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"二人”という秘密。
面白い二人。
「ふぅ~やっぱり空を飛べばあっという間ね。本当にこの乗り物作った人凄いわぁ~」
大きな羽根が付いた箱に乗ること数時間――
何度か給油ポイントに止まりながらも、通常であれば片道三日はかかる道程を一日に短縮していた。
ヴィオラが、ぐぅーっと伸びをしているエヴァンジェリンを微笑ましそうに見つめていると、彼女には聞こえないように声をかけられた。
「おい……ヴィオラ……」
「なんですか?クラウディウス様……」
二人の間に、ただならぬ雰囲気がひしひしと伝わってくる。
(今になってこの男とまた顔を合わせることになるなんてね……)
「そんな言い方ないだろ?俺とお前の仲じゃないか……」
「誤解を招くような言い方やめてください。ただの乳母姉弟なんですから。」
ヴィオラがエヴァンジェリンに拾われる前――
ヴィオラの母はクラウディウスの乳母としてヴァリオン辺境伯爵家に仕えていた。
しかし、とある事件を引き金に、ヴィオラは貴族の地位を失うことになった。
(……まぁ、この人が悪いわけじゃないし、私は今の方が幸せだからどうでもいいんだけど……)
感情を表に出すことなく、目の前の男を見上げる。
「……あまり、こっちを見るな……」
視線を彷徨わせながら頬を赤らめるクラウディウスを見て、ヴィオラは首を傾げた。
「……そんなこと言われても。貴方が見ろと言ったんじゃない。」
やれやれとため息を吐くと、
「それよりも、熱があるならエヴァンジェリンお嬢様には近づかないでちょうだいね。風邪を移したら許さないから。」
とだけ言ってその場を離れようと動き出した。
その瞬間――
「いや、ちょっと待ってくれ。その、エヴァンジェリン様について教えてほしいんだ!」
その言葉に足を止める。
「エヴァンジェリンお嬢様のこと……?」
ヴィオラは振り返ることなく静かに聞き返した。
「そうだ……俺だってこれからあのお方に仕えるんだから、知っておいたほうがいいだろ? それに……」
クラウディウスは言葉を濁し、視線を泳がせた。
「……お前の……」
「えっ? なに!? 聞こえないんだけど!」
「役に……立ちたいだろ……」
クラウディウスの声が小さくて聞き取れないのか、ヴィオラは眉間にしわを寄せて、仕方なさそうに肩を竦めた。
「……本当に昔からハッキリしないわね。まぁ、いいわ。あとでその顔貸しなさい。」
それだけ言うとヴィオラは持ってきた荷物を別邸へと運んだ。
そんな二人の行動を遠くから見ている人物がいた。
「……面白そうね」
「だな」
二人は顔を見合わせると、「ニシシッ」と笑い合った。
そして――
ヴィオラとクラウディウスが別邸を出ていくのを見ると、二人は少し距離を取って後を追うのだった。
***
『それで?何が聞きたいの?』
別邸から少し離れたところに位置するカフェ――
その一番奥の席に、二人は座った。
「おい、あそこの店に入ったぞ?」
「本当ね。私たちも入りましょ。」
二人がカフェに入ったのを確認すると、それを追いかけるようにエヴァンジェリンとユリウスがカフェの中へと入っていく。
カランカラン――
「いらっしゃい……」
「「シッ……」」
二人揃って口元に人差し指を持っていくと、声を出さないようにと体全体で表現する。
店主はそんな二人の行動を見て、怪訝そうに首を傾げた。
しかし――
エヴァンジェリンとユリウスはそんなことなど気にもせず、ヴィオラたちに気づかれないように少し離れた席に腰を下ろした。
「ユリウス……あの二人って知り合いだったの……?」
「俺も初めて知った。」
エヴァンジェリンたちが窓越しに映る二人を見ると、ヴィオラは何か警戒しているのか、一度だけ周囲を見回した。
そして、カップの中に角砂糖を五個入れると、軽く混ぜてから口へ運ぶ。
「それで? 何が聞きたいの?」
「全部……と言いたいところだが……きっとお前のことだ。教えてくれないだろ?」
