転生公爵と堕天教典~マグナストーン~

我空(がく)

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始まりの朝

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『不滅の紅蓮鳥フェニックス』団長、そしてドラークの養父にあたるシェル・サヴァル・ホイヘンスの勲章授与式から約一週間あまりの時が過ぎた日の早朝。

ドラークは、王都にあるホイヘンス家の別邸のベッドの上で目覚めた。
王都に滞在している間はこのホイヘンス家の別邸に住んでいる。

 ドラークが滞在しておよそ一週間、この淡い茶色の天井にも既に見慣れた。二階にあるドラークの部屋は特に目立ったコレ、というものは置いてなく、最低限の家具が置いてあるだけの殺風景な部屋である。逆に言えば目に優しい。
窓の外には賑やかな城下街が見える。まだ片手で数えられる程度の数回しか出向いたことがないので目に映るもの全てに興味が沸く。


ドラークは自身の寝起きを良い方だと自負しているが、今日は何故か体が怠い。

「…ん…しょ…っと」

 まだ重い体に鞭を入れ、上体をなんとか起こす。起きた時に骨が擦れる音が聞こえるが、気にせず大きく伸びをした。



ーーーーーーーーーー目を閉じる。
一週間前の出来事、光景が、ドラークの瞼の裏で色濃く鮮明に流れる。


「楽しい日だったな」

ドラークは一言ポツリと漏らす。

 勲章授与式にて、自身が尊敬している人物が、称賛を一身に浴びる様は見ているだけでも心地が良かった。
 勲章を享受し、一礼を交わした後のあの本当に誇らしそうな父の顔をよく覚えている。

リムはそんな父を恍惚とした表情で見ていた。

 その日の晩食も大層豪華だった。
ワイバーンの手羽先は、外部からの攻撃は殆ど受けつけない頑強なイメージからは想像もつかない程、身が柔らかい。加えて甘味が強く、ドラークやリムの舌にも合っていた。


『シャラ肉』というのはどちらかというと中流家庭の料理として親しまれているイメージが強いのだが、感性が庶民に近いホイヘンス一家は、定期的にシャラ肉が食卓に並べられているようになっている。
 そして晩食の日は一段と手間が込められていた。あの日食べたシャラ肉の味はまだホイヘンス一家の舌根に残っている。

ドラークが考案したワイバーンの卵とき野菜炒めも好評だった。


 またこんな日が来ると良いな、そんな事を思っていた。今度は自身の勲章で。


そう思いに耽ている内に頭は冴えてきて、体の怠さはいつのまにか取れている。
 
「…よっ」

布団から抜け出すと肌寒さを感じる。 

12月を迎えてそろそろ冬も佳境といったところか。

 肌寒さを感じながら、ドラークは自分がこの惑星に転生した時の状況を思い出す。

 急展開の連続で混乱し、庭の一角で震えていた素性も知れない自分に『ドラーク』という名前を授けてくれ、養子として暖かく迎え入れてくれたホイヘンス家…


 ドラークは一生を賭けてこの恩は必ず返すと決めている。
いつかドラークが剣を振る時がきたら、きっとその剣はホイヘンス家の為に捧げられるのだろう。

「さて…と、顔洗うか…」

 別邸の一階にある洗面所へと赴く。
この時間帯はまだ朝食が用意されてない。
 顔を洗ったら、武器庫に行って自分が手に持ちたい剣のイメージ像でも膨らませよう…ドラークはそう考えていた。

————————————————

 廊下を歩いていると、ドラークはつくづくここも広いなぁ…と思う。
 流石に本邸には劣るが、この別邸も、並みの上流階級が所有する家屋よりも屋根が高い。
いずれも父シェルの活躍の賜物。
 金銭的にも良い家に拾われたなぁ…と、しみじみドラークは思う。

「そういえば、この惑星に転生したのは後…何人かいたような?」

 ドラークは頭の中で、少しばかり前世の友人を思い浮かべる。
はて?どんな奴らだっただろうか。
 神様の事はよく覚えているのだが、友人の事となると上手く想像が出来ない。

