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7.六鹿の森
23.オレ、あんた知ってる。
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悲鳴や、さけび声が、ハイウェイにこだまする。ミズルチを背負ったカイトは、湯葉先生と、はぐれないよう、必死でスカイアップボードのアクセルを踏んだ。
ふたりと一匹が怨墨を目ざして走るなか、ほかの人たちは車を乗りすて、カイトたちとは逆方向へと逃げてゆく。つまり前からこちらへ、むかってくるのだ。正面衝突しないよう、必死でよけながら走るから、湯葉先生とのあいだに、どんどん距離があいてしまう。
「わあああっ!」
血相を変えて走ってきた人を「うわっ」とカイトはよけた。浮きあがりかけた帽子を手で押さえる。「ぴいいっ」と、ミズルチがカイトを、つかむ足爪に力が加わった。しまったと思って、あわてて前を見ると、進行方向にある車のドアが、開けっぱなしになっていた!
(ぶつかるっ!)
衝撃を覚悟して、カイトが両うでで、顔の前をガードした、次の瞬間だった。ぶわっ、と全身が浮きあがる感覚がして、「うえっ⁉」と、カイトは両うでを、さげた。
――浮いている……! 空高く、浮きあがってる!
「ええええ⁉」
全身を、びゅうううっと風につかまれているような感覚だ。ばさっばさっと背後から聞こえる羽音は、きっとミズルチが、たてているものだろう。つまり。
「ミズ――っ! これっ、お前、オレごと飛んでるの⁉」
「ぴにゃあああん」
気のせいか、ごきげんな調子で甲高く鳴くミズルチは、そのままゆっくりと下降して、車の上にカイトをおろした。だけど、今はスカイアップボードを使っている。つまり足が車にあたることはない。車の天井部分から、フロント、ボンネットと、少し浮いたあたりでボードはすべりおち、その前の車の上へと、また昇ってゆく。
「すごい、これすごいよ、ミズ!」
「カイトさん、無事か⁉」
異変に気づいた湯葉先生が、走りながら、ふり返っている。
「先生! 危ない! 前見て、まえぇぇ――!」
「うおっと!」
いつのまにか、怨墨のすぐそばまで来ていたらしい。襲いかかってきた怨墨を、湯葉先生は危なげなく紙鉄砲で、ぱあん! とつかまえた。それを横目で見てから、カイトとミズルチは、ばんっ、と勢いをつけて、高く飛びあがる。見つけた! あれが渋滞の原因だ。
「湯葉先生! あそこ、タクシーが横転してる!」
「なんだって?」
カイトは、片手でヘッドホンを押さえながら、前方を指さした。
「ハイウェイを、ふさいでるんだ。あっ、タクシーの運転手さん、身体から怨墨出てる!」
「近いか!」
「もうすぐそこ!」
「よっしゃ!」
ばっ、と湯葉先生は、ウエストポーチから、紙鉄砲をふたつ引き抜くと、両手でつかんで、さらに加速した。
一方、空高くに飛びあがったカイトとミズルチからは、タクシーの運転手さんが、男の人にむかって、じわじわと近づいていくところが見えていた。ひっくり返ったタクシーの底面に追いつめられた男の人は、万事休すと、甲高い悲鳴をあげている。かなりうるさい。
「ミズ! 行って!」
「ぴぴっぴー!」
ぐぅんと急降下! 運転手さんの全身から、あふれだした怨墨が、男の人に襲いかかる! そのタイミングにあわせて、男の人と運転手さんのあいだにカイトはすべりこんだ。
紙鉄砲の鳴らしかたくらい、子どものころから何回もやっているから知っている。上から、ふりおろすんじゃなく、横から、たたきこむんだ。つかみ部分は、弱すぎず、強すぎず、紙の特徴から、なかに折りたたんだ部分の、すべり具合を判断して、一気に――!
