酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう

文字の大きさ
1 / 6
チョコレートを食べたつもりが……

嵐の前の静けさ。

しおりを挟む
「はぁ~……全員参加しないといけないなんて、面倒よね。」


「エヴァンジェリンお嬢様。時間が無いので動かないでください。」


着せ替え人形のごとく、
色々なドレスに着替えること早数時間――


エヴァンジェリンは鏡に映る自分を見ながら、ため息を吐いた。


「ヴィオラ。私はなんでもいいから、動きやすいドレスにしてちょうだい。」


「それですよ……せっかくのデビュタントなんですから、もう少しシャキッとしてください。」


目の前にたたずむエヴァンジェリンを横目に、ヴィオラはコルセットを取り出す。


その瞬間――


エヴァンジェリンは、まるで敵にでも遭遇したかのように目を見開いた。


「えぇ……それ着けないとだめなの? 普段はつけなくても、何も言わないじゃない。」


「ハァ……本当にあなたという方は……今日はいつもと違うんです。絶対、着けていただきますよ!」


ヴィオラはコルセットをエヴァンジェリンに着けると、付いている紐をギューギューと締めだした。


「うっ……く、く、くるしぃ~~……」


「これくらい、我慢してください。」


これでもかというくらい締め上げると、一仕事を終えたかのようにヴィオラは汗を拭った。


「ふぅ~……やっとここまで来ましたね。あとは、このドレスを着ていただきます!」


そう言って取り出したのは、
婚約者であるバルティオスと同じ瞳の色をした、紫色のドレス――


「えっ!? そんなドレス、持っていたっけ?」


ヴィオラが持ってきたドレスを見て、エヴァンジェリンは目を細めた。


(あの男が、私にドレスを準備するとは思えないんだけど。しかも、これ……絶対着たくないわ。)


「新作ですから、見たことないのも無理ありません。旦那様が、今回のためにと準備してくださったのです。」


「えぇ~お父様が?」


(余計なことを……)


エヴァンジェリンの言葉に、ヴィオラのこめかみがピクリと動く。


「今、『余計なことして……』とか思いましたね? 残念でしたね。今回は逃げられませんから。絶対、着ていただきますよ?」


「ち、違う色のドレスの方が私に似合うと思うんだけど……」


苦笑いで返せば、ヴィオラは満面の笑みを浮かべて近づいてきた。


後ろには大きな龍が逃げ出さないように見張っているのが見える。


「ダ・メ・です! デビュタントは婚約者のお披露目の場でもあるんですから。それに、エヴァンジェリンお嬢様は次期公爵になるお方。この年で婚約者がいないとなると……なめられる可能性もあるんですよ?」


「……ッ」


ヴィオラの正論に、何も言い返すことができなかったエヴァンジェリンは、渋々、父親が用意したドレスに着替えた。


***


「ふぅ~……やっと出来上がりましたね。」


「そうね……」


最後の仕上げとでもいうように、いつもの眼鏡を装着する。


「えっ? その恰好に眼鏡ですか!? 今日くらい、外してもいいんじゃ……」


「当たり前じゃない。眼鏡がないと、何も見えないんだし。」


眼鏡をつける姿を見たヴィオラは、げんなりした顔でエヴァンジェリンを見上げた。


「そ、それはわかりますが……バルティオス様が、エスコートしてくださるのですし、大丈夫ではないですか?」


(あの男がエスコート? するわけないじゃない……)


デビュタント前に行われたお茶会を思い出す。


『僕は忙しいから、参加できるわけないだろう? これでも次期公爵だからな。』


『お茶会なんて、所詮女の愚痴を言い合う場だろう? なぜ僕が、ついていかなければならないんだ。』


練習のためにと、子供と親同士が集まるお茶会。


その度に自分は行く必要がないと断りの手紙ばかりを送ってきた。


(……あぁ~今思い出すだけでも、腹が立つわ!)


