瑞獣さまは遠慮しない

初椛

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柏翁宮司のご明察の通り

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 ムラサキウミコチョウは、日本でも出会えるウミウシの一種だ。
 ぱっと目を引くきれいなビオラパープル、バラのトゲみたいなオレンジの突起。
 神秘性とキュートのパーフェクトユニゾン。
 それをあますことなくデザインに注ぎこんだレイフラのデザイナーさんは、ボーナスをたくさんもらって欲しい。

 視線の先がシュシュだと気づいたニナさんに、私のレイフラ愛をアピールしたくなる。
 だけど残念なことに、通学仕様に変えてるスマホケースにブランドロゴのステッカーを挟んでいない。文房具とかポーチが入ってる通学カバンは社務所のロッカーに預けてしまった。

 アクキーやペンとかより、シュシュとかアパレルの方が海洋生物を魅力的に表現できてると思う。
 ムラサキウミコチョウが陸地に光臨したみたいなデザインのシュシュとか、サルパみたいにぷくぷくした袖がかわいいブラウスとか。
 着こなしが難しい、コスプレみたいと好き勝手に言われているけど、デザインもアレンジも色遣いも推すしか選択のないブランドだ。
 
 せっかく見つけた趣味の合いそうな子と語り合いたい!
 いやいや、いきなり熱のこもったトークされるとか無理でしょ?
 ニナさんを見つめながら、どうするべきか悩んでいると背後から声をかけられる。

「遅くなってしまってしまいましたね。とは言え、私がいなくても問題はなかったようですが」

 着替えず学校に来てくれたということは、柏翁はくおうさんも瑞獣さまと私のコンビを気にかけてくれたのだろう。
 
柏翁はくおうさんの方がお疲れなんじゃないですか?」

 身体の動きに合わせて入るシワさえ絵になるスーツは、品質の良いものなんだろう。
 時間が経ったせいか、ちょっと気崩れた感があるけれど、先生たちが着るスーツみたいな量産品じゃないと思う。
 じっと見つめると色味が変わる布地のつややかさは室内の方がよくわかった。

 出かける前には感じなかったお酒の匂いが、大人の会合の内容を私に想像させる。
 色々大変なんですねと理解を示して視線を向けただけなのに、柏翁はくおうさんが謝った。

「すみません。私は車だったのでご相伴には預かっていませんが、匂いが移ってしまったようですね」

 今まで一緒にいた大人たちにもこんな風におだやかな対応をしていたのだろう。
 優しげだけど感情のない微笑みやソツのない対応に、私はごまかされてあげない。

「……イヤなことはイヤだって拒否していいんですよ。大人だからって、物わかりよくガマンばかりしなくてもいいと思います」

 柏翁はくおうさんは驚いた顔をして、唇をふわりとゆるませる。

「雨見さんに心配されるなんて、わたくしもまだまだですね」

 対人関係に苦労なんかありませんって顔をしているけれど、これだけ容姿端麗なら不当に妬まれたり、執着されたりで大変な気がした。
 明るいムードメーカーが近くにいてくれたら、彼の日常に彩りも添えられる。
 年の差もあるし、ニナさんは未成年で学生だから恋愛に発展したら困るけど、柏翁はくおうさんに限ってそれはない。
 
 清らかで繊細で、たくさんのものを抱えた人。
 容姿だけでなく、魂まで瑞々しいきらめきを放っている。

 香水を試すためのムエットみたいな人だと最近、気づかされた。
 色のない、匂いのない。
 水分と香りを内側にとどめて受け渡す無垢な純白。

 イメージが結びついた時、私より年上で洗練されてる柏翁はくおうさんにも人間らしいほころびがあるのだと気づいた。
 深く探るような会話はしてないけど、この人は無意識のうちに誰かを求めている。
 それは、親友とか恋人じゃなくて、もっと特別な……私にとっての瑞獣さまみたいな存在なんじゃないかな。
 全部、推測にすぎないけれど……。

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