夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。

ゆずこしょう

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永久就職!?

永久就職

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騎士団に入ってから3年が経った。
この3年は他の領地にある騎士団が魔物討伐に向かっているため、比較的平和な時間を過ごしていたように思う。
騎士団に入ってから知ったことだが、この国では魔物討伐を率いる騎士団は領地ごとで順番になっていたようだ。たまたま私が行った時の魔物討伐部隊を率いていたのが自領のダグワール騎士団だったらしい。


「団長、エルヴィール・アルデンテです。失礼いたします。」

朝一で団長から呼び出された私は、急いで団長室へ向かう。


「あぁ。待っていた。そこに座ってくれ。」
団長に促されてソファに腰を掛けると、団長も前のソファに座った。

「それで…話とは、何でしょうか?」
最近、これといって呼び出されるようなことはしていないと思うのだが…確かに以前は訓練で女だとバカにしてきたやつを片っ端から倒していたが、それもかなり前の話で今は落ち着いている。
今でも喧嘩を吹っかけてくるのは新兵くらいだ。

「魔物討伐遠征に行くことになりそうなんだ。」

「なんだ…そんなことか…また、何かしたのかと思っていたので安心しました。それで次の遠征期間はどのくらいでしょうか。」
また5年とかかるのだろうか…それなら父さんたちに伝えてから行かないとまた大変なことになりそうだ。

「…次は1年の予定だ。以前のように魔物が活性化しているわけではないし、調査してもし活性化しそうであれば早めに対処しておこうということになった。」

1年なら、全然問題なさそうだ。活性化していないということであればそこまで強い魔物もいないだろう。

「その、お前は寂しくないのか?ほら、俺に死んでほしくないと…以前言っていたじゃないか。」


「なんで寂しくなるんです?それに今回の魔物討伐で死んでしまう予定があるのでしょうか…?」

この人は何を言っているんだろうか。私も行くわけだし、寂しいも何もないと思うのだけど…確かに魔物討伐に行くのだ。急にS級の魔物が出てくることだってあるかもしれないが…その時は自分も戦いに参加するわけだし死ぬということはないと思っている。

「そうか…特に死ぬつもりもなければ予定もないから安心してほしい。」
私の回答はそんなに落ち込むようなことだっただろうか…。不思議に思い、バルコ副団長の顔を見ると顔を反らされた。


「ならよかったです。で、いつからですか?魔物討伐は…。」
部下にも日にちを知らせなければならないし、準備もしなくてはならないから3日くらい猶予があると嬉しいのだが…

「早いんだが、明後日から行くことになった。あまり行くまでの時間取れなくてすまないな」

「魔物討伐なんで仕方ないですよ!それ以外に話がなければ戻りますがよろしいでしょうか?」
魔物は待ってくれるわけではないし、こればかりは仕方がない。それに明後日からということは、明日休みだから少しゆっくり準備できそうで助かる。

「あぁ。戻って構わない。」

私は団長と副団長に軽く一礼をしてから団長室を出た。


⟡.·*.··············································⟡.·*.


オディロン視点


「はぁ~~~~…」


「オディ、よかったのか?本当は伝えたかったことがあったのではないのか。」

エルが部屋を出てから深くため息をついた俺をみて、バルコが声をかけてくる。魔物討伐は国からの指示だし仕方がないことだが…

「この3年間で少しはあいつの心のよりどころになれたのではないかと思っていたのだがな…」
休みが合えば一緒に出掛けたり、食事にいったりしていた。最近では敬語も外れて以前よりも距離が近くなったように思っていたのだが…


「オディは言葉が少し足りないんだよ。恐らくエルは自分も魔物討伐に行くと思っているぞ?だから寂しくないといったんだろうし、死ぬ前に自分が助けるから大丈夫だくらいに考えているんだ。」


確かに先ほどの話の流れ的に…いつから行くか、何年くらいかかるのかなどやたら気にしていた。また長くなるようであれば家族に伝えておかないといけないし、いつからかというのは準備期間が欲しかったからということだったのか…今回エルを連れていくつもりはなかったんだがな…