顔には出さないように、ギュッと手に力をこめる。


「あいつが来ると思う? 今まで一度も来なかったあの男が……?」


「今日はせっかくの晴れ舞台ですし、来るのではないですか? 何しろ、目立つのは好きなお方ですし。」


ヴィオラは軽く自分の頬に手を当てて、首を傾げた。


「確かに、目立つのは好きよね。そのおかげで、今まで何度被害に遭ってきたか……」


ヴィオラは、エヴァンジェリンの逆鱗に触れたことに気付いたのか、彼女の肩をポンと叩いてから、ゆっくり目を合わせた。


「それは存じておりますが、今日はせっかくの晴れ舞台です。一旦、その気持ちは忘れましょう。」


エヴァンジェリンも、自分の気持ちが高ぶっていたことに気付いたのか、肩の力を抜く。


「エヴァンジェリンお嬢様は、こう考えればよいのです。今後のつながりのために、参加すると。」


「そうね。今後の付き合いのために……領地発展のために、参加するのだと割り切るわ。」


目を合わせてうなずきあった瞬間――


コンコン


「エヴァ。準備はできたかい? そろそろ行く時間だ。」


部屋の外から聞き覚えのある声が響き渡った。


「はい、ルドリオスお父様。準備はできております。」


エヴァンジェリンは声に合わせて扉を開けると、公爵令嬢らしく少し口角をあげて微笑んだ。


「お待たせして申し訳ございません。それで、バルティオス様はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」


その刹那、ルドリオスの顔は一瞬にして曇った。


(やっぱりね……)


「すまない。なんでも、馬車が予約できなかったようでね。急遽、王宮で待ち合わせすることになったんだ」


「はぁ~……そうですか」


(っていうか、侯爵家の男が、なんで馬車を予約する必要があるのよ。自分の家に馬車くらいあるでしょうに……)


眉間に皺が寄っていたことに気づいたのか、後ろからゴホンっと咳払いが聞こえた。


「エヴァンジェリンお嬢様」


氷点下のような寒さが、エヴァンジェリンの背中に当たった。


エヴァンジェリンは恐る恐る振り返ると、そこには誰よりも怖い、般若のような顔をしたヴィオラが、人形のような微笑みで立っていた。


「し、し、仕方ないですね。王宮で待ち合わせをするということでしたら、そろそろ向かわないといけませんね」


窓の外を見れば、日は沈み始め、月の位置が先ほどよりも高くなっている。


エヴァンジェリンはルドリオスの腕を取ると、急いで馬車へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

始まりはよくある婚約破棄のように

喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

ガネス公爵令嬢の変身

くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。 ※「小説家になろう」へも投稿しています

「お前とは結婚できない」って言ったのはそっちでしょ?なのに今さら嫉妬しないで

ほーみ
恋愛
王都ベルセリオ、冬の終わり。 辺境領主の娘であるリリアーナ・クロフォードは、煌びやかな社交界の片隅で、ひとり静かにグラスを傾けていた。 この社交界に参加するのは久しぶり。3年前に婚約破棄された時、彼女は王都から姿を消したのだ。今日こうして戻ってきたのは、王女の誕生祝賀パーティに招かれたからに過ぎない。 「リリアーナ……本当に、君なのか」 ――来た。 その声を聞いた瞬間、胸の奥が冷たく凍るようだった。 振り向けば、金髪碧眼の男――エリオット・レインハルト。かつての婚約者であり、王家の血を引く名家レインハルト公爵家の嫡男。 「……お久しぶりですね、エリオット様」

弟が悪役令嬢に怪我をさせられたのに、こっちが罰金を払うだなんて、そんなおかしな話があるの? このまま泣き寝入りなんてしないから……!

冬吹せいら
恋愛
キリア・モルバレスが、令嬢のセレノー・ブレッザに、顔面をナイフで切り付けられ、傷を負った。 しかし、セレノーは謝るどころか、自分も怪我をしたので、モルバレス家に罰金を科すと言い始める。 話を聞いた、キリアの姉のスズカは、この件を、親友のネイトルに相談した。 スズカとネイトルは、お互いの身分を知らず、会話する仲だったが、この件を聞いたネイトルが、ついに自分の身分を明かすことに。 そこから、話しは急展開を迎える……。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

処理中です...