名探偵になりたい高校生

なむむ

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九十五話 二年一学期 十二

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「おはよ」
 学校近くで灰村にあった。
「おはよう」
 灰村と会うのは体育祭があった先週の金曜日以来となる。今日は木曜日だから約一週間ぶりの再会だ。
 灰村の顔を見て真っ先に思い出されるのは金曜日の夜。灰村宅へ行った時の出来事だ。
 あの日の夜に灰村は俺に顔をグッと近づけ、あのまま来ていたらキスをしていたかもしれなかった。なぜ灰村があんな事をしてきたのか今でも分からない。本人に聞くわけにもいかないしなぁ……。
 あの日由美さんが来なければどうなっていたのか……。
「なに?」
 灰村はやや不機嫌そうに目を細め俺を睨んでくる。
「いや、久しぶりだなって思って」
「あっそ。で、部活のLINE見たけど、生徒会からの依頼だってね」
「ああ。そうなんだ。灰村も来たし、今日の放課後にでもまた生徒会室に行こうと思ってる」

 ──そして放課後。
 俺達は全員で生徒会室にやって来たが、生徒会は会議の為、ここでのゲームは出来ないと言われてしまった。柳さんは申し訳無さそうに俺達に謝罪をしている中、生徒会長の檜山先輩が横から顔を出し、ゲーム制作部に直接行ってくれと言ってきた。話は通してあるらしく、いつでも来てもらって構わないとの事で俺達はゲーム制作部の部室へと足を運んだ。
 ゲーム制作部の部室は技術棟二階の端にあり、俺達探偵部の真下だった。扉をノックするとすぐに扉が開き、メガネを掛け、小太りの男が現れる。
「なにか、用ですかな?」
「えっと、探偵部なんだけど」
「探偵部……?ああ、檜山先輩がいっていた人ですか。ささ。どうぞどうぞ、我々のゲームをプレイしたいとの事ですね」
 小太りの男子生徒はヒヒと怪しく笑うと、俺達を部室へと案内した。
 ゲーム制作部の部室内なだけあって、色々のPCが所狭しと置かれている。機械の熱の影響か、少し部室内の温度も高く、若干暑い。
 PCの他に棚にはたくさんのゲームが入っていて、それを見つめる伊藤はふむふむと頷いていた。

「ていうかあれだねぇ。節ってゲーム制作部だったんだね。一言言ってくれても良いじゃん」
「ひひひ。伊藤殿とクラスが違います故、会話をする機会がないですからな」
「香和里ちゃんそいつと知り合いだったのか?」
「はい!!そうなんですよぉ!!入学式の日に、廊下でゲームしている所を話し掛けたんです」
「ああ、懐かしいですね。伊藤殿が僕のゲームをちょっとやらしてといって三十分でクリアした日の事を」

 節と呼ばれた男子生徒は遠い昔を懐かしむように窓から外を眺めていた。
「節はゲーム好きなくせに下手だから私がクリアしてあげたんですよぉ。そうだ、最近のおすすめは?」
「おおそれなら──」
「香和里ちゃん。今日は部活だからね。私達がプレイするゲームはどれ?」
「おやおや、天下の灰村姫に言われてしまうとなれば伊藤殿とのゲーム話はまた今度と言う事で。では探偵部の皆さんこちらへ」
 節くんはそそくさと4台のpcが並べてある奥の方へと歩いて行った。
 それにしても天下の灰村姫ってなに?灰村って一年の間でどう言われてるんだ。

「これが噂の恋愛シミュレーションゲームか。この学校にそっくりな人達が出ているらしいね。私もいるの?」
「ええもちろんです。ただ、灰村姫はレアキャラですので、中々会えず、攻略するのは難しいキャラとなっています」
「ふーん。でもさ、あんたは制作者でしょ?私を攻略してるよね」
「もちろんです」
「ふーん……」
「おい、お前!!ゲームとは言え、俺の灰村さんを俺より先に攻略してんじゃねえよ」
「君はゲームでも私を攻略すんなよ」

 それぞれが席に着きゲームをプレイする準備に入る。今日は俺だけじゃなく全員がプレイする事に。

「さて、このゲームはまだ未完成なのです。生徒会からokを貰えたら完成となります。なので先輩方が今日プレイしていただくのは、先日プレイした時と同じデモ版です。その中から、一年、二年、三年の男子版、女子版を選びプレイして下さい」

 六つある中から取りあえず一つを選ぶか。どれやろうかな。

「俺は二年女子!!」
 快斗は真っ先にそう言って、二年のデモ版と書かれたソフトに手を伸ばす。
「だめですよぉ。先輩は一年女子。狙うは、私だけです」
「はあ!!ふざけんな!!」
 伊藤は快斗を無視して、すでに一年のデモ版を手に取り快斗のpcにいれていた。直ぐさま、キャラを作り、快斗は強制的に一年女子を攻略する事となった。
「私は、二年男子をやりますねぇ」
 笑顔で二年のデモ版を手に取りゲームをスタートさせる。狙うはもちろん快斗一択だろう。
「間宮くんはどれやるの?」
「この間二年女子やったしな。三年k……」
「へえ、夢沼先輩ねらってんだ」
「……二年女子でいいや」

