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第三章 聖魔の戦い
悪魔の誘惑
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正樹は灯花を連れて自分の部屋に来ていた。
まさか初恋の人をここに連れてくるなんて思ってもいなかった。公園で初めて話した時のことを思い出す。あの頃はお互いに子供だったが、今では高校生だ。
年頃の男女だった。
正樹の心臓はさっきからドキドキと跳ね上がりっぱなしだった。
助けを求めるように窓の外を見るが、そこから天使が現れたりはしなかった。
「やっと二人きりになれましたね」
背後で灯花が囁くように呟いた。静かにドアが閉められた。
<部屋に入ったんだからドアを閉めるのは当たり前じゃないか!>
そんな当たり前の行動を妙に意識して緊張してしまう。
正樹は思い切って灯花の方を振り返った。
「じゃあ、アルバムでも……」
言おうとして言葉を呑み込んだ。
灯花が服の胸元を手のひらでパタパタと扇いでいた。そこに目が行ってしまった。
子供の頃の灯花も大人びて可愛かったが、今はもっとだった。年頃の少女に育っていた。
正樹も年頃の少年になっていた。
灯花がふと目を上げて言ってくる。
「この部屋って暑いですね」
「そうですね」
この部屋は二階にある。日当たりのいい二階のこの部屋は昼に太陽で照らされて、一階のリビングより暖かくなるのだ。
もう日は傾き始めていたが、昼の熱気はまだ残っていた。
そんな豆知識はどうでも良かった。
灯花が正樹の方を見てきて、正樹は目を逸らせた。
微笑む彼女を前にして慌てて話題を探した。
「えっと、何しようか」
「エッチしませんか?」
「え??? ち?????」
灯花の思いがけない言葉に、正樹の思考はフリーズしてしまった。何とか動かす。
灯花が前にいるのに固まるわけにはいかなかった。
きっと自分が聞き間違えたんだろうと思った。
「ああ、スケッチですか。いいですね。スケッチブックはどこだったかなあ」
「エッチと言ったんですよ」
「ああ、あれね。エッチスケッチワンタッチ~って」
「そう、エッチスケッチワンタッチ~」
正樹が両手の指を回して冗談めかして言うと、灯花も同じように合わせてくれた。
良かった。これで安心だ。
正樹はそう思いたかったのだが……
灯花はすぐにその冗談の笑みを消して、近づいてきた。
正樹はびくっとして身を引こうとする。灯花は息がかかるほど近くまできて、正樹の目を見上げてきた。
「そんな子供じみた冗談を言うためにここへ来たわけじゃないんですよ」
「えっと、灯花さん……?」
次の瞬間、正樹は灯花に押し倒されていた。倒れた体の上に馬乗りになって跨ってくる。髪が鼻をくすぐった。
思ったより強い灯花の力に正樹は動けなくなってしまった。
「あの、灯花さん?」
「なんですか? 正樹さん」
「これって……」
「フフ、今度はわたしのお馬さんですね」
灯花は怪しく微笑んでくる。綺麗な少女の魅惑的な微笑みから正樹は逃げようとした。
「いや、でもこれは」
「実はわたしもしたいと思っていたんですよ。あなたとお馬さんごっこ」
「でも、もうそんな年じゃ。優とももうしてないし」
「わたしのためには鳴いてくださらないんですか?」
「ヒヒーン……って?」
「フッ」
灯花は冷たく笑って、正樹の首筋をそっと撫でた。
「ひゃん!」
くすぐったく優しい少女の指先に、正樹は思わず変な声を出してしまった。
灯花は囁きかけてくる。
「わたしはずっとあなたのことを思っていました。その鼓動をあなたにも感じて欲しくて」
灯花はガシッと正樹の手首を掴んできた。
その少女らしくない強い力に、正樹は驚いた。
灯花は正樹の手をゆっくりと自分の胸に近づけ始めた。このままでは帰れない場所に行ってしまう。
正樹は焦ってもがいたが、灯花の手には逆らえなかった。
「ちょっと、灯花さん! それ駄目だって!」
「何が駄目なんですか? わたし達もう大人なんですよ」
「まだ高校生ですから!」
「もう高校生です。いいんですよ、お姉ちゃんに任せて」
「灯花さーーーん!!」
正樹は叫んだが、灯花の束縛から抜け出すことは出来なかった。
『お兄ちゃんが危ない!』
優は本能で危機を察知していた。料理の手は止めずにすぐに振り返って、テーブルについていたミンティシアに向かって叫んだ。
