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93:弱小魔法学校の実情(カディン視点)
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午後のパオナ渓谷に、細く優しい雨が降り始めた。
峡谷は雨が多いと聞く。乾いて岩場に貼り付いたエメラルド色の苔が、生気を取り戻したように膨らんでいた。
残る生徒は六名で、この場にいるのは四名。うち二名は優勝を放棄して籠城中なので、これが決勝戦みたいなものだ。
カディンは力強く両手を握りしめる。全身が緊張と歓喜に震えていた。
ぬるま湯育ちの中央貴族が通う、ヨーカー魔法学園。
二年前は、中央からの金と引き換えにシント魔法学校は不戦敗。一年前は生徒による審査員の買収でヨーカー魔法学園が圧勝。
ヨーカーなんて、名ばかりの名門校なのだと、カディンたちは知っている。
辺境の貧しいシント魔法学校が、名誉より金を重んじるのは仕方がないことだ。
カディンの住む北の辺境には、凶暴な魔物の住まう大きな森がある。
辺境に配置される騎士が多いのは、そのためだ。
一番魔法教育を必要としているのは騎士の子供たちだが、学校設立の申請はなかなか通らず後回し。
運良く現れた商人の協力を得て、ようやく建ったのがシント魔法学校だ。
卒業後は、騎士として故郷を守る。それが、カディンたち辺境の子供に課された役目。
正直言って、今回の他校対抗試合も期待していなかった。
今年は八百長の打診がなかったが、他校の生徒など、雑魚ばかりだと……そう思っていた。
――あの新聞を見るまでは。
※
『ヘドロ色の新星! アメリー・メルヴィーン現る!』
新聞には、平民出身の彼女が、弱冠十三歳でアッシュドラゴンやコバルトドラゴンを撃退。密猟者の摘発にも協力したと書かれていた。
さらに、学園のボードレースでは、アウェイな環境の中で優勝。
タイムだって、過去最高記録をたたき出している。
(同い年に、そんなすごい奴がいるなんて)
カディンは胸が熱くなった。
シント魔法学校一年生で、最も魔法に優れているのが、カディンとシュクレだ。
同い年で、カディンより実力が上の者はいない。
辺境の騎士で爵位を持つ者の中には、才能あるアメリーを引き取りたいと声を上げる者も多かった。
結局、他国の貴族の養女になってしまったが……学園や実家で酷い扱いを受けていたので、その選択も仕方がないと思える。
(何やってんだ、中央のボンクラ共が。まんまと他国に取られやがって)
……とも思うが、過ぎたことは仕方がない。
(アメリー・メルヴィーンか。会ってみたい)
魔物討伐の報償として手に入った魔法玉で、カディンは迷わず魔法都市に飛んだ。
ちなみに、シント魔法学校では、学生も貴重な戦力。普通に魔物退治を行うし。騎士を手伝う機会もある。
カディンは魔法都市に来るのが初めてだった。到着した魔法都市には、深い森に隣接した辺境と全く異なる風景が広がっている。
湖の中心にそびえる街というのもあるけれど、人も建物も多く、不思議な店ばかりが並んでいた。水路には花や街灯が浮かんでいて、誰かの使い魔が悠々と石畳を進んでいく。
空には魔法で動く飛行船や気球が飛んでいた。もちろん、ボードに乗った魔法使いも。
一通り魔法都市を巡ったあと、中心部にできたギルドへ向かった。
辺境にも冒険者ギルドはあり、カディンたちも登録している。
魔法都市のギルドも行ってみたかったのだ。
観光を終え、カフェで一休みしようと思ったところ……まさかの、アメリー・メルヴィーンを発見した。新聞で写真を見たので、外見は知っている。
彼女は、白い猫をなでながら、くつろいでいた。
「ケット・シーの子供か……すごい使い魔を連れているのかと思ったが」
見た目も行動も普通だった。せっかくなので、声をかけて相席してみる。
アメリーは、他校の出場生徒すら知らなかった。
(誰が出てこようと、自分の敵ではないという余裕の発言!?)
