下の隣の家の幼馴染が起こしにくるそんなどこにでもあるありふれた普通の生活だ。
 すっかり慣れたいつもの光景に正樹は目を覚まして起き上がる。

「早いな、優。もう朝か」
「もう朝だよー」

 優と呼ばれた少女は手早くカーテンを開ける。良い陽射しが入ってきて、正樹は目を細めた。

「うおっ、まぶし」
「良い天気~。早く学校に行く準備をして。朝ご飯できているから早く来てよね」
「おう、分かった」

 毎朝隣の家から起こしにやってくる幼馴染、森乃優は朝から元気だ。すでに学校の制服を着て、身だしなみもちゃんと整えていた。
 彼女は物心が付いた頃から正樹の後について回るのが好きで、世話を焼くのを日課にしていた。
 昔は煩わしくて困ったこともあったが、今ではすっかり諦めて好きにさせている。優一人がはしゃいだところで世界は変わったりしない。
 正樹は今の普通の生活が好きだった。

 高校の制服に着替えて台所に行くと、優はすでに朝食の準備を終えて席についていた。
 正樹はテーブルの上に並んだ物を見る。優は料理が得意だ。正樹の家の両親が今は仕事で海外まで行って留守にしていることもあって、最近では毎日作りに来ている。今日の朝食もおいしそうだった。

「今日はハムエッグか」
「朝だからね。いただきますしよ」
「いただきます」

 優と一緒に朝食を食べる。今日の生活も変わらない。ありふれた毎日。日常に変化なんてそう起きるものじゃない。
 正樹は落ち着いた生活に安心を感じながら箸を進める。

「おじさん達、いつ帰ってくるって?」

 テーブルの対面で食事を取る優が、よくしてくる慣れた質問をしてくる。正樹も慣れた調子で答えた。

「今度は長くなりそうだって。天空の世界にまつわる珍しい遺跡が見つかったんだって話だよ」
「天空の世界ねえ。そんなのが本当にあるのかしら」
「それを調べるのが父さん達の仕事さ。ごちそうさま」

 正樹の両親が仕事で家を留守にするのはよくあることなので、二人ともすっかり今の状況に慣れていた。
 親のいない間に正樹はいつも隣の家の優のお世話になっていた。

「いつも悪いな、優」
「いいって。お兄ちゃんの親は忙しいんだし、あたしも好きでやってるんだし。お兄ちゃんはあたしがいたら迷惑だった?」
「そんなことは無いよ。いつも助けられてます」
「なら良かった。あたしも楽しいよ」

 優が微笑み、朝食の後片付けをする。それが終わってから、二人で学校に行く準備をする。
 優が正樹の家に持ってきていた鞄を見て気づいた。

「あ、リコーダーを忘れてきちゃった。ちょっと取ってくるね」

 忘れ物に気づいて隣の家に優が戻っていく。正樹は玄関を出て鍵を掛けてから彼女を待った。
 優はすぐに走って戻ってきた。

「そう走らなくても。リコーダーあった?」
「うん、あったー。お兄ちゃんは玄関の鍵は掛けた? 二階の窓も閉めた?」
「毎朝俺にそれを聞くつもり?」
「だって気になるじゃない」
「掛けたし閉めたよ」
「じゃあ、安心だね」

 二人で同じ高校に向かう。正樹は二年生で、優は一年生だ。
 正樹はふと空を見上げた。

「天空の世界の遺跡か」

 両親は今それを調べているという。
 遠くの世界のロマンの事は正樹にはよく分からないが、今日はよく晴れた青い空が広がっている。
 今日も一日、平和な日が始まりそうだった。 



 高層ビルが立ち並び、車が網目のように張り巡らされたアスファルトの道路を行きかう都市の上空。
 ミンティシアとカオンは天使の翼を広げて、人間の住む世界までやってきていた。
 今日は良い天気で風が気持ちいい。空からでも地上の様子がよく見えた。

「ここで愛を伝えればいいのね」
「この人どこにいるのかなあ」

 カオンは資料の顔写真を見ながら地上を見るが、さすがに空からでは人の判別までは出来なかった。

「資料に居場所の情報もあるんじゃないの?」
「あ、そうだね」

 それぞれに資料を出して居場所を確認する。
 ミンティシアは右を見て、カオンは左を見た。

「あたしはあっちの方みたい」
「わたしはこっちの方みたい」

 お互いに顔を見合わせて決心する。

「じゃあ、頑張ろう。愛を伝えられるように」
「うん、頑張ろう」

 すでに他の天使達もそれぞれの持ち場に向かっていた。
 ミンティシアとカオンも別れ、それぞれに担当する人類の元へと飛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...