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チョコレートを食べたつもりが……
おいしいチョコレート。
「えっ!? 何事……?」
チョコレートに手を伸ばしながら、目の前で起きている出来事を眺めていると――
そこには、風が吹いたら今にも飛んでいきそうな儚げな男が一人と、気の強そうな女性が一人。
そして、王子のような出立ちをした男性が立っていた。
「第三王子と聞いて婚約しましたけど……まさか、婚約者を差し置いて別の方とダンスを踊るなんて……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……これは、王族と仕方なく……」
「王族として、仕方なく……ですか。相手の女性は、あなたのミドルネームを呼んでおりましたよ?」
女は扇子で顔を半分隠しながら話しているが、内心を隠し切れないのか、眉間には皺が寄り、口角がピクピクと動いている。
(あぁ~……これは……そういうことね。)
「それは……別の国の王女なのだから、断れるわけがないだろう」
「兄上。王族だからと言って、なんでも許されるわけではありません。誤解されるような行動は、慎むべきですよ」
(なるほど。あっちの小さい方が弟で、二人から詰められているのが兄ということね。年齢から考えると、第三王子と、第四王子って感じかしら。)
目の前で起きている出来事を、チョコレートを食べながら見続ける。
(ん~……ここでやる必要、あるのかしら。せっかくの晴れ舞台に……)
「あれ? チョコレートがない!? どこに行っちゃったのかしら。」
「「「(いや、お前が全部食べたんだよ!)」」」
無意識にチョコレートに手を伸ばすと、先ほどまでこんもりと盛られていたチョコレートはすべてなくなり、包み紙だけが散らばっていた。
それを見ていた貴族たちも、思わず心の中でツッコミを入れた。
「あぁ~、考え事をしてたからか……なくなっちゃったなら、仕方ないわね。戻すことはできないし。」
手を小さく合わせて、「ごちそうさまでした。」と一言伝える。
そして、歩き出そうと一歩踏み出した――
その瞬間――
ドクンッ
胸のあたりがポカポカと熱くなり、顔から火が出るのではないかというくらい、熱くなった。
***
一時間前――
ユリウスは婚約者であるアリアーヌと一緒に夜会に参加をしていた。
「ユリウス様。私少しこの場を離れてもよろしいでしょうか?」
(あぁ、友人に挨拶か。)
「構わない。私も友人に挨拶してくるから気にしないでくれ。」
それぞれ別の方向へと歩き出した。
(無理に付き合わせてしまったかもしれないな。)
「ユリウス第三王子殿下。ご挨拶させてください。」
ユリウスが歩いていれば、いたるところから声を掛けられる。
「リーヴェルト伯爵か。」
「はい、こちらは本日デビュタントを迎えた、娘のヘレーネです。」
リーヴェルトの言葉に合わせてヘレーネはふらつきながらカーテシーをする。
「ヘレーネ嬢。頭を上げてくれ。デビュタントおめでとう。楽しんでいってくれ。」
「あ、ありがとうございます!」
軽く手を挙げて別の場所に移動をすれば、次々に挨拶をされる。
(ふぅ……ようやく一段落か。王子という立場も、こういう時ばかりは骨が折れるな。)
そんな時――
ふわり
(なんだ……この甘い匂いは……)
どこからともなく甘い芳醇な香りが鼻腔をくすぐった。
匂いのする方向を見れば、軽食の置いてあるスペースで、夢中でチョコレートに手を伸ばしている令嬢が一人立っていた。
その周りにいた貴族たちも、声をかけることをせず、令嬢が次々と食べる姿を目で追っている。
(あのドレス。最近流行の絹ではないか……って、今はそれどころではないな。)
ユリウスは約束していた合流の時間を思い出し、自分と同じように貴族たちに囲まれているだろうと考えながら、アリアーヌを探した。
その時――
背後で、ぴたりと足音が止まる気配がした。
「貴方が、ユリウス・アッシュ・セレニア第三王子殿下ですか?」
