夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。

ゆずこしょう

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全てを返してもらいます。

アドルフくんの最後。

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兄がメージとロッテの相手をしてくれている間に、私はアドルフに書類を渡す。

「お前には慈悲というものがないのか…」

兄に対してはあまり反抗的な態度を取らないのにやたら私には突っかかってくる。

「その言葉そのままお前に返すよ。」
正直言って、アドルフだけじゃなくガーナからも返済してもらうのが1番早かったのだが、そうしなかった理由がひとつある。


ガーナのことはそこまで恨んでいなかったからだ。ぶっちゃけた話、アドルフとの結婚は親同士が決めたものだったし、好きかどうか聞かれたら普通と答えるくらいのものだった。

「私は無理に結婚する気はなかったんだ。騎士団に2年間行く時点でお前に好きなやつができてもおかしくは無いと思っていたからな。それにお前が私を好きじゃないことくらい分かってたし、私自身も好きか嫌いか聞かれたら普通と答えるくらいだったしな。」

それでも結婚しようと思ったのは、母さんが亡くなる直前に「エルには女の子として幸せになって欲しい」と言われたからだ。


騎士団に入ると言った時、父さんは「やっぱりお前もか…」と言っていた。母さんの昔話をあまり聞くことがなかったけど、父さんの話的に母さんも騎士団にいたのではないかと思う。


自分都合で騎士団に行くことにしたし、もしこの2年で、アドルフに別に好きな人ができたなら、その人と幸せになって欲しいなと思っていたくらいだ。だから正直に話してくれていれば、私は潔く身を引くつもりでいたし、そのまま騎士団にいてもいいと思っていた。


だが…アドルフは結婚しようと言ってきた…


「お前が金に目を眩ませなきゃこんなことにはなってなかった筈だ。全て自業自得だな。あと許せないのはさ。金もそうなんだけど私の伸ばしてきた髪を切ったことなんだよな。」

小さいころから母さんが
「やんちゃでもいいから髪だけは伸ばしなさい。立派なレディになれるわ!」
とよく言っていたから、髪だけは必死に伸ばしてきたんだ。

「髪なんか、切ったって伸びてくるじゃないか!」

「確かにそうだけど違うんだ。お前にとってはくらいかもしれないが、私にとってはそれが母との大事な約束なんだ。」

だから、ガーナへの罰はあくまでも重婚という罪だけにしてもらった。

「好きな女の分、お前が頑張れよ。」

サインを貰った書類を手に持ち私はアドルフの前から立ち上がるとアドルフもよろよろと立ち上がった。


「じゃあ、お元気で!アドルフくん!」


全てが片付いて清々しい気持ちで踵を返すとマウロがなにか私に向かって騒いでいる。


「姉さん!危ない!!」


聞こえて後ろを振り向いた瞬間、花瓶を振り上げたアドルフと目が合った。
そして気づいた時には頭に花瓶が直撃していた。

⟡.·*.··············································⟡.·*.

マウロ視点。

姉さんが書類を受け取り後ろに下がろうとしたら、ヨロヨロとアドルフも立ち上がり、近くにあった花瓶をもって姉さんに勢いよく振り上げていた。

思わず俺も「危ない」と声をかけたが姉さんには届いていないみたいで首を傾げるばかり…その間にもスローモーションのように花瓶が姉さんの頭に向かっていた…

「姉さん!危ない!!」

やっと声が届いたのか後ろを振り向いた瞬間、姉さんの頭に花瓶が直撃した。


はずだった。


俺と兄さんが急いで姉さんに駆け寄り声をかける。

「姉さん、大丈夫?」

「エル、大丈夫か!?」

外で待機していた衛兵も中に入ってきてアドルフを取り押さえて緊迫感が出ている中…

姉さんは何事も無かったかのように立ち上がり、「いってぇなぁー!このクソが!」とアドルフに右ストレートをお見舞した。

「さっき勢いよく、花瓶が…あれ?血すら出てないけど…」

「あ、あぁ。昔から頭は鉄よりも硬かったが…まさかここまでとはな…」

花瓶をみると花瓶は粉々になっていて、花瓶が可哀想なくらいだった…

そしてアドルフは姉さんの右ストレートが見事に決まり気絶したまま運び出されたのである。

姉さんはそんな姿を見ながら
「ずっと我慢してたからな。やっと殴れてせいせいしたぜ!」と清々しい顔をしていた。

兄さんもそんなエル姉をみながら
「は、ははは…やっぱ母さんもおこらせると怖かったが、アルデンテ家の女を怒らせるのはやめたほうがいいな。」

「そ、そうだね。」

苦笑いをしながら話しかけてきたので、俺も頷くくらいしか返事ができなかった。


そんなこんなで色々あったこの7年の出来事は終止符を迎えたのである。

まぁ、最後は…なんとも締りのない終わりだったが…。当人はすごく清々しい顔をしているので丸く納まったということにしておこう。


「アドルフくんの顔、骨折れてるだろうね。」


「そうだな…元には戻らないかもしれないな…」

少しばかりアドルフに同情するが、エル姉の嬉しそうな姿を見れば何も言う気は起きなかった。
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