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第三章 手毬との約束
第11話 手毬との約束
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平日の人々でそこそこ賑わっている喫茶店。
隼人はその店内で昼から一人でテーブルの椅子に腰かけて、人を待っていた。
窓から外の道路を走っている車を眺めていると、待ち人はそう待つこともなくやってきた。
「待たせたわね、隼人」
「昼休みに呼び出して悪かったな」
その待っていた相手とは国防軍の制服を着た少女。活発な印象を与える彼女は高校の時の同級生、藤岡手毬だ。
隼人は別に彼女と恋人同士というわけではなかったが、学生の頃は友達としてそれなりに親しく付き合っていた。
ロボットのパイロットを目指していた隼人にとって、国防軍長官の娘としていろいろな知識を持っていた手毬は何かと話の合う相手だった。
高校の頃はロボットや軍事についていろいろと話し合ったものだ。
手毬は軽く店員にサンドウィッチとコーヒーを頼んでから身を乗り出すようにして訊ねてきた。その瞳は興味を持っている者の瞳だ。
「あんたがわたしを誘うなんて珍しいじゃない。何かあった?」
「お前に頼みたいことがあってな。その……ロボットのことで」
「ロボットのことか……」
手毬は今度は興味無さそうに呟いた。
隼人には考えることがあった。このまま博士のロボットを桃乃と律香に任せて自分は見ているだけでいいのかと。
自分も何でもいいから戦うべきではないかと。
考えて、その末に行きついた結論を口にした。
「お前のところのロボットに乗せてくれないか?」
「国防軍のロボットに? 乗りたいの?」
「そうだ」
隼人にとっては国防軍のロボットに乗るのは夢では無かった。だが、現実的なところではあった。
手毬は少し思案するように届いたコーヒーを一口飲んでから答えた。
「いいけど、隼人の望みはお爺さんの造ったロボットに乗る事じゃなかったの?」
「そうなんだけど、今のままじゃいけねえと思うんだ」
博士の実力は手毬もよく知っていることだ。彼女の父もしょっちゅううちに来ては博士を仲間に入れようと口説いている。
お互いの共通認識の上で考えて、手毬は言葉を口にする。
「お父さんに見つかったらうるさいわよ」
「やっぱり怒られるか?」
素人がいきなりロボットに乗せろというのだ。当然かと隼人は思っていたが、手毬の答えは違っていた。
彼女は真っ直ぐな瞳をして言ってきた。
「隼人の実力をわたしは疑ってはいないわ。伊達に高校の時にずっと付き合っていたわけじゃないからね。すぐ慣れると思う。ただ博士をスカウトしてくれって口うるさく言われることは覚悟してね」
「そりゃ大変だ」
博士と長官の言い合いを思い出してしまう。その相手のお膝元にのこのこ出向こうというのだ。不用意に近づけば、言葉が孫であるこちらに飛び火してくるのは明らかだろう。
そこを察した手毬が気楽に応じてくれた。
「明日の昼なら、父さんは会議に出席していないから。その時に行きましょうか」
「ありがとう、持つべきものは友達だな」
そう約束して、しばらく他愛の無い雑談をして食事を終える。鞄を取って手毬が気前よく言ってきた。
「ここのお金、わたしが出そうか?」
何とも太っ腹な提案だが、隼人にその気は無かったのですぐに断った。
「こっちから誘っておいてそれは無いだろ。俺が払うよ」
「いいけど、隼人お金持っているの? 困ってない?」
手毬はいじわるで言っているわけではないだろう。隼人が働いていないことを知っているからそう言っただけだ。
だが、隼人は別にお金を持っていないわけでは無かった。
「前にバイトした時の金がまだ残ってるからな」
「ああ、バイクを買った時にもやってたね」
「無くなったらまた探さないといけねえな」
「うちに来ればいいのに。父さんいるけど」
「お前の父さんも面倒そうだもんなあ。とにかく約束の件は任せたぜ」