月明かりのように柔らかく、鈴の音色のように透明な声が響いた瞬間、ざわついていた場内は理由もなく静まり返った。
「貴女は……確か……」
ふわり
優雅にカーテシーをするイザベラの姿に
その場にいた男性たちは、思わず息を呑み込んだ。
「はい。ノルトレート王国から参りました。イザベラ・ルデ・ノルトレートと申します。以後お見知りおきを。」
その刹那、胸の奥がざわついた。
(なんだか……いやな予感がするな。)
「こちらこそ、挨拶が遅くなり申し訳ございません。イザベラ第二王女殿下。私はユリウス・アッシュ・セレニアと申します。」
ユリウスが挨拶を終えると同時に、イザベラは彼と距離を縮めようとゆっくり歩き始めた。
その時――
「あっ……」
イザベラの身体が、ふらりと前へ倒れる。
(まずい……隣国の王女に傷なんてつけさせたら……)
「だ、大丈夫ですか?」
倒れる前に抱き留めると、イザベラはそのままユリウスの肩にもたれかかった。
「あ、ありがとうございます。アッシュ様。」
「いや、私は当然のことをしたまで。イザベラ第二王女殿下にお怪我はございませんでしたか?」
「はい、アッシュ様が助けてくれたので大丈夫です。」
(……この場を見られたら、厄介なことになりそうだ)
イザベラに怪我がないことを確認すると、自分の身体から彼女を引き離した。
「アッシュ様。お礼と言っては何ですが、私とダンスを一曲踊っていただけませんか?」
目に涙を浮かべながら、上目遣いで見てくるイザベラ。
(相手は姫だ。しかも、ここで断ってしまえば、王族の恥となる…か。)
その姿を見て断ることができないと判断したユリウスは、小さく息を吐くとイザベラに手を差し出した。
「喜んでお相手させてください。イザベラ第二王女殿下」
ユリウスの手を、彼女は頬を赤らめながらためらいなく取った。
この時――
その様子を、幾つもの視線が静かに見つめていたことに、
ユリウスはまだ気づいていなかった。
その間も場内には、チョコレートの甘い香りが、何事もなかったかのように漂っていた。
チョコレートに手を伸ばしながら、目の前で起きている出来事を眺めていると――
そこには、風が吹いたら今にも飛んでいきそうな儚げな男が一人と、気の強そうな女性が一人。
そして、王子のような出立ちをした男性が立っていた。
「第三王子と聞いて婚約しましたけど……まさか、婚約者を差し置いて別の方とダンスを踊るなんて……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ……これは、王族と仕方なく……」
「王族として、仕方なく……ですか。相手の女性は、あなたのミドルネームを呼んでおりましたよ?」
女は扇子で顔を半分隠しながら話しているが、内心を隠し切れないのか、眉間には皺が寄り、口角がピクピクと動いている。
(あぁ~……これは……そういうことね。)
「それは……別の国の王女なのだから、断れるわけがないだろう」
「兄上。王族だからと言って、なんでも許されるわけではありません。誤解されるような行動は、慎むべきですよ」
(なるほど。あっちの小さい方が弟で、二人から詰められているのが兄ということね。年齢から考えると、第三王子と、第四王子って感じかしら。)
目の前で起きている出来事を、チョコレートを食べながら見続ける。
(ん~……ここでやる必要、あるのかしら。せっかくの晴れ舞台に……)
「あれ? チョコレートがない!? どこに行っちゃったのかしら。」
「「「(いや、お前が全部食べたんだよ!)」」」
無意識にチョコレートに手を伸ばすと、先ほどまでこんもりと盛られていたチョコレートはすべてなくなり、包み紙だけが散らばっていた。
それを見ていた貴族たちも、思わず心の中でツッコミを入れた。
「あぁ~、考え事をしてたからか……なくなっちゃったなら、仕方ないわね。戻すことはできないし。」
手を小さく合わせて、「ごちそうさまでした。」と一言伝える。
そして、歩き出そうと一歩踏み出した――
その瞬間――
