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第1章 再来の勇者
第1旅 あなたの望まぬ御都合主義3
しおりを挟む『勇者失踪-魔王討伐失敗』この知らせに全世界が震撼してから六日後。知性あるほぼ全ての生物がその命を散らした。
そんな滅びゆく世界を眺める人影が一つ。
俺だ。
オリヴィエが死んだ後、俺はミラを残し、死に物狂いで包囲網を突破し一人で、この森に逃げて来た。
「はは、何が勇者だ....何が主人公補正だ。ふざけるな。何の役にも立たねえじゃねぇか!」
木に拳を叩きつける。
叩きつけた拳から血が流れ出る。
『あれ?えええ!?まさか失敗しちゃったんですか!?どうして!?』
頭の中に不快な声が直接響く。
声を聞くのは初めてだが、この喋り方は恐らく.....
「いつぞやの女神か......どうしてはこっちのセリフだ!お前のせいで...お前のせいで...」
『おや?私のせいで?........ああ、なる程。あなたもしや、私があげたスキルが使えなかったとでも思ってるんでしょうか?』
「ああ、そうだ!確かにここまでは完璧だった。主人公補正だって、発動してた!なのに、なのに最後の最後でどうして!何で勝てなかった!何であいつ等は死ななくちゃならなかったんだ!」
吐き出された言葉は支離滅裂。
これじゃあ、意味も、誰に放った言葉かも分からない。
『ん~?おかしいですね。説明欄にはちゃんと記載されていたはずですよ。因果をねじ曲げ主人公補正を掛けるって。』
「だからそれが掛かってなかったって...」
『いいえ。掛かってましたよ。補正はちゃんと。ちゃあんと掛かってました。...はぁ、これから先ぎゃあぎゃあ言われるのも面倒なので、ここでしっかり、一つずつ、勘違いを解いていきましょう。』
そう言って女神は語り出す。俺のミスを。誤った選択を。
手品の種明かしでもするように。
『まず、一つ目のミス。あなた今、レベル幾つですか?』
「ああ?.....92だよ!」
『はあ、つくづく愚かですね。私今、若干あなたと契約してしまった事後悔してますよ....あのですねぇ、今回の、というか、この世界の魔王レベルは初めに言いましたよね?』
魔王レベル。その魔王の脅威度を表す12段階のレベル。
『今回の魔王レベルは3!魔王の中では比較的弱い方です。で・す・が!始めにも言いましたが!自身のレベルを基準に考える時は魔王レベル×50を目安にしてくださいと言いましたよね?』
そう、全体で見れば比較的弱い魔王でも、魔王は魔王。今回の魔王のレベルは3。
つまり、俺に必要なレベルは3×50で、150必要だったというわけだ。
「ぐ、だ、だから何だって言うんだ!確かに俺のレベルは低かったかもしれない。けど、俺には心強い仲間逹と、最強のスキルが......」
『はい、それが二つ目のミス。まず、仲間を連れて行った事。これははっきり言って問題じゃありません。むしろ正しい判断だったと思います。彼等、彼女等のレベルも十分でした。』
「じゃあなんで」
『はあ、まだ気づかないんですか?あなたが足を引っ張ったせいですよ。仲間のレベルは160前後。あなたはまだ、レベル90ちょっと。戦闘経験も浅い。これはゲームじゃないんですよ?たった一年半。それも、その内の一年は戦ってすらいない。圧倒的に実戦経験が足りてません。あなたよくそんな状態で魔王討伐に出ようと考えましたね。』
女神の言っている事は正しい。
俺はこの世界に来て一年とちょっと。殺し合いをしたことも無ければ、ずっと訓練をしてきたわけでもない。
この世界で生まれ、これまでずっと生き抜いてきた彼等彼女等とは、圧倒的な差が生まれる。
『で、話を戻しますが、スキルの補正が掛からなかったでしたっけ?掛かりましたよ掛かりましたとも。だからあなたはこうやって生きているわけでしょ?戦士君を身代わりにして。』
「....な...ぁ?どういう....事、だ?」
色んな情報が頭に入ってきてパンクしそうだ。
『どういう事も、何も、見てなかったんですか?戦士君があなたを庇って死んだところを。』
「な、なに言ってんだ!あいつは仲間だから俺の事を守ってくれて」
『仲間ぁ?意味の分からない事ばかり言わないで下さいよ。笑い過ぎてお腹捩れちゃいますって。........ですから、彼があなたを庇ったのはスキルによるものですよ。弱いあなたを勝たせるために。あなたが矢に貫かれて間抜けにも死んでしまうという結果と、戦士君が身を呈してあなたを庇って死んだという、結果をすり替えたんです。』
「..........」
言葉がでない。思考が止まっていくのが分かる。
『もう少し、あなたが注意してれば。あるいは、あなたがスキルに頼り切らず、もっとレベルを上げておけば。戦士君は死ななかったかもですね。』
だめだ。崩れる。何とかして固めないと。心が崩れる。
「た、確かにオルテガが死んだのは俺の慢心が原因だったかもしれない。けど、他の仲間はどうだ。何で死んだんだ!主人公補正が掛かっているなら何で俺は勝てなかった!なんで世界が滅んでるんだ!」
『はぁ、ここまで醜いと侮蔑を通り越して愛おしさがでてきますね。良いですよ。教えますとも。可愛いくて可哀想で目を逸らすのが得意なだけの愚か者のために。.......そもそも、あなたは負けてないんですよ。』
無言でいる俺を確認して女神は続ける。
『最初から最後まで、しっかりと主人公補正は掛かっていました。大切な仲間が死に、切り札の大魔術も効かず、最愛の人の大ピンチ。クライマックスに相応しいと思いませんか?』
「......何が言いたい?」
『だーかーら。あのまま戦っていればあなたは魔王を倒せたはずなんですよ。そういう脚本だったんです。仲間が死に、切り札は効かない。恋人は死にかけてる。そんなとき、物語の主人公なら、なんか〝正義〟とか〝絆〟とか〝愛〟とか〝希望〟とかそんな〝良い感じの何か〟を理由に真の力に目覚めたとかで、魔王をぶっ倒せてたんですよ。』
「...!!そんな都合の良い事があるわけ」
『あるんです。あるんですよ。あなたに与えたスキルはそういうモノなんです。自分にとって良い事じゃなくても、世界にとっては良い事だから。仲間が死ぬのも、切り札が効かないのも、恋人を理由にするのも。それで、勇者が覚醒するのも。あなたにとって都合が良い事でなくても、この世界にとってはそれで良いんです。』
目の前にいない女神が嗤う。
『この世界はあなたが望まぬご都合主義で廻ってる。』
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