……と言うわけでもなさそうだ。
けれど、実力者であることは間違いない。試合をする日が楽しみだ。そう思っていた。
※
そして――今日、ようやくアメリーと対決できるのだ。
「アメリー・メルヴィーン、君を待っていた。僕と魔法勝負してくれ!」
彼女を目にしたカディンは、気づけば宣戦布告していた。
峡谷は雨が多いと聞く。乾いて岩場に貼り付いたエメラルド色の苔が、生気を取り戻したように膨らんでいた。
残る生徒は六名で、この場にいるのは四名。うち二名は優勝を放棄して籠城中なので、これが決勝戦みたいなものだ。
カディンは力強く両手を握りしめる。全身が緊張と歓喜に震えていた。
ぬるま湯育ちの中央貴族が通う、ヨーカー魔法学園。
二年前は、中央からの金と引き換えにシント魔法学校は不戦敗。一年前は生徒による審査員の買収でヨーカー魔法学園が圧勝。
ヨーカーなんて、名ばかりの名門校なのだと、カディンたちは知っている。
辺境の貧しいシント魔法学校が、名誉より金を重んじるのは仕方がないことだ。
カディンの住む北の辺境には、凶暴な魔物の住まう大きな森がある。
辺境に配置される騎士が多いのは、そのためだ。
一番魔法教育を必要としているのは騎士の子供たちだが、学校設立の申請はなかなか通らず後回し。
運良く現れた商人の協力を得て、ようやく建ったのがシント魔法学校だ。
卒業後は、騎士として故郷を守る。それが、カディンたち辺境の子供に課された役目。
正直言って、今回の他校対抗試合も期待していなかった。
今年は八百長の打診がなかったが、他校の生徒など、雑魚ばかりだと……そう思っていた。
――あの新聞を見るまでは。
※
『ヘドロ色の新星! アメリー・メルヴィーン現る!』
新聞には、平民出身の彼女が、弱冠十三歳でアッシュドラゴンやコバルトドラゴンを撃退。密猟者の摘発にも協力したと書かれていた。
さらに、学園のボードレースでは、アウェイな環境の中で優勝。
タイムだって、過去最高記録をたたき出している。
(同い年に、そんなすごい奴がいるなんて)
カディンは胸が熱くなった。
シント魔法学校一年生で、最も魔法に優れているのが、カディンとシュクレだ。
同い年で、カディンより実力が上の者はいない。
辺境の騎士で爵位を持つ者の中には、才能あるアメリーを引き取りたいと声を上げる者も多かった。
結局、他国の貴族の養女になってしまったが……学園や実家で酷い扱いを受けていたので、その選択も仕方がないと思える。
(何やってんだ、中央のボンクラ共が。まんまと他国に取られやがって)
……とも思うが、過ぎたことは仕方がない。
(アメリー・メルヴィーンか。会ってみたい)
魔物討伐の報償として手に入った魔法玉で、カディンは迷わず魔法都市に飛んだ。
ちなみに、シント魔法学校では、学生も貴重な戦力。普通に魔物退治を行うし。騎士を手伝う機会もある。
カディンは魔法都市に来るのが初めてだった。到着した魔法都市には、深い森に隣接した辺境と全く異なる風景が広がっている。
湖の中心にそびえる街というのもあるけれど、人も建物も多く、不思議な店ばかりが並んでいた。水路には花や街灯が浮かんでいて、誰かの使い魔が悠々と石畳を進んでいく。
空には魔法で動く飛行船や気球が飛んでいた。もちろん、ボードに乗った魔法使いも。
一通り魔法都市を巡ったあと、中心部にできたギルドへ向かった。
辺境にも冒険者ギルドはあり、カディンたちも登録している。
魔法都市のギルドも行ってみたかったのだ。
観光を終え、カフェで一休みしようと思ったところ……まさかの、アメリー・メルヴィーンを発見した。新聞で写真を見たので、外見は知っている。
彼女は、白い猫をなでながら、くつろいでいた。
「ケット・シーの子供か……すごい使い魔を連れているのかと思ったが」
見た目も行動も普通だった。せっかくなので、声をかけて相席してみる。
アメリーは、他校の出場生徒すら知らなかった。
(誰が出てこようと、自分の敵ではないという余裕の発言!?)
……と言うわけでもなさそうだ。
けれど、実力者であることは間違いない。試合をする日が楽しみだ。そう思っていた。
※
そして――今日、ようやくアメリーと対決できるのだ。
「アメリー・メルヴィーン、君を待っていた。僕と魔法勝負してくれ!」
彼女を目にしたカディンは、気づけば宣戦布告していた。
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