ドクンッ
胸のあたりがポカポカと熱くなり、顔から火が出るのではないかというくらい、熱くなった。
***
一時間前――
ユリウスは婚約者であるアリアーヌと一緒に夜会に参加をしていた。
「ユリウス様。私少しこの場を離れてもよろしいでしょうか?」
(あぁ、友人に挨拶か。)
「構わない。私も友人に挨拶してくるから気にしないでくれ。」
それぞれ別の方向へと歩き出した。
(無理に付き合わせてしまったかもしれないな。)
「ユリウス第三王子殿下。ご挨拶させてください。」
ユリウスが歩いていれば、いたるところから声を掛けられる。
「リーヴェルト伯爵か。」
「はい、こちらは本日デビュタントを迎えた、娘のヘレーネです。」
リーヴェルトの言葉に合わせてヘレーネはふらつきながらカーテシーをする。
「ヘレーネ嬢。頭を上げてくれ。デビュタントおめでとう。楽しんでいってくれ。」
「あ、ありがとうございます!」
軽く手を挙げて別の場所に移動をすれば、次々に挨拶をされる。
(ふぅ……ようやく一段落か。王子という立場も、こういう時ばかりは骨が折れるな。)
そんな時――
ふわり
(なんだ……この甘い匂いは……)
どこからともなく甘い芳醇な香りが鼻腔をくすぐった。
匂いのする方向を見れば、軽食の置いてあるスペースで、夢中でチョコレートに手を伸ばしている令嬢が一人立っていた。
その周りにいた貴族たちも、声をかけることをせず、令嬢が次々と食べる姿を目で追っている。
(あのドレス。最近流行の絹ではないか……って、今はそれどころではないな。)
ユリウスは約束していた合流の時間を思い出し、自分と同じように貴族たちに囲まれているだろうと考えながら、アリアーヌを探した。
その時――
背後で、ぴたりと足音が止まる気配がした。
「貴方が、ユリウス・アッシュ・セレニア第三王子殿下ですか?」
月明かりのように柔らかく、鈴の音色のように透明な声が響いた瞬間、ざわついていた場内は理由もなく静まり返った。
「貴女は……確か……」
ふわり
優雅にカーテシーをするイザベラの姿に
その場にいた男性たちは、思わず息を呑み込んだ。
「はい。ノルトレート王国から参りました。イザベラ・ルデ・ノルトレートと申します。以後お見知りおきを。」
その刹那、胸の奥がざわついた。
(なんだか……いやな予感がするな。)
「こちらこそ、挨拶が遅くなり申し訳ございません。イザベラ第二王女殿下。私はユリウス・アッシュ・セレニアと申します。」
ユリウスが挨拶を終えると同時に、イザベラは彼と距離を縮めようとゆっくり歩き始めた。
その時――
「あっ……」
イザベラの身体が、ふらりと前へ倒れる。
(まずい……隣国の王女に傷なんてつけさせたら……)
「だ、大丈夫ですか?」
倒れる前に抱き留めると、イザベラはそのままユリウスの肩にもたれかかった。
「あ、ありがとうございます。アッシュ様。」
「いや、私は当然のことをしたまで。イザベラ第二王女殿下にお怪我はございませんでしたか?」
「はい、アッシュ様が助けてくれたので大丈夫です。」
(……この場を見られたら、厄介なことになりそうだ)
イザベラに怪我がないことを確認すると、自分の身体から彼女を引き離した。
「アッシュ様。お礼と言っては何ですが、私とダンスを一曲踊っていただけませんか?」
目に涙を浮かべながら、上目遣いで見てくるイザベラ。
(相手は姫だ。しかも、ここで断ってしまえば、王族の恥となる…か。)
その姿を見て断ることができないと判断したユリウスは、小さく息を吐くとイザベラに手を差し出した。
「喜んでお相手させてください。イザベラ第二王女殿下」
ユリウスの手を、彼女は頬を赤らめながらためらいなく取った。
この時――
その様子を、幾つもの視線が静かに見つめていたことに、
ユリウスはまだ気づいていなかった。
その間も場内には、チョコレートの甘い香りが、何事もなかったかのように漂っていた。
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