 俺は二年女子。灰村は三年男子。快斗は一年女子(強制的伊藤限定)。伊藤は二年男子(快斗限定)をプレイする事に。

 俺は前回のデータとは違いもう一度最初からやり直せる事で、信頼を失った堀田さん改めH田さんとの関係もゼロの状態に戻った。

 ゲームの内容は前回と同様、文化祭デートをする為に、文化祭までの一ヶ月で彼女を作る事。

「なあ、灰村。実際一ヶ月で彼女、彼氏って出来るかな」
「人によるでしょ。元々の関係値で決まるよそんなの。顔で選ばれる学生時代にとってイケメンとか可愛いだけでその日に作れたりするもんでしょ。愛があるかどうかは知らないけど」
「俺は灰村さんに愛あるよ!!」
「ごめんなさい。君とは付き合いたくないの」
 快斗の求愛をあっさり断る灰村。快斗の顔を見ずゲームをプレイしながら言っているあたり本音で言ってそうだ。

 ──ゲームを開始してから三十分が経過した。
 このゲームは一人攻略するのに掛かる時間は大体十分程だ。文化祭でたくさんの人が楽しめるように短い時間で遊べるようにしているらしい。三十分プレイした俺のデータだが、二年三組、間宮孝一くん。落とした人数二人。一人十分程で攻略出来るが俺の腕では二人攻略するので精一杯だ。
 みんなの様子が気になる、どうだろうかと、隣に座る快斗の画面を覗いてみた。

『──……斗せ、せんぱい』

 快斗は伊藤以外を攻略中だった。相手は恐らく、コミュ障の牧田さんだ。
「さえちゃんとの最後の選択か。これまでさえちゃんの気持ちを知るのに苦労したが、ようやく攻略か。難しいなゲームって。このさえちゃん俺以外に好きな人いるっぽいし」

 1、『僕、君が好きだ』
 2、なにも言わず抱きしめる。
 3、キスする

「さてと、さえちゃんはなにを求めてるかな」
「快斗って普段女子の変化に必ず気が付く変人だし、こう言った時も女子がなにを求めてるか分かったりするもんなの?」
「どうだろうな。俺もそういった経験はないからな。いざって時は案外気が付かなかったりして」
 快斗でもそこら辺はわからないのか。
「所でぇ、先輩はどれを選択するつもりですかぁ?」
 快斗の隣に座る伊藤は笑みを浮かべながら質問してきている。てっきり自分を攻略していないから怒るかと思ったんだが……。
「そうだな。さえちゃんの性格からして、2番だろうな。話すのが苦手のさえちゃんは言葉より行動で示して欲しいはずだ」
 快斗はそういって、2のなにも言わずに抱きしめるを選択した。

『なななにを、すすすすすするんですか!!』

 ゲーム内の牧田さんは普段の大人しい感じから一変声を荒げていた。

『Sちゃん、ぼ、僕は』
『やめてください変態!!近づかないで』
 パンッ!!とビンタをされ快斗はフラれた。

「な、なんだとぉ!!さえちゃんがそんな事するわけないだろ」
「甘いですねぇ、先輩。私ずっと見てましたけど、最初の選択からすでにさえちゃんは先輩に対し警戒してましたよぉ」
「んなバカな、さえちゃんのステータス笑顔だったぞ」
「あれは、苦笑いです。それなのに近づいているから、最後は笑顔が震えてましたよ。最後の選択どれ選んでもダメです」
「クソゲーじゃん。所で香和里ちゃんはどうなんだよ」
「私ですかぁ?見て下さい」
 伊藤は『ほら』とpcを向ける。
 画面にはA野K斗攻略。全エンディングを回収。と表示されていた。
「このゲームの先輩は簡単でしたぁ。ちょっと色目使えば落とせちゃいますよぉ。難易度イージーって所ですね中々面白かったですけど、やっぱりぃ本物の先輩の方が好きです」
 伊藤は快斗の腕にしがみ付く。
「さあ、先輩もゲーム内の私を落としましょう」

 その後快斗は強制的に伊藤を攻略させられていた。

「灰村はどうだ?」
「私は別に誰も落としてないよ。三年の事別に興味ないし。それよりも告られまくってうざいんだけど」
「このゲーム女子は告白される事あんのか?」
「みたいね。誰も攻略する気が無いとそうなってくるのかしら」
「誰も攻略する気が無いならなんで三年にしたんだよ」
「二年、香和里ちゃんがやってるじゃん」
 ……それって二年には攻略対象がいるって事なんですか?
「君は誰攻略したの?」
 俺のpcを覗いてくる灰村。肩が触れる。若干の緊張が走る。これまでもこう言った事はあったはずだが、あの日の所為か意識しちゃうな……。

