酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう

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三領地同盟。

空の旅。

「それにしても……鉄の箱って名前ばかりで不便じゃないか?」


鳥の形をした鉄の箱が飛び立って一時間――


耳が痛くなる症状にも慣れてきたユリウスは、エヴァンジェリンに出会ってから出てきた数々の箱を思い出していた。


ホテルの中にある上下に動く鉄の箱


馬車よりも早く動く鉄の箱


大きな羽をブォンブォン回しながら飛び立つ鉄の箱


そして、鳥のような形をした鉄の箱――


(確かに、鉄の箱ではあるが名前が同じなのは不便だよな。)


「他にも鉄の箱が出てきたら、さらに分からなくなりそうだ……。」


ユリウスが外を眺めながら呟けば、エヴァンジェリンは一言……


「一応あるわよ……名前……」



「……でも、なんだか不評でねぇ。結局、皆鉄の箱としか呼んでくれないのよ」



「へ、へぇ~……」



ユリウスはピクリと片方の口角をあげた。


その顔はまるで……聞いてはいけないことに片足を突っ込んでしまった時のような……


しかし言葉にしてしまった以上、聞かない訳にはいかないと思ったのだろう。


ユリウスは、恐る恐る口を開いた。


「ち、ちなみに……どんな名前なんだ?」


エヴァンジェリンは「待ってました!」と言わんばかりバッと顔をあげる。


「えっと、上下箱と、横移動箱でしょ。それと、ぐるぐる空飛ぶ箱にぃ……今回のは鳥さんよ!!」


まさかのネーミングセンスに、ユリウスは一瞬動きを止めた。


(……いや、むしろ想像していたよりマシか……?)



「い、良い名前だな……」


絞り出すように答えると、エヴァンジェリンはその言葉が嬉しかったのか――

目を輝かせながら興奮気味にユリウスを見た。


「でしょ~!?本当はもう少し違う名前だったんだけど、ヴィオラには却下されるし、お父様たちも苦い顔をされるし……結局この名前で落ち着いたのよね。でも、何故か皆……“鉄の箱”としか呼んでくれないのよ」


エヴァンジェリンの、言葉を聞いてどこか納得するユリウス。


(これは仕方なくここに着地した……ということか……)


「まぁ、全部、鉄の箱に変わりないからな……それにしてもこれだけ領地を変えるのは大変だったんじゃないか?」


エヴァンジェリンの父ルドリオスが話していた事を思い出した。


『ここまで領地を大きくしたのはエヴァンジェリンなのです』


シルヴァリア公爵領の全てを見たわけではないユリウスだったが、鉄の箱の種類。

グレンヴァリアまでの経路。

そして、大麦の収穫量や高級ウイスキーの生産。


この全てを行うには時間が足りなさすぎる。


そして、エヴァンジェリンはまだ成人したばかり……


(十年やそこらでやるには限界があるだろう……)


「ん~……それが、記憶ないことが多いのよねぇ……」


エヴァンジェリンは昔の事を思い出しながら首を傾げる。


「記憶にない?」


ユリウスは足を組み直すと、エヴァンジェリンと同じように首を傾げた。


「そう……でもね、小さい頃から不思議なことがあるの」


ユリウスはその時、酔っ払った時のエヴァンジェリンの顔が目に浮かんだ。


『酔っ払うと私が出てくるのよ。』


(酔っ払うと……という事だったが……)


違う人格を持つエヴァンジェリン。


話を聞いていて、お酒を飲むだけがトリガーなのであれば、表に出てくる時間はそこまで多くなかっただろう。


「夜寝て目が覚めると……机の上に資料が用意されているの。それも……事細かくね……」


これだけの知識をどこで手に入れたのかと考えていたユリウスだったが、エヴァンジェリンの話を聞いて、腑に落ちた気がした。


(なるほど……酔っ払う事だけがトリガーではないという事か)


「昔はそれ通りに進めただけ。今思えば……あれは神様からの贈り物だったのかしらね」


エヴァンジェリンは自分の中にいるもう一人の存在に気づいていないのか、小窓から空を眺めた。


二人の間に沈黙が流れる。


お互い思う事はあるのだろうが、口に出すことはなかった。


それからしばらくして――


ガタン


「な、なんだ!?」


鉄の箱が大きく揺れると同時に……ゆっくり下降を始める。


「あっ、もうすぐ着くみたいね!」


ユリウスはエヴァンジェリンが指す先を見ると、そこには……


先ほどまでとは全く違う景色が映っていた。


少し雪の被った山に、きれいな青い海がどこまでも広がっている。そして、その先には広大な畑や森……そして、小さな家や城が点在している。


「あの領地の旗……」



「あ、見えちゃった?」


小さいが、遠くからでも分かる領地の旗。


白い狼の絵が書かれている。


「エスペリア公爵領か……」


エスペリア公爵領――


ルカリオスの実家であり、セレニア国にある五大公爵家の一つだ。


(しかし……エスペリア公爵領までは……片道二週間はかかるはずだが……)


シルヴァリア公爵領は広さでいえば一番広いが、エスペリア公爵領は逆側に位置するため、距離がかなりある。


それに……いくつもの山を超えないといけないため迂回するしかないのだ。


(片道三時間か……これは……歴史が変わるな……)


エヴァンジェリンが違うことを考えている頃、ユリウスもまた、鉄の箱の凄さを知って別のことを考えていた。


「そう……空を飛ぶと、山を簡単に越えられるからありがたいわよねー」


初めて来た訳ではないのか、淡々と話すエヴァンジェリンにユリウスは息を吐いた。


(ルカリオスはこの事……知ってたら話すか……)


まだ、ヴァリオン辺境伯家の話も聞けていないユリウスは、この先もこうやって振り回されるのかと思うと、それ以上の言葉は出なかった。


「このまま上手く行けば海を越えるのもあっという間ねぇ~楽しみだわ!」


そんなユリウスの気持も露知らず、エヴァンジェリンは今日も自由気ままに動き回るのだった。


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