名探偵になりたい高校生

なむむ

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二十八話 文化祭 六

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 生徒会室を出て、探偵さんと別れた私と寧々さんは、ボクシング部の試合が行われている格技場へ向かった。
 今日の試合は同じ一年生である、佐竹さたけ 雄二ゆうじくんが出場で、本日が佐竹くんの初めての試合になるみたい。
 その事を佐竹くんは寧々さんに伝え、応援に来て欲しいとの事らしいのですが…

「寧々さん、佐竹くんといつの間にお友達になったんですか?」
「ん、ああ。友達って程の関係じゃないと思っているが。まあ夏休みに、ほれ、佐竹くんに助けてもらっただろ?そのお礼をしてからかな」
「ああ、あの時ですね。そういえば私もまだ佐竹くんにはお礼を言ってなかったです。今日言わなきゃ」
「別にいいんじゃないか。私が言ったし。あ、すみません。たこ焼き一つください」
 寧々さんはあまり興味がないのか、近くにあったお店のたこ焼きを注文し、口いっぱい頬張った。
「ふむふむ、学生が作ったにしては美味いな。香澄も食べるか?」
 寧々さんは、爪楊枝に刺さったたこ焼きを私に差し出す。
「い、いえ、大丈夫です。寧々さんが食べて下さい」
「そうか、美味しいのに」
 たこ焼きを食べる寧々さん。気に入ったのか帰りのまた買って帰ろうと言っていた。
 それにしてもなんで佐竹くんは寧々さんに声を掛けたんだろう?
「寧々さん、その、佐竹くんは…」
「私に興味があるんじゃないのか?それが恋なのかどうかは知らんけど」
 さすが寧々さん、私の質問を読み、すぐに答えを言うなんて…
「私は間宮くん程鈍ちんじゃないと思ってる。そもそも、試合を観に来てくれなんて言ってくる時点でそうだろ」
「そ、そうですね…」
 それで応援をしに行くって事は寧々さんも佐竹くんの事意識してるって事なのかな?
 ここは思い切って聞いてみてもいいのでしょうか?
「寧々さんは佐竹くんの事、どっ…」
「なんとも思ってない。もし、佐竹くんに告白されたらフるよ。私は愛情より友情を取るってね」
 愛情より友情か。寧々さんらしいと言えばらしい気もするけど。なぜだろ、この言葉がやけに胸に残った。この時寧々さんが少し寂しそうにしていた様に見えたからか?
「私の事より、自分の恋に専念しろよ。進展はあったのか?」
 自分の恋。私が探偵さんに恋している事をいち早く見抜いた寧々さんは時折こうやって聞いてくる。
「な、ないです…偶にメールするくらいで」
「なにやってんだ…全然変わってないじゃないか。電話くらいしてみろ。お前がボケッとしている間に誰かに先を越されるぞ」
「う~ん。そう言われても」
「間宮くんは最近女子達の間で話題になる事がある。跡野くんと言うイケメンと一緒にいる事から注目され始めてるのかもな」
 探偵さんが女子達の間で話題に…
 ま、まあ、事件も解決してくれるし、そ、それに、か、かっこいいし…
 やだ!!自分で考えただけで頭が熱くなってきた…
「お前も顔に出やすいな…後さ、幼馴染が名前で呼ばれているのが羨ましいと思ったなら、お前も【香澄って呼んで下さい探偵さん!!】って言ってみろ」
 …やっぱり気が付かれてた。
 寧々さんあなたは鋭過ぎです。