「この世界では…もう会ってるかも…」

 自分で呟いた言葉に少し体がこそばゆく反応する。
 体が否応が無しにその事を否定しているようだ。
ーーーーーーー少しだけ頭を振る。

「ないな」

 根拠はないが、そう断言する。そして同時に、いずれその友人らと巡り会える事も予感していた。

「まだ…」

 自分と同じように良い人に拾われているといいが。


 洗面所もドラークがここ最近過ごした部屋同様に、装飾が極端に少ない。
 洗面所に着くと、金髪のセミロングの美少女が鏡とにらめっこをしながら棒立ちしていた。

「リム?」

「うー?」
 
ドラークにとって三年間を共に過ごした家族同然の存在、リムがいた。リムはドラークの呼びかけに 気づいたようで、力なく首だけをドラークに向ける。
 着ている服は寝間着で、艶やかな金髪には寝癖が付いており、目は虚ろで…どうやら寝起きのようだ。
 リムは洗面所で顔を洗うまでは朝に弱い。

「ド…ク」

「うん。おはよう。早く顔洗えや」

「あぁ…そう、顔を洗いに来たんだ…」

 リムの朝の弱さは異常なレベルだ。そして、必ず不機嫌になる。
将来は両親のような魔法師になる事のようだが、高難度クエストは日を跨いであたる事が多い。
 ドラークは戦う日が来るまでにこの寝起きの悪さを直す事を切に願うばかりである。両親もそれは懸念している。

「ジャー」

「……」


リムは自分で擬音を発しながら洗面ボールに水を貯める。

「…ボチャ」

ある程度水を貯め、その水溜りに顔を勢いよく沈める。

「ブクブクボチャボチャチャチャチャ!」

「…なぁにやってんだ…」

リムは手をパタつかせ、水の中でパクパクと口を動かす。水泡が綺麗に浮かんでいた。

「…なぁ…リム。俺を拾った朝もリムはこんな感じだったの?」

「…違うよ!その日はたまたま正気だったの!」

「…正気って…自分の寝起きの悪さは自覚してるのか…」

 いつのまにか水から顔を上げ、眠気を覚ましいつもの調子になったリムが答える。

「今日は早く起きたね!ドク!」

「あぁ」

 リムは鏡を見ながら櫛で髪を梳かしている。
ドラークは順番待ちだ。
リムの後ろ姿を見てドラークは思う。
改めて美しい少女だと。
 彼女の金髪は、艶やかで見る人全てを魅了するようなもの。目は宝石を埋め込まれたかのような彩り豊かな母親譲りの深い翠色であり、鼻は年不相応にスラッとしている。しかし、彼女の纏う雰囲気が幼いという印象を与えさせる。粗探しをしたらもちろん粗はあるが、可愛いものなのでかえって庇護欲に駆られる。
 彼女がもうちょっと成長していたらドラークは惚れていたかもしれない。そんな可能性を秘めた少女だ。

「ドーク!」

「終わったかい?愛しのリムよ」

「えっ・・・・・キモいんですけど」


 取り留めの無い会話がしばし続いて、ドラークに洗面所を利用する番が回ってきた。
水温は中々に適温だった。

「…来月誕生日だっけ?」

 自分が利用する番を終えたリムは洗面所の壁に背を預け、ドラークに問う。

「…ん」

ドラークは顔を洗いながら簡潔に返事をする。

「おめでとう!」

「まだ一ヶ月早いよ」

 こういうところで抜けてるのがリムである。
高飛車なところも魅力だから可愛くて仕方がない。
 これは男女愛というより家族愛である。

「でも今日買いに行くんでしょ…ドラークの誕生日プレゼント!」

「今日ぐらいしか王都に買いに行ける時間がないんだ」

食い気味に聞いてくるリムを横目でチラチラ見ながら慣れたように返すドラーク。

「私もついて行く!」

「父さんと母さんがいいっつったらね」

 ドラークは思わず苦笑する。
恐らく両親は良いと言うだろう。リムもそのことは確信しているらしく、目をキラッキラにして胸を高鳴らせている。
 リムが付いていくにあたって一つ不安点があるとしたら迷子だが、殆どの移動は飛龍だからそうなる心配は少ないだろう。後オマケに一人従者が付いてくる。



 ドラークは顔を洗い終え、リムと駄弁っている間に時刻は7時を回っている。朝食が用意されている時間だ。

「朝飯の時間だ…行こ」

「うん!」

ドラークはリムと共にリビングに赴いた。
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