ばあん! と、今まで出したことがないくらい大きな音で、紙鉄砲の中身が開き、襲いかかってきた怨墨を、きれいにつかまえた。勢いづいたために、ヘッドホンとアイグラスがずれて、顔が表に出てしまっていたけれど、カイトは夢中で気づいていなかった。
「やった!」
ミズルチのホバリングが、ぐるりと回転する。カイトが紙鉄砲をふりおろす勢いに釣られて一回転したのだ。カイトとミズルチの顔が、再び運転手さんのほうへむく。運転手さんがカイトに襲いかかる! 「うわっ」とさけんだ次の瞬間、追いついてきた湯葉先生が、運転手さんの背中に、紙鉄砲をふりおろした。ばあん! とすごい音をたてて、湯葉先生のふりおろした紙鉄砲が、運転手さんに憑いていた怨墨を墨抜きする。悲鳴をあげて、のけぞった運転手さんが、どさりとハイウェイの上に転がった。
「先生! やった!」
「いや、これは吐きだされたばかりの怨墨だ。むこうにまだ親元になっているヤツがいる」
言われて見あげれば、空に黒いもやが飛びだしている。さらに先で悲鳴があがった。
「うええ⁉ まだあんなにいるの⁉」
カイトがさけぶより早く、湯葉先生は、かけだしていた。のんびりしていられない。早く自分も追わなきゃと、カイトがアクセルに爪先を押しこもうとした、その時だった。
「ちょっと、君!」
「んぴっ!」
ぐん、と引っぱられる感触と、ミズルチの悲鳴で、カイトはふりむいた。見れば、さっき助けた男の人が、ミズルチのしっぽを、つかんでいる。
「ちょっと、しっぽつかまないで!」
「やあ、これは失礼」
言うと、その人は、ぱっと手を離した。どうやら悪い人ではなさそうだ。しかし、ん? となにかが、カイトの記憶に引っかかる。しばらく考えて「あっ」と気づいた。
「オレ、あんた知ってる。ニュースキャスターの……あっ、シネラマ・シネラリアだ!」
さけぶと、男の人はうれしそうに目を、かがやかせた。
「やぁ、僕のことを知っているなんて、実に将来有望な子だね。……ん? いや、しかし、そういう君の顔も、なんだか、見おぼえがある気がするな……」
「え」
首をひねりながら言う男の人に、カイトの全身がこわばった。アイグラスが外れているのに気づき、あわててなおす。「ぴにっ」と、ミズルチのカイトにつかまる力が強まった。
「まあいいや。ところで、あれは、いったい、なんなんだい?」
「……怨墨です。人に憑りついて、心と身体に悪い影響を、およぼすものです。あの、本当にすごく危ないんで、口を閉じて、さがっててください」
男の人は、コートについたほこりを、ぱんぱんと、払い落としながら立ちあがり、じっと、湯葉先生の背中をみつめて、自分のあごを、なでまわした。
「ふむふむ。見たところ、あれは、紙に吸収されれば、大人しくなるんだね?」
「はい。墨みたいなものなので」
男の人は「はぁん、なるほど?」と、茶金の前髪を、指先で後ろにかきあげて流した。純白の犬歯を、きらり、と光らせ、にやっと笑う。なんとなく、カイトはげんなりした。
「ということはだ、防水性に優れたもので包んでしまえば、外に出ないということだな?」
「えぇ?」
「少年、それから、ちいちゃな竜の女の子、さっきは失礼なことをしてごめんね。さあ見ていなさい、これが僕の発明した大ヒット商品、「なかに入って水に沈める石鹸玉」だ!」
言うなり、男の人は、自分のコートの内がわに、両手をクロスさせながら、つっこみ、ばっと引きぬいた。両手に、にぎられていたのは、先端がラッパ型になった、白いプラスティック製の、銃型のおもちゃだった。
「ちょっと、それなに?」
「まあ、見ていなさい! 行くよ、それっ!」
男の人は、なんとなく、よたよたと、怨墨のほうへ、かけてゆく。
「ちょ、おじさん危ないって!」
「おじさんではない! シネラマさんと言いなさい! ちなみに君らの名前は⁉」
「海葡萄カイトです! こっちはミズルチ!」
「よろしくねっ」
湯葉先生が、紙鉄砲を、次から次へと、ふるっている。シネラマは、そこから少し離れたところで、急ブレーキで立ちどまると、ぽちん、と安全レバーを外し、そのおもちゃみたいな銃口を怨墨にむけて――撃った! ものすごい勢いで石鹸玉が飛んでいく。そして、なんとそれは、ぼよん、と音をたてて、なかに怨墨を取りこんでしまった!
連射された石鹸玉が、次から次へと、怨墨をなかに閉じこめてゆく。それに気づいた湯葉先生が、親元となっていたらしい人の背中で、紙鉄砲を鳴らして墨抜きしたあと、呆れたような顔で、シネラマの顔を見た。
「これは……あんた、おもちゃみたいだが、えらいもんだな、それは」
シネラマは、ふふん、と得意げに笑うと、昔の西部劇に出てくる、ガンマンみたいな仕草で、石鹸玉銃を、しばらく、くるくると回してから、コートの内がわにしまいこんだ。
「だろう? 道具は、相性がよさそうなものと、ぶつけあえば、思わぬ効果を、発揮することもあるんだ。そういうことは、全部ためしてみるものだよ。つべこべ言わずにね! さあ、これでゆっくり退治できるだろう」
シネラマの口元で、また犬歯が、きらん、と光ったので、とても助かったのだけれど、カイトと湯葉先生は、やっぱり、げんなりしたのだった。
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