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神喰昴という男
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朝食を食べ終える。紫苑は終始嬉しそうだった。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末さまでした。」
朝だと言うのに紫苑はよく食べた。白米に味噌汁、鯖の塩焼き、たくあんというThe 和食という朝食だった、紫苑はご飯も味噌汁もおかわりした、鯖に関しては元々生物の研究用の骨格標本なんじゃないかってくらい綺麗に骨だけ残った。
滅多に食べることが出来ないからその分可食部分があれば残さず食べるようだ。
こんなに綺麗に残さず美味しそうに食べてもられると嬉しいものだ。自分が作った料理を人が美味しそうに食べているのを見るのは気持ちがいい。少なくとも気分を悪くする人はいないだろう。
食器を洗い、テレビをつけてゆっくり何をしようか考える。紫苑は初めてのものを見るような反応をした。テレビすら見たこたがないようだ。画面の中の人が今起きてきる時事について淡々と語るものでさえ、興味を示していた。
包丁を洗う際浅く指を切った。普段は絶対にしない、紫苑といることの影響が出たのだろうか。
こうしている間も紫苑は本当にこれでいいのかどうか、僕の家にいてもいいのかと、悩んでいるように見えた。指を切ったことを言ったら責任を感じてしまうだろうから黙っておくことにする。
「紫苑、今日なにかしたいことはある。」
ソファに座ってテレビを見ていた紫苑は、横に座っている僕の方を向いて首を傾げ考えて僕に一つしたいことを伝えた。
「今日は出来れば昴さんの家にいたいです。特に何をする訳でもなく、ゆっくりしていたいです。」
「分かった、じゃあそうしようか。あとここは確かに僕の家だが君もここの住人だ。君の家でもある。好きにして構わないよ、当然、節度を守った範囲でならね。」
彼女はずっと外にいた、ゆっくり身体を休めることも出来ず、ずっと外にいたのだ。それはどれだけ辛いことか、僕には想像も出来ない。彼女は屋内で休息をとりたいのだろう。
僕は一度自分の部屋に戻る。ふと、昔のことを思い出した。
ーーーーーーーーーーーーーーー
これから中学生、そんな節目の時期のことだった。
元々両親は放任主義な人達だったので親から何かを学ぶということはほとんどなかった。
親の放任主義は僕の超圧倒的慈善活動的精神を助長した。親と共に過ごす幸せを感じたことがないから幸せを無駄に追い求めすぎていた。
子供が親から何も言われないまま育てば完全オリジナルの思想をもつ、大人になってから自分で考えようが、それはこれまでに起きたことから蓄積された経験値から生み出されたものに過ぎない。
結局のところ、今でこそ神をあてにはしないが、お人好しな部分はそのままである。
いいことをすることはいいことだからだ。当たり前なことであるが。
僕は中学では小学に比べ委員会やその他活動が盛んだと聞いていた、福祉委員会に入りたいと思っていた。委員会なんて大したことは出来ないのだがそんなのは当時の僕には関係ない。
春休み中、またあの友人と遊んでいた。いくら異質な思想家ではあるが基本的には普通の子供なのでよく遊んでいた。
何人かで集まって公園でボール遊びをしていた時、そいつは道路に飛びたしていったボールを取りに道路に出てしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
自室の普段は使わない箪笥の前にいき、引き出す。あまり使っていないので少し固かった。
箪笥の中にあるのは自分の服ではない。要は子供服や女性物の服などが入っている箪笥だということだ。
様々な服の中から紫音が着れそうなサイズの服を選んでは引き出すを繰り返した。
幸いなことに紫苑位の年頃の女の子が着るような洋服は多く持っていたのでどうにかなりそうだ。