「ミンティシア!!」
「はい!!」
親しい付き合いだ。何度も恋の相談もしてきた。
天使の少女はすぐに思いを受け取って、リビングを飛び出して階段を駆け上がっていった。
「なんてこった!」
優は料理の手順を進めながら自分の失策を悔いていた。自分が手を離せなくても、ミンティシアを付けておけば良かったのだ。
お人良しの天使は自分からは人間の仲を裂こうとはしない。
料理作戦の失敗に気を取られた自分の失策だった。
でも、まだ挽回は出来るはずだ。
そう信じて、優は自分の仕事に打ち込むことにした。
灯花が正樹の腕を動かしていく。
どこを目指しているかなど考えなくても分かった。
年頃の娘らしく育ったそこから何とか意識を逸らそうと正樹は頑張った。
「灯花さん、こんなこといけない……」
「どうしてですか? わたしはずっとあなたのことが好きでした。今でも愛しています。あなただって、そうじゃないんですか?」
「それは……」
「なら、いいじゃないですか。愛しても。やっとここまで来れたんです」
「灯花さん……ごくっ……」
正樹は何とか闇から愛を囁く悪魔の誘惑に逆らおうとした。闇の中で浮かんだのは明るい天使の笑顔だった。
「俺は……好きな人が……」
「好きな人?」
灯花が怪訝に呟いた時だった。扉が勢いよく開いて救世主が現れた。
「正樹さん! あ、お楽しみ中でしたか?」
「お楽しみ中じゃない!」
すぐに引っ込もうとするミンティシアに、正樹は素早く怒鳴り声をぶつけた。
灯花の手から力が抜けていた。その隙に正樹は彼女を押しのけて立ち上がった。
「ごめん、灯花さん。俺やっぱり……早いと思うんだ」
「いえ、少し焦り過ぎたかもしれませんね」
灯花は申し訳無さそうに呟いた。
正樹は彼女の気を害したんじゃないかと心配になってしまった。
思えば彼女はずっとこんな自分のことを慕ってくれていたのだ。あの公園で会ったあの日からずっと。その思いは大きかったのだろう。
正樹はきっと灯花は大人びているからこういう行動に出たんだろうと思っていた。
いつも年下の優と同レベルの付き合いばかりしているけど、自分ももっと大人にならないとなと思うのだった。
ミンティシアは不思議に首を傾げた。
それからすぐのことだった。
優がご飯が出来たからと部屋まで呼びにきたのは。
まさか初恋の人をここに連れてくるなんて思ってもいなかった。公園で初めて話した時のことを思い出す。あの頃はお互いに子供だったが、今では高校生だ。
年頃の男女だった。
正樹の心臓はさっきからドキドキと跳ね上がりっぱなしだった。
助けを求めるように窓の外を見るが、そこから天使が現れたりはしなかった。
「やっと二人きりになれましたね」
背後で灯花が囁くように呟いた。静かにドアが閉められた。
<部屋に入ったんだからドアを閉めるのは当たり前じゃないか!>
そんな当たり前の行動を妙に意識して緊張してしまう。
正樹は思い切って灯花の方を振り返った。
「じゃあ、アルバムでも……」
言おうとして言葉を呑み込んだ。
灯花が服の胸元を手のひらでパタパタと扇いでいた。そこに目が行ってしまった。
子供の頃の灯花も大人びて可愛かったが、今はもっとだった。年頃の少女に育っていた。
正樹も年頃の少年になっていた。
灯花がふと目を上げて言ってくる。
「この部屋って暑いですね」
「そうですね」
この部屋は二階にある。日当たりのいい二階のこの部屋は昼に太陽で照らされて、一階のリビングより暖かくなるのだ。
もう日は傾き始めていたが、昼の熱気はまだ残っていた。
そんな豆知識はどうでも良かった。
灯花が正樹の方を見てきて、正樹は目を逸らせた。
微笑む彼女を前にして慌てて話題を探した。
「えっと、何しようか」
「エッチしませんか?」
「え??? ち?????」
灯花の思いがけない言葉に、正樹の思考はフリーズしてしまった。何とか動かす。
灯花が前にいるのに固まるわけにはいかなかった。
きっと自分が聞き間違えたんだろうと思った。
「ああ、スケッチですか。いいですね。スケッチブックはどこだったかなあ」
「エッチと言ったんですよ」
「ああ、あれね。エッチスケッチワンタッチ~って」
「そう、エッチスケッチワンタッチ~」
正樹が両手の指を回して冗談めかして言うと、灯花も同じように合わせてくれた。
良かった。これで安心だ。
