氷の貴公子は隣国の仮面令嬢に恋をする。

ゆずこしょう

文字の大きさ
10 / 23
出会いは突然に…

ため息の正体。 リュシアン視点。

しおりを挟む
夜会から帰ってきてあっという間に1ヶ月が過ぎた。


自分の気持ちを自覚してからというもの、日に日にリディアーヌ嬢に会いたいという気持ちが強くなっていく。


と言っても、相手は俺の事をきっと知りもしないのだろうが…


「はぁ…」


「どうしたんだ?そんなため息をついて…」

どうやら自分でも気づかないうちにため息をついていた事に驚く。



実はこの1ヶ月、何度かオデール公爵領に手紙を送っていた。しかし一向に手紙の返事が来ることはなく、いつも宛先不明で戻ってくるばかり…


以前、父上も行っていたがオデール公爵領には中々手紙が届かないと言っていた。


恐らくこういうことなのだろう。


この間に他に婚約者が決まってしまったらどうしようか…。


はぁ…


「リディアーヌ嬢にひと目でいいから会いたいものだ…って感じか?」


書類に目を通しているともう一度横から声が聞こえてくる。
まるで俺の心の声を代弁していているような話し方をしてくるのは…


「なんだ。サミュか…。」


「なんだとはなんだ!借りにもこの国の王太子だぞ。さっきから話しかけているというのに…お前がため息ばかりついて、仕事に手が付いていないから声をかけているんだ。」


書類に目を通しているし、そんなつもりは無かったんだが…



「はぁ…本当に気づいていないのか?周りを見て見ろ。書類の山は減るどころか増えているし、それにその書類…何回みているんだ。」


サミュに言われた通り周りを見渡すと、書類の山が3つほど出来上がっていた。いつもだったらこの時間にはほとんど片付いているというのに、大失態である…


「すまない。リディアーヌ嬢に手紙を送ってみてるんだが…なかなか届かなくてな…」


そんな俺の言葉に反応したのは、サミュエルの二つ下の弟で第2王子殿下のガブリエルだ。


「あぁ…それは恐らく…こちらが原因じゃないでしょうか?」


書類の山から1枚の紙を持って近寄ってくる。


ガブリエルから書類を受け取り読んでいくと、セリエール国の実状が書かれていた…。



現在、セリエール国は色々と大変なことになっているようだ。


「オデール公爵家がセリエール国から独立か…」


「えぇ…セリエール国はオデール公爵領があってこそ何とか保っていた国ですからね。今頃その皺寄せが起きているんじゃないでしょうか?」


セリエール国が小さいながらも無くならず耐え続けてこれたのはセリエール国の半分以上を占めている樹海の存在が大きい。


そしてこの樹海に生きる者たちこそが、オデール公爵領の民たちで、元アルデール国民である。


オデール公爵領と名前を変えた今でもこの樹海はアルデール樹海と言われ続けているほど、昔からアルデール国の存在は大きい。


「アルデール国か…リディアーヌ・アルデール。とてもいい響きだ。オデールよりあっている…。」


「いや、今はそこじゃないだろ。リュシー…それよりもここを読んでくれ…」
サミュが別の書類を持ってきたので読んでみると…


そこにはセリエール国は今まで以上の財政難に陥っていると書かれていた。


今までオデール公爵が出資していたものが全て止まるのだ。同じ生活をしていたのでは底を尽きるのも時間の問題だろう。


「フッ…財政難か…そもそも経った1ヶ月…公爵家が一つ無くなったくらいで財政難に陥るって相当だな。」


「今まで贅沢三昧してきたんだろうな。下手したら王族だけでなくほかの貴族も私腹を肥やしていたのかもしれない…」


確かにそれはと大きそうだ。
そう言えば、アルデール国はセリエール国に吸収されたんだったか…

アルデール国はアルデール国として存続し続けることも出来ただろう。

「サミュ。ガブ。お前達は何故アルデール国がセリエール国になったのか。アルデール国の歴日は知っているか…?」


「そう言えば…あまりアルデール国のことを知る者はいないですね。アルデール国についての文献はほとんど残っておらず、父上たちに聞いても殆ど教えてはくれませんでした。」


「俺もそうだな…あぁ、でも一つだけ。先日の夜会で思ったことがある。セリエールの貴族たちはリディアーヌ嬢の事をよく思っていないと言うのはわかったぞ。」


それはあのクズ王太子と、その隣で泣き喚いていたキャロットとかいう女のせいでは無いだろうか…


「恐らく、あの騒動のせいだけじゃない。あそこにいた貴族たちはあの騒動をまるでいつもの事というような感じで見ていたし、誰も助けようとしていなかっただろ?」


「…確かに…」


それにあの時、どこからどう見てもキャロットが自分でわざと転んで、わざと飲み物を自分にかけていた。

普通転んだら持っているグラスの中身も転んだ方向に飛ぶことがほとんど…なのに全て自分にかかっていたし、リディアーヌ嬢は壁によりかかっていてキャロットの位置から離れていた。


「あの状態で味方をするものは誰もいなかった…それが答え…という事か…」


「そういう事だ。これ以上は父上達に聞いても教えてくれるかどうか…寧ろ先代たちしか知らないということも多そうだがな。」


先代たちか…この平和協定を作り、国に安寧をもたらせた一人。

今は亡きもの達に話を聞くのは無理がありそうだな…。


「そうか…セリエール国の現状は何となくわかった。それで今のアルデール国はどうなっているんだ?」


「それが…今の現状を知るものがいません。もともと閉鎖的な国だったというのもあるのだと思いますが…」


今後のアルデール国の動き次第ではセリエール国の動きも変わってくるかもしれない…

下手したらアルデール樹海に手を出すなんてこともしそうだ…。最悪、戦になる可能性もあるか…。


「アルデール国とセリエール国が戦になるのだけは避けたい所だな…」

どうやらサミュも同じ事を考えていたようだ。サミュの言葉に俺は頷いた。


「…そうだな。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

処理中です...