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チョコレートを食べたつもりが……
嵐の前の静けさ。
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「はぁ~……全員参加しないといけないなんて、面倒よね。」
「エヴァンジェリンお嬢様。時間が無いので動かないでください。」
着せ替え人形のごとく、
色々なドレスに着替えること早数時間――
エヴァンジェリンは鏡に映る自分を見ながら、ため息を吐いた。
「ヴィオラ。私はなんでもいいから、動きやすいドレスにしてちょうだい。」
「それですよ……せっかくのデビュタントなんですから、もう少しシャキッとしてください。」
目の前にたたずむエヴァンジェリンを横目に、ヴィオラはコルセットを取り出す。
その瞬間――
エヴァンジェリンは、まるで敵にでも遭遇したかのように目を見開いた。
「えぇ……それ着けないとだめなの? 普段はつけなくても、何も言わないじゃない。」
「ハァ……本当にあなたという方は……今日はいつもと違うんです。絶対、着けていただきますよ!」
ヴィオラはコルセットをエヴァンジェリンに着けると、付いている紐をギューギューと締めだした。
「うっ……く、く、くるしぃ~~……」
「これくらい、我慢してください。」
これでもかというくらい締め上げると、一仕事を終えたかのようにヴィオラは汗を拭った。
「ふぅ~……やっとここまで来ましたね。あとは、このドレスを着ていただきます!」
そう言って取り出したのは、
婚約者であるバルティオスと同じ瞳の色をした、紫色のドレス――
「えっ!? そんなドレス、持っていたっけ?」
ヴィオラが持ってきたドレスを見て、エヴァンジェリンは目を細めた。
(あの男が、私にドレスを準備するとは思えないんだけど。しかも、これ……絶対着たくないわ。)
「新作ですから、見たことないのも無理ありません。旦那様が、今回のためにと準備してくださったのです。」
「えぇ~お父様が?」
(余計なことを……)
エヴァンジェリンの言葉に、ヴィオラのこめかみがピクリと動く。
「今、『余計なことして……』とか思いましたね? 残念でしたね。今回は逃げられませんから。絶対、着ていただきますよ?」
「ち、違う色のドレスの方が私に似合うと思うんだけど……」
苦笑いで返せば、ヴィオラは満面の笑みを浮かべて近づいてきた。
後ろには大きな龍が逃げ出さないように見張っているのが見える。
「ダ・メ・です! デビュタントは婚約者のお披露目の場でもあるんですから。それに、エヴァンジェリンお嬢様は次期公爵になるお方。この年で婚約者がいないとなると……なめられる可能性もあるんですよ?」
「……ッ」
ヴィオラの正論に、何も言い返すことができなかったエヴァンジェリンは、渋々、父親が用意したドレスに着替えた。
***
「ふぅ~……やっと出来上がりましたね。」
「そうね……」
最後の仕上げとでもいうように、いつもの眼鏡を装着する。
「えっ? その恰好に眼鏡ですか!? 今日くらい、外してもいいんじゃ……」
「当たり前じゃない。眼鏡がないと、何も見えないんだし。」
眼鏡をつける姿を見たヴィオラは、げんなりした顔でエヴァンジェリンを見上げた。
「そ、それはわかりますが……バルティオス様が、エスコートしてくださるのですし、大丈夫ではないですか?」
(あの男がエスコート? するわけないじゃない……)
デビュタント前に行われたお茶会を思い出す。
『僕は忙しいから、参加できるわけないだろう? これでも次期公爵だからな。』
『お茶会なんて、所詮女の愚痴を言い合う場だろう? なぜ僕が、ついていかなければならないんだ。』
練習のためにと、子供と親同士が集まるお茶会。
その度に自分は行く必要がないと断りの手紙ばかりを送ってきた。
(……あぁ~今思い出すだけでも、腹が立つわ!)
