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出会いは突然に…
恋の病。 リュシアン視点。
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リディアーヌ嬢に会ってからというもの、1日1日がとても長く感じる。
これはやはり恋をしているからなのだろうか。
たった1度、しかも遠くから見ただけだと言うのにリディアーヌ嬢の事が頭から離れない。
「恋とは厄介なものなのだな。」
あの時、サミュが言わなければこんな気持ちには気付かなかっただろう。
この感情を教えてくれて「ありがとう」と思う反面、知らなければよかったと思うのは我儘だろうか。
今日は王宮での仕事もないため家でゆっくりしていると、父上と母上が部屋に訪れた。
どうや今日は父上も休みらしい。いつも忙しそうにしている宰相が珍しいものだ。
久しぶりに父上が家にいるからだろうか。母上も少し浮き足立っているように感じる。
「リュシアン。久しぶりに3人でお茶でもしないか?今日はとてもいい天気だしな…」
どうやらお茶のお誘いだったらしい。
1人で部屋にいてもリディアーヌ嬢のことばかり考えてしまうので気分転換も兼ねて父上たちと一緒にお茶を飲むことにした。
「サミュエル王太子殿下に話は聞いたぞ。お前…リディアーヌ嬢に会いたいそうだな…ずっとため息ばかりついていて仕事も進まないと聞いている。」
サミュめ…まさか父上に報告していたとは…全然気づかなかった…
「た、たしかに一目でいいのでお会いしたいとは思っていますが…仕事を蔑ろにしているつもりはありません。」
「そんなの分かっておる。お前がそのように表に感情を出すなんてことはほとんどないからな。親としては嬉しい限りだ。なぁ、アリアンヌ。」
母上の方を見ながら嬉しそうな顔をする父上。母上もなんだか嬉しそうだ。
「そうね…リューク。私もリュシーの色々な表情が見えるのは嬉しいわ。それでね、リュシー。色々考えたんだけど…貴方、アルデール樹海に行ってらっしゃい。」
「アルデール樹海…にですか?」
俺の聞き間違いだろうか。
アルデール樹海に行ってこいと聞こえたと思うのだが…。
「聞き間違いでは無いわ!アルデール樹海に行って来いと言ったの。ねぇ、リューク?」
「あ、あぁ…アリアンヌの言う通りだ。」
なんだか母上の父上を見る目がいつもより怖いと感じるのは気のせいだろうか。父上も心做しか冷や汗を書いているように感じるし…
昔から喧嘩もせずに仲のいい2人だが、母上の方が強い。だから上手くいっているのかも知れないが…。
「えっと…アルデール樹海に入ったら、帰って来れなくなる可能性もあるかと思うのですが…」
アルデール樹海。
アルデール国を覆うように広大な森が広がっている。
アルデール国に辿り着くのはその道を知っている者や、アルデール国に害を成さないと分かる者のみ国への道が開かれると聞いたことがある。
通称生きている樹海。
もし、害のある者として認められれば、国に辿り着く前に元の位置に戻ってしまうか…
そのまま樹海を彷徨って戻って来れなくなるという話もあるくらいだ。
今までも何人もの人達がアルデール国に行こうと試していたが辿り着いたものは殆どいない…。
「そ、そのアルデール樹海とは…戻って来れなくなる可能性も…」
「知っているわよ!そのくらいこの国の人。いえ、近隣諸国に住む人は誰でもね…」
「では…何故…」
もし帰って来れなくなれば、この公爵家の後継者が居なくなる。それに、仕事だってあるというのに…
「何故って。そんなことも分からないの?」
母上に首を傾げる。
「はぁ…本当に男の人って…どうしてこうなのかしら…貴方はもし、見ず知らずの人から手紙で急に思いを伝えられても心が動くと思う?」
どうだろうか…確かに手紙を貰うことは嬉しいと感じるが…相手のことを好きになるかと言われれば…それは無いだろう。
「いえ…。」
「私だったら見ず知らずの人から何通も何通も手紙が届いていたらゾッとしてしまうわよ!なんなら途中から受取拒否するわね!」
母上の言葉に思わず息が詰まる。
思い当たる節が多すぎる。
俺は一方通行の手紙を何度書いただろうか。
最初から届いていなかったなら相手は気づいていないだろうが、もし届いていて見ず知らずと人だから拒否していたとなれば…
「そういう事か…」
「そう!分かればいいの。それにね。愛の告白は手紙より直接会って行ってもらった方が嬉しいものなのよ。ねぇリューク??」
扇子の先を唇にとんとんと当てながら、父上の方を向く母上。
父上は逆に目を逸らしている。
昔何かあったのだろうか…?