「うん、了解」
そうして隼人は次の日に国防軍の基地に向かうことになった。
隼人はその店内で昼から一人でテーブルの椅子に腰かけて、人を待っていた。
窓から外の道路を走っている車を眺めていると、待ち人はそう待つこともなくやってきた。
「待たせたわね、隼人」
「昼休みに呼び出して悪かったな」
その待っていた相手とは国防軍の制服を着た少女。活発な印象を与える彼女は高校の時の同級生、藤岡手毬だ。
隼人は別に彼女と恋人同士というわけではなかったが、学生の頃は友達としてそれなりに親しく付き合っていた。
ロボットのパイロットを目指していた隼人にとって、国防軍長官の娘としていろいろな知識を持っていた手毬は何かと話の合う相手だった。
高校の頃はロボットや軍事についていろいろと話し合ったものだ。
手毬は軽く店員にサンドウィッチとコーヒーを頼んでから身を乗り出すようにして訊ねてきた。その瞳は興味を持っている者の瞳だ。
「あんたがわたしを誘うなんて珍しいじゃない。何かあった?」
「お前に頼みたいことがあってな。その……ロボットのことで」
「ロボットのことか……」
手毬は今度は興味無さそうに呟いた。
隼人には考えることがあった。このまま博士のロボットを桃乃と律香に任せて自分は見ているだけでいいのかと。
自分も何でもいいから戦うべきではないかと。
考えて、その末に行きついた結論を口にした。
「お前のところのロボットに乗せてくれないか?」
「国防軍のロボットに? 乗りたいの?」
「そうだ」
隼人にとっては国防軍のロボットに乗るのは夢では無かった。だが、現実的なところではあった。
手毬は少し思案するように届いたコーヒーを一口飲んでから答えた。
「いいけど、隼人の望みはお爺さんの造ったロボットに乗る事じゃなかったの?」
「そうなんだけど、今のままじゃいけねえと思うんだ」
博士の実力は手毬もよく知っていることだ。彼女の父もしょっちゅううちに来ては博士を仲間に入れようと口説いている。
お互いの共通認識の上で考えて、手毬は言葉を口にする。
「お父さんに見つかったらうるさいわよ」
「やっぱり怒られるか?」
素人がいきなりロボットに乗せろというのだ。当然かと隼人は思っていたが、手毬の答えは違っていた。
彼女は真っ直ぐな瞳をして言ってきた。
「隼人の実力をわたしは疑ってはいないわ。伊達に高校の時にずっと付き合っていたわけじゃないからね。すぐ慣れると思う。ただ博士をスカウトしてくれって口うるさく言われることは覚悟してね」
「そりゃ大変だ」
博士と長官の言い合いを思い出してしまう。その相手のお膝元にのこのこ出向こうというのだ。不用意に近づけば、言葉が孫であるこちらに飛び火してくるのは明らかだろう。
そこを察した手毬が気楽に応じてくれた。
「明日の昼なら、父さんは会議に出席していないから。その時に行きましょうか」
「ありがとう、持つべきものは友達だな」
そう約束して、しばらく他愛の無い雑談をして食事を終える。鞄を取って手毬が気前よく言ってきた。
「ここのお金、わたしが出そうか?」
何とも太っ腹な提案だが、隼人にその気は無かったのですぐに断った。
「こっちから誘っておいてそれは無いだろ。俺が払うよ」
「いいけど、隼人お金持っているの? 困ってない?」
手毬はいじわるで言っているわけではないだろう。隼人が働いていないことを知っているからそう言っただけだ。
だが、隼人は別にお金を持っていないわけでは無かった。
「前にバイトした時の金がまだ残ってるからな」
「ああ、バイクを買った時にもやってたね」
「無くなったらまた探さないといけねえな」
「うちに来ればいいのに。父さんいるけど」
「お前の父さんも面倒そうだもんなあ。とにかく約束の件は任せたぜ」
「うん、了解」
そうして隼人は次の日に国防軍の基地に向かうことになった。
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