ヴィオラはカップを机に置くと、「そうね」と短く答えた。
二人の間に沈黙が流れる。
カップから出る湯気が時間の経過だけを告げていく。
しばらくして、クラウディウスがやっと重い口を開いた。
「お前はいつから、あの方に仕えているんだ?」
「そんなの関係ないじゃない」
「いや、気になるだろ? ヴィオラがいなくなってから、ずっと探していたんだ。」
探していたという言葉を聞いたのか、ヴィオラの肩がビクリと動いた。
「……私が十三歳の時よ……今から丁度十年前ね……」
そう言ったヴィオラの指先が、カップの縁をきゅっと掴むと、クラウディウスは返す言葉を探すように一瞬だけ視線を落とした。
「……そうか……どこで出会ったんだ?」
「……お父様とお母様が事故で亡くなったあと、すぐに家から追い出されたの。」
ヴィオラはあまり話したくないのかカップに視線を落とすと深く息を吐いた。
「それで……行く当てもなく彷徨っていたら、お嬢様が目の前に現れたのよ……。」
あれはたまたまだった。
雨の強い日――
急に叔父夫婦とヴァイリスが家に来たかと思えば、無理やり髪を掴まれて、最小限の荷物と一緒に屋敷から追い出されたのだ。
(あの時は、急すぎて何が起きたのか分からなかったのよね……)
「なんで、俺の所に来なかったんだよ。ずっと探していたんだぞ?……俺のところに来ていれば……」
あの時の事を悔いているのか、途切れ途切れに話すクラウディウス。
しかし、ヴィオラも貴族の令嬢。
いくら婚約者であっても、簡単に頼ることは出来なかった。
そう、いくら婚約者であったとしても……
「無理よ。だって貴方……」
「ヴァイリスと婚約したんでしょ?」
ヴィオラの言葉を聞いて、クラウディウスは思わず唸るような低い声を出した。
「……は?」
「少なくとも私はそう聞いたわ……だから、私は行くあてもなく彷徨うしかなかったの。そんな時に傘を持ったひとりの少女が目の前に現れた。」
大雨の中、少女の周りだけが光り輝いて見えた。
「そして、笑顔でこう言われたの。」
「『あなた、私のところに来ない?今なら衣食住全てセットでお買い得よ?』って…」
たったそれだけの言葉。
しかし、全てを失ったヴィオラにとって、その言葉は何よりも嬉しい一言だった。
「まるで女神のようだったわ……」
その声にはいつものトゲトゲしさはなく、ただただ尊敬しているような慈愛に満ちた声で、少し遠くに座るエヴァンジェリンを見た。
「おい、バレてるんじゃないか?」
「まさかぁ~大丈夫よ!それにしてもあの二人が婚約していたなんてねぇ~……」
コソコソと話すユリウスとエヴァンジェリン。
ヴィオラはユリウスと目が合うニコリと微笑んだ。
(これは絶対バレてるって……)
しかし、エヴァンジェリンは本当にバレていないと思っているのか……
明後日の方向を見ながら別のことを考えている。
「それにしても……ヴァイオリン?って名前どっかで聞いたことあるような……」
ヴィオラは立ち上がると、スタスタとエヴァンジェリンの方に向かってくる。
そして、手に持っている新聞紙を取り上げた。
「まぁ、こう言うことしなきゃもっと良いんですけどね。」
「きゃっ!!」
「こんなんで、隠れられると思ったんですか!?ユリウス様もユリウス様です。一緒になって遊ばないでくださいませ。それとヴァイオリンじゃなくてヴァイリスですから。」
「す、すまない……」
ユリウスはヴィオラの言葉に肩を竦めて謝った。
「よく気づいたわね……」
「むしろ気づいていないと思っていた方がすごいですよ」
ヴィオラはエヴァンジェリンの腕を掴むとそのまま店先を出る。
そんな中、クラウディウスだけが何が起きたか理解できないでいた。
ユリウスはそんな彼の肩をポンッと叩くと、言葉を発することなくエヴァンジェリンたちの後を追う。
「えっ!?どういうことだ……」
後ろからクラウディウスの声が聞こえたが、この声に誰一人として答えるものはいなかった。
「合計で三百バルスになりま~す!」
店員のお会計の声が、やけに明るく響き渡る。
「えっ!?高っ!!」