「そ、そ、そうだぞ!リュシアン。会えるかわからんが、1度アルデール樹海に行ってこい。アルデール国王陛下には何とか手紙を送ってみよう…届くかはわからんがな…」
「わかりました。アルデール樹海に行ってまいります。」
俺はそれだけ話すと、旅の支度を始めるために部屋に戻った。
⟡.·*.··············································⟡.·*.
リューク視点。
女性というのはここぞと言う時に強いものだ。特にアリアンヌは公爵家に嫁いできてからというもの日に日に強くなっていく。
「初めは守ってあげたくなるような子だったんだがな…」
「あら、それは仕方ないじゃありませんか。子爵家の娘が公爵家に嫁ぐと言うのは生半可な気持ちでは無理なのです。私はまだ自国民同士の婚姻だった分そこまで酷い目に合いませんでしたが…恐らくリディアーヌ様はかなり酷い目にあってきたんじゃないかしら。」
そう言って話すマリアンヌは、昔の自分を見ているのような目付きで下を向いた。
「昔のセリエール国は差別なんかない国だったわ。だからこそセリエール国であれば友好的になれるとアルデール国は手を取ったのでしょう。むしろ他の国の方が差別していたくらいだもの。でも今の王になってからはダメね…きっとこれから荒れるわよ。巻き込まないためにもリディアーヌ様のことはお守りしたいわね。我が息子の愛しい婚約者になってくれれば良いのだけど…」
確かに、マリアンヌの言う通り、セリエール国は暴動が起き始めていると聞く。
きっとそれ以外にも色々起きてくるだろう。私はこれから起こるであろう事が少しでもいい方向に動くようにしよう。
まずは…目の前にいるマリアンヌのご機嫌を取るところから始めようか…
これはやはり恋をしているからなのだろうか。
たった1度、しかも遠くから見ただけだと言うのにリディアーヌ嬢の事が頭から離れない。
「恋とは厄介なものなのだな。」
あの時、サミュが言わなければこんな気持ちには気付かなかっただろう。
この感情を教えてくれて「ありがとう」と思う反面、知らなければよかったと思うのは我儘だろうか。
今日は王宮での仕事もないため家でゆっくりしていると、父上と母上が部屋に訪れた。
どうや今日は父上も休みらしい。いつも忙しそうにしている宰相が珍しいものだ。
久しぶりに父上が家にいるからだろうか。母上も少し浮き足立っているように感じる。
「リュシアン。久しぶりに3人でお茶でもしないか?今日はとてもいい天気だしな…」
どうやらお茶のお誘いだったらしい。
1人で部屋にいてもリディアーヌ嬢のことばかり考えてしまうので気分転換も兼ねて父上たちと一緒にお茶を飲むことにした。
「サミュエル王太子殿下に話は聞いたぞ。お前…リディアーヌ嬢に会いたいそうだな…ずっとため息ばかりついていて仕事も進まないと聞いている。」
サミュめ…まさか父上に報告していたとは…全然気づかなかった…
「た、たしかに一目でいいのでお会いしたいとは思っていますが…仕事を蔑ろにしているつもりはありません。」
「そんなの分かっておる。お前がそのように表に感情を出すなんてことはほとんどないからな。親としては嬉しい限りだ。なぁ、アリアンヌ。」
母上の方を見ながら嬉しそうな顔をする父上。母上もなんだか嬉しそうだ。
「そうね…リューク。私もリュシーの色々な表情が見えるのは嬉しいわ。それでね、リュシー。色々考えたんだけど…貴方、アルデール樹海に行ってらっしゃい。」
「アルデール樹海…にですか?」
俺の聞き間違いだろうか。
アルデール樹海に行ってこいと聞こえたと思うのだが…。
「聞き間違いでは無いわ!アルデール樹海に行って来いと言ったの。ねぇ、リューク?」
「あ、あぁ…アリアンヌの言う通りだ。」
なんだか母上の父上を見る目がいつもより怖いと感じるのは気のせいだろうか。父上も心做しか冷や汗を書いているように感じるし…
昔から喧嘩もせずに仲のいい2人だが、母上の方が強い。だから上手くいっているのかも知れないが…。