紫苑にこのままぼろぼろな服のままでいられては僕も困る。
洋服を持ってリビングに戻り、紫苑に渡す。紫苑はテレビを見てなにか欲しそうな雰囲気を出していた。僕にはなんとなくそう感じれた。しかし僕は持っていた服で視界は遮られていたので紫苑が何を見ていたのかは分からない。
「どうしてそんなに女性もの洋服を持ってるんですか。やっぱり何かやましいことでもあるんですか、昴さん。」
紫苑がジト目、というのだろうか、そんな視線でこちらを見てくる。睡眠を取れたからか紫苑は昨日よりも表情のバリエーションが増えた。
「誤解を招くようだから先に言うけどこれは娘のおさがりだからね。」
「娘さん、いたんですか……。今更ですけど質問させて下さい。昴さん、御家族はどうされたんですか。この家、とても大きいです、とても昴さん一人で過ごすには。昨日、ここに来た時、違和感を感じたんです。聞きそびれてしまいましたけど。」
紫苑にそう問われる。あまり触れられたくなかったから黙っていた。だが問われた時に答えないつもりはなかった。
質問されない限り言わないが質問されたら答えるつもりだった。僕は大きく一息ついて彼女に告げた。
「妻と娘がいたんだ。過去形だけどね。」
「……。離婚ですか、亡くなられたんですか。」
「……。後者だ。妻は元々あまり丈夫ではなかったから、娘も母似だったから後追いって感じだね。あと、君から質問してきたんだから君が後ろめたさを感じて謝るとか無しだからな。」
「わかりました。」
そうは言ったがやはり引っかかっているようだ。気にするなという方が難しいか。
「これくらいの大きさの服を着る娘さんがいたにしては昴さん若く見えますけど、何歳なんですか。」
「人に歳を聞くのはナンセンス極まりない、君こそどうなんだい。」
「お互いがお互いにブーメラン投げあってますね。」
「ははは、そうだな。」
この子は本当に貧乏神なのだろうか、こんなに、一緒にいて楽しい、笑顔になれる、こんな女の子が、なぜ、こんなにも不幸に襲われてしまうのだ。
僕はまだ彼女の影響というような不幸には襲われてないが、まだ分からない。
そう言っても、僕にできることは彼女に衣食住を提供してあげることだけなのだが。
ーーーーーーーーーーーーーーー
今の季節は冬、とにかく寒い。地球温暖化とか嘘なんじゃないかってくらいには寒い。紫苑を引き取った時、外の気温は三度しか無かった。あんなに寒い中雨に濡れていた女の子が風邪もひかず過ごせる訳もなく、翌日熱を出してしまった。
昨日もあまり元気がなかったが疲れているだけだと思い大事にしなかったから悪化してしまったのだろう。
とにかく今は安静にしてあげなくてはいけない。
貴重な日曜日が看病に費やされてしまった。ついてない。
「やっぱり一昨日の夜ボロボロの薄い服で寝たのが悪かったかな。」
「や、気にしないでください。」
布団にくるまって紫苑が咳き込んでいる紫苑をみて気にしないとか無理がある。だってただでさえお人好しな僕だ、放置なんてできない。
なお昨日あげた服は机のささくれににひっかけて破けてアウトになったらしい、普通そのくらいじゃ着れないほどに服がだめになることはない、一日で服が使えなくなるって言うのはさすがとも言うべきだろうか。それを見た時全身の力が抜けるような感じがしたものだ。娘のおさがりもそう長くは持たないだろう。
「お粥でも作ってくるよ。」
「ふえぇ……。」
腑抜けた弱々しい声で返事が返ってきた、それは初めて会った時の生に絶望した弱々しさではなく、甘えるような弱々しさだった。
それを聞いて一瞬可愛いと思ってしまった。
一度台所に戻り鍋に米と通常よりも多めの水を入れる。お粥なんていつぶりに作るだろう。
僕は風邪をひかないから一人暮らしになってからは作ってない。娘がいた頃はよく作ってたものだが。
鍋に火を通している間はこの部屋を出れないので適当にスマホをつつく。相変わらず通知の少ない某SNSコミュニケーションアプリの時事ページに目を通す。特に意味のないつまらない記事ばかりだ。面白くない。