クラウディウスは泣く泣く四人分の会計を支払った。
大きな羽根が付いた箱に乗ること数時間――
何度か給油ポイントに止まりながらも、通常であれば片道三日はかかる道程を一日に短縮していた。
ヴィオラが、ぐぅーっと伸びをしているエヴァンジェリンを微笑ましそうに見つめていると、彼女には聞こえないように声をかけられた。
「おい……ヴィオラ……」
「なんですか?クラウディウス様……」
二人の間に、ただならぬ雰囲気がひしひしと伝わってくる。
(今になってこの男とまた顔を合わせることになるなんてね……)
「そんな言い方ないだろ?俺とお前の仲じゃないか……」
「誤解を招くような言い方やめてください。ただの乳母姉弟なんですから。」
ヴィオラがエヴァンジェリンに拾われる前――
ヴィオラの母はクラウディウスの乳母としてヴァリオン辺境伯爵家に仕えていた。
しかし、とある事件を引き金に、ヴィオラは貴族の地位を失うことになった。
(……まぁ、この人が悪いわけじゃないし、私は今の方が幸せだからどうでもいいんだけど……)
感情を表に出すことなく、目の前の男を見上げる。
「……あまり、こっちを見るな……」
視線を彷徨わせながら頬を赤らめるクラウディウスを見て、ヴィオラは首を傾げた。
「……そんなこと言われても。貴方が見ろと言ったんじゃない。」
やれやれとため息を吐くと、
「それよりも、熱があるならエヴァンジェリンお嬢様には近づかないでちょうだいね。風邪を移したら許さないから。」
とだけ言ってその場を離れようと動き出した。
その瞬間――
「いや、ちょっと待ってくれ。その、エヴァンジェリン様について教えてほしいんだ!」
その言葉に足を止める。
「エヴァンジェリンお嬢様のこと……?」
ヴィオラは振り返ることなく静かに聞き返した。
「そうだ……俺だってこれからあのお方に仕えるんだから、知っておいたほうがいいだろ? それに……」
クラウディウスは言葉を濁し、視線を泳がせた。
「……お前の……」
「えっ? なに!? 聞こえないんだけど!」
「役に……立ちたいだろ……」
クラウディウスの声が小さくて聞き取れないのか、ヴィオラは眉間にしわを寄せて、仕方なさそうに肩を竦めた。
「……本当に昔からハッキリしないわね。まぁ、いいわ。あとでその顔貸しなさい。」
それだけ言うとヴィオラは持ってきた荷物を別邸へと運んだ。
そんな二人の行動を遠くから見ている人物がいた。
「……面白そうね」
「だな」
二人は顔を見合わせると、「ニシシッ」と笑い合った。
そして――
ヴィオラとクラウディウスが別邸を出ていくのを見ると、二人は少し距離を取って後を追うのだった。
***
『それで?何が聞きたいの?』
別邸から少し離れたところに位置するカフェ――
その一番奥の席に、二人は座った。
「おい、あそこの店に入ったぞ?」
「本当ね。私たちも入りましょ。」
二人がカフェに入ったのを確認すると、それを追いかけるようにエヴァンジェリンとユリウスがカフェの中へと入っていく。
カランカラン――
「いらっしゃい……」
「「シッ……」」
二人揃って口元に人差し指を持っていくと、声を出さないようにと体全体で表現する。
店主はそんな二人の行動を見て、怪訝そうに首を傾げた。
しかし――
エヴァンジェリンとユリウスはそんなことなど気にもせず、ヴィオラたちに気づかれないように少し離れた席に腰を下ろした。
「ユリウス……あの二人って知り合いだったの……?」
「俺も初めて知った。」
エヴァンジェリンたちが窓越しに映る二人を見ると、ヴィオラは何か警戒しているのか、一度だけ周囲を見回した。
そして、カップの中に角砂糖を五個入れると、軽く混ぜてから口へ運ぶ。
「それで? 何が聞きたいの?」
「全部……と言いたいところだが……きっとお前のことだ。教えてくれないだろ?」
ヴィオラはカップを机に置くと、「そうね」と短く答えた。
二人の間に沈黙が流れる。
カップから出る湯気が時間の経過だけを告げていく。
しばらくして、クラウディウスがやっと重い口を開いた。