「えっと…アルデール樹海に入ったら、帰って来れなくなる可能性もあるかと思うのですが…」
アルデール樹海。
アルデール国を覆うように広大な森が広がっている。
アルデール国に辿り着くのはその道を知っている者や、アルデール国に害を成さないと分かる者のみ国への道が開かれると聞いたことがある。
通称生きている樹海。
もし、害のある者として認められれば、国に辿り着く前に元の位置に戻ってしまうか…
そのまま樹海を彷徨って戻って来れなくなるという話もあるくらいだ。
今までも何人もの人達がアルデール国に行こうと試していたが辿り着いたものは殆どいない…。
「そ、そのアルデール樹海とは…戻って来れなくなる可能性も…」
「知っているわよ!そのくらいこの国の人。いえ、近隣諸国に住む人は誰でもね…」
「では…何故…」
もし帰って来れなくなれば、この公爵家の後継者が居なくなる。それに、仕事だってあるというのに…
「何故って。そんなことも分からないの?」
母上に首を傾げる。
「はぁ…本当に男の人って…どうしてこうなのかしら…貴方はもし、見ず知らずの人から手紙で急に思いを伝えられても心が動くと思う?」
どうだろうか…確かに手紙を貰うことは嬉しいと感じるが…相手のことを好きになるかと言われれば…それは無いだろう。
「いえ…。」
「私だったら見ず知らずの人から何通も何通も手紙が届いていたらゾッとしてしまうわよ!なんなら途中から受取拒否するわね!」
母上の言葉に思わず息が詰まる。
思い当たる節が多すぎる。
俺は一方通行の手紙を何度書いただろうか。
最初から届いていなかったなら相手は気づいていないだろうが、もし届いていて見ず知らずと人だから拒否していたとなれば…
「そういう事か…」
「そう!分かればいいの。それにね。愛の告白は手紙より直接会って行ってもらった方が嬉しいものなのよ。ねぇリューク??」
扇子の先を唇にとんとんと当てながら、父上の方を向く母上。
父上は逆に目を逸らしている。
昔何かあったのだろうか…?
「そ、そ、そうだぞ!リュシアン。会えるかわからんが、1度アルデール樹海に行ってこい。アルデール国王陛下には何とか手紙を送ってみよう…届くかはわからんがな…」
「わかりました。アルデール樹海に行ってまいります。」
俺はそれだけ話すと、旅の支度を始めるために部屋に戻った。
⟡.·*.··············································⟡.·*.
リューク視点。
女性というのはここぞと言う時に強いものだ。特にアリアンヌは公爵家に嫁いできてからというもの日に日に強くなっていく。
「初めは守ってあげたくなるような子だったんだがな…」
「あら、それは仕方ないじゃありませんか。子爵家の娘が公爵家に嫁ぐと言うのは生半可な気持ちでは無理なのです。私はまだ自国民同士の婚姻だった分そこまで酷い目に合いませんでしたが…恐らくリディアーヌ様はかなり酷い目にあってきたんじゃないかしら。」
そう言って話すマリアンヌは、昔の自分を見ているのような目付きで下を向いた。
「昔のセリエール国は差別なんかない国だったわ。だからこそセリエール国であれば友好的になれるとアルデール国は手を取ったのでしょう。むしろ他の国の方が差別していたくらいだもの。でも今の王になってからはダメね…きっとこれから荒れるわよ。巻き込まないためにもリディアーヌ様のことはお守りしたいわね。我が息子の愛しい婚約者になってくれれば良いのだけど…」
確かに、マリアンヌの言う通り、セリエール国は暴動が起き始めていると聞く。
きっとそれ以外にも色々起きてくるだろう。私はこれから起こるであろう事が少しでもいい方向に動くようにしよう。
まずは…目の前にいるマリアンヌのご機嫌を取るところから始めようか…
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