今の僕の家の方がよっぽど面白い。なんてったって貧乏神がいるのだから。
「ほら、お粥作ったよ。」
「ありがとうございます。」
ゆっくりお米を噛み締めるように食べ、笑顔を見せてくれた。彼女は食に困っただけに食を大切にしているようで、とても美味しそうに食べてくれる。
「そういえば昔は風邪って病気をは考えられていなかったんだよ。」
「どういうことですか。」
「昔は〈風〉に乗ってやってくる〈邪〉気だと考えられていて、運悪くそれを引いてしまうと風邪になるとされていたんだ。だから〈病気はかかる〉というのに〈風邪は引く〉と言うんだ。」
「貧乏神としては結構洒落になりませんね。貧乏くじ引いたってことじゃないですか。」
紫苑を寝かしつけて部屋を出た時に改めて思った、この子はまだ未成年だ。その未成年の女の子が今家にいるのだ。ないとは思うが問題になったら紫苑はともかくとして僕は完全にアウトだ。社会的に死ぬ。
現状を理解し、先が思いやられた。しかし彼女を追い出すつもりは毛頭ない。
ーーーーーーーーーーーーーーー
夜、紫苑は熱も収まり安らかに寝息を立てている。安心したので力が抜けてしまった。
久しぶりにアルコールを入れたくなった。僕も一応たまに飲む。酒は強くも弱くもなく普通に酔う。
台所の棚から紙パック酒と肴になりそうなものを取り出す。
日本酒とスルメという実におじさん臭い晩酌をする。窓から見える夜空を眺めながらのひとり酒はなんとも言えない良さがある。
懐かしい、この家に僕以外の人がいて、僕はそれの面倒を見る。そんな生活を思い出したのだ。
僕が、一人の女の子の〈お父さん〉だったのだ。あの忙しく楽しい毎日を思い出せた。
紫苑について、これからについてしっかり考える必要がありそうだ。少なくとも、紫苑はこれからもこのままでは辛い目にあうだけだ。それだけは僕も辛い。
だが程よく酔ったので特に考えることも無く眠りについた。
僕は無意識のうちに紫苑を大切な一人娘に重ねていたのだ。そのことを自覚するまでまだ時間がかかるようだ。
「ごちそうさまでした。」
「お粗末さまでした。」
朝だと言うのに紫苑はよく食べた。白米に味噌汁、鯖の塩焼き、たくあんというThe 和食という朝食だった、紫苑はご飯も味噌汁もおかわりした、鯖に関しては元々生物の研究用の骨格標本なんじゃないかってくらい綺麗に骨だけ残った。
滅多に食べることが出来ないからその分可食部分があれば残さず食べるようだ。
こんなに綺麗に残さず美味しそうに食べてもられると嬉しいものだ。自分が作った料理を人が美味しそうに食べているのを見るのは気持ちがいい。少なくとも気分を悪くする人はいないだろう。
食器を洗い、テレビをつけてゆっくり何をしようか考える。紫苑は初めてのものを見るような反応をした。テレビすら見たこたがないようだ。画面の中の人が今起きてきる時事について淡々と語るものでさえ、興味を示していた。
包丁を洗う際浅く指を切った。普段は絶対にしない、紫苑といることの影響が出たのだろうか。
こうしている間も紫苑は本当にこれでいいのかどうか、僕の家にいてもいいのかと、悩んでいるように見えた。指を切ったことを言ったら責任を感じてしまうだろうから黙っておくことにする。
「紫苑、今日なにかしたいことはある。」
ソファに座ってテレビを見ていた紫苑は、横に座っている僕の方を向いて首を傾げ考えて僕に一つしたいことを伝えた。
「今日は出来れば昴さんの家にいたいです。特に何をする訳でもなく、ゆっくりしていたいです。」
「分かった、じゃあそうしようか。あとここは確かに僕の家だが君もここの住人だ。君の家でもある。好きにして構わないよ、当然、節度を守った範囲でならね。」
彼女はずっと外にいた、ゆっくり身体を休めることも出来ず、ずっと外にいたのだ。それはどれだけ辛いことか、僕には想像も出来ない。彼女は屋内で休息をとりたいのだろう。
僕は一度自分の部屋に戻る。ふと、昔のことを思い出した。