「はぁ。お前も明日休みだろ。エルと一回ちゃんと話してこい。あれから3年経ったんだし、そろそろ前に進むころだと思うよ。じゃあ、俺は明後日からの遠征について伝えてくるよ。」




翌日、朝一でエルの家に向かった。
休みの度に来ているからだろうか。いつの間にかここに来るのも日常の一つになっている気がする。
ベルを鳴らすと家の中から「ふぁ~~~い」と緩んだ声が聞こえて扉があいた。

「だ、だ、、オディ。おはよう。朝からどうした?」
見るからに起きたばかりなのだろう、髪には寝癖がついていて、ラフな服装をしている。

「い、いや休みだったからな。ちょっと話したいことがあってきたんだ。今大丈夫か?」

「いいけど、家の中でいいか?」
休みの日に出かける予定がない日は2人で家の中で本を読んだり、酒を飲んだりしていたからか不思議と家の中に入ることも当たり前になっている。

「あぁ。明日からの準備もあるから話したらすぐ帰ることになるだろうが…」
いつも座る椅子に腰を掛けた。

「で、話ってなんだ?」


「単刀直入に話そうと思ってな。あれから3年経ったのだが、俺の気持ちは変わっていない。もしよかったら俺のところに永久就職しに来ないか?もちろん幸せにするし、先に死ぬつもりもない。お前が騎士団で働きたいということであればこれからも続けてくれて構わない。どうだろうか…?」

思っていた話と違ったのだろう。なぜかコップを二つ持ったままで固まってしまったエルに「大丈夫か?」と声をかける。

「あ、あぁすまない。急な話で吃驚しただけなんだ。あれから3年経ったんだな…永久就職か…確かにいいかもしれないな…」

頬を指で掻きながら目を上にむけている。少し照れているということなのだろうか。こういう姿を初めて見た気がする。

「いいのか…?」

「あぁ。オディの気持ちも3年間で痛いほど伝わってきたし、私もオディのことを少しだが、い、い、いいなと思っている。だからそ、その、永久就職するのもいいかなと…」

いつも男らしい姿を見てきたからだろうか、やたらとかわいく見えて仕方がない。


「そ、そうか。では、改めてこれからも一緒にいてくれないだろうか…」


「こちらこそよろしく頼む。あ、でも結婚は今度の遠征から帰ってきてからだな?もちろん私も一緒に行く。旦那になる人に先に死なれるのは嫌だからな…」

そう言って笑うエルの姿に俺は少し弱かった。本当は連れて行かないつもりでいたんだが、ここまで言われたら仕方ない。

「わかった。俺もお前に死なれるのは困るから二人で一緒に生き残ろう!」


結婚式はまだ先になりそうだが…それでも2人だったらこれからも乗り切れるだろう。


「幸せになろうな。オディ。」

「俺はもう十分幸せだが、これからもよろしく頼むよエル。」

2人で目を合わせて互いに笑いあう。こんな何気ない日常がいつまでも続きますようにと願いながら…














⟡.·*.··············································⟡.·*.



あとがき


この度は、「夫に家を追い出された女騎士は、全てを返してもらうために動き出す。」をお読みいただきましてありがとうございました。
今回は夫に追い出されたエルヴィールが、どのように生きていくのかをメインにお話を考えてみました。
もう少しガーナのお話やアドルフ君のお話を絡めたかったところですが、長くなりそうだったので飛ばし飛ばしで申し訳ございません。

少しでも楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
いつかはファンタジーが書きたいと夢見ているのですが…なかなか戦闘シーンを描くのが難しく勉強中です。
懲りずにまたどこかの作品でお会いできたら光栄に思います(^^♪

ありがとうございました。

ゆずこしょう



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感想 16

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みんなの感想(16件)

ミカヅキ
2024.11.07 ミカヅキ

母が害悪の諸元…

解除
ゆう
2024.11.06 ゆう

面白かったです
ザマァもうよかったです

解除
夢子
2024.11.03 夢子

エルなしで、1年の予定なら、3ヶ月〜半年で遠征終わるかも。その間に、周りが結婚準備してくれそうです。辺境伯だから、それなリの結婚式にしないとだめだろうから、本人達がいないほうが、みんながハッピ―になりそうです。

解除

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