顔には出さないように、ギュッと手に力をこめる。
「あいつが来ると思う? 今まで一度も来なかったあの男が……?」
「今日はせっかくの晴れ舞台ですし、来るのではないですか? 何しろ、目立つのは好きなお方ですし。」
ヴィオラは軽く自分の頬に手を当てて、首を傾げた。
「確かに、目立つのは好きよね。そのおかげで、今まで何度被害に遭ってきたか……」
ヴィオラは、エヴァンジェリンの逆鱗に触れたことに気付いたのか、彼女の肩をポンと叩いてから、ゆっくり目を合わせた。
「それは存じておりますが、今日はせっかくの晴れ舞台です。一旦、その気持ちは忘れましょう。」
エヴァンジェリンも、自分の気持ちが高ぶっていたことに気付いたのか、肩の力を抜く。
「エヴァンジェリンお嬢様は、こう考えればよいのです。今後のつながりのために、参加すると。」
「そうね。今後の付き合いのために……領地発展のために、参加するのだと割り切るわ。」
目を合わせてうなずきあった瞬間――
コンコン
「エヴァ。準備はできたかい? そろそろ行く時間だ。」
部屋の外から聞き覚えのある声が響き渡った。
「はい、ルドリオスお父様。準備はできております。」
エヴァンジェリンは声に合わせて扉を開けると、公爵令嬢らしく少し口角をあげて微笑んだ。
「お待たせして申し訳ございません。それで、バルティオス様はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
その刹那、ルドリオスの顔は一瞬にして曇った。
(やっぱりね……)
「すまない。なんでも、馬車が予約できなかったようでね。急遽、王宮で待ち合わせすることになったんだ」
「はぁ~……そうですか」
(っていうか、侯爵家の男が、なんで馬車を予約する必要があるのよ。自分の家に馬車くらいあるでしょうに……)
眉間に皺が寄っていたことに気づいたのか、後ろからゴホンっと咳払いが聞こえた。
「エヴァンジェリンお嬢様」
氷点下のような寒さが、エヴァンジェリンの背中に当たった。
エヴァンジェリンは恐る恐る振り返ると、そこには誰よりも怖い、般若のような顔をしたヴィオラが、人形のような微笑みで立っていた。
「し、し、仕方ないですね。王宮で待ち合わせをするということでしたら、そろそろ向かわないといけませんね」
窓の外を見れば、日は沈み始め、月の位置が先ほどよりも高くなっている。
エヴァンジェリンはルドリオスの腕を取ると、急いで馬車へと向かった。
「エヴァンジェリンお嬢様。時間が無いので動かないでください。」
着せ替え人形のごとく、
色々なドレスに着替えること早数時間――
エヴァンジェリンは鏡に映る自分を見ながら、ため息を吐いた。
「ヴィオラ。私はなんでもいいから、動きやすいドレスにしてちょうだい。」
「それですよ……せっかくのデビュタントなんですから、もう少しシャキッとしてください。」
目の前にたたずむエヴァンジェリンを横目に、ヴィオラはコルセットを取り出す。
その瞬間――
エヴァンジェリンは、まるで敵にでも遭遇したかのように目を見開いた。
「えぇ……それ着けないとだめなの? 普段はつけなくても、何も言わないじゃない。」
「ハァ……本当にあなたという方は……今日はいつもと違うんです。絶対、着けていただきますよ!」
ヴィオラはコルセットをエヴァンジェリンに着けると、付いている紐をギューギューと締めだした。
「うっ……く、く、くるしぃ~~……」
「これくらい、我慢してください。」
これでもかというくらい締め上げると、一仕事を終えたかのようにヴィオラは汗を拭った。
「ふぅ~……やっとここまで来ましたね。あとは、このドレスを着ていただきます!」
そう言って取り出したのは、
婚約者であるバルティオスと同じ瞳の色をした、紫色のドレス――
「えっ!? そんなドレス、持っていたっけ?」
ヴィオラが持ってきたドレスを見て、エヴァンジェリンは目を細めた。
(あの男が、私にドレスを準備するとは思えないんだけど。しかも、これ……絶対着たくないわ。)
「新作ですから、見たことないのも無理ありません。旦那様が、今回のためにと準備してくださったのです。」
「えぇ~お父様が?」
(余計なことを……)
エヴァンジェリンの言葉に、ヴィオラのこめかみがピクリと動く。