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これから中学生、そんな節目の時期のことだった。
元々両親は放任主義な人達だったので親から何かを学ぶということはほとんどなかった。
親の放任主義は僕の超圧倒的慈善活動的精神を助長した。親と共に過ごす幸せを感じたことがないから幸せを無駄に追い求めすぎていた。
子供が親から何も言われないまま育てば完全オリジナルの思想をもつ、大人になってから自分で考えようが、それはこれまでに起きたことから蓄積された経験値から生み出されたものに過ぎない。
結局のところ、今でこそ神をあてにはしないが、お人好しな部分はそのままである。
いいことをすることはいいことだからだ。当たり前なことであるが。
僕は中学では小学に比べ委員会やその他活動が盛んだと聞いていた、福祉委員会に入りたいと思っていた。委員会なんて大したことは出来ないのだがそんなのは当時の僕には関係ない。
春休み中、またあの友人と遊んでいた。いくら異質な思想家ではあるが基本的には普通の子供なのでよく遊んでいた。
何人かで集まって公園でボール遊びをしていた時、そいつは道路に飛びたしていったボールを取りに道路に出てしまった。
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自室の普段は使わない箪笥の前にいき、引き出す。あまり使っていないので少し固かった。
箪笥の中にあるのは自分の服ではない。要は子供服や女性物の服などが入っている箪笥だということだ。
様々な服の中から紫音が着れそうなサイズの服を選んでは引き出すを繰り返した。
幸いなことに紫苑位の年頃の女の子が着るような洋服は多く持っていたのでどうにかなりそうだ。
紫苑にこのままぼろぼろな服のままでいられては僕も困る。
洋服を持ってリビングに戻り、紫苑に渡す。紫苑はテレビを見てなにか欲しそうな雰囲気を出していた。僕にはなんとなくそう感じれた。しかし僕は持っていた服で視界は遮られていたので紫苑が何を見ていたのかは分からない。
「どうしてそんなに女性もの洋服を持ってるんですか。やっぱり何かやましいことでもあるんですか、昴さん。」
紫苑がジト目、というのだろうか、そんな視線でこちらを見てくる。睡眠を取れたからか紫苑は昨日よりも表情のバリエーションが増えた。
「誤解を招くようだから先に言うけどこれは娘のおさがりだからね。」
「娘さん、いたんですか……。今更ですけど質問させて下さい。昴さん、御家族はどうされたんですか。この家、とても大きいです、とても昴さん一人で過ごすには。昨日、ここに来た時、違和感を感じたんです。聞きそびれてしまいましたけど。」
紫苑にそう問われる。あまり触れられたくなかったから黙っていた。だが問われた時に答えないつもりはなかった。
質問されない限り言わないが質問されたら答えるつもりだった。僕は大きく一息ついて彼女に告げた。
「妻と娘がいたんだ。過去形だけどね。」
「……。離婚ですか、亡くなられたんですか。」
「……。後者だ。妻は元々あまり丈夫ではなかったから、娘も母似だったから後追いって感じだね。あと、君から質問してきたんだから君が後ろめたさを感じて謝るとか無しだからな。」
「わかりました。」
そうは言ったがやはり引っかかっているようだ。気にするなという方が難しいか。
「これくらいの大きさの服を着る娘さんがいたにしては昴さん若く見えますけど、何歳なんですか。」
「人に歳を聞くのはナンセンス極まりない、君こそどうなんだい。」
「お互いがお互いにブーメラン投げあってますね。」
「ははは、そうだな。」
この子は本当に貧乏神なのだろうか、こんなに、一緒にいて楽しい、笑顔になれる、こんな女の子が、なぜ、こんなにも不幸に襲われてしまうのだ。
僕はまだ彼女の影響というような不幸には襲われてないが、まだ分からない。
そう言っても、僕にできることは彼女に衣食住を提供してあげることだけなのだが。