「お前はいつから、あの方に仕えているんだ?」
「そんなの関係ないじゃない」
「いや、気になるだろ? ヴィオラがいなくなってから、ずっと探していたんだ。」
探していたという言葉を聞いたのか、ヴィオラの肩がビクリと動いた。
「……私が十三歳の時よ……今から丁度十年前ね……」
そう言ったヴィオラの指先が、カップの縁をきゅっと掴むと、クラウディウスは返す言葉を探すように一瞬だけ視線を落とした。
「……そうか……どこで出会ったんだ?」
「……お父様とお母様が事故で亡くなったあと、すぐに家から追い出されたの。」
ヴィオラはあまり話したくないのかカップに視線を落とすと深く息を吐いた。
「それで……行く当てもなく彷徨っていたら、お嬢様が目の前に現れたのよ……。」
あれはたまたまだった。
雨の強い日――
急に叔父夫婦とヴァイリスが家に来たかと思えば、無理やり髪を掴まれて、最小限の荷物と一緒に屋敷から追い出されたのだ。
(あの時は、急すぎて何が起きたのか分からなかったのよね……)
「なんで、俺の所に来なかったんだよ。ずっと探していたんだぞ?……俺のところに来ていれば……」
あの時の事を悔いているのか、途切れ途切れに話すクラウディウス。
しかし、ヴィオラも貴族の令嬢。
いくら婚約者であっても、簡単に頼ることは出来なかった。
そう、いくら婚約者であったとしても……
「無理よ。だって貴方……」
「ヴァイリスと婚約したんでしょ?」
ヴィオラの言葉を聞いて、クラウディウスは思わず唸るような低い声を出した。
「……は?」
「少なくとも私はそう聞いたわ……だから、私は行くあてもなく彷徨うしかなかったの。そんな時に傘を持ったひとりの少女が目の前に現れた。」
大雨の中、少女の周りだけが光り輝いて見えた。
「そして、笑顔でこう言われたの。」
「『あなた、私のところに来ない?今なら衣食住全てセットでお買い得よ?』って…」
たったそれだけの言葉。
しかし、全てを失ったヴィオラにとって、その言葉は何よりも嬉しい一言だった。
「まるで女神のようだったわ……」
その声にはいつものトゲトゲしさはなく、ただただ尊敬しているような慈愛に満ちた声で、少し遠くに座るエヴァンジェリンを見た。
「おい、バレてるんじゃないか?」
「まさかぁ~大丈夫よ!それにしてもあの二人が婚約していたなんてねぇ~……」
コソコソと話すユリウスとエヴァンジェリン。
ヴィオラはユリウスと目が合うニコリと微笑んだ。
(これは絶対バレてるって……)
しかし、エヴァンジェリンは本当にバレていないと思っているのか……
明後日の方向を見ながら別のことを考えている。
「それにしても……ヴァイオリン?って名前どっかで聞いたことあるような……」
ヴィオラは立ち上がると、スタスタとエヴァンジェリンの方に向かってくる。
そして、手に持っている新聞紙を取り上げた。
「まぁ、こう言うことしなきゃもっと良いんですけどね。」
「きゃっ!!」
「こんなんで、隠れられると思ったんですか!?ユリウス様もユリウス様です。一緒になって遊ばないでくださいませ。それとヴァイオリンじゃなくてヴァイリスですから。」
「す、すまない……」
ユリウスはヴィオラの言葉に肩を竦めて謝った。
「よく気づいたわね……」
「むしろ気づいていないと思っていた方がすごいですよ」
ヴィオラはエヴァンジェリンの腕を掴むとそのまま店先を出る。
そんな中、クラウディウスだけが何が起きたか理解できないでいた。
ユリウスはそんな彼の肩をポンッと叩くと、言葉を発することなくエヴァンジェリンたちの後を追う。
「えっ!?どういうことだ……」
後ろからクラウディウスの声が聞こえたが、この声に誰一人として答えるものはいなかった。
「合計で三百バルスになりま~す!」
店員のお会計の声が、やけに明るく響き渡る。
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※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。