正樹はそう思いたかったのだが……
灯花はすぐにその冗談の笑みを消して、近づいてきた。
正樹はびくっとして身を引こうとする。灯花は息がかかるほど近くまできて、正樹の目を見上げてきた。
「そんな子供じみた冗談を言うためにここへ来たわけじゃないんですよ」
「えっと、灯花さん……?」
次の瞬間、正樹は灯花に押し倒されていた。倒れた体の上に馬乗りになって跨ってくる。髪が鼻をくすぐった。
思ったより強い灯花の力に正樹は動けなくなってしまった。
「あの、灯花さん?」
「なんですか? 正樹さん」
「これって……」
「フフ、今度はわたしのお馬さんですね」
灯花は怪しく微笑んでくる。綺麗な少女の魅惑的な微笑みから正樹は逃げようとした。
「いや、でもこれは」
「実はわたしもしたいと思っていたんですよ。あなたとお馬さんごっこ」
「でも、もうそんな年じゃ。優とももうしてないし」
「わたしのためには鳴いてくださらないんですか?」
「ヒヒーン……って?」
「フッ」
灯花は冷たく笑って、正樹の首筋をそっと撫でた。
「ひゃん!」
くすぐったく優しい少女の指先に、正樹は思わず変な声を出してしまった。
灯花は囁きかけてくる。
「わたしはずっとあなたのことを思っていました。その鼓動をあなたにも感じて欲しくて」
灯花はガシッと正樹の手首を掴んできた。
その少女らしくない強い力に、正樹は驚いた。
灯花は正樹の手をゆっくりと自分の胸に近づけ始めた。このままでは帰れない場所に行ってしまう。
正樹は焦ってもがいたが、灯花の手には逆らえなかった。
「ちょっと、灯花さん! それ駄目だって!」
「何が駄目なんですか? わたし達もう大人なんですよ」
「まだ高校生ですから!」
「もう高校生です。いいんですよ、お姉ちゃんに任せて」
「灯花さーーーん!!」
正樹は叫んだが、灯花の束縛から抜け出すことは出来なかった。
『お兄ちゃんが危ない!』
優は本能で危機を察知していた。料理の手は止めずにすぐに振り返って、テーブルについていたミンティシアに向かって叫んだ。
「ミンティシア!!」
「はい!!」
親しい付き合いだ。何度も恋の相談もしてきた。
天使の少女はすぐに思いを受け取って、リビングを飛び出して階段を駆け上がっていった。
「なんてこった!」
優は料理の手順を進めながら自分の失策を悔いていた。自分が手を離せなくても、ミンティシアを付けておけば良かったのだ。
お人良しの天使は自分からは人間の仲を裂こうとはしない。
料理作戦の失敗に気を取られた自分の失策だった。
でも、まだ挽回は出来るはずだ。
そう信じて、優は自分の仕事に打ち込むことにした。
灯花が正樹の腕を動かしていく。
どこを目指しているかなど考えなくても分かった。
年頃の娘らしく育ったそこから何とか意識を逸らそうと正樹は頑張った。
「灯花さん、こんなこといけない……」
「どうしてですか? わたしはずっとあなたのことが好きでした。今でも愛しています。あなただって、そうじゃないんですか?」
「それは……」
「なら、いいじゃないですか。愛しても。やっとここまで来れたんです」
「灯花さん……ごくっ……」
正樹は何とか闇から愛を囁く悪魔の誘惑に逆らおうとした。闇の中で浮かんだのは明るい天使の笑顔だった。
「俺は……好きな人が……」
「好きな人?」
灯花が怪訝に呟いた時だった。扉が勢いよく開いて救世主が現れた。
「正樹さん! あ、お楽しみ中でしたか?」
「お楽しみ中じゃない!」
すぐに引っ込もうとするミンティシアに、正樹は素早く怒鳴り声をぶつけた。
灯花の手から力が抜けていた。その隙に正樹は彼女を押しのけて立ち上がった。
「ごめん、灯花さん。俺やっぱり……早いと思うんだ」
「いえ、少し焦り過ぎたかもしれませんね」
灯花は申し訳無さそうに呟いた。
正樹は彼女の気を害したんじゃないかと心配になってしまった。
思えば彼女はずっとこんな自分のことを慕ってくれていたのだ。あの公園で会ったあの日からずっと。その思いは大きかったのだろう。
正樹はきっと灯花は大人びているからこういう行動に出たんだろうと思っていた。
いつも年下の優と同レベルの付き合いばかりしているけど、自分ももっと大人にならないとなと思うのだった。
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