「今、『余計なことして……』とか思いましたね? 残念でしたね。今回は逃げられませんから。絶対、着ていただきますよ?」
「ち、違う色のドレスの方が私に似合うと思うんだけど……」
苦笑いで返せば、ヴィオラは満面の笑みを浮かべて近づいてきた。
後ろには大きな龍が逃げ出さないように見張っているのが見える。
「ダ・メ・です! デビュタントは婚約者のお披露目の場でもあるんですから。それに、エヴァンジェリンお嬢様は次期公爵になるお方。この年で婚約者がいないとなると……なめられる可能性もあるんですよ?」
「……ッ」
ヴィオラの正論に、何も言い返すことができなかったエヴァンジェリンは、渋々、父親が用意したドレスに着替えた。
***
「ふぅ~……やっと出来上がりましたね。」
「そうね……」
最後の仕上げとでもいうように、いつもの眼鏡を装着する。
「えっ? その恰好に眼鏡ですか!? 今日くらい、外してもいいんじゃ……」
「当たり前じゃない。眼鏡がないと、何も見えないんだし。」
眼鏡をつける姿を見たヴィオラは、げんなりした顔でエヴァンジェリンを見上げた。
「そ、それはわかりますが……バルティオス様が、エスコートしてくださるのですし、大丈夫ではないですか?」
(あの男がエスコート? するわけないじゃない……)
デビュタント前に行われたお茶会を思い出す。
『僕は忙しいから、参加できるわけないだろう? これでも次期公爵だからな。』
『お茶会なんて、所詮女の愚痴を言い合う場だろう? なぜ僕が、ついていかなければならないんだ。』
練習のためにと、子供と親同士が集まるお茶会。
その度に自分は行く必要がないと断りの手紙ばかりを送ってきた。
(……あぁ~今思い出すだけでも、腹が立つわ!)
顔には出さないように、ギュッと手に力をこめる。
「あいつが来ると思う? 今まで一度も来なかったあの男が……?」
「今日はせっかくの晴れ舞台ですし、来るのではないですか? 何しろ、目立つのは好きなお方ですし。」
ヴィオラは軽く自分の頬に手を当てて、首を傾げた。
「確かに、目立つのは好きよね。そのおかげで、今まで何度被害に遭ってきたか……」
ヴィオラは、エヴァンジェリンの逆鱗に触れたことに気付いたのか、彼女の肩をポンと叩いてから、ゆっくり目を合わせた。
「それは存じておりますが、今日はせっかくの晴れ舞台です。一旦、その気持ちは忘れましょう。」
エヴァンジェリンも、自分の気持ちが高ぶっていたことに気付いたのか、肩の力を抜く。
「エヴァンジェリンお嬢様は、こう考えればよいのです。今後のつながりのために、参加すると。」
「そうね。今後の付き合いのために……領地発展のために、参加するのだと割り切るわ。」
目を合わせてうなずきあった瞬間――
コンコン
「エヴァ。準備はできたかい? そろそろ行く時間だ。」
部屋の外から聞き覚えのある声が響き渡った。
「はい、ルドリオスお父様。準備はできております。」
エヴァンジェリンは声に合わせて扉を開けると、公爵令嬢らしく少し口角をあげて微笑んだ。
「お待たせして申し訳ございません。それで、バルティオス様はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
その刹那、ルドリオスの顔は一瞬にして曇った。
(やっぱりね……)
「すまない。なんでも、馬車が予約できなかったようでね。急遽、王宮で待ち合わせすることになったんだ」
「はぁ~……そうですか」
(っていうか、侯爵家の男が、なんで馬車を予約する必要があるのよ。自分の家に馬車くらいあるでしょうに……)
眉間に皺が寄っていたことに気づいたのか、後ろからゴホンっと咳払いが聞こえた。
「エヴァンジェリンお嬢様」
氷点下のような寒さが、エヴァンジェリンの背中に当たった。
エヴァンジェリンは恐る恐る振り返ると、そこには誰よりも怖い、般若のような顔をしたヴィオラが、人形のような微笑みで立っていた。
「し、し、仕方ないですね。王宮で待ち合わせをするということでしたら、そろそろ向かわないといけませんね」
窓の外を見れば、日は沈み始め、月の位置が先ほどよりも高くなっている。
エヴァンジェリンはルドリオスの腕を取ると、急いで馬車へと向かった。
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