 格技場に到着すると、リングの上で試合をしている二人が見えた。
 一人は赤のヘッドギアに赤のグローブ、もう一人の方は青のヘッドギアに青のグローブを着けていて、赤が佐竹くんのようだ。
 リングを囲む程大勢の方達がいて、私と寧々さんは、格技場の隅で見ることに。
「圧倒的に男が多いな。女子も数人いるっぽいが、数える程度しかいない。やはりボクシングは男に人気なんだな」
 寧々さんは背伸びをして、リングを見ないで当たりをキョロキョロしている。
 応援してあげましょうよ。
「試合すでに始まってたんですね」
「そうだな。興味なかったから時間まではちゃんと聞かなかった。ま、間に合ったんだしいいだろ」
 周りの方達の声に耳を傾けると対戦相手は全開高校の二年生の方らしく、今日、全開高校からきたクラスの人のよう。
 そして現在3R。状況は佐竹くんが責められているとの事らしいのですが…
「おお、香澄。お互い殴りあってるぞ。痛く無いのかな。どっちが佐竹くんかわからんが、とにかく頑張れ。それ、そこだ。顔だ。いいぞ。殴れ」
 隣でシャドーボクシングをしながら両方を応援している寧々さん。
 和服姿でシャドーボクシングをしているその姿が少し異様に見えます…
 しかし、興味が無いとか言いながらもしっかり楽しむ寧々さんには尊敬してしまう。
「あの、赤いやつ、さっきからガードばかりして全然責めてないな」
「赤は佐竹くんの様ですね。調子でも悪いんでしょうか」
「なんだ、ヤンキーのくせに負けるのか」
「いや、違うぜ」
 私達の会話を聞いていたのか、隣にいた男子が話しかけてきた。
「違うってどう言う事ですか?」
「相手が強いってのもあると思う。それでも佐竹は実力的に勝てる相手だと思う。けど、なんかあいつ、今日試合に集中してない感じがしてさ、さっきからラウンドが終わる度に周りをキョロキョロしてるんだよな。練習じゃそんな事ないのによ」
「ほーう。こんなに人がいるから緊張しているんじゃないのか?」
「大勢に見られて緊張する様なピュアな奴には見えないんだけど。なんか誰か探してるって感じ?」
 誰かを探してる?
 …それはもしかして。寧々さん?
「このままじゃ、負けちまうぞ!佐竹ー!気合い入れろー!!」
「ね、寧々さん。私達も応援しましょう」
「ん、ああ。ただ見づらくてな。中々見えん」
 そうこうしている内に佐竹くんはコーナーの追い詰められてしまっている。ボクシングの事はよくわからないけど、多分これってピンチですよね。一方的に責められている、佐竹くんの表情は苦しそうだ。
「くそ、タオル投げられるか?」
「タオルが投げられるとどうなるんですか?」
「負けだよ。負け。白旗振る様なもんだ」
「そんな。佐竹くん、頑張って下さい!!」
 私も精一杯声を出し応援する。
「お、いい台見っけ。よいしょっと」
 隣にいた寧々さんはどこかから台を持ってきて、それに乗った。
「おお、よく見える見える。なんだ、佐竹くん、責められてるじゃないか」
「寧々さん応援しましょう!!」
「やれやれ、しょうがないな」
 寧々さんは口に手を添え、声を発した。

「おーい。佐竹。観に来たぞ。負けるのか?」

 次の瞬間、私は佐竹くんがこっちを見た気がした。そして。
「おおおおおらあああああ!!」
 佐竹くんの右ストレートが相手に当たる。
「テメェ、よくもやってくれたなぁ。今迄のお礼たっぷり返させてもらうぜ」
 そのまま、佐竹くんの反撃が始まり、そのまま相手をT.K.O勝ちと言うので勝利した。

「やりましたね。佐竹くん。寧々さんの応援が届いたんですかね」
「さあな。最初からあの調子でいけば1Rで勝てたんじゃないか?」
 寧々さんが1Rで来てたらそうなったと思いますけど。
 兎に角、試合も終わり、格技場から人が少なくなっていった時、灰村さんがいる事に気が付いた。
「あの灰村さん」
「あら、柳さんに堀田さん。二人も来てたのね」
 灰村さんの近くには誰もいない。どうやら一人で来てたみたい。
「おお、灰村さんじゃないか。ボクシング好きだったのか?」
「いいえ、全然興味ないわ。ちょっと情報収集かな。二人はボクシング好きなの?」
「私達も興味は無いな。痛そうだし。佐竹くんに観に来いって言われたから来ただけさ」
「佐竹くんに?……二人はいつからここに?」
「ついさっき。3Rくらいからかな」
 灰村さんは少し考えた後、微笑んだ。
「なるほどね。だからか」
 灰村さんは何かを察し『それじゃ』と言っていなくなってしまった。
「灰村さん、情報収集って言ってましたけど」
「なんだろうな。灰村さんとは一度ゆっくり話してみたいもんだ」

 人もほとんどいなくなり、私達も帰ろうとした時、ドタドタとこちらに向かって走ってくる音が聞こえてきた。
「ほ、堀田!!」
 佐竹くんだ。
「よー。佐竹くん。お疲れ。デビュー戦、勝利おめでとう」
「お、おう」
 私はこのまま、退散しようとしたけど寧々さんに服を捕まれ動けない。
「佐竹くん。おめでとうございます。最後の怒涛の攻撃凄かったです」
「ん、おお柳も来てたのか。ありがとよ」
 佐竹くんには寧々さんしか見えてなかったんですね。
「しかし、あれだけ出来るなら1Rで勝てただろ」
「いや、そ、そりゃ…よ」
 ああ、寧々さん。いつもの鋭さはどこに。
「つーかよ。お前俺の事佐竹って呼んだよな」
 そういえば寧々さん。応援の時佐竹くんとは言わずに佐竹って呼んでた。佐竹くんもあの歓声の中よく聞こえましたね。
「ああ、そう言えばそうだったかもな。私も興奮してつい、呼び捨てしてしまったよ。すまなかったな佐竹くん」
「いや、いいんだ。俺の事は…その。佐竹って呼んでくれ」
「………ん。わかった。それじゃあな、佐竹」
「おう!!」
 佐竹くん、嬉しそう。

「香澄。まだ時間は平気か」
「はい。大丈夫ですよ」
「では、次に行きたい場所がある。一緒に行こう」
「はい」


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