「W山さんにM野さん。クラスの女子か。実際にこの二人には?」
 W山さんは多分若山さん、M野さんは麦野さん。二人とも現実の世界で同じクラス。若山さんとの接点はほぼ無いが麦野さんは最近LINEでやり取りする中だ。二人が俺に好意を向ける事はないだろう。
「二人はそんな感情は俺にないだろ。これゲームだぞ」
「私には会った?」
「そういえば今回はH村さんには会ってないな」
「今回はって前回は会ったんだ」
「まあな。暴言吐かれた気がするが」
「そっ。会ったんだ」
 何故か嬉しそうな灰村。

 その後もプレイを続け、一時間が経った。
 ゲームを終わりにして、そろそろ生徒会の依頼であるこのゲームをどうするか判断しなければ。

「えっと、節くんだっけ?君がこの部の部長で良いのかな?」
「はい、そうでございます」
 敬礼の構えをし、ビシッと立つ節くん。
「じゃあ、俺達の意見だけどいいかな」
「よ、よろしくお願いしますです」

 さて、どうするかな。このゲーム、内容としては普段ゲームをやらない俺でも普通に楽しめた気がする。元々ゲーム自体は賛否両論だ。問題なのはこのゲームをプレイした人その後の行動になるんだろう。と、なると──。

「俺はこのゲームは楽しめた。文化祭で出せば話題にもなるかもしれない。短い時間で楽しめるしね」
「おおそれでは、生徒会に許可を貰えるというわけですかな」
「ただ。このゲームをプレイした後が問題なのは君達は知ってる?」
「問題ですか。確か現実でも攻略するとかなんとか聞いた事があります。でもそれって、プレイした人に問題が……」
「そのきっかけを作っているのも問題だと思う。だから、生徒会はこのゲームを問題をどうするか悩んでいたんだよ」
「むむ、じゃあ、ダメですかね」
 肩を落とし悲しそうな表情を浮かべる節くん。このゲームに自信があるんだろう。
「いや、そうじゃない。さっきも言ったけどこのゲームは面白いと思う。だから、俺的に考えがある」
「考えですか」
「登場人物を変える。この学校の人をモデルにするのはダメだ。面白いつまらないの問題じゃなく、不快になる人がいる。そこがダメなんだと思う。だから、キャラクターを一新して最初から作り直すと約束してくれ。それなら生徒会も承諾してくれるはずだ」
「むむむ、なるほど一新ですか」
「私からもいいかな」
 灰村もなにかあるらしく、節くんに向かって話し始める。
「これって、全生徒をモデルにしてるのよね。それって許可取ったのかしら?取ってないよね?私聞かれてないし。勝手に私を作った。そこはまあ、いいけど。じゃあ私が出演してるんだからギャラ貰いたいんだけど。このままキャラを一新しないで文化祭で出したらギャラ請求するよ。私が登場した回数。一回登場するだけで、千円ね。ちなみに私の出現方法は全員に教えるつもりだけど」
「そ、それはちょっと……わ、わかりました。キャラを一新します。約束です」

 そうして、このゲームを新しく作り直す事を約束してくれたゲーム制作部。その事を生徒会に伝えると、生徒会長の檜山先輩は、キャラを描く為にデジイラ部に協力を求め、承諾した。

 生徒会の依頼も無事解決し、本日の部活も終了し、それぞれが帰る。
 俺は灰村をいつも通り送っていく。
「なあ、灰村のキャラを出現させるってそんな方法あるのか」
「あるよ。あのゲーム、キャラを作る時に真面目に作れば、その人に接点がある人が出てくる人が出てくるのよ。間宮くんって前回と今回、なにか違った?」
「ああ、まあ名前とクラス以外は雑に作ったかも」
「だから私が出なかったのよ。前回みたいにキャラ作れば私に会えたよ」
「そうだったのか。良く気が付いたな」
「色んな人でプレイしたからね。そうなるだろうと」
「じゃあ、灰村が二年でプレイしたたら……」
「君が真っ先に出てくるだろうね。そうしたらどうしてたかな」
「隣にいる人がゲーム内で出てくるとなんか恥ずかしいよな」
「もう一つ。その人と接点がある人が出てくるって言ったのと他に、その出てくる人の好感度はすでに高い。攻略しやすくなっている。意外とあのゲーム、現実なのかもね」
「へえ……そうなん……だ」
 灰村は『それじゃここで。バイバイ』と言ってアパートに向かっていった。

 灰村が最後に言った『現実なのかもね』その言葉通りなら、あのゲームで登場したH村は俺への好感度は高かったって事か?いやそれ以前に現実って……。
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