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今の季節は冬、とにかく寒い。地球温暖化とか嘘なんじゃないかってくらいには寒い。紫苑を引き取った時、外の気温は三度しか無かった。あんなに寒い中雨に濡れていた女の子が風邪もひかず過ごせる訳もなく、翌日熱を出してしまった。
昨日もあまり元気がなかったが疲れているだけだと思い大事にしなかったから悪化してしまったのだろう。
とにかく今は安静にしてあげなくてはいけない。
貴重な日曜日が看病に費やされてしまった。ついてない。
「やっぱり一昨日の夜ボロボロの薄い服で寝たのが悪かったかな。」
「や、気にしないでください。」
布団にくるまって紫苑が咳き込んでいる紫苑をみて気にしないとか無理がある。だってただでさえお人好しな僕だ、放置なんてできない。
なお昨日あげた服は机のささくれににひっかけて破けてアウトになったらしい、普通そのくらいじゃ着れないほどに服がだめになることはない、一日で服が使えなくなるって言うのはさすがとも言うべきだろうか。それを見た時全身の力が抜けるような感じがしたものだ。娘のおさがりもそう長くは持たないだろう。
「お粥でも作ってくるよ。」
「ふえぇ……。」
腑抜けた弱々しい声で返事が返ってきた、それは初めて会った時の生に絶望した弱々しさではなく、甘えるような弱々しさだった。
それを聞いて一瞬可愛いと思ってしまった。
一度台所に戻り鍋に米と通常よりも多めの水を入れる。お粥なんていつぶりに作るだろう。
僕は風邪をひかないから一人暮らしになってからは作ってない。娘がいた頃はよく作ってたものだが。
鍋に火を通している間はこの部屋を出れないので適当にスマホをつつく。相変わらず通知の少ない某SNSコミュニケーションアプリの時事ページに目を通す。特に意味のないつまらない記事ばかりだ。面白くない。
今の僕の家の方がよっぽど面白い。なんてったって貧乏神がいるのだから。
「ほら、お粥作ったよ。」
「ありがとうございます。」
ゆっくりお米を噛み締めるように食べ、笑顔を見せてくれた。彼女は食に困っただけに食を大切にしているようで、とても美味しそうに食べてくれる。
「そういえば昔は風邪って病気をは考えられていなかったんだよ。」
「どういうことですか。」
「昔は〈風〉に乗ってやってくる〈邪〉気だと考えられていて、運悪くそれを引いてしまうと風邪になるとされていたんだ。だから〈病気はかかる〉というのに〈風邪は引く〉と言うんだ。」
「貧乏神としては結構洒落になりませんね。貧乏くじ引いたってことじゃないですか。」
紫苑を寝かしつけて部屋を出た時に改めて思った、この子はまだ未成年だ。その未成年の女の子が今家にいるのだ。ないとは思うが問題になったら紫苑はともかくとして僕は完全にアウトだ。社会的に死ぬ。
現状を理解し、先が思いやられた。しかし彼女を追い出すつもりは毛頭ない。
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夜、紫苑は熱も収まり安らかに寝息を立てている。安心したので力が抜けてしまった。
久しぶりにアルコールを入れたくなった。僕も一応たまに飲む。酒は強くも弱くもなく普通に酔う。
台所の棚から紙パック酒と肴になりそうなものを取り出す。
日本酒とスルメという実におじさん臭い晩酌をする。窓から見える夜空を眺めながらのひとり酒はなんとも言えない良さがある。
懐かしい、この家に僕以外の人がいて、僕はそれの面倒を見る。そんな生活を思い出したのだ。
僕が、一人の女の子の〈お父さん〉だったのだ。あの忙しく楽しい毎日を思い出せた。
紫苑について、これからについてしっかり考える必要がありそうだ。少なくとも、紫苑はこれからもこのままでは辛い目にあうだけだ。それだけは僕も辛い。
だが程よく酔ったので特に考えることも無く眠りについた。
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