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終話
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「……あ、あのさぁ、君たち」
「……あ?」
「兄さん、どうかしましたか?」
「……もう、ここには来ないんじゃなかったのかい?」
それから時間のゆっくりと過ぎた、ある四月の平日。
俺たちはもうここに来ることはなかった、なんてことはなく、毎日昼休みと放課後になればここ、司書室に集まっていた。
今日も例外ではなく、昼休みだということでここでステラと雑談をしている。
俺たちにとっての居場所がここであることは変わらなかった。
ただ、この司書室の役目が避難場所から待ち合わせ場所になっただけ。
「俺はもうここに来ないなんて言ってないが」
「……え?」
「あ、あくまで、私たちはちゃんと授業を受けるようになるって言っただけで……」
「……え、じゃ、じゃあ、あの時の僕はとんだ勘違いを…………」
「やっぱり泣いていたのか」
「な、泣いてないとも! 僕をなんだと思っているのかねっ」
「根は良い変人だな」
「いや、そこは違うだろう!? どうしてこういう時だけ素直なんだい!?」
彼は悔しそうにどこか恥ずかしそうに顔を歪ませると、そっぽ向いた。
背を向けたところで、あんたの抱えた心情は手に取るようにわかるけどな。
「寂しかったんだな」
「ば、馬鹿っ、なにを言ってるんだい。そ、そんなわけがないじゃないか」
「嘘が下手だな」
「兄さん、かわいい」
「二人して揶揄うなんて卑怯だぞ!」
「こっちは今までされた分貯金があるんだ、少しくらい返済したって文句はないだろ」
「くっ、君たちって奴は……!」
司書室の中は相変わらずくだらない会話で溢れていた。俺たちにとってここが一番心許せる場所であることは変わらない。
だからこそ、この場が今こそ必要なのだ。
どれほど時間が経ったって、どれほど日々を過ごしたって、俺たちは過去、ここにいたのだ。ここの空気が一番吸っていて気持ちがよい。それに、生きていれば必ずどこかでしんどい瞬間がやって来る。今まで避難していたくらいだ。急に全てを乗り越えられるような成長もできていない俺たちには厳しい世界だ。
……でも、だから向き合うのだ。
必死こいてもがいて、またここに集うんだ。
互いの勇姿を讃えるため。
止まりそうな背中を押すため。
背負った黒い雫を受け止めるため。
前を向き続けるため、俺たちはここに集うんだろう。
「……まぁ、君たちの居場所であり続けられているのであれば、それはそれでいいんだけどね。でもそれならそれで………………」
「あ、そーだ、先輩。今日の放課後、暇ですか?」
「本来その質問を受験生にするのはどうかと思うが」
「えー、ダメでした?」
「……まぁ、ステラは例外だが」
「やったー」
「それでどうした?」
「実は、ぴょん丸くんの新しいマスコットが出たみたいなんです。放課後、一緒に取りに行きませんか?」
「……取ってほしい、の間違いじゃなくて?」
「……先輩のいじわる」
「冗談だよ、放課後、一緒に行こうか」
「はいっ」
「……あれ、もしかして僕の話聞いてなかった?」
「……ん? あぁ、まだいたのか」
「少年!? 僕の扱いが雑すぎないかい!?」
「冗談だって」
せっかく僕がいいことを言ってたのに、と不満げな変人を俺とステラでなだめる。
ほら、そういう話ってくすぐったいじゃん。
「しかも黙って君たちの会話を聞いていたら、目の前でデートの約束されてるし」
「それは多分気のせいじゃないか?」
「そ、そうか。気のせいか。それならいいんだが……。ち、ちなみに少年。野暮なことを聞いてすまないが、それは僕が一緒について行っても……」
「いいわけがないだろ」
「ダメです」
「ほら! やっぱりデートじゃないか!」
二人声まで揃えて! と彼はひどく悲しそうに声を上げた。
「つーか、あんたいつまでステラにべたべたするつもりだよ……」
「なにを言ってるんだい少年、僕は死ぬまでそうするつもりだよ」
「もはや犯行予告だろ」
「犯罪じゃない!」
なんて物言いを! と彼は否定してくる。
……いや、でもそれは無理がないか?
「あんたはそろそろゲームや小説に没頭するのやめたらどうだ? そんなんじゃいつまで経ってもモテないぞ」
「くそぅ……それを彼女持ちに言われるとなにも言い返せないじゃないか」
「に、兄さん、落ち着いて……」
「はぁ……。まぁ、それだけ、君たちが楽しく過ごせているのであれば、僕はなにも言うことがないよ。……少年は、もう僕のことを先生と呼んでくれないみたいだけど」
「呼ばないだろうな。あれはきっと気の迷いだ」
「……そう言うと思ったよ。まぁ、その方が君らしいけどさ」
彼は頭を搔くと、ため息混じりに俺たち二人を交互に見た。
「またなにかあれば、いつでもおいで。僕は君たちの味方だからね」
「……おう」
「ありがとう、兄さん」
柔らかい笑顔だった。
「ってことで、僕もついて行っちゃダメかな、少年。僕も妹と一緒に出かけたいんだ」
「ダメに決まってんだろ、シスコン」
「シスコン兄さんのばか」
……訂正、脳内ピンクゆえの不敵な笑みだった。
「……なにを言っているんだい。僕がシスコンなのは今に始まったことじゃないじゃないか」
どうしようもない事実を彼は面白おかしく口にした。
そんな日常がおかしくて、ありがたくて、眩しい幸せに見える。
俺が欲しかったのは、きっとこんな日常だ。
……ありがとう。
小さく紡がれた言葉は春風に揉まれ、掠れてそのまま消えていく。
それはまるで、俺が愛したあの小説の結末のようだった。
「……あ?」
「兄さん、どうかしましたか?」
「……もう、ここには来ないんじゃなかったのかい?」
それから時間のゆっくりと過ぎた、ある四月の平日。
俺たちはもうここに来ることはなかった、なんてことはなく、毎日昼休みと放課後になればここ、司書室に集まっていた。
今日も例外ではなく、昼休みだということでここでステラと雑談をしている。
俺たちにとっての居場所がここであることは変わらなかった。
ただ、この司書室の役目が避難場所から待ち合わせ場所になっただけ。
「俺はもうここに来ないなんて言ってないが」
「……え?」
「あ、あくまで、私たちはちゃんと授業を受けるようになるって言っただけで……」
「……え、じゃ、じゃあ、あの時の僕はとんだ勘違いを…………」
「やっぱり泣いていたのか」
「な、泣いてないとも! 僕をなんだと思っているのかねっ」
「根は良い変人だな」
「いや、そこは違うだろう!? どうしてこういう時だけ素直なんだい!?」
彼は悔しそうにどこか恥ずかしそうに顔を歪ませると、そっぽ向いた。
背を向けたところで、あんたの抱えた心情は手に取るようにわかるけどな。
「寂しかったんだな」
「ば、馬鹿っ、なにを言ってるんだい。そ、そんなわけがないじゃないか」
「嘘が下手だな」
「兄さん、かわいい」
「二人して揶揄うなんて卑怯だぞ!」
「こっちは今までされた分貯金があるんだ、少しくらい返済したって文句はないだろ」
「くっ、君たちって奴は……!」
司書室の中は相変わらずくだらない会話で溢れていた。俺たちにとってここが一番心許せる場所であることは変わらない。
だからこそ、この場が今こそ必要なのだ。
どれほど時間が経ったって、どれほど日々を過ごしたって、俺たちは過去、ここにいたのだ。ここの空気が一番吸っていて気持ちがよい。それに、生きていれば必ずどこかでしんどい瞬間がやって来る。今まで避難していたくらいだ。急に全てを乗り越えられるような成長もできていない俺たちには厳しい世界だ。
……でも、だから向き合うのだ。
必死こいてもがいて、またここに集うんだ。
互いの勇姿を讃えるため。
止まりそうな背中を押すため。
背負った黒い雫を受け止めるため。
前を向き続けるため、俺たちはここに集うんだろう。
「……まぁ、君たちの居場所であり続けられているのであれば、それはそれでいいんだけどね。でもそれならそれで………………」
「あ、そーだ、先輩。今日の放課後、暇ですか?」
「本来その質問を受験生にするのはどうかと思うが」
「えー、ダメでした?」
「……まぁ、ステラは例外だが」
「やったー」
「それでどうした?」
「実は、ぴょん丸くんの新しいマスコットが出たみたいなんです。放課後、一緒に取りに行きませんか?」
「……取ってほしい、の間違いじゃなくて?」
「……先輩のいじわる」
「冗談だよ、放課後、一緒に行こうか」
「はいっ」
「……あれ、もしかして僕の話聞いてなかった?」
「……ん? あぁ、まだいたのか」
「少年!? 僕の扱いが雑すぎないかい!?」
「冗談だって」
せっかく僕がいいことを言ってたのに、と不満げな変人を俺とステラでなだめる。
ほら、そういう話ってくすぐったいじゃん。
「しかも黙って君たちの会話を聞いていたら、目の前でデートの約束されてるし」
「それは多分気のせいじゃないか?」
「そ、そうか。気のせいか。それならいいんだが……。ち、ちなみに少年。野暮なことを聞いてすまないが、それは僕が一緒について行っても……」
「いいわけがないだろ」
「ダメです」
「ほら! やっぱりデートじゃないか!」
二人声まで揃えて! と彼はひどく悲しそうに声を上げた。
「つーか、あんたいつまでステラにべたべたするつもりだよ……」
「なにを言ってるんだい少年、僕は死ぬまでそうするつもりだよ」
「もはや犯行予告だろ」
「犯罪じゃない!」
なんて物言いを! と彼は否定してくる。
……いや、でもそれは無理がないか?
「あんたはそろそろゲームや小説に没頭するのやめたらどうだ? そんなんじゃいつまで経ってもモテないぞ」
「くそぅ……それを彼女持ちに言われるとなにも言い返せないじゃないか」
「に、兄さん、落ち着いて……」
「はぁ……。まぁ、それだけ、君たちが楽しく過ごせているのであれば、僕はなにも言うことがないよ。……少年は、もう僕のことを先生と呼んでくれないみたいだけど」
「呼ばないだろうな。あれはきっと気の迷いだ」
「……そう言うと思ったよ。まぁ、その方が君らしいけどさ」
彼は頭を搔くと、ため息混じりに俺たち二人を交互に見た。
「またなにかあれば、いつでもおいで。僕は君たちの味方だからね」
「……おう」
「ありがとう、兄さん」
柔らかい笑顔だった。
「ってことで、僕もついて行っちゃダメかな、少年。僕も妹と一緒に出かけたいんだ」
「ダメに決まってんだろ、シスコン」
「シスコン兄さんのばか」
……訂正、脳内ピンクゆえの不敵な笑みだった。
「……なにを言っているんだい。僕がシスコンなのは今に始まったことじゃないじゃないか」
どうしようもない事実を彼は面白おかしく口にした。
そんな日常がおかしくて、ありがたくて、眩しい幸せに見える。
俺が欲しかったのは、きっとこんな日常だ。
……ありがとう。
小さく紡がれた言葉は春風に揉まれ、掠れてそのまま消えていく。
それはまるで、俺が愛したあの